セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

第54回日本周産期・新生児医学会学術集会が2018年7月8日(日)〜10日(火)の3日間,東京国際フォーラム(東京都千代田区)を会場に開催された。8日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー4では,東邦大学医療センター大森病院産婦人科教授の中田雅彦氏が座長を務め,順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科准教授の山本祐華氏と埼玉医科大学総合医療センター小児循環器部門准教授の増谷聡氏が,「心機能評価の新たな知見─超音波による胎児・新生児管理の未来─」をテーマに講演した。

2018年10月号

第54回日本周産期・新生児医学会学術集会ランチョンセミナー4 心機能評価の新たな知見 ─超音波による胎児・新生児管理の未来─

心機能評価の新たな知見 ─超音波による胎児・新生児管理の未来(胎児編)─

山本 祐華(順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科)

山本 祐華

本講演では,胎児心臓の機能的特徴や心機能評価の方法と,実際の評価における日立製超音波診断装置搭載のアプリケーション“AutoFHR”“Dual Gate Doppler” “AutoFS”の有用性などを中心に報告する。

胎児心臓の機能的特徴

胎児の心筋細胞は未熟であり,初期には心拍数が175bpmと速く,成長とともに110〜160bpmで安定する。房室弁血流も,8〜12週(1st trimester)に向けて心拡張能が徐々に,かつ急速に獲得されていき,最初は一相性の心房収縮期波(A波)だけだったものが,10週頃には左室流入血流の拡張早期波(E波)が出現し,relaxation(弛緩能)が獲得される。
先天性心疾患のある胎児でも,胎児循環が保たれていれば生存できるが,循環不全(心原性胎児水腫)となることもある。その原因は,胎児循環の障害や,高拍出性心不全などさまざまである。胎児は,成人よりも低い静脈圧でリンパ血流が徐々にうっ滞するため,胎児水腫になりやすいという特徴がある。

胎児の心機能評価の方法

胎児の代表的な心機能評価方法には,グローバルな評価〔心胸郭面積比(CTAR),総心横径(TCD),Tei index,cardiac output〕,収縮能評価〔systolic fluxion,等容収縮時間(ICT),dP/dT(TR(+))〕,拡張能評価〔等容弛緩時間(IVRT),E/A,E/e’〕,cardiovascular profile score(CVPS),胎児特有の循環評価がある。
CTARは,2Dエコーで面積を算出し,50%以上を異常とするもので,Trace法よりもEllipse法の方が再現性が良いと言われている。
TCDは,スクリーニングで簡便に使用可能な心拡大の評価法で,20週以上の胎児であれば28週なら28mmと,妊娠週数とTCDの正常値が一致するため覚えやすい。
胎児の左右心室の拍出量を合計した総心拍出量(CCO)の正常値は,425mL/kg/minで,妊娠週数を通して一定である。胎児は右室優位のため,右室拍出量は左室の1.42倍と言われている。そのため,CCOの評価は,高拍出性心不全で心拡大の見られる症例に有用である。
下大静脈,静脈管,臍帯静脈における胎児特有の血流は,中心静脈圧の上昇を反映すると言われている。下大静脈の正常なA波は15〜20cm/s以下であるが,心房収縮期の逆流速度と心室収縮期の流入速度の比(PLI)が0.5以上は異常値であり,中心静脈圧が上昇していると評価できる。静脈管血流では,中心静脈圧が上昇すると逆流波が出現し,臍帯静脈ではpulsationが見られると中心静脈圧が上昇していると判断できる。ただし,右心系の閉塞疾患の場合は三尖弁逆流によってA波が増高するため,中心静脈圧を評価できないことに注意を要する。
以下,心機能評価に有用な日立製超音波診断装置の機能を紹介する。

●胎児心拍数自動計測機能:AutoFHR
胎児心拍数(FHR)の自動計測機能であるAutoFHR(図1)は,2D Tissue Tracking法を応用した手法で,Bモード画像上でROIを設定すると,呼吸や心臓の動きに合わせて胎児心臓をトラッキングし,特徴量を検出して,数秒で心拍数の推定結果を表示可能である。

図1 AutoFHRでは胎児心拍数の推定結果を数秒で表示可能

図1 AutoFHRでは胎児心拍数の推定結果を数秒で表示可能

 

