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●MR特別講演 
これからの臨床MRIの可能性と課題─新たな形態画像と機能画像への応用 
原田 雅史(徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線医学分野教授)

2015-4-27


原田 雅史

本講演では,インナービジョン誌2014年9月号の特集「Step up MRI」,および2014年の国際磁気共鳴医学会議(ISMRM),第42回日本磁気共鳴医学会大会,北米放射線学会(RSNA)での発表,展示などの内容を踏まえて,臨床MRIの今後の動向について,「形態画像の新たな流れ」と「機能画像の多様化と高度化」の2つをテーマに解説する。

超高磁場MRIを取り巻く現状

2014年,7T超電導コイルの供給元として最大のメーカーであったアジレント・テクノロジー社(旧バリアン社)が,7Tを含む超電導マグネットの製造を中止したことで,MRIの超高磁場マグネットの供給が非常に不安定となっている。これに対して,同社のマグネットを利用していた大手MRI装置メーカー3社は,ISMRM 2014にて7T装置の市場から撤退しないことを明言し,当面の不安は払拭された。しかし,ブルッカー社による動物用MRI装置の寡占,液体ヘリウムの価格高騰と供給難,米国のオバマケアに代表される医療費抑制策や,中国などの格安MRIの増加など,多くの課題が残されている。また,国内に目を向けると,消費税率10%への先送りに伴い今後の診療報酬改定では医療・福祉経費の削減傾向が続くと思われ,MRIを含めた医療環境は決して順風ではないと予想している。
そんな中,日立メディコ社は独自のガントリにより,2009年には1.2T超電導型オープンMRI「OASIS」(図1 a),2013年には楕円形のガントリボアを採用した3T MRI「TRILLIUM OVAL」(図1 b)を発売した。特に海外で評価の高いOASISはガントリ開口径がきわめて広く,整形領域でのキネマティック撮像などには非常に有効と思われる。しかも,垂直磁場のため,1.2Tでも実際には1.5T以上の画像が得られるとのことであり,非常にユニークな装置であると言える。

図1 独自のマグネットを搭載した日立メディコ社のMRI装置

図1 独自のマグネットを搭載した日立メディコ社のMRI装置
a:1.2T超電導型オープンMRI「OASIS」,b:3T MRI「TRILLIUM OVAL」

 

形態画像の新たな流れ

1.磁場強度の上昇がもたらすメリットと課題

MRIの磁場強度の上昇に伴うメリットはあらゆる点に及ぶ。3T MRIにおけるT2*強調画像やSWI,CSI,CEST,MRS,TOF-MRA,ASL,fMRIなどには特に有効であり,1.5T MRIでは得られない情報を得ることができる。ただし,そのほとんどは機能画像に有効なもので,形態画像においては拡散強調画像(以下,DWI)がアーチファクトの影響で読影しづらい,FLAIRのコントラストが十分でない,といったことを経験する。その原因としては,(1)TR,TE,echo train,TIといった測定条件の適正化が不十分,(2)装置間,メーカー間による差異,(3)装置性能の経時的安定性の不足などが挙げられる。
また,日常診療におけるMRIでは,定量的評価や標準化が課題であり,画像の比較も困難となっている。定量性を上げる必要があるが,そのためには撮像時間の延長が問題となる。つまり,臨床MRIにおける最大の課題は,定量性の確保と撮像時間の短縮であると言える。

2.MRIの新しいアプローチ

1)MR Fingerprinting
上記の課題に対する回答の一つがMR Fingerprinting(以下,MRF)である。Maらによると,MRFはdata acquisition,post-processing,visualizationを合わせた新しいアプローチで,1回の撮像で非侵襲的にT1強調画像,T2強調画像,プロトン密度強調画像や,B1不均一,off-resonanceといった多数のプロパティを得る方法である1)。MRFのメリットは,(1)1回の測定から高精度な定量的マップの作成が可能,(2)信号処理に当たり予想される信号パラメータの性格(T1,T2,off-resonance)から最初に規定したディクショナリーを作成し,それを各装置やメーカー間で共有することで,装置性能やメーカーに依存しない定量的マップが作成可能,(3)ディクショナリーとアルゴリズムの工夫により異なる磁場強度間で定量値が比較できる可能性がある,(4)形態診断における撮像時間の短縮が可能,(5)専用ディクショナリーを作成することで拡散テンソルイメージング(DTI)やfMRI,MRSにも応用可能,などが挙げられる。MRFの考え方が,新たなMRI診断のプラットフォームになる可能性がある。
実際にRSNA 2014では,脳腫瘍症例にMRFを応用して定量解析を行った検討において,グリオブラストーマとリンフォーマが区別できると報告されていた。定量値はT1,T2のため,出てくる情報はこれまでのT1値,T2値とそれほど変わらなかったが,精度の向上と測定時間の短縮は非常に魅力的であると思われる。

