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Hi Advanced MR セミナー
講演2 脳神経MRIの新たな可能性
佐々木真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
2014-9-25
本講演では,脳神経MRIの最近のトピックスとして,(1)血管壁イメージング(plaque imaging,vessel wall imaging:VWI),(2)定量的磁化率マッピング(quantitative susceptibility mapping:QSM),(3)拡散尖度画像(diffusion kurtosis imaging:DKI),(4)MRA・MRSによる簡易脳循環検査について解説する。
血管壁イメージング
●プラークの性状診断
頸動脈硬化性病変の画像診断は,さまざまな目的で行われる。治療〔頸動脈内膜剥離術(CEA),頸動脈ステント術(CAS)〕の適応決定のためのDSA・MRAなどによる狭窄率判定や,術中・術後合併症の予測のためのSPECTによる血管反応性評価などが広く行われているが,最近では,脳梗塞イベントの予測のためのプラークイメージングによるプラーク性状判定が注目されている。
プラークイメージングでは,線維や石灰化の安定成分と,出血や脂質の不安定成分を鑑別する質的診断が重要となる。しかし,超音波やCTでは,プラーク成分の識別能は十分ではなく,石灰化や金属アーチファクトによる画質劣化などの弱点もある。これに対しMRIでは,不安定成分が高信号を呈し,石灰化や金属の影響を受けにくいことから,プラークの性状診断に適していると考えられる。
●撮像方法の検討と定量解析ソフトウエアの開発
しかし,MRIプラークイメージングでは,判定で最も重要なT1強調画像(T1WI)の撮像法が多数あり,施設によって異なる手法が用いられていることが大きな問題となっている。
そこで,CEA術前患者を対象に,4種類の撮像法によるT1WIと手術標本を比較し,各撮像法のプラーク描出能を検討した1),2)(図1)。その結果,black-blood FSE法は,心電図同期や複数IRパルスによりTRが延長・変動するため,コントラストが低下して性状判定が困難だった。また, MP-RAGEは,血液信号抑制のためのIRパルスによりT1が血液に近い脂質・壊死成分の信号も抑制してしまうという問題があった。
一方でSE法は,プラーク性状ごとにコントラストの差が明瞭であり,病理ともよく一致することから3),プラークイメージングには,通常のSE(FSE)法T1WIが適していると考えられた。ROC解析でも,SE法T1WIは線維・脂質・出血主体プラークを高い感度・特異度で識別可能であった3)。また,T2強調画像(T2WI)は脂質が高信号に描出されるため,線維との識別の参考になった。
さらにわれわれは,プラーク性状の定量解析を行うソフトウエアを日立メディコ社と共同開発した(図2)。解析結果は,線維,脂質,出血成分がカラーマップで示され,病理標本との比較で良好な一致が認められた(図3)。また,定量解析においても,病理標本の計測結果と高い相関を示した4)。1.5T装置でも,高コントラストのT1WIを得られれば,プラークの性状予測が十分に可能であると言える。
また当施設では,プラーク安定作用のある抗血小板薬cilostazolの薬効評価にも本手法を応用している。投薬後1年間の観察で,脂質・出血成分主体のプラークが,線維成分主体のプラークへと変化していく様子が認められた5)。
●3Dプラークイメージング
近年,新たなプラークイメージングの撮像法として 3D-FSE法T1WIが注目されている。本手法は種々の利点を有しているが,プラーク性状判定能は十分明らかになっていなかった。そこで,CEA術前患者に対し2D-SE法とともに撮像し,病理標本と比較したところ,3D-FSE法において不安定プラークの識別能がさらに向上した。また,3D-FSE法T1WIは,頭蓋内の血管壁イメージング(VWI)にも応用可能である。頭蓋内主幹動脈のプラークの存在診断・性状診断が可能であり6),脳動脈解離の診断にも有効である7)。
定量的磁化率マッピング(QSM)
●SWIの限界とQSMの特徴
現在,広く行われている磁化率イメージングには,2D GREを用いたT2*WIと,3D spoiled GREを用いた3D T2*WI,3D T2*WIに位相情報を付加した磁化率強調画像(susceptibility weighted image:SWI)がある。SWIは,T2*WIや3D T2*WIでは見えない変化をとらえることができる。急性期脳梗塞や血行力学的脳虚血では,患側の髄質静脈や脳表静脈がより明瞭に描出され,虚血ペナンブラ領域や貧困灌流領域,つまり酸素摂取率(oxygen extraction fraction:OEF)の上昇による変化を表していると考えられている。しかしSWIは,high path filter処理で脳実質や病変の位相シフトをキャンセルしてしまう危険があり,また,dipole effect(双極子効果)によるアーチファクトが生じやすいため,定量性・客観性に乏しいことが課題であった。
図4は,L1-Norm regularizationを用いた3T MRIのQSM画像である8)。位相画像やBSI(blood sensitive imaging:SWIに相当)に含まれていたアーチファクトが,QSMでは大幅に低減できている。
●QSMの臨床応用
QSMの臨床応用としては,OEFの無侵襲計測による貧困灌流(misery perfusion)の診断や,鉄濃度定量による神経変性疾患の早期鑑別診断が期待できる。
OEF上昇を示す貧困灌流は,脳卒中イベントのリスクであり,CEAやCASの合併症のリスクであることから,その検出は非常に重要であるが,従来はPET検査など侵襲的な方法で行われてきた。OEFは,QSMにおける静脈の磁化率の値から容易に算出できるため,無侵襲にOEFマップを作成することが可能となる(図5)。
