Report
第13回日本術中画像情報学会
「現在の術中画像診断学の現況と新たな展望」をテーマに開催
2013-9-25
会長 嘉山孝正 氏
(山形大学)
第13回日本術中画像情報学会が7月13日(土),嘉山孝正会長(山形大学医学部脳神経外科教授)のもと,「現在の術中画像診断学の現況と新たな展望」をテーマに,山形国際ホテルにて開催された。一般口演7セッション36題のほか,特別講演,Work in Progressが企画され,術中MRIをはじめとする術中画像診断や運動誘発電位などの術中モニタリング,術中蛍光血管撮影など,さまざまな術中画像・情報を併用した新しい外科的治療の可能性や応用についての発表が行われた。
一般口演は,疾患別(下垂体腺腫・傍鞍部腫瘍,脳血管障害,脳腫瘍その他)の術中画像および情報,術中ICG蛍光血管撮影,ナビゲーション・画像情報システム,術中MRIをテーマに7セッションが行われた。このうち術中MRIは,「技術・システム」と「腫瘍」の2セッションで,8施設から11題の発表が行われた。
国内における術中MRIは,2000年に東京女子医科大学が導入して以降,実施施設も徐々に増え,脳腫瘍摘出率や生存率の向上,機能予後への貢献といった成果が報告されている。日立メディコ社が強みとする永久磁石型中低磁場MRIは,オープン型で撮像中に患者の様子を観察しやすいことや,5ガウスラインが狭いため高磁場装置と比べ安全性が高いこと,また,導入・運用コストが安いといった理由から,術中MRIで用いる装置として採用している施設も多い。日立メディコ社の装置を用いた術中MRIについては,4施設から5題の発表が行われた。
一般口演4「術中MRI 1(技術,システム)」は,加藤天美氏(近畿大学)と藤井正純氏(名古屋大学)を座長に,水口貴詞氏(名古屋大学)の「Non-Local Means 3D Filterを用いた低磁場術中MR画像のノイズ除去」から始まった。同院では,中低磁場オープンMRI装置「APERTO Inspire」を手術室内に設置し,脳神経外科画像誘導手術を実施しているが,画像へのノイズ混入に悩まされるケースがあることから,ノイズ除去フィルタの中でもエッジ情報の保存性に優れるnon-local means(NLM)3D filterを臨床画像10症例に用いて検証を行った。その結果,シーケンスによらず画質は向上し,特に,T2強調画像では低コントラストの視認性が向上して,残存腫瘍の検出や位置情報の特定に有効であったとした。撮像時間の延長が不要であることから,中低磁場術中MRIにおいて,NLM処理は非常に有用であると述べた。
続いて,田村 学氏(東京女子医科大学)が「脳腫瘍の未来予測手術─機能・構造に注目した診断と治療─」と題して,現在進めている次世代手術室SCOT(Smart Cyber Operating Theater)のプロジェクトについて,概要と効果,今後の展望について概説した。同院の術中MRIは1100例を超え,現在は脳腫瘍と周辺組織についてのデータベース(術前,術中,術後の画像や情報)を活用して,“戦略デスク”による手術情報統合・手術戦略支援,科学的根拠に基づいた意思決定(未来予測)を可能にするSCOTへと発展させ,より高度な情報誘導手術を実施している。田村氏は,再発傾向の予測や,生命予後・機能予後の詳細な予測を,術中もしくは術前の段階で行えることを目標にプロジェクトを進めていくと締めくくった。
3題目に,成田善孝氏(国立がん研究センター中央病院)が「術者による測定機器・コンピューター・多分割画像情報録画装置の遠隔操作システムの開発」を講演した。手術の画像記録は,振り返りによる手技の向上や教育,摘出腫瘍の位置と病理所見の検討などのために重要であるが,多様な画像情報を扱うほど機器配置やシステム構築,画像閲覧の運用が複雑になる。そこで同院では,フットスイッチとマウストラックボールで術者自身が画像の切り替えや,離れた位置にある電子カルテなどの操作を容易に行えるシステムを開発。成田氏は,術中MRI室における遠隔操作システムの有用性や構築の工夫などについて述べた。
