磁遊空間 30号記念 巻頭インタビュー 
日立MRIを語る─共同研究を通じた評価と展望─ 
日立グループが持つ総合力で世界を圧倒する製品づくりを 
落合 礼次 氏(医療法人社団如水会 今村病院放射線科 部長

中低磁場永久磁石型オープンMRIを独自に展開してきた日立メディコは,2006年に超電導型1.5T MRI「ECHELON Vega」を発売。以降,高磁場装置の開発にも注力して,2013年には3T MRI「TRILLIUM OVAL」を発売し,永久磁石と超電導マグネット,オープン型とトンネル型,そして0.25Tから3Tまで,MRIのフルラインナップを提供している。さらに,最新の撮像法やユニークなアプリケーションの研究開発も強力に推し進めている。今回,磁遊空間30号記念企画として,腹部,心臓それぞれの領域において日立メディコと共同研究を行っている先生方に,同社のMRIに対する評価や期待についてお話をうかがった。

2015-4-27


落合 礼次 氏

■日立MRIとのかかわりはどのように始まりましたか。

2002年より勤務した古賀病院21(福岡県久留米市)に,永久磁石型0.4TオープンMRI「APERTO」が導入されていたことが,日立MRIとの出会いです。当時,APERTOは発売されたばかりで,同院に入ったものが国内2号機でした。そのため,日立メディコの人たちが頻繁に出入りしていて,病院や学会でよく話をするようになりました。
日立メディコは2006年,超電導型1.5T MRI「ECHELON Vega」を発売しましたが,長い間,高磁場装置の開発を休止していました。当時私は,日立メディコの今後の開発方針などを話し合う場に呼ばれ,経営陣や開発者を前に講演したこともありますが,1.5T以上の高磁場装置を開発する必要性が議論されていた時には,その必要性を強く訴えたことを覚えています。その思いが伝わったのか,日立メディコは高磁場MRIの開発を再開し,市場に戻ってきました。

■日立メディコと心臓MRIの共同研究を行うことになった経緯をお聞かせください。

心臓MRIについては2007年頃より,古賀病院21で他社の1.5T装置を使って検討を開始しました。そこでは循環器科医と一緒になって取り組んだことで,順調に成果を得ていました。
この頃,日立メディコは高磁場MRIの開発に力を入れており,画質評価などの相談を受けていました。コイルも含め装置のすべてを自社で開発するようになったことで,開発陣に直に意見を伝えることができ,善後策や今後の見通しなどを話し合えるようになりました。その中で,心臓MRIについても質問を受けるようになり,自分の経験を基にアドバイスしていました。
そして,バージョンアップした1.5T MRI「ECHELON OVAL」が2012年に製品化されました。日立メディコが,これを使って心臓MRIに取り組みたいと考えていたところ,第1号機が愛誠会昭南病院(鹿児島県曽於市)に導入されることになりました。昭南病院は,十数年前に非常勤で勤めていたため診療放射線技師の方も知っていましたし,朝戸幹雄院長とは宮崎大学時代に血管造影を教えていただくなど一緒に仕事をしてきた仲です。地方の民間病院に世界第1号機を導入するというのは勇気のいる決断ですが,朝戸院長はECHELON Vegaなど現行装置の画像を見て,バージョンアップ後の仕上がりをある程度予想できたのだと思います。
朝戸院長も心臓MRIに積極的で,昭南病院でデータを取っていくことになりましたが,ECHELON OVAL は開発中に画像評価をしていたので愛着のある装置でしたし,心臓MRIであれば一緒にやってみたいと思いました。2013年から正式にコンサルティングとして,2014年からは日立メディコと昭南病院,私の三者の共同研究として心臓MRIに取り組んでいます。

■共同研究の内容や成果について教えてください。

昭南病院でボランティアを使って心臓MRIを始めたばかりの時は,正直に言って,まだまだの画像でした。しかし,国内で心臓MRIがスタートした頃は,各施設が非常に苦労して,何か月もかけて臨床で使える画像を工夫して作り上げていった経緯があります。そこで,古賀病院21で一緒に仕事をしていた親交のある技師に来てもらい,ECHELON OVALで撮像してもらったところ画質が大幅に向上しました。心臓MRIでは装置性能だけでなく,微妙なポジショニング調整,呼吸や脈拍,または検査中に寝てしまうといったことが大きく影響し,技師の持つノウハウやコツが非常に重要だということがわかり,ECHELON OVALで心臓MRIができるという感触をつかみました。
その後は開発者にも現場に来てもらい,私からは撮像条件などの技術的な話をしています。半年に1回,「心臓MRI検討会」を昭南病院で実施し,画質評価や関連技術の重要度の確定,撮像の手順やノウハウの整理を行っています。心臓MRIでは撮像の手順や状況が画像に大きく影響するため,それを踏まえて技術開発をしてもらうために,何が必要かを技術者に身をもって感じてもらうことが大切でした。開発陣は,ECHELON OVALの心臓MRIの可能性を目の当たりにして安堵と喜びの表情でしたし,開発への意欲もわいたようです。現在も楽しみながら共同研究を行っており,心臓MRIはどんどん良くなっていると思いますし,この成果をまとめて撮像時のノウハウも含めたパッケージとして提供できるようになればと考えています。

心臓MRI検討会の様子

心臓MRI検討会の様子

昭南病院のECHELON OVAL(中央が朝戸院長)

昭南病院のECHELON OVAL(中央が朝戸院長)

 

■これまでの経験から日立MRIをどのように評価していますか。

最初に使った0.4TのAPERTOは,永久磁石でオープン型の装置として予想以上の良い画像を得られていたと思います。中低磁場装置の開発で技術は蓄積され,高磁場装置に再着手する時にはハードルは低かったと思いますし,バージョンアップのテンポも速かったと思います。1.5T,3Tともに開発段階から画像評価をしていましたが,1.5Tについては血管描出できれいな画像を出していました。3Tでも血管はきれいでしたが,すばらしいと思ったのが脊髄です。脊髄は通常,3Tよりも1.5Tの方がきれいに撮れるものですが,開発中から1.5Tよりもきれいな画像が得られていました。
開発体制については,検討会などで開発者と直接話すことができるため,現場の意図を理解してもらっていると感じています。心臓MRIについては,まだまだ改善の余地はありますが,開発者が課題に優先順位を付け,それを1つ1つチェックしながら着実に進められています。

■最後に日立MRIや日立メディコへのメッセージをお願いします。

日立メディコは,良くも悪くもとても日本的だと感じます。控えめなところに好感を覚えますが,世界に打って出るにはマイナスになりますし,他社の一歩前に出るような製品づくりや売り方が必要だと思います。一度ユーザーになれば,日立メディコの良さがよくわかりますが,海外の新しい市場にも食い込んで行くような積極性がほしいです。日立がグループ全体で持つ総合力は,世界的にトップクラスだと思います。だからこそ,世界に冠たる技術を持っていることを,製品づくりで示してほしいのです。製品で世界を圧倒できる力を持っているはずです。
MRIについては,撮像が最も難しい心臓領域を克服できれば,どの領域でも良い画像を得ることができるはずです。これからも,日立メディコとともに心臓MRIへの挑戦を続けていきたいと思います。

(2015年2月3日取材)

 

1989年 宮崎医科大学医学部卒業後,同大放射線医学教室入局。県立病院などを経て,2001年 宮崎医科大学医学部大学院卒業。2002年 古賀病院21放射線科に勤務。2007年以降,複数の民間病院勤務を経て,2013年より現職。


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