セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

日本超音波医学会第91回学術集会が2018年6月8日(金)〜10日(日)の3日間,神戸国際会議場(兵庫県神戸市)などを会場に開催された。10日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー13では,大阪大学大学院医学系研究科保健学科専攻教授の中谷 敏氏が座長を務め,同大学院医学系研究科循環器内科学特任助教の大西俊成氏が,「壁運動と血行動態からみた心エコー検査」をテーマに講演した。

2018年9月号

日本超音波医学会第91回学術集会ランチョンセミナー13

壁運動と血行動態からみた心エコー検査

大西 俊成(大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学)

大西 俊成

わが国の心不全患者は,2025年には120万人を超えると予想されており,患者数の増加に伴う高額な医療費などが社会的な問題となっている。また,心不全の予後はきわめて不良であり,死亡率はがんに匹敵する。心不全の評価ツールにはさまざまなものがあるが,なかでも心エコー図検査は重症度の評価に有用である。2018年6月に発売された日立製の超音波診断装置「LISENDO 880LE」では,“Dual Gate Doppler”“R-R Navigation”“2D Tissue Tracking”“Vector Flow Mapping(VFM)”の4つのアプリケーションを統合し,「心不全パッケージ」として提案している。本講演では,この4つのアプリケーションの有用性について報告する。

心エコー図検査による心機能評価

1.収縮能評価
心機能評価においては,まず,収縮能評価として,左室サイズ〔左室拡張末期径(容積:LVEDV)および左室収縮末期径(容積:LVESV)〕と左室駆出率(LVEF)を評価する。LISENDO 880LEでは,心電図などを加味しながらワンボタンで拡張末期(ED),収縮末期(ES)を自動表示し,フルオートによるSimpson法の自動トレース計測を組み合わせて,LVEDV,LVESV,LVEFが自動で算出される。これにより,従来の方法と比較して,20秒ほどの検査時間短縮が期待される。

2.拡張能評価
心不全には,収縮機能が良好な拡張不全(HFpEF)と,収縮機能の低下した収縮不全(HFrEF)があるが,HFrEFは病態的にHFpEFも必ず併発することが知られているため,ここではHFpEFを中心に考察する。
左室拡張能は,左室流入血流速度波形〔transmitral flow(TMF)のE波とA波〕と僧帽弁輪移動速度波形(e’波),左房容積係数を評価する。2016年に改訂されたAmerican Society of Echocardiography(ASE)のガイドライン1)では,まず僧帽弁のE/A,中隔と側壁のTDI e’,心室収縮末期の最大左房容積(LAVmax),pulmonary venous(PV) flow,TR systolic jet velocityの5つを評価し,さらに,HFpEFの場合は,(1) 平均E/e’>14,(2) 中隔e’<7cm/sまたは側壁e’<10cm/s,(3) TR velocity>2.8m/s,(4) 左房容積係数(LAV index)>34mL/m2の4つを評価するとしている。(1)〜(4)のうち,1つのみ当てはまる場合は拡張機能正常,2つ当てはまる場合は判定不能,3つ以上当てはまる場合は拡張機能不全と定義している。

Dual Gate Dopplerの有用性

Dual Gate Dopplerは,同一心拍の2か所のドプラ波形を同時に検出できる機能で,「パルスドプラ−パルスドプラ」で左室の流入路と流出路の同時計測,「パルスドプラ−組織ドプラ」でTMFと中隔の弁輪部の評価,「組織ドプラ−組織ドプラ」で側壁と中隔の同時計測などが可能である。このため,Dual Gate Dopplerでは,僧帽弁のTMFと中隔にカーソルを合わせるだけで,前述のガイドラインのE/e’((1))および中隔と側壁のe’((2))を約5秒で計測できる。次に,従来どおり連続波ドプラでTR velocityの圧較差を評価し((3)),さらにLAV index((4))の評価を行うが,LISENDO 880LEではLAが自動で精度良くトレースされるため短時間で左房容量を算出可能である。
また,ASEガイドラインでは,拡張能評価の追加計測として,カラーMモードによるvelocity peakの測定,等容弛緩時間(IVRT),E波とe’波の立ち上がり時間差〔T(E-e’)〕,global longitudinal strain(GLS)の4項目が挙げられている。僧帽弁置換術後や閉鎖不全症ではE/e’の評価が不正確となるため,ガイドラインではIVRTやT(E-e’)が推奨されている。この2つはDual Gate Dopplerにて簡便かつ正確に計測可能であり(図1),左房圧の上昇を評価できる。

図1 Dual Gate DopplerによるIVRTとT(E-e’)の計測

図1 Dual Gate DopplerによるIVRTとT(E-e’)の計測

 

