セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

日本超音波医学会第93回学術集会が2020年12月1日(火)〜3日(木)にWeb開催された。1日には株式会社日立製作所共催のランチョンセミナーL1-08「生活習慣病の予防と早期発見に向けて―心血管エコーの役割と新たな知見―」が行われた。冒頭,座長の大手信之氏(名古屋市立大学大学院医学研究科循環器内科学教授)が,2018年12月に公布された「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(脳卒中・循環器病対策基本法)の成立の背景を概説。本法の目標は,「健康寿命の延伸を図るとともに,医療の質を落とさずに医療費を抑制すること」であるとし,その実現のために予防医学が重要であると強調した。続いて,赤坂和美氏(旭川医科大学病院臨床検査・輸血部副部長)と山本哲也氏(埼玉医科大学国際医療センター中央検査部)が講演した。

2021年3月号

日本超音波医学会第93回学術集会ランチョンセミナーL1-08 生活習慣病の予防と早期発見に向けて─心血管エコーの役割と新たな知見─

心血管病へのアプローチ

赤坂 和美(旭川医科大学病院臨床検査・輸血部)

本講演では,心血管病へのアプローチをテーマに,末梢動脈疾患(PAD)の診療,動脈硬化性疾患のエコー検査,頸動脈エコー検査について,症例を踏まえて報告する。また,心房細動症例の診断に有用な日立製超音波診断装置の機能として,“R-R Navigation”と“Dual Gate Doppler”を紹介する。

PADの診療

症例1は,70歳代,女性。糖尿病の血糖コントロールと合併症評価目的に当院に入院し,足関節上腕血圧比の低下を認め,精査にてPAD合併が判明した。心エコー検査では壁運動異常,冠動脈造影では右冠動脈にびまん性の狭窄および左回旋枝閉塞を認めた。
本症例は間歇性跛行を認めないが,そもそもPADでは間歇性跛行を有する率がそれほど高くないため,積極的にPADの検査を行うことが重要である。また,PADは予後が悪いことも知られている。間歇性跛行患者の死亡率は,同年齢対照群の2.5倍となるほか,Fontaine分類にてⅢ度以上の重症下肢虚血症例では1年死亡率が20%であり,5年間の相対死亡率は大腸がんよりも高い。重症下肢虚血症例については近年,虚血に加えて神経障害や感染などの肢切断リスクを持つ下肢を総称して,包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)と呼称されるようになった。
血管疾患においては,本症例のように,冠動脈疾患,PAD,脳血管疾患を併発した症例も多く見られる。PADは,動脈硬化性疾患の増加とともに診療機会が増加しているが,無症候性でも心血管イベントの発生は高リスクであることを認識する必要がある。生命予後とQOLを改善するためには,早期診断によるライフスタイルへの介入が望まれる。また,糖尿病や透析患者の増加により無症候性患者が増加しているため,多領域併発動脈硬化疾患の検索や治療戦略の検討が求められる。

動脈硬化性疾患のエコー検査

症例2は,70歳代,男性。17年前に前壁心筋梗塞を発症し,他院にて狭心症などの加療中であった。当院で行った無症候性頸動脈狭窄の評価では,脳血管造影検査にて右総頸動脈遠位部から内頸動脈にかけて50%狭窄を認め,半年後に経過観察目的の頸動脈エコー検査が依頼された。狭窄部の収縮期最大血流速度(PSV)は脳血管造影検査の所見と矛盾しない値(160cm/s)であり,血流速波形は左右とも全体的に立ち上がりが鈍であった。大動脈弁狭窄が疑われ,簡易的に心エコー検査を行ったところ,左室駆出率(EF)は35%と低く,左室流出路血流最大速度(peak V)は3.8m/s,大動脈弁弁口面積(AVA)は1cm2未満で,労作時の胸部症状も確認され,症候性高度大動脈弁狭窄症と診断された。後日,当院にて大動脈弁置換術が行われ,術後は血流速波形の改善を認めた(図1)。
動脈硬化性疾患のエコー検査においては,全身的な動脈硬化性疾患診療をサポートするという意識を持ち,合併疾患の可能性を考慮して行うとともに,早期発見につなげることが重要である。

 

図1 ‌症例2:頸動脈エコーを契機に症候性高度大動脈弁狭窄症と診断された症例

図1 症例2:頸動脈エコーを契機に症候性高度大動脈弁狭窄症と診断された症例

 

