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鹿児島大学共同獣医学部・附属動物病院 
獣医学における3T MRIの有用性
世界に通用する獣医師の育成や最先端研究にTRILLIUM OVALを活用

2015-4-27


鹿児島大学共同獣医学部・附属動物病院

鹿児島大学共同獣医学部・附属動物病院は,臨床教育ならびに検査・研究の高度化を図り,2014年3月に日立メディコの3T MRI「TRILLIUM OVAL」を導入した。獣医学における画像診断は近年,大学を中心に多列CTや高磁場MRIなどの高度画像診断機器の導入が進められている。獣医学画像診断を取り巻く状況や,3T MRIを用いた獣医学教育や研究,診療について,附属動物病院の院長である川﨑安亮教授(行動生理・生態学)と三浦直樹准教授(画像診断学)に取材した。

獣医学と画像診断

農学部獣医学科を前身とする鹿児島大学共同獣医学部は,山口大学との共同教育課程の学部として2012年に設立された。獣医師の役割は,イヌやネコなど伴侶動物の診療はもとより,産業動物の診療,保健所での公衆衛生,国や地方自治体の職員,医理工学分野の動物実験など多岐にわたるため,獣医学部では臨床・非臨床の幅広い教育が必要となる。また,近年は鳥インフルエンザや口蹄疫などの伝染病がグローバルな問題となっていることから,それらに対応可能な世界に通用する水準の獣医師養成が求められている。
川﨑教授は,「高度な知識と技術を持つ獣医師を育成するため,臨床実習の充実を目的に,学部として独立して教育システムの改革を図り,その一環としてMRIとCTをより高度な装置に更新しました。獣医学教育の質を保証するEAEVE(欧州獣医学教育認証機構)の認証取得をめざして,教育環境の整備を進めています」と説明する。
獣医学分野では以前から超音波診断装置やX線撮影装置による画像診断が行われてきたが,近年はCTやMRIなどの高度画像診断機器も導入され,同院でも1997年からCT,2009年からはMRIを使用している。三浦准教授は,「以前は動物の疾患について,臨床所見やX線画像,エコー検査所見だけで教えることが多かったのですが,いまはそれに加えて,CTやMRIの画像で病態を明瞭に示すことができます。その結果として,教育水準を数段上げることができると確信しています」と,画像診断が獣医学教育を大きく変えると述べる。

川﨑安亮 教授

川﨑安亮 教授

三浦直樹 准教授

三浦直樹 准教授

 

 

大型動物の検査が可能なワイドボアの3T MRIを導入

同院は2014年に,日立メディコ社製0.4TオープンMRI「APERTO Inspire」から3T MRI「TRILLIUM OVAL」に更新した。基礎医学分野では小動物用に7Tなどの超高磁場MRIがあるが,3T装置に更新した理由について川﨑教授は,「ヒトと比べて動物の脳や脊髄は小さいので,高磁場MRIの高い空間分解能が必要であると同時に,ブタ・肉用牛の国内生産の8割を占める鹿児島に立地する大学として,子牛などの大型動物を検査できる装置が必要でした。マウスの脳など非常に小さな対象も観察可能なことから教育・研究に有用だと考えましたし,高磁場装置で実現する臨床応用可能な撮像法や機能画像にも期待しました」と話す。
入札前の候補の選定では,ガントリボアと寝台耐荷重が大きいこと,全身麻酔をかけた動物を操作室で安全にセッティングするために寝台が着脱式であることが条件となった。TRILLIUM OVALは,横幅74cm,高さ65cmでワイドな楕円形の“OVAL Patient Bore”が大型動物にも対応可能であり,高さ50cmまで下げられる“WIT Mobile Table”(耐荷重250kg)も,人力による動物のセッティングに有用と判断された。加えて,撮像中に動物を観察しやすいラッパ状のオーバルボアや短いガントリ,さまざまな動物に応用できる種類豊富なコイルも高く評価された。

子牛のMRI検査

子牛のMRI検査
a:着脱式の寝台による操作室でのセッティング
b:200kg近くある子牛でも,横たえた状態で安全に楕円形ガントリに収まる。

 

