セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
日本超音波医学会第94回学術集会が2021年5月21日(金)〜23日(日)の3日間,神戸ポートピアホテル(兵庫県神戸市)およびWeb配信にてハイブリッド開催された。21日に行われた富士フイルムヘルスケア株式会社(旧・株式会社日立製作所)共催のランチョンセミナー4では,日本大学病院消化器内科准教授 / 超音波検査室室長の小川眞広氏が座長を務め,宝塚市立病院消化器内科主任部長 兼 超音波センター長の田中弘教氏が,「ここまで診える肝胆膵疾患〜最新技術と新型リニアプローブを駆使する〜」と題して講演した。
2021年9月号
日本超音波医学会第94回学術集会ランチョンセミナー4
ここまで診える肝胆膵疾患 〜最新技術と新型リニアプローブを駆使する〜
田中 弘教(宝塚市立病院消化器内科 / 超音波センター)
腹部超音波検査に当たっては,患者の体格や検者の技量によって病変の描出が困難なことがある。特に,高度肥満などの症例では,ノイズによる組織境界 / 組織構造の不鮮明化や組織の描出力(辺縁のつながりなど)の不足により,組織構造の視認性や安定性が不十分となる。
富士フイルムヘルスケアの超音波診断装置「ARIETTA 850」は,高画質,直感的な操作性,特徴的なアプリケーションによって,上記の課題を解決し,腹部超音波検査の幅広いニーズに対応可能である。本講演では,ARIETTA 850の最新技術と新型リニアプローブの有用性を報告する。
Carving Imaging
ARIETTA 850は,単結晶プローブによる高感度化・広帯域化の実現,浅部から深部まで鮮明な画像が得られる“eFocusing”などのほか,画像の視認性を追究した新技術として“Carving Imaging”が搭載された。Carving Imagingは,組織構造特性を空間的に解析した上で,(1) 高輝度の飽和を抑えながら輝度変化のある箇所をエッジとしてシャープに強調,(2) 空間的に構造と判断した場合には結像処理を行う,(3) 低輝度で変化の少ない部分は“抜け”としてノイズ除去,などの処理を行う。Carving Imagingを用いることで,微小な低エコー病変を明瞭にとらえられるようになり,見落とし防止にも役立つ。
造影超音波における新技術
1.Definition PI
ARIETTA 850の造影モードには,Pulse Inversion(PI)法やAmplitude Modulation(AM)法に加え,血管イメージングを追究した新たなLow MI法である“Definition PI”が搭載された。MI値や造影手法も含めた画像条件を事前に登録することで,さまざまな造影モードをワンボタンで瞬時に切り替え,最適な条件で使用可能とする“Quick Scanning Selector(QSS)”を搭載したことで,Definition PIを直感的かつ簡便に使用できる。
2.CHI-eFLOW
新開発の高音圧ドプラモード“CHI-eFLOW”は,高音圧で造影剤を破壊し,疑似ドプラ信号を発生させることで造影剤を感度良く検出することができる。このため,Kupffer相での低輝度病変を,背景Bモードの影響を受けることなく評価可能である。また,高輝度病変のKupffer相の評価にも有用である。実際に,Bモードで強い高輝度を呈していた肝血管筋脂肪腫の症例は,従来のAM法,PI法,Low MI法では造影剤の抜けの評価が非常に難しかったが,CHI-eFLOWでは高輝度病変のわずかな変化を正確にとらえることができた。
新型プローブの有用性
1.腹部用マイクロコンベックスプローブ「C23RV/C23」
C23RV/C23は,基本性能,形状,操作性,アプリケーションを一から見直し,画質性能を追究して開発された,ルーチン検査で使用できるマイクロコンベックス(以下,MC)プローブである(図1 a)。体表接触面の曲率を大きくしたことで,通常視野角は70°とやや狭くなるが,“Wide Scanning”により視野角110°を実現している。また,短軸幅が12mmと薄く安定した肋間走査が可能なほか,単結晶や高放熱技術の採用などによって高感度化・広帯域化が図られ,浅部から深部まで高分解能な画像を取得可能となった。特に,高放熱技術によって高エネルギー出力が可能となり,標準コンベックスプローブ(以下,コンベックス)と同等のMI値1.6を実現している。さらに,C23RVには“Real-time Virtual Sonography(RVS)”の磁気センサが内蔵されているため(外付けも可),センサ脱着の手間などがなく,RVSをより簡便に施行可能となった。
症例1は73歳,男性,転移性肝がん(肺がん)であるが,C23RV/C23のWide Scanningでは,コンベックスと比較して遜色のない画角および画質が得られている(図2)。C23RV/C23は造影時の画質も大きく向上しており,Definition PIの動脈相では浅部から深部まで造影剤の動態が明瞭に観察できる(図3)。また,門脈相やKupffer相も,臨床に十分な画像が得られる。さらに,穿刺針の視認性も良好であり,垂直に近い穿刺角度でも明瞭に描出されている(図4)。
2.新型リニアプローブ「L35」
コントラスト分解能と深部感度の向上をめざして開発された新型リニアプローブL35は,45mmの広い視野幅を有し,グリップ性にも優れている(図1 b)。また,単結晶の採用により,低周波感度の向上と広帯域化が図られたことで,微細な変化をとらえる高い視認性と深部感度を実現しており,腹部(肝臓・消化管),下肢血管,頸動脈に広く応用可能である。
腹部検査において,リニアプローブでは,主に胆囊底部の胆囊腺筋腫症やポリープ,膵体部膵腫瘤,肝表の小腫瘤の描出を行う。基本的には,コンベックスから持ち替えて精査を行うが,ターゲットを描出するためには,周囲(深部)の脈管構造なども描出することが求められる。これを実現するため,L35では,短軸方向に振動子を分割・配列したマトリックス構造を採用。深度に応じて最適な短軸口径を選択し,ビーム幅を最適化することで,深度に応じた画像の描出が可能となった。
症例2は,71歳,女性,胆囊底部の10mmの過形成性ポリープである。コンベックスでは多重反射により病変の描出がやや難しいが,L35では容易に描出可能であり,血流評価も行いやすい(図5)。
L35によって,低流速血流を高分解能で表示する“Detective Flow Imaging(DFI)”も進化している。症例3は,77歳,男性,膀胱がんの多発肝転移である。L35を用いたDFIでは血流をつながり良く評価できた(図6)。造影することで,特に膀胱がんはドプラでの観察で描出不十分であった血流を,微細な血流までしっかりと評価可能であった。
また,L35は深部感度も良好であり,体表から8cm程度までは病変や血流を明瞭に観察することができる(図7)。
まとめ
C23RV/C23は,放熱技術の革新によって,これまでMCプローブでは困難だったMI値1.6という高出力を実現したことなどにより,コンベックスと同等の高画質化(造影も含め)が図られ,スクリーニングから治療まで対応可能となった。また,新型リニアプローブL35は,深部感度も良好で,体表から8cm程度までの病変をきわめて高い空間分解能で描出可能である。さらに,DFIと組み合わせることで,非造影でも詳細な血流評価が可能となった。
田中 弘教(Tanaka Hironori)
1993年 筑波大学卒業。岡山大学医学部第一内科入局。2008年 University Texas Houston Health Science Center留学。同年 兵庫医科大学肝胆膵内科超音波センター助教。2010年 同講師。2015年 同准教授。宝塚市立病院消化器内科部長。2018年〜同主任部長,同院内視鏡センター長兼任。2021年〜同院超音波センター長兼任。
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