セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

Ultrasonic Week 2019が,2019年5月24日(金)〜26日(日)の3日間,グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)にて開催された。25日(土)に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー9では,東京医科歯科大学消化器内科/大学院肝臓病態制御学教授の朝比奈靖浩氏を座長に,武蔵野赤十字病院消化器科の玉城信治氏と宝塚市立病院消化器内科主任部長の田中弘教氏が,「肝疾患を診つくす─びまん性疾患から腫瘤性病変まで─」をテーマに講演した。

2019年9月号

Ultrasonic Week 2019 ランチョンセミナー9 肝疾患を診つくす─びまん性疾患から腫瘤性病変まで

肝疾患を診つくす─びまん性疾患から腫瘤性病変まで─

田中 弘教(宝塚市立病院消化器内科)

日立製の超音波診断装置「ARIETTA 850」は,プレミア機にふさわしい高画質,直感的な操作によるスムーズなワークフロー,幅広い臨床に対応する特徴的アプリケーションを備えている。モニタにはOLED Monitor(有機ELモニタ)を採用し,きわめてコントラスト分解能の高い画像を実現した。さらに,Single Crystal を採用したC252プローブにより,深部までSNRの高い画像が得られるほか,周波数帯域は従来よりも広帯域化し,また,性能を落とすことなくプローブ短軸径を薄くしたことで,肋間でのあおり走査などにおける操作性も改善されている。
本講演では,Bモードと造影超音波を中心に,高画質を実現するARIETTA 850のさまざまな機能について報告する。

Bモード画像の高画質化を実現する“eFocusing”

ARIETTA 850でBモードの画質が大幅に向上した大きな要因の一つが,送受信技術eFocusingである。従来のフォーカスは,1回の送信ビームに対して1つの受信ビームを形成し,送受信を複数回繰り返してBモード画像を作成する。一方,eFocusingでは,1回の送信ビームに対して多数の受信ビームを形成し,複数回の送受信を繰り返した上で多数の受信ビームの合成処理を行い,微調整しながらBモード画像を作成する。これにより,空間分解能とSNRが大幅に向上し,浅部から深部まで鮮明な画像が得られるようになった。

組織構造の視認性を追究した画像技術“Carving Imaging”

1.Carving Imagingの概要
腹部超音波の問題点として,高度肥満でノイズにより組織境界/組織構造が不鮮明化し,組織の描出力(辺縁のつながりなど)が不足することや,検者の経験不足などにより,Bモード画像が描出不良となる例があることが挙げられる。こうした課題を克服するために,ARIETTA 850ではeFocusingに加え,組織構造の視認性を追究した画像技術“Carving Imaging”が搭載された。
Carving Imagingでは,組織構造特性を空間的に解析して,(1) 高輝度の飽和を抑えながら輝度変化のある箇所をエッジとしてシャープに強調,(2) 空間的に構造と判断した場合には結像処理を実施,(3) 低輝度で輝度変化が少ない部分(血管や胆嚢の内腔など)を「抜け」としてノイズ除去,という処理を行う。これらをデノイズした画像に適用することで,ノイズレスで組織結像力が高い画像を実現し,組織構造の視認性と描出力の向上により患者および検者依存性の少ない安定した描出が可能となった。つまり,Carving Imagingでは,低周波による深部の乱れを低減し,高周波のような画質が得られるということであり,従来の画像では不明瞭であった病変構造物を,誰でも簡単に描出可能となる(図1)。eFocusingによる元画像の画質向上と相まって,さらなる画質の向上と効率化(診断のしやすさ)に貢献している。

図1 Carving Imagingの概要

図1 Carving Imagingの概要

 

2.Carving Imagingによる高エコー小病変の描出能の検討
肝疾患の診療に求められる理想的な超音波画像は,浅部から深部まで均一で,血管を認識しやすく,病変が明瞭な画像である。しかし従来,それを実現するための画像処理を行うことで,かえって小結節がつぶれてしまうことがあった。そこで今回,Carving Imagingによる高エコー小病変の描出能について検討を行った。
症例1は,78歳,女性,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から肝硬変を来し,これまでに計3つの肝細胞がんに対してラジオ波焼灼療法(RFA)を繰り返している。さらに,2018年11月に認めた小さな低エコー結節が,2019年3月には9mmにまで増大していた。この低エコー結節は,従来のBモードでは見落とす可能性もあるが(図2 a),Carving Imagingでは必ず目にとまるレベルで描出されている(図2 b)。肋弓下からのあおり走査でも,Carving Imagingでは病変をはっきりと指摘でき,さらに,高周波プローブを使用することで,病変がきわめて明瞭となった(図3)。このように,Carving Imagingを用いることで,小病変でも病変構造の視認性が向上することがわかる。
なお,Carving Imagingには3段階の強度設定が用意されているため,アーチファクトなどとの兼ね合いを見ながら使い分けていく必要がある。