また,パーキンソニズムを呈する神経変性疾患では,パーキンソン病や多系統萎縮症(MSA),進行性核上性麻痺(PSP)などの疾患を早期に鑑別することはしばしば困難である。しかし,QSMで脳実質の鉄沈着を定量化すると,病理学的変化と高い一致を示し,これらの疾患の早期診断,鑑別が可能になると期待される。今後,解析アルゴリズムの改良や精度検証を進めていく予定である。
拡散尖度画像(DKI)
●DKIの意義と撮像法の最適化
拡散イメージングには,拡散強調画像(DWI),拡散テンソル画像(DTI),q空間画像(q-space imaging:QSI),拡散尖度画像(DKI)など,複数の撮像法がある。DWI,DTIは確率密度関数としてガウス分布を仮定しているのに対し,QSI,DKIはそれを仮定しておらず,また,DWIの1階,DTIの2階に対し,QSI,DKIは4階テンソルを解析する。
中枢神経系は,細胞間隙(細胞外腔)が極端に狭いため確率密度関数がガウス分布となりにくく,また,神経線維の錯綜により拡散異方性評価に限界があるという特殊性がある。そのため,中枢神経系の詳細な拡散解析にはガウス分布を前提としていないQSI,DKIが有利であり,従来の画像ではわからなかった軽微な変化をとらえることができる。
特にDKIは,少ないb値で解析結果を得られるため短時間で撮像でき,定量指標が感覚的に理解しやすいなどの利点があるが,撮像条件の最適化や1.5Tでの検討など,十分な検証が行われていなかった。そこでわれわれは,日立製作所中央研究所と共同研究を行い,DKI解析ソフトウエアを開発した9)(図6)。
1.5T装置で撮像したデータを用いて本ソフトウエアでDKI解析を行ったところ,良好な画像を得ることができた。また,撮像条件の検討では,b=2500を含む3種類のb値を組み合わせたデータで,フルセットのデータと同等の精度を得られたことから,高いSNRで適切なb値の画像を得ることが,解析精度向上に重要であると示された。
●DKIの臨床応用
DKIは,脳虚血,脳腫瘍,脱髄疾患,変性疾患など,さまざまな疾患の評価に応用可能である。脳腫瘍の悪性度評価においては,グレードの高い腫瘍ほどmean kurtosis(MK)の上昇が見られる。また,DKIは,パーキンソニズムを来す神経変性疾患の早期鑑別に役立つ可能性がある。MKマップでは病理学的な所見に対応した変化が認められており,白質のわずかな脱髄や軸索変性,灰白質の神経細胞変性やグリオーシスなど,軽微な組織学的構築の変化をとらえていると考えられる。
現在,DKI,DTI,QSMを自動解析するソフトウエアを開発し,パーキンソニズムの早期鑑別診断に関する前向き研究を行っている。研究途中ではあるが,各疾患の特徴的な変化が鋭敏にとらえられており,今後の疾患修飾薬の治験に向けて,先制医療のバイオマーカーとして役立つと考えている。
MRA・MRSによる簡易脳循環検査
●脳循環代謝のスクリーニング検査
15O-PETやacetazolamide負荷SPECTによる脳循環代謝検査は脳卒中の診療や研究で重要な役割を果たしているが,侵襲的で汎用性が低く,費用が高価であることが課題であった。そこで,われわれは,MRIでスクリーニングを行い,ハイリスク患者にのみ,PET・SPECTを実施する検査フローを検討している。MRIによる無侵襲スクリーニング検査として期待できるものに,MRAとMRSがある。
1)MRA
3T MRIでは,血液のT1緩和時間が延長してinflow効果が強くなるため,single slabで3D-TOF MRAを撮像できる。single slab MRAでは脳血流の機能情報を得ることができ,簡易的な脳循環検査として使用できる。例えば,頸部頸動脈狭窄の術前において,single slab MRAで脳動脈末梢の描出に左右差を認めた患者だけ,SPECTやPETを実施するという戦略が可能になると考えられる10),11)。
また,脳血流動態を選択的に観察するため,日立メディコ社と共同でselective MRAを開発した。“Beam SAT”という特殊なプレサチュレーションパルスを目的血管の近位部に照射することで,その灌流領域の血流信号を消去することができる(図7)12)。CEAやCASの術前における,Willis動脈輪を介した側副血行路の評価などに用いている。
2)ワンクリックMRSとMRS脳温計測
MRSは脳虚血においても有益な情報を提供することが知られているが,その計測や解析は容易ではないため,われわれは日立製作所中央研究所,日立メディコと共同で,MRS/CSIのワンクリック計測や,LCModelによるワンクリック解析ができるアプリケーションを開発した(図8)。これにより,わずか数分の平易な撮像と解析でMRSやCSIの高精度な計測ができ,電子カルテなどへの転送も可能となるため,臨床への広がりが期待できる。
高熱源体である脳は,豊富な脳血流により冷却されているため,脳代謝と脳血流に不均衡が生じると脳温が変化する。例えば,脳の酸素代謝率(CMRO2)が保たれていながら脳血流(CBF)が低下すると脳温が上昇するが,この状態は,OEFの上昇とほぼ一致することから,脳温の上昇は貧困灌流を反映することが予測される。
MRIによる脳温計測には,CESTやDWIを用いる方法などがあるが,われわれは1H-MRSを用いている。1H-MRSでは,共鳴周波数が温度に依存するH2Oと依存しない代謝物(NAA)の周波数差で脳温を計測する。この方法による脳温と,PETによる循環動態を比較したところ,循環予備能低下例や代謝予備能低下例において患側の脳温が健側に比し0.3℃以上高くなることが認められたことから,正確に脳温を計測できれば,血行力学的脳虚血のスクリーニングができることが示唆された13),14)。
現在,デュアルボクセルで左右の大脳の脳温を測定するソフトウエア(W.I.P.)を共同開発し,精度検証を行っている。
まとめ
MRIは,さまざまな可能性を秘めた魅力的な装置である。われわれは,海外で開発された新しい技術を後追いするだけでなく,臨床的ニーズに裏打ちされた新しい技術を,質の高い共同研究や産学連携で自ら生み出して世界へ発信し,より多くの患者のために役立てていく努力をしていく必要がある。
●参考文献
1)Saito, A., et al.:Carotid plaque signal differences among four kinds of T1-weighted magnetic resonance imaging techniques;A histopathological correlation study. Neuroradiology, 54, 1187〜1194, 2012.