R-R Navigationの有用性

心房細動(AF)を合併する心不全患者は多い。AF症例では,R-R間隔が一定ではないため,心エコー図検査による正確な評価は困難とされている。1回拍出量(SV)も心拍ごとにばらつきがあるため,7心拍を平均すれば,洞調律のSV計測と同様の精度が得られるとされる2)が,煩雑な作業が必要となる。SVは,計測する心拍の先行R-R(RRp)/先々行R-R(RRpp)=1となる区間に強く比例することから,このような区間で測定すればAF症例であっても1心拍で正確なSVが計測可能である3)。R-R Navigationでは,RRp/RRpp=1に近い計測に最適な心拍が自動的に検出されるため,きわめて有用であり(図2 左),AF症例でも,より正確な収縮能評価が可能となる(図2 右)。
なお,E波やe’波,E/e’などの拡張能指標は,RRp/RRppと相関しないことが報告されているが4),Dual Gate Dopplerを用いた検討では,AF症例でも肺動脈楔入圧(PCWP)とE/e’およびT(E-e’)は相関することが報告されている5)。Dual Gate DopplerとR-R Navigationを併用すれば,AF症例であってもE/e’とT(E-e’)を容易かつ正確に計測でき有用である。

図2 R-R Navigationによるより正確な収縮能評価

図2 R-R Navigationによるより正確な収縮能評価

 

2D Tissue Trackingの有用性

HFpEFではGLSが低下することから,GLSは拡張能を反映すると考えられている。2D Tissue Trackingでは,データ取得後にボタン1つでストレイン解析を行い,GLSを計測することができる。
大動脈弁狭窄症(AS)を対象に,low flow(LF)とnormal flow(NF),low gradient(LG)とhigh gradient(HG)を組み合わせてNFHG,NFLG,LFHG,LFLGの4つに分類し,それぞれのGLSを検討したところ,LFLG症例では,LFHG症例に比べてGLSの絶対値が高値であったと報告されている6)。実際に2D Tissue Trackingを用いてAS症例について検討した結果でも,LFLGのAS症例はGLS値が−15.50,NFHGのAS症例はGLS値が−12.12であり,報告のとおり,LFLGのAS症例の方が絶対値が高値であった。

Vector Flow Mappingの可能性

VFMは,心臓・血管内の血流を速度ベクトルを用いて可視化する技術で,サクションを可視化できると考えている。サクションとは,左室が血液を吸い込むように働く力を指し,HFpEFではサクションが弱まると言われている。VFMでは左室内の圧を色表示・計測可能なほか,左室心基部−心尖部間の圧較差は収縮能・拡張能を反映することから,心不全診断への応用が期待されている。
ASのため経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を施行した症例に対し,Dual Gate Dopplerにて拡張能指標を評価したところ,TAVI後には明らかな改善を認めた。そこで,VFMの機能である相対的圧較差分布表示(Relative Pressure)(図3)を見ると,心尖から僧帽弁基部および心尖から大動脈弁基部の圧較差はいずれも改善していた。Relative Pressureのカラー表示にてサクションの改善も確認でき,TAVIによってサクションが改善する可能性が示唆された。

図3 VFMのRelative Pressureによるサクションの評価

図3 VFMのRelative Pressureによるサクションの評価

 

3DTTEプローブ「MXS1」の有用性

LISENDO 880LEに搭載された新開発の3D経胸壁(3DTTE)マトリックスプローブであるMXS1は,同社の半導体技術により高感度となっており,きわめて高精細な2D画像が得られる。心尖部にプローブを当てるだけで心臓をくまなく観察でき,3D画像の構築も可能である(図4 a)。汎用の画像解析ソフトウエアを用いることで良好な左室3Dストレイン解析が可能であり(図4 b),右室のボリューム評価も他社と遜色のない画像が得られる。

図4 3DTTEプローブ「MXS1」の画像

図4 3DTTEプローブ「MXS1」の画像

 

まとめ

本講演では,心不全,特にHFpEFに対する心エコー図の役割について考察した。日立の心不全パッケージでは,Dual Gate Dopplerによる同一時相での拡張機能指標の評価や,R-R Navigationを用いたAF症例における心機能評価,2D Tissue TrackingによるGLS値の算出などが,簡便かつ短時間で可能である。また,VFMを応用したRelative Pressureは,拡張機能評価の新しいツールになることが期待される。

●参考文献
1)Naguch, S.F., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr., 29・4, 277〜314, 2016.
2)Dubrey, S.W., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr., 10・1, 67〜71, 1997.
3)Sumida, T., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr., 16・7, 712〜715, 2003.
4)Kusunose, K., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 2・10, 1147〜1156, 2009.
5)Wada, Y., et al., Circ. J., 76・3, 675〜681, 2012.
6)Sato, K., et al. : Circ. J., 78・11, 2750〜2759, 2014.

 

大西 俊成(Onishi Toshinari)
2000年 大阪医科大学卒業。大阪大学第一内科,関西労災病院内科,同循環器内科を経て,2010年 ピッツバーグ大学リサーチフェロー。2012年 桜橋渡辺病院内科。2013年~大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学特任助教。

 

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