2)SyntheticMR
もう一つ,RSNA 2014で発表されたのが“SyntheticMR”(SyMRI社製)である。MRFと考え方は似ているが,手法はまったく異なっている。マルチディレイ,マルチエコーのFSEシーケンスであり,T1値,T2値からB1マップを定量的に得る方法のため,ディクショナリーやパターン認識は使用しておらず,単にマルチパラメータを1回の撮像で取得するというシーケンスである。SyntheticMRのメリットは,1回撮像をするだけで,後からTRやTEを自由に変えてコントラストを変化させ各種強調画像を作成できるほか,TR,TE,TIの組み合わせを変えてSTIRやFLAIRを作成可能な点である。したがって,TR,TEを工夫することで,3TのFLAIRでも十分なコントラストを得られるようになる可能性がある。

3.定量値の応用

MRFやSyntheticMRによって,従来のSE法を中心とした各種強調画像から,定量マップに基づいた数値情報による画像診断へと移行する可能性があると考えている。これにより,施設間や時間変化による差異が無視できるようになり,画像検査の標準化が容易になるほか,定量情報を用いた新たな診断マーカーの作成や,CADの飛躍的な発達と新たな診断アルゴリズムの開発が可能になることが予想される。日立メディコ社のMRI装置(1.5T,3T)には,すでにT2マップやT2*マップが搭載されており,当院でもそれらを活用することで,定量値マップの新たな利用方法を検討していきたいと考えている。

機能画像の多様化と高度化

MRIの新しい技術応用として,機能的情報の取得がある。機能的情報はもともと定量的性格が強く,MRにおけるFingerprintingの特徴を有することから,MRFの応用が期待される。近年注目されている新しい機能検査技術を図2に示す。

図2 臨床MRIにおける新たな機能検査技術

図2 臨床MRIにおける新たな機能検査技術

 

1.ASL

図2のうち,ASLはすでに臨床応用されているが,SPECTやPETの脳血流画像と比べると定量性,再現性がやや劣ると考えている。血流の速さが狭窄の有無などによって変化するのが理由であるが,その対策として,ラベリング時間の延長,transit time(以下,TT)を計測して補正するという2つの方法が考えられる。実際に,若年群と高齢群を比較したわれわれの研究では,short labeling ASL法による補正の影響は高齢群で補正後により高値となり,shortおよびlong labeling ASL法の補正率も高齢群の方が高かったが,long labeling ASL法の方が影響は小さかった。また,高齢群ではTTの延長が見られるが,脳の部位によって異なっていた。つまり,ASL法の定量性の向上に当たっては,(1)脳血流の速度は加齢に伴い有意に延長を来し,部位によってその程度が異なるため,高齢者に対しては血流速度の補正が有用,(2)ラベリング時間の延長により血流速の補正程度は少なくなる傾向にあり,TTの測定を行えない場合にはlong labeling ASL法を使用することが望ましいと考えられる。
なお,2015年1月にMagnetic Resonance in Medicine誌に掲載されたISMRM Study Group recommendation2)によると,定量性の向上には1(1)pCASLを用いる,(2)background suppressionがある方が良い,(3)segmented 3-D readoutを用いる,(4)vascular gradientはない方が良い,(5)PLD(post labeling delay time)=2000msとしている。PLDについては,メーカーによっては1500msを標準としているが,従来より長く設定した方が良い画像が得られると思われる。

2.MRS

当院では現在,日立メディコ社がすでに頭部にて実用化している,1クリックでの計測および解析が可能なMRSを改良して乳腺に適用した“Breast Spectroscopy”(図3)の共同研究を行っている。以下に,当院にて実際に検討した例を示す。

図3 日立メディコ社のBreast Spectroscopyの概要

図3 日立メディコ社のBreast Spectroscopyの概要

 