MRI検査の実際

附属動物病院では,臨床教育を主目的に伴侶動物と産業動物の二次診療を行っている。川﨑教授は獣医療について,「伴侶動物は“家族の一員”であるためヒトの診療に近いのですが,産業動物は経済動物のため,検査や治療のコストと経済的価値を天秤に掛けた判断が行われます。そのためにも獣医師は,疾患の状態や治療の可能性を見極めて,画像検査の要不要を判断し,的確に診断しなければなりません」と説明する。
MRI検査の対象動物は9割以上がイヌであり,検査件数は週に3〜5件。約8割が臨床目的で,中枢神経系の検査が中心となる。臨床症状から,ダックスフンドなどに多い椎間板ヘルニアや,高齢化により増えている脳腫瘍,特発性脳炎などが疑われる場合にMRIが選択される。また,MRIにより,従来はイヌやネコには少ないとされていた脳梗塞や脳出血も次々に見つかっている。
検査では,イヌやネコには膝用コイルを用い,大型動物は寝台埋め込み型の脊椎用コイルや腹部用コイルを組み合わせて撮像している。T2強調画像,T1強調画像,FLAIR,造影T1強調画像を基本に,拡散強調画像やT2*強調画像,脂肪抑制を必要に応じて追加している。三浦准教授は,特に3D撮像の有用性を強調する。
「例えば数cmしかない脳に対して,6mm厚のスライス撮像では病変を見落とす可能性があり,微小な下垂体などをとらえることも困難でした。TRILLIUM OVALでは3D撮像後に0.6mmでの再構成も可能ですし,3Dでスクリーニングをすれば,スライス位置を適切に設定できます。紹介元に返す時にも,“見えなかった”と“見たけれど何もなかった”ではまったく違います」

イヌの脳梗塞画像(a)と非造影血管描出(b)

イヌの脳梗塞画像(a)と非造影血管描出(b)

 

ウシのMRI検査

ウシのMRI検査
T2強調画像で右腎臓周囲に高信号(血腫)が認められる。

ラットのMR画像

ラットのMR画像

 

機能画像への期待

最近では研究を目的に,拡散テンソル画像(DTI)やMRS,functional MRI(fMRI)などの機能的な画像解析も始めている。DTIは,脊髄損傷モデルで治療効果を評価する動物実験を中心に,臨床でもデータを収集中で,将来的には臨床で予後評価に使える可能性があるという。川﨑教授は,「動物は話せないので,病態評価には深部痛覚検査など大雑把な方法しかなく,また,動物の認知を客観的に評価する方法もないのが現状です。機能画像の研究が進めば,病態の客観的評価や,動物の気持ちを垣間見ることが可能になるかもしれません」と述べ,聴覚や嗅覚の認知研究のために,静音化技術など覚醒下でのMRI撮像を支援する技術の開発に期待を示した。
また,コンソール上で計測・解析可能なMRSを,ヒトと動物で共通する病気について診断法や治療法を互いにフィードバックする比較病態解析学に活用したり,機能画像を使って分離不安症やCDS(イヌの認知症)といった精神疾患の診断ができる可能性もあるという。同院ではほかにも,イヌの靱帯などの整形外科領域,ラットを使った脳梗塞・脳出血,ブタを使った再生医療など,TRILLIUM OVALを活用した多様な研究が進行している。

高度な知識と技術を持つ獣医師育成のために

高度画像診断機器は獣医学分野にも大いに貢献し,疾患によっては画像がなければ診断が難しいものもある。一方で川﨑教授は,獣医学部・附属病院の使命である獣医学教育において重要なのは,CTやMRIがなくても的確に診断を付けられる獣医師を育成することだと述べる。
「その能力を身につけるために,高度な機器を使って画像診断を学ぶことは非常に大切です。蓄積したデータやエビデンスを基に教育することで,画像検査の要不要を臨床所見で判断できる獣医師を育成しなければならないと思います」
今後もTRILLIUM OVALは,人が動物を理解する助けとなり,世界に通用する獣医師の育成に役立っていくだろう。

(2015年2月2日取材)

 

鹿児島大学共同獣医学部・附属動物病院

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〒890-0065 鹿児島市郡元1-21-24
TEL 099-285-8750(病院)
http://www.vet.kagoshima-u.ac.jp/kadai/KUVTH/index.php

 

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