セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

日本超音波医学会第93回学術集会が,2020年12月1日(火)〜3日(木)にWeb開催された。株式会社日立製作所共催のランチョンセミナーL3-07では,東北医科薬科大学地域医療学教室准教授の大原貴裕氏を座長に,特定医療法人神戸健康共和会 東神戸病院内科・訪問診療の水間美宏氏と福島県立医科大学疫学講座/心臓血管外科併任講師の高野真澄氏が,「災害や地域現場における超音波検査」をテーマに講演した。

2021年3月号

日本超音波医学会第93回学術集会ランチョンセミナーL3-07 災害や地域現場における超音波検査

新型コロナ流行下に地域の発熱外来で超音波を用いる

水間 美宏(特定医療法人神戸健康共和会 東神戸病院内科・訪問診療)

当院は,兵庫県神戸市にある病床数166床の地域一般病院であり,地域で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生後,発熱患者は発熱外来にて診療を行っている。発熱外来には,日立製のポータブル型超音波診断装置「ARIETTA Prologue」を導入し,point-of-care ultrasound(POCUS)を施行している。本講演では,当院におけるPOCUSの実際を,症例を踏まえて報告する。

POCUSを用いた診察

神戸市では,2020年3月2日にCOVID-19患者が確認され,5月17日に新規感染者はいったんゼロとなった。また,当院では,3月9日に発熱外来を開設し,5月16日までに266名が受診した。
従来,医師は,問診,視触診,打聴診によって診断を行うが,発熱外来では発熱患者がほかの患者と接触するのを避けるため,打聴診に続いてPOCUSを行い,精査の必要性を判断した上で系統的超音波検査やCTを施行する体制とした。習得に相当な修練を要する系統的超音波検査に対し,POCUSは一定の教育を受ければ習得可能であり,臨床医がベッドサイドで施行できる。
POCUSの施行に当たり,当院では感染防止のためプローブや装置本体を透明なゴミ袋などで覆った。使用するプローブはコンベックスプローブ1本とし,また,シリンジに小分けした超音波検査用ゼリーを患者1名に対し1本使用することで,感染防止に努めた。

呼吸器POCUS

ARIETTA Prologueの呼吸器POCUSのプリセットは,コンベックスの表在プリセットを基にアーチファクト軽減の設定をオフとし,デプス(深さ)は11cm,フォーカスを胸膜ラインに合わせ,ゲインは胸膜ラインが高輝度,肋骨の音響陰影が黒くなるようにした。
検査時には患者を背臥位とし,前胸部上下と側胸部上下の4か所を,左右で計8か所走査する。座位のみの場合は,背部の左右4か所を追加する。患者と長時間近距離で接触しないよう,(1) 胸膜ライン不整・肥厚,(2) ラングスライディング,(3) Aライン,(4) 多発Bライン(広範・局所),(5) ソノグラフィックコンソリデーション,(6) 胸水の有無を,1〜2分で素早く確認していく。
実際の画像を提示する。肋骨と肋骨の間に胸膜ラインが描出される(図1)。また,壁側胸膜に対する臓側胸膜の動きをラングスライディングと言うが,壁側胸膜と臓側胸膜の間に空気が介在するとラングスライディングは観察されなくなる。正常では,胸膜ラインから深部の画像はアーチファクトで構成される。プローブ面から胸膜面までの距離の整数倍の位置に等間隔に描出される線状像はAラインと呼ばれ,多重反射の一種である(図2)。Bラインは,胸膜ラインを起点に,減衰することなくレーザーのようにまっすぐに画面最深部まで伸び,ラングスライディングと同調して動く個々の高輝度多重アーチファクトとされている。縦断面で1肋間に3本以上,または癒合したBラインが多発Bラインとされる(図3)。このうち,広範多発Bラインは片側2か所以上かつ両側で,急性呼吸窮迫症候群(ARDS),心原性肺水腫などで見られる。また,局所多発Bラインは広範でない場合を指し,肺炎,無気肺,肺挫傷,肺梗塞,胸膜疾患,腫瘍などで見られる。
COVID-19肺炎の超音波所見としては,初期には胸膜ラインの不整やBラインの数と分布の増加が見られ,やがて癒合したBラインや胸膜下の小さなソノグラフィックコンソリデーションが見られる。また,初期には肺野の下方や後方にあった病変が,やがて上方や前方の領域に広がっていくと言われている。さらには,大きなソノグラフィックコンソリデーションや胸水も生じるが,これらの所見は初期にはまれで,初期に見られる場合はむしろ細菌性肺炎を考慮すべきである。

図1 胸膜ラインとラングスライディング

図1 胸膜ラインとラングスライディング

 

