技術解説(富士フイルムメディカル)
2016年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
日立超電導MRI「ECHELON OVAL」における腹部アプリケーション
八杉 幸浩(国内MR・CT営業本部)
日立の超電導MRI「ECHELON」シリーズは「ECHELON Vega」(2006年発売)から高磁場装置における高機能撮像技術と高い画質を実現したことで,国内外において評価をいただいている。
新製品「ECHELON OVAL type ORIGIN 5」(図1)は,高いハードウエア性能に加え,豊富な独自開発のアプリケーションを搭載した最新のワイドボアMRIである。体格の大きな方や狭いところを苦手とする方の検査に有用な,幅74cmの楕円型ボアを採用することで検査空間を拡張した。また,63cmのワイド寝台を採用し,撮像部位を磁場中央に移動して撮像でき,画質も向上している。
今回は,本装置に搭載した腹部撮像に有用な高機能アプリケーションを解説する。
■Selective MRA
“Selective MRA”は,腹部血管の血流信号を選択的に抑制し,腹部血行動態を描出する撮像機能である。局所励起を応用したpencil beam型のプリサチュレーション(以下,“BeamSat”)パルスをMRA撮像に併用し,所望の血流信号を選択的に抑制して,血行動態を把握できる。
撮像手順は,BeamSatパルスで特定血管の信号を抑制し,抑制前後の画像から必要な血行動態を抽出する。圧の上昇,血行遮断がないので通常状態の血行動態が反映され,また,任意の位置を抑制できる。
図2は,本手法の適用例である。BeamSatなしの画像とBeamSatで門脈などの血流を抑制した画像を取得する。この差分をすることで,門脈のみの画像が取得可能である。
■最適化脂肪抑制法:H-sinc
脂肪信号の抑制技術は,特に高磁場MRIにおいて重要な技術である。IRシーケンスの脂肪null pointを利用するshort TI inversion recovery(以下,STIR)法と,事前に脂肪のみを選択的に照射して抑制するchemical shift selective(以下,CHESS)法以外に,独自に開発した脂肪抑制RFパルス“H-sinc”を搭載した。
H-sincはRF照射における不均一の影響が少ないという特長があり,特に腹部など撮像視野の大きな場合に画像周辺部で高い効果がある。この技術は,図3に示すように,CHESSパルスを複数回に分割して印加し,さらにその印加タイミングやパルス強度を最適化して使用することで,安定した脂肪抑制効果を得るものである。
図3に,ファントムによるH-sincの脂肪抑制結果を示す。H-sincではRFの不均一に敏感なCHESS法と比較して安定して広範囲で高い脂肪抑制効果が得られており,磁化率による不均一の影響を受けやすい領域においても良好な脂肪抑制画像が期待できる。
■ダイナミック撮像手法:TIGRE
3Dの高空間分解能を要するダイナミック撮像では,高速撮像技術,脂肪抑制技術,3D撮像技術などの総合技術が要求される。これに対応するため,脂肪抑制パルスを併用した3D高速T1強調RFスポイルドグラディエントエコーシーケンス“TIGRE(T1 weighted GRadient Echo nature of the sequence)”を搭載した。
高い病変検出を実現するためには安定した脂肪抑制が重要である。TIGREは脂肪抑制効果を保ちつつ,ダイナミック評価に十分な時間分解能を得るため,脂肪抑制パルスとしてH-sincを部分的に印加する。これにより,広いFOV撮像においても,均一な脂肪抑制効果が得られる。
図4に,体幹部のTIGRE画像例を示す。広い範囲で良好に脂肪が抑制され,息止め状態で高速な3Dダイナミック撮像を行うことが可能である。
■モーションアーチファクト低減手法:RADAR
radial scan手法である“RADAR(RADial Acquisition Regime)”は,モーションアーチファクトを低減する手法として有用であり,多くの撮像シーケンスに適用できる。さらに,撮像断面や受信コイルなどに制限がなく,ルーチン検査での使用が可能である。特に,FSE法だけでなく,シングルエコーのSE法にも適用ができることで,良好なコントラストのT1強調画像が得られ,これは息止めの困難な被検者の場合でも自由呼吸下での撮像が可能となり,検査の適用範囲を広げることができる。
この場合,撮像時間をできるだけ延長しないことが重要であるが,RADARは,通常のcartesian scanとほぼ同等の撮像時間となる“Time”モードを選択することができる。Timeモードではradial scanの特性として,撮像データの高周波領域の情報取得が疎となるため,空間分解能が低下することが考えられるが,現実的には呼吸の動きのある被検者の撮像においては,RADARによるモーションアーチファクト低減効果のメリットが高いと言える。
図5に,呼吸同期とRADARによる腹部の画像例を示す。RADARを用いることで,自由呼吸下においても同等の画質を得ることができている。また,図6に,Gd-EOB-DTPAを適用した臨床例におけるTIGRE息止め画像とRADAR-SE画像を示す。RADAR-SEでは自由呼吸下にて,より空間分解能の高い画質が得られている。
■高速自由呼吸下撮像法:RADAR-RAPID
RADAR撮像において,撮像時間のさらなる高速化が望まれている。日立では,RADAR撮像時の“RAPID”(pallarel imaging)適用を実現し,撮像時間の大幅な短縮を可能とした。
RAPIDはマルチチャンネル受信コイルからそれぞれ異なる画像情報を取得し,感度分布の差を利用して位相エンコードを間引いた画像データの折り返し歪みを展開する技術である。これをRADARに適用するためにradial scanとcartesian scanを組み合わせたhybrid radial scanにおいて,位相エンコード部分を間引くことで,効果的に撮像時間を短縮する。
図7は,RADAR-RAPIDによるGd-EOB-DTPA臨床画像例である。自由呼吸下におけるRAPIDファクタ2倍,撮像時間3分50秒の画像であるが,腹壁のモーションアーチファクトが低減された良好な画像が得られている。
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