図2 症例1:従来のBモードとCarving Imagingの画像比較(肝細胞がん)

図2 症例1:従来のBモードとCarving Imagingの画像比較
(肝細胞がん)

 

図3 症例1:高周波プローブによる従来のBモードとCarving Imagingの画像比較

図3 症例1:高周波プローブによる従来のBモードとCarving Imagingの画像比較

 

造影超音波の画質を改善する機能

1.従来の造影モードの特徴
ARIETTAシリーズのContrast Harmonic Imaging(CHI)モードには,Wide-band CHI(WbC),いわゆるPulse Inversion(PI)法がある。セカンドハーモニック(二次高調波:2f0)の技術を応用して,超音波造影剤からの信号を広帯域で受信するため,高感度での画像表示が可能であり,高い空間分解能を有する。
一方,Amplitude Modulation(AM)法は,f0の周波数を主に使用することで,組織からの信号が大幅に抑制された明瞭な表示が可能であり,高い造影感度を有する。Kupffer相における造影剤の取り込みを最も高感度に描出できるのはAM法であり,深部感度も非常に優れている。

2.血管イメージングを追究した日立のLow MI法“Definition PI”
PI法やAM法のほか,私がよく用いる手法にLow MI法がある。これは,Bモードの音圧(MI値)を下げて造影剤を観察する手法で,現在の高画質化が図られたBモードを背景に造影超音波を実施するため,きわめて高い空間・時間分解能が得られ,特に血管相で有用である。しかし,Bモードを使用するため,造影モードから切り替える手間や,造影モード特有の機能が使用できないというワークフローの問題があるほか,性能面ではSNRが悪化し,造影感度も低下する。
そこで,日立は今回,造影モードの1つとしてLow MI法を組み込み,さらに,機能や条件を工夫することで,造影検査時にストレスなく簡便に使用できる新しい血管イメージングDefinition PIを構築した。これにより,造影モードのままLow MI法が使用可能となったほか,内部パラメータの改善によりSNRが改善し,MI値の最適化によって造影感度が向上した。また,造影モードにおいてもコンパウンドに対応したことで,血管走行の描出力の向上が図られた。
症例1の動脈相について,従来のPI法とDefinition PIを比較したところ,Definition PIでは感度および血管走行の描出能が飛躍的に向上し,腫瘍が濃染する様子が明瞭であった(図4)。

図4 症例1:動脈相におけるDefinition PIとPI法の比較

図4 症例1:動脈相におけるDefinition PIとPI法の比較

 

3.直感的な操作をサポートする“QSS”
各造影モードの使い分けにおいては,ワークフローを妨げない直感的な操作をサポートする機能が求められている。日立の超音波診断装置では,QSS(Quick Scanning Selector)にMI値や造影モードも含めた画像条件を事前に登録することで,さまざまな手法を簡単に,最適な条件で実施することが可能となった。

4.新開発の高音圧ドプラモード“CHI-eFLOW”
従来,Kupffer相での病変の輝度変化は背景Bモードの影響を受けるため,AM法での評価が望ましいと考えられてきたが,AM法でも判断が難しい症例もある。そこで新たに,背景Bモードの影響を受けることなくKupffer相での輝度変化を評価可能な高音圧ドプラモードCHI-eFLOWがARIETTA 850に搭載された。CHI-eFLOWは,高音圧で造影剤を破壊し疑似ドプラ信号を発生させることで,造影剤を感度良く検出可能となる。操作はわずか2ステップと簡便であり,意図しない造影剤の破壊予防のため,モード遷移後に低音圧のままROIを設定できる。そのため,プローブを体表から離すことなく設定でき,検査を妨げないことも特長である。実際の画像は,輝度変化が非常にわかりやすいものとなっている(図5)。
また,肝血管筋脂肪腫などは,AM法,PI法,Low MI法のいずれもKupffer相にて高エコーとなるが,CHI-eFLOWでは病変内の造影剤の多寡も確認可能となる(図6)。特に,高分化型肝細胞癌の治療適応の判断に有用である。

図5 高音圧ドプラモードCHI-eFLOW

図5 高音圧ドプラモードCHI-eFLOW

 

図6 CHI-eFLOWによる高エコー病変内の造影剤の多寡の評価

図6 CHI-eFLOWによる高エコー病変内の造影剤の多寡の評価

 

まとめ

ARIETTA 850は,高空間分解能を重視したeFocusingと,組織視認性を重視したCarving Imagingにより,誰もが診断しやすく見つけやすい画像が提示できており,今後のさらなる発展に期待したい。

 

田中 弘教(Tanaka Hironori)

田中 弘教(Tanaka Hironori)
1993年 筑波大学卒業。岡山大学医学部第一内科入局。2008年 University Texas Houston Health Science Center留学。同年 兵庫医科大学肝胆膵内科超音波センター助教。2010年 同講師。2015年 同准教授。宝塚市立病院消化器内科部長。2018年〜同主任部長,同院内視鏡センター長兼務。

 

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