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術中MRIをテーマとした2つ目のセッションである一般口演5「術中MRI 2(腫瘍)」では,森田明夫氏(日本医科大学)と成田善孝氏が座長を務めた。
日立メディコ社の0.3TオープンMRI「AIRIS Elite」を術中MRIに用いている鹿児島大学からは,平野宏文氏が「術中MRI使用グリオーマ手術の効果」を報告した。グリオーマ摘出術124例を対象に検討した結果,術中MRI使用例は全摘率が高く,生存期間が延長しているものの,症例選択にバイアスが存在し,有効性が期待できる症例に頻用している可能性があるとした。その上で,MRI使用と追加切除の有無で評価した生存曲線からは,追加切除が生存期間に何らかの影響を与えている可能性や,造影効果を示さない残存浸潤腫瘍の早期再発が,追加切除あり群の生存期間に関与している可能性があると述べた。
続いて,宮北康二氏(国立がん研究センター中央病院)が「国立がん研究センターにおける術中MRIの使用経験」と題して,2012年より稼働している日立メディコ社製0.3T MRIとCT,DSAを備えた画像支援手術室における,術中画像情報の利用方法,有用性,問題点について発表した。術中MRIは,最大限の摘出に大きく貢献し有用であるが,手術時間の延長や感染症の問題,偽性造影病変などもあることから,術中画像情報の利用方法には慎重な対応が必要であると述べた。
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第14回は,2014年7月12日(土)に東京大学伊藤国際学術研究センターを会場に開催予定で,会長は成田善孝氏が務める。
第13回日本術中画像情報学会プログラム
■一般口演1 下垂体腺腫,傍鞍部腫瘍における術中画像および情報
座長 本郷一博(信州大学),長谷川光広(藤田保健衛生大学)
O1-1 立体神経内視鏡を利用しての経鼻的傍鞍部手術経験
柿澤幸成(信州大学)
O1-2 鼻性髄液漏の漏出部位の同定におけるフルオレセイン塗布の有用性
佐藤 拓(福島県立医科大学)
O1-3 術中VEPモニタリングが有用であった傍鞍部腫瘍摘出術の3例
昆 博之(青森県立中央病院)
O1-4 経鼻内視鏡手術教育における磁場式ナビゲーションシステムの有用性
竹内和人(名古屋大学)
■一般口演2 ICGを用いた術中蛍光血管撮影
座長 児玉南海雄(福島県立医科大学),加藤庸子(藤田保健衛生大学)
O2-1 脳血行再建術時におけるICG-videographyの有用性と工夫
弘中康雄(奈良県立医科大学)
O2-2 pde-neo赤外観察カメラシステム(浜松ホトニクス社製)によるICG蛍光造影を用いた頸動脈内膜剥離術術中モニタリングの有用性
大見達夫(トヨタ記念病院)
O2-3 術中ICG血管撮影を用いた脳血流定量解析によるbrain retractionの脳組織への影響分析
地藤純哉(滋賀医科大学)
O2-4 ICG angiographyリアルタイム処理技術の応用
斉藤仁十(旭川医科大学)
■一般口演3 ナビゲーション・画像情報システム
座長 森川茂廣(滋賀医科大学),若林俊彦(名古屋大学)
O3-1 タブレット型情報端末による画像誘導手術支援システムの構築
中村徳人(名古屋大学)
O3-2 脳腫瘍・頭蓋底手術におけるナビゲーションの現在と未来
ー3Dシミュレーションから3Dナビゲーションまでー
藤井正純(名古屋大学)
O3-3 脳腫瘍手術における周術期画像情報管理システム(PICS)の有用性
市川智継(岡山大学)
O3-4 Carl Zeiss Pentero顕微鏡とナビゲーションシステムのリンク(MultiVisionシステム)の使用経験
迎 伸孝(九州大学)
O3-5 術中皮質刺激とアップデートナビゲーションにて言語野の可塑性を確認しえたグリオーマの一例
齋藤太一(広島大学)
■一般口演4 術中MRI 1(技術,システム)
座長 加藤天美(近畿大学),藤井正純(名古屋大学)
O4-1 Non-Local Means 3D Filterを用いた低磁場術中MR画像のノイズ除去
水口貴詞(名古屋大学)