Case1は浸潤性乳管癌であるが,初回検査にて明確なコリン(Cho)信号の上昇が認められる(図4)。化学療法後に信号がいったん小さくなるが,すぐにまた大きくなり手術となった。MRSではコリン信号を経時的,定量的に評価可能であるが,本症例では初回検査における造影前のコリンの信号強度は約23,造影後は約21であり(図5 右),この値を定量値として使えるのではないかと考え,現在検討している。
Case2は葉状腫瘍であるが,これは悪性ではないが良性とも言えない中間型の腫瘍で,本症例ではやはりコリン信号の上昇が認められる(図6)。これだけで良悪性の鑑別はできないが,信号強度は9〜10程度とCase1の約半分であることから(図7 右),悪性度の診断の目安になると思われる。このように,定量値にも注目することで,さらに有用性が高まると考えている。

図4 Case1:浸潤性乳管癌のMRS

図4 Case1:浸潤性乳管癌のMRS
▼:コリン(Cho)信号

 

図5 Case1の初回検査における造影前(上段)と造影後(下段)のMRSの比較

図5 Case1の初回検査における造影前(上段)と造影後(下段)のMRSの比較
▼:コリン(Cho)信号

 

図6 Case2:葉状腫瘍のMRS

図6 Case2:葉状腫瘍のMRS
▼:コリン(Cho)信号

 

図7 Case2の造影前(上段)と造影後(下段)のMRSの比較

図7 Case2の造影前(上段)と造影後(下段)のMRSの比較
▼:コリン(Cho)信号

 

Breast Spectroscopyは,頭部に用いられるプロトンMRSをそのまま用いているのではなく,basingやMEGAと呼ばれるパルスにより脂肪信号を抑制している。同じようなメガパルスを用いた方法にMEGA-PRESSと呼ばれる信号編集方法があるが,PRESSと異なりMEGAと呼ばれる信号の,ある特定の周波数にパルスをかけることで磁化を移動させる方法をとっている。この測定シーケンスとLCModel解析法を組み合わせることで,微量代謝物を定量的に測定する方法を現在検討している。
こうした微量代謝物の定量的な測定によって注目される疾患の一つにグリオーマがある。グリオーマで特異的に認められる2-hydroxyglutarate,神経伝達物質であるGABAやグルタミン酸,抗酸化ストレス物質であるグルタチオン,アスコルビン酸,またNAD+やNADHなども,かなり微量ではあるが測定できるという報告が見られるようになった。特にNAD+については,まだファントムによる検討の段階ではあるが,MRSにより水より左側の信号を詳細に評価することでNAD+が測定可能である。NAD+は酸化還元の代謝物であり,多くの神経変性や神経病に関係しているため,新しいバイオマーカーとしても期待できる。

3.機能診断における今後の可能性

機能的評価には,定量性の確保と,微量代謝物を測定するための感度向上を図ることが重要である。そのためには,マグネットやRFアンプ,受信コイルなどのハード面の向上が重要となるが,その点で,日立メディコ社製MRIのガントリは磁場の均一性が高く,4チャンネル-4ポートの独立制御RF照射コイルによりB1均一性も保たれているため,新しいMRSの開発に適した環境が整っていると思われる。
また,こうしたハードウエアの性能向上により,in vitroのNMR技術の応用が可能となってきた。MEGA-PRESSの信号編集方法やCESTもその一つであり,近い将来,これらが臨床MRI装置に搭載されてくる可能性がある。さらに,新たな数学的解析技術との組み合わせによって,新しい機能的評価法の開発や,これまでの評価法の改善が期待できる。

まとめ

形態診断と機能診断のいずれにおいても,臨床MRIはこれまでの診断法から新たな評価方法への転換期を迎えていると考えている。将来の方向性を十分に認識し,それに備えるとともに,積極的に技術開発や新技術の臨床評価に参画していくことが求められる。

【参考文献】
1)Ma, D., et al. : Magnetic resonance fingerprinting. Nature, 495・7440, 187〜192, 2013.
2)David, C., et al. : Recommended implementation of arterial spin-labeled perfusion MRI for clinical applications ; A consensus of the ISMRM perfusion study group and the European consortium for ASL in dementia. Magn. Reson. Med., 73・1, 102〜116,2015.

 

1986年 徳島大学医学部卒業。90年 同大学院医学研究科修了。米国ペンシルバニア大学医学部生理・生化学教室研究員,米国ミネソタ大学医学部MR研究センター研究員などを経て,2002年 徳島大学医学部保健学科診療放射線技術学講座教授。2008年 同大学院ヘルスバイオサイエンス研究部画像情報医学分野教授。2010年 同大学病院放射線科教授・放射線部長。2011年〜現職。2013年〜福島県立医科大学客員教授。

 

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