頸動脈エコー検査

頸動脈ステント留置術(CAS)の合併症の一つに,プラークがステントのメッシュから突出してくるin-stent plaque protrusionがある。プラーク内に大きな脂質コアや出血のある不安定プラークの症例などで生じやすい。
症例3は,60歳代,男性。頸動脈球部から内頸動脈にかけて狭窄があり,大きな潰瘍を伴うほか,プラーク量も多いが,内膜剥離術(CEA)ではなくCASが選択された。術後9日の頸動脈エコー検査にてplaque protrusionを認め,ヘパリンが投与されたが,3日後にはさらにプラークが増加し(図2),大きな不安定プラークのステント内突出と判断され,追加のステント治療が行われた。CT angiographyでもplaque protrusionの描出は可能であるが,経過観察目的や可動性の評価においては,頸動脈エコーの有用性が高い。

図2 症例3:頸動脈エコーによるCAS後のplaque protrusionの評価

図2 症例3:頸動脈エコーによるCAS後のplaque protrusionの評価

 

1.R-R Navigationの有用性
心房細動を有するPAD患者は高リスクであり,脳卒中の発症はもとより,心筋梗塞や脳心血管死亡のリスクも高い。また,わが国では,高齢者の心不全新規発症が急増する“心不全パンデミック”の到来や,心房細動の有病率の増加が予想されており,慢性心不全においては心房細動の合併により症状が増悪することも報告されている1)。こうした状況から,今後は心房細動症例のエコー検査が急増すると思われる。
一方,心エコーによる収縮能計測に当たっては,複数心拍の平均値を取ることが推奨されているものの,日常臨床で行うのは容易ではない。左室収縮性は,先行RR間隔(RR1)と先々行RR間隔(RR2)から影響を受け,RR1/RR2=1の時の計測値が多心拍平均値とよく合致するが2),このRR1/RR2=1を算出し,安定した心拍の区間を自動で検出する機能が,R-R Navigationである。検出された区間は心電図上,黄色で表示される。左室流出路の速度時間積分値(VTI)のほかに,ディスク法によるEFの計測にもR-R Navigationを用いることができる。図3は,三尖弁逆流圧較差(TRPG)の測定であるが,右室流出路VTIと三尖弁逆流速度(TRV)から肺血管抵抗の算出が可能である。心房細動症例では,R-R Navigationを用いることで,より正確な算出が可能となる。
左室拡張障害も,収縮障害同様,非常に重要な予後危険因子である。ASE/EACVIガイドラインおよび基準値3)では,心房細動症例の左室充満圧の評価指標が示されているが,それらのうちdeceleration time(DcT)はR-R Navigationを用いることで評価が容易となる(図4)。

図3 R-R Navigationを用いた心房細動症例の肺血管抵抗の算出

図3 R-R Navigationを用いた心房細動症例の肺血管抵抗の算出

 

図4 ‌R-R Navigationを用いた心房細動症例のDcTの評価

図4 ‌R-R Navigationを用いた心房細動症例のDcTの評価

 

2.Dual Gate Dopplerの有用性
上記ガイドラインには,デュアルドプラ法を用いることで,心房細動症例における左室充満圧推定の精度が向上すると記載されている。デュアルドプラ法が使用できない場合は,複数心拍の平均値を用いる必要があるため非常に手間がかかるが,Dual Gate Dopplerでは,同一心拍で2か所のドプラ波形を同時に観察可能であり,E/e’など,2つの異なる波形を用いた計測が簡便に可能となる。また,R-R Navigationを併用することで,より精度良く心房細動のE/e’を測定できる(図5)。そのほか,Dual Gate Dopplerでは,等容弛緩時間(IRT)の計測も容易である。

図5 Dual Gate DopplerとR-R Navigationによる心房細動症例のE/e’の測定

図5 Dual Gate DopplerとR-R Navigationによる心房細動症例のE/e’の測定

 

まとめ

心血管病のエコー検査に当たっては,既知の疾患については病態を適切に把握してフィードバックすること,さらに,複数の動脈硬化性疾患を合併している患者が多いことを念頭に置くことが非常に重要である。また,心不全,心房細動の患者数および検査数が増加していく中で,精度良く効率的に検査を行うことが求められる。そのために,R-R NavigationとDual Gate Dopplerは非常に有用であると考える。

●参考文献
1)三田村秀男,JPN J. ELECTROCARDIOLOGY, 31(4) : 346-355, 2011.
2)Tabata, T., et al., Am. J. Physiol. Heat Circ. Physiol., 281(2) : H573-580, 2001.
3)Nagueh, S.F., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr., 29(4) : 277-314, 2016.

 

赤坂 和美(旭川医科大学病院臨床検査・輸血部)

赤坂 和美(Akasaka Kazumi)
1989年 旭川医科大学医学部卒業。2009年〜同大学病院臨床検査・輸血部副部長。2017年〜同院超音波画像診断センター長兼任。

 

 

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