O4-2 脳腫瘍の未来予測手術ー機能・構造に注目した診断と治療ー
田村 学(東京女子医科大学)
O4-3 術者による測定機器・コンピューター・多分割画像情報録画装置の遠隔操作システムの開発
成田善孝(国立がん研究センター中央病院)
O4-4 術中MRI手術室における安全対策と教育研修
増田洋亮(筑波大学)
O4-5 天井懸架移動式高磁場術中MRIシステムの初期使用経験
阿久津博義(筑波大学)
■ランチョンセミナー
座長 伊関 洋(東京女子医科大学)
立体神経内視鏡システムの現状と課題
吉本幸司(九州大学)
■特別講演
座長 嘉山孝正(山形大学)
Simultaneous MR and PET acquisitionーpotential of clinical applicationsーKeon Wook Kang(Seoul National University College of Medicine)
■Work in Progress
座長 端 和夫(新さっぽろ脳神経外科病院)
WP-1 局所励起がもたらす画像診断の効果
井村千明(シーメンス・ジャパン株式会社)
WP-2 超電導MRIにおけるDWIの新しい撮像技術
八杉幸浩(株式会社日立メディコ)
WP-3 最新MRI装置を用いた治療領域への広がり
丸山功男(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)
WP-4 移動式CT Body Tomのご紹介
權 義哲(サムスン電子ジャパン株式会社)
WP-5 本能性振戦に対する経頭蓋MRガイド下集束超音波治療
ヤイール・バウアー(InSightec Japan株式会社)
WP-6 新型ORビューワー“BUZZシステム”の紹介
惠藤信一郎(ブレインラボ株式会社)
■一般口演5 術中MRI 2(腫瘍)
座長 森田明夫(日本医科大学),成田善孝(国立がん研究センター中央病院)
O5-1 下垂体腺腫に対する高磁場術中MRIの描出力と有効性
種井隆文(名古屋セントラル病院)
O5-2 内視鏡下下垂体腫瘍摘出術における術中MRIの有効性の検討
石垣共基(伊勢赤十字病院)
O5-3 内視鏡下経蝶形骨洞手術における術中MRIと治療成績
松田憲一朗(山形大学)
O5-4 術中MRI使用グリオーマ手術の効果
平野宏文(鹿児島大学)
O5-5 国立がん研究センターにおける術中MRIの使用経験
宮北康二(国立がん研究センター中央病院)
O5-6 運動野近傍グリオーマに対する術中MRI支援画像誘導手術
中原紀元(名古屋セントラル病院)
■一般口演6 脳血管障害における術中画像およびその情報
座長 松田昌之(湖東記念病院),佐藤慎哉(山形大学)
O6-1 頸動脈内膜剥離術における術中CTアンギオの有用性について
森川雅史(淀川キリスト教病院)
O6-2 MRXOを用いMRI環流画像を指標とした術前内頸動脈閉塞試験
反町隆俊(東海大学)
O6-3 二次元レーザー血流計による術中脳血流減少・増加の評価
野村貞宏(山口大学)
O6-4 自作立体脳動脈瘤モデルによるクリッピングの術中ナビゲーション
紺野武彦(自治医科大学)
O6-5 脳動脈瘤手術における術中画像および情報の検討
織田惠子(福島県立医科大学)
O6-6 CEA術中モニタリングにおけるINVOS(無侵襲性混合酸素飽和度監視システム)の有用性
加藤直樹(山形大学)
■一般口演7 脳腫瘍,その他における術中画像およびその情報
座長 黒岩敏彦(大阪医科大学),水野正明(名古屋大学)
O7-1 脳深部手術の術中顕微鏡画像への多焦点合成の応用
後藤 哲(河内総合病院)
O7-2 術中脳腫瘍組織診断における迅速免疫染色の有用性
笹嶋寿郎(秋田大学)
O7-3 5-ALA蛍光ガイド下手術におけるピットフォールと高輝度LED補助光源の有用性
木村誠吾(大阪医科大学)
O7-4 穿頭術におけるburr hole型超音波プローベの活用法
野村貞宏(山口大学)
O7-5 脳腫瘍および脳動脈瘤手術に対するハイビジョンエンドアームの使用経験
田原重志(日本医科大学)
O7-6 微小血管減圧術における神経内視鏡の有用性
柳澤俊晴(秋田大学)