2)Narumi, S., et al.:Altered carotid plaque signal among different repetition times on T1-weighted magnetic resonance plaque imaging with self-navigated radial-scan technique. Neuroradiology, 52, 285〜290, 2010.
3)Narumi, S., et al.:Prediction of carotid plaque characteristics using non-gated MR imaging;Correlation with endarterectomy specimens. AJNR, 34, 191〜197, 2013.
4)Narumi, S., et al.:Predicting carotid plaque characteristics using quantitative color-coded T1-weighted MR plaque imaging ; Correlation with carotid endarterectomy specimens. AJNR, 35, 766〜771, 2014.
5)Oura, M.Y., et al.:Carotid plaque characteristics on magnetic resonance plaque imaging following long-term cilostazol therapy. JSCVD, 2014(in press).
6)Natori, T., et al.:Evaluating middle cerebral artery atherosclerotic lesions in acute ischemic stroke using magnetic resonance T1-weighted 3-dimensional vessel wall imaging. JSCVD, 23, 706〜711, 2014.
7)Natori, T., et al.:Detection of vessel wall lesions in spontaneous symptomatic vertebra- basilar artery dissection using T1-weighted three-dimensional imaging. JSCVD, 2014(in press).
8)Sato, R., et al.:Quantitative susceptibility mapping with a combination of different regularization parameters. ISMRM2014 (abstract 3179).
9)Yokosawa, S., et al.:Robust estimation with suppressed image blurring for diffusion kurtosis imaging using selective spatial smoothing filter. ISMRM2014 (abstract 2581).
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11)Hirooka, R., et al.:Simple assessment of cerebral hemodynamics using single-slab 3D time-of-flight MR angiography in patients with cervical internal carotid artery steno-occlusive diseases;Comparison with quantitative perfusion single-photon emission CT. AJNR, 30, 559〜563, 2009.
12)Ito, K., et al.:Noninvasive evaluation of collateral blood flow through circle of Willis in cervical carotid stenosis using selective magnetic resonance angiography. JSCVD, 23, 1019〜1023, 2014.
13)Ishigaki, D., et al.:Brain temperature measured using proton MR spectroscopy detects cerebral hemodynamic impairment in patients with unilateral chronic major cerebral artery steno-occlusive disease;Comparison with positron emission tomography. Stroke, 40, 3012〜3016, 2009.
14)Murakami, T., et al.:Brain temperature measured by using proton MR spectroscopy predicts cerebral hyperperfusion after carotid endarterectomy. Radiology, 256, 924〜931, 2010.
佐々木真理(Sasaki Makoto)
1984年岩手医科大学医学部卒業。88年同大学院医学研究科卒業後,同大学中央放射線部助手。94年米国国立衛生研究所(NIH)留学。96年岩手医科大学放射線医学講座講師。2007年同大学先端医療研究センター(現・医歯薬総合研究所)准教授。2009年同教授。2011年〜現職。
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