図2 Aライン

図2 Aライン

 

図3 多発Bライン(1肋間3本以上,癒合)

図3 多発Bライン(1肋間3本以上,癒合)

 

心臓POCUS

心臓検査においても,感染防止のためプローブはコンベックスのみとし,循環器プリセットを用いる。患者を背臥位とし,心窩部アプローチで下大静脈縦断面と四腔断面,傍胸骨アプローチで左室長軸断面と乳頭筋レベルの左室短軸断面,心尖部アプローチで四腔断面を描出する。(1) 左室・右室拡大の有無,(2) 左室収縮能の良悪,(3) 弁の運動の良悪,(4) 心囊水の有無,(5) 下大静脈拡大・呼吸性変動の有無を,2〜3分で素早く確認する。

腹部POCUS

腹部POCUSでは,コンベックスの腹部プリセットを用いる。患者は背臥位で,心窩部縦走査,右肋間走査,右側腹部縦走査,右腹部横走査,下腹部正中縦走査,左腹部横走査,左側腹部縦走査,腹部正中横走査を行う。(1) 大動脈拡張,(2) 小腸拡張,(3) 腹水,(4) 卵巣腫大,(5) 肝内胆管拡張,(6) 胆囊腫大,(7) 腎盂拡張,(8) 脾腫,(9) 結腸壁肥厚,(10) 残尿の有無を,2〜3分で素早く確認する。

症例提示

当院発熱外来を受診した266名のうち,私が担当したのは37名であった。全員に呼吸器POCUSを実施し,必要に応じて心臓POCUSや腹部POCUSを行った。37名のうち,入院を必要とした5名の診断名は,COVID-19肺炎,過敏性肺炎,肺線維症,胆管炎・胆管結石,腎盂腎炎・前立腺肥大・尿閉であった。

1.症例1:COVID-19肺炎
80歳代,男性。基礎疾患はなく,発熱翌日に当院を受診した。胸部単純X線写真で異常を認めず,腹部CTにて胆囊結石を認めたため,胆囊炎として抗生物質が処方された。しかし,発熱が続くため再診され,SpO2は98%,聴診で異常は認めなかったが,呼吸器POCUSにて右側胸部に癒合する多発Bラインを認めた(図4)。さらに,胸部CTにて右肺優位のすりガラス状陰影(GGO)を認めたため,感染症指定医療機関に転送した。PCR陽性であったが,軽快退院された。
一般的に,呼吸器超音波検査の方が,胸部単純X線検査よりも精度が優れていると報告されている。

図4 症例1:COVID-19肺炎のPOCUS

図4 症例1:COVID-19肺炎のPOCUS

 

2.症例2:過敏性肺炎
50歳代,男性。基礎疾患はなく,COVID-19流行後は在宅勤務を続けていた。前日からの発熱と呼吸困難で受診し,SpO2は87%と低下しており,聴診でも右下肺にファインクラックル(捻髪音)を認めた。心臓POCUSでは異常を認めず,呼吸器POCUSにて両側側胸部に胸膜ライン肥厚・不整と多発Bラインを認めた(図5)。胸部CTでは両肺にGGOを認め,感染症指定医療機関に転送した。3回のPCR検査は陰性であり,精査の結果,過敏性肺炎と診断された。

図5 症例2:過敏性肺炎のPOCUS

図5 症例2:過敏性肺炎のPOCUS

 

3.症例3:胆管炎・胆管結石
80歳代,男性。発熱と上腹部痛で当院を受診した。腹部POCUSで胆囊腫大と胆囊結石を認め(図6),腹部CTでは胆管結石の嵌頓も認めた。血液検査も実施し,胆管炎・胆管結石として,高次医療機関に転送した。

図6 症例3:胆管炎・胆管結石のPOCUS

図6 症例3:胆管炎・胆管結石のPOCUS

 

まとめ

一般病院の発熱外来の役割として,COVID-19の診断と感染症指定医療機関への転送が最も重要であるが,COVID-19以外の重症疾患の診療や,軽症患者の不安を解消し,感染症指定医療機関や高次医療機関への患者の集中を防ぐことも重要である。POCUSは,それらの役割を果たす上で役立つものと考える。

 

水間 美宏(特定医療法人神戸健康共和会 東神戸病院内科・訪問診療)

水間 美宏(Mizuma Yoshihiro)
1983年 京都府立医科大学卒業,公衆衛生学研修員。2003年 同大学博士(医学)。堀川病院内科・居宅療養部を経て,2017年〜東神戸病院内科・訪問診療。日本超音波医学会専門医・指導医。

 

 

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