●Dual Gate Dopplerの有用性
完全房室ブロックの評価に当たり,まずMモードにて心房波形と心室波形のリズムの状態を確認し,次にA-V時間を計測するが,MモードではA波と心房への血液充満により生じるV波の境界が不明瞭である。また,従来のドプラ法を用いても,完全房室ブロックの心室流入血流で通常の心房波を見極めるのは難しい。そこで,上大静脈(SVC)/大動脈(Ao)ドプラを用いて心房波形と心室波形を同時に検出すればリズムを同時に確認可能となるが,SVC/Aoドプラは断面の描出が困難である。一方,同一心拍で2か所のドプラ波形を同時に計測可能なDual Gate Dopplerでは,SVCとAoにカーソル位置を設定するだけで,同一心拍での心房波形と心室波形を明瞭に分離して計測可能であり,リズムの観察やA-V時間の測定に有用である(図2)。
左室流入波形の測定においては,カーソルの角度を意識して僧帽弁のやや下と大動脈ができるだけ立つ位置にカーソルを置くことで,E波,A波,心室収縮期波(S波)が得られる。また,得られた波形から計測可能なICT,IVRTは,それぞれ収縮能,拡張能の指標であり,この2つを計算式に当てはめれば総合指標であるTei indexが得られる。Tei indexの測定に当たり,従来のドプラ法の同時計測ではE波・A波とS波の境界がわかりづらいことがあるが,Dual Gate Dopplerにてカーソルをinflowとoutflowの位置に置くと境界が明瞭に分離され,Tei indexをより正確に測定することができる。
組織ドプラ法を用いて測定するE/e’は,ほかの指標よりもより正確に弛緩能を反映すると言われている。前述の左室流入波形と同様の位置にカーソルを置いてE波を測定し,e’波は心筋をできるだけ立てて測定してE/e’を算出するが,これもDual Gate Dopplerを用いて1心周期で同時に測定し評価できるため有用である(図3)。

図2 Dual Gate Dopplerの有用性

図2 Dual Gate Dopplerの有用性

 

図3 Dual Gate Dopplerを用いた1心周期でのE/e’の評価

図3 Dual Gate Dopplerを用いた1心周期でのE/e’の評価

 

●自動FS測定機能:AutoFS
収縮能の評価指標のうち,左室駆出率(EF)を求めるためには左室拡張末期容積を求める必要があるが,容積の計測は困難である。また,EFは後負荷に左右されるため,妊娠週数とともに徐々に減少する。
一方,左室内径短縮率(FS)は,EFよりも容易に使用可能な指標で,妊娠週数を通して一定との報告や,EFと同様に妊娠週数とともに減少するとの報告もある。通常はMモードを用いて測定するが,日立のAutoFSでは,AutoFHRと同様に2D Tissue Tracking法を応用し,拡張末期と収縮末期を検出して周期的なトラッキングを行うことで,自動的にFSが算出される。心室の房室弁から1/3以上のところにROIを設定すれば,数秒で解析結果が表示される(図4)。

図4 AutoFSではFSを数秒で自動的に算出

図4 AutoFSではFSを数秒で自動的に算出

 

さまざまな指標を用いた胎児心機能評価の実際

上記のさまざまな心機能をスコア化したものがCVPSであり1),胎児水腫や心臓のサイズ,心機能,静脈および動脈ドプラについて10点満点で評価を行う。胎児発育不全でも心機能が低下することがあり,CVPS 6点以下ではプロ心房性ナトリウム利尿ペプチド(pro-ANP)との相関があるとの報告2)もある。
最近経験した妊娠36週の原発性胎児胸水症例では,CTARは28%と正常で,両側性の胸水(乳糜胸水)と皮下浮腫を認めた。臍帯動脈のドプラ波形は正常であり,静脈管血流も正常でA波の逆流は認められず,臍帯静脈のpulsationも見られなかった。左室,右室共にTei indexおよびIVRTも正常範囲内であり,心拍出量も正常範囲内であった。E/e’はやや低値であるが,心機能低下とまでは言えず,AutoFSは左のFSは32.2%で,CVPS 8点であった(図5)。本症例は胎児水腫であるが,心機能は保たれていると判断された。出生後は,EF 64%と心機能は保たれているが,両側に胸水があり,21トリソミーと診断された。

図5 原発性胎児胸水におけるAutoFSの解析結果

図5 原発性胎児胸水におけるAutoFSの解析結果

 

●参考文献
1)Huhta, J.C., J. Perinat. Med., 29・5, 381〜389, 2001.
2)Huhta, J., Ultrasound Obstet. Gynecol., 31・1, 48〜54, 2008.

 

山本 祐華(Yamamoto Yuka)
2002年 順天堂大学医学部卒業。同年 同医学部附属順天堂医院産婦人科学講座入局。2007年 Post-doctoral Fellow, Department of OB&GYN, University of Alberta, Canada。2009年 Clinical Research Fellow, Department of Pediatric Cardiology, University of Alberta, Canada。2017年~順天堂大学医学部附属浦安病院産婦人科准教授。

 

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