セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

一般社団法人日本心エコー図学会第29回学術集会が2018年4月26日(木)〜28日(土)の3日間,アイーナ いわて県民情報交流センター(岩手県盛岡市)にて開催された。26日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー1では,岩手医科大学医学部小児科学講座教授の小山耕太郎氏を座長に,山口大学医学部附属病院検査部講師の和田靖明氏と埼玉医科大学総合医療センター小児循環器部門准教授の増谷 聡氏が,「心不全の正確な診断に向けて—血行動態からみた心エコー検査—」をテーマに講演した。

2018年8月号

一般社団法人日本心エコー図学会第29回学術集会ランチョンセミナー1 心不全の正確な診断に向けて─血行動態からみた心エコー検査─

小児に学ぶ心不全と心機能

増谷  聡(埼玉医科大学総合医療センター小児循環器部門)

本講演では,小児の心不全の定義や心機能評価の指標などについて考察した上で,通常心エコーのプラスアルファの機能として,心不全の診断能の向上に貢献する日立製超音波診断装置のアプリケーション“Dual Gate Doppler”“Vector Flow Mapping(VFM)”“Free Angular M-mode(FAM)”の有用性について述べる。

心不全の特徴

2017年10月,日本循環器学会と日本心不全学会が,心不全の定義として「心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気」と発表した。成人の心不全では,NYHA分類Ⅳ度の場合はがんよりも死亡率が高く,予後も悪い。一方,これは必ずしも小児に当てはまるものではなく,小児の心不全は,「徐々に悪化し生命を縮めることもあるが,治療によって良くなることもある」病気と言える。
心臓は血液を全身に送り出すポンプであるため,心不全になると低心拍出またはうっ血が起こる。多くの場合,心不全の主症状はうっ血である。それをサポートするデータとして成人の駆出率と1回拍出量の関係を見ると,心不全のため駆出率が低下すると前負荷としての拡張末期容積が徐々に大きくなるため,1回拍出量(拡張末期容積×駆出率)は変化しない。

心機能評価に関する考察

まず収縮能の評価について,最近では左室駆出率(EF)をeyeball EF(見た目のEF)で評価することが増えた。eyeball EFは有用だが,時に判断を誤る可能性もあるため,動画を保存し,後で検証する必要がある。また,駆出率(=1回拍出量/拡張末期容積)は必ずしも収縮性とイコールではないことにも注意を要する。同じ収縮性でも後負荷が下がれば駆出率は大きくなることから,駆出率は負荷を踏まえて解釈することで初めて生きる指標と言える。心室圧容積関係の定性的な考え方として,動き(EF)と圧という2つの軸を持って判断するとよい。例えば,血圧が高く動きが悪い場合は後負荷が高く,動きは良いが血圧が低い場合は後負荷が低いと言える。容量が満ちていて,血圧が低いのに動きが悪い場合は,収縮能が低いと容易に判断できる。
次に,拡張能は,弛緩やサクション(吸引),硬さである。左室圧曲線にて収縮末期圧から急峻に圧が低下するほど良好な弛緩である。弛緩が悪化すると時定数τが延長して圧の低下が緩やかとなる1)。また,心臓が硬い(stiff)とは,ある容積に膨らませるために高い拡張末期圧を要する状態を指す。拡張末期容積を大きくしても,stiffnessが正常であれば拡張末期圧はあまり上昇しないが,stiffnessが大きいと拡張末期圧は大きく上昇する1)。これは拡張末期圧容積関係で評価できるが,実臨床での評価は困難である。拡張期に心室を膨らませるのに必要な圧を1回拍出量で割るとおおよそのchambers stiffness(充満期の平均的なstiffness)がわかるが,拡張能を正確に評価するには左室圧を知る必要がある。そこで,日常臨床のベッドサイドで心エコーによりいかに拡張能を評価していくかを考える必要がある。

通常心エコーによる心機能評価とプラスアルファの機能

1.通常心エコーによる拡張能の評価と課題
通常心エコーでは,僧帽弁流入波形と組織ドプラの僧帽弁輪速度(e’波)などの指標を用いて拡張能を評価する。その原則を記す。弛緩が良好であればe’が大きくなる。stiffnessについては僧帽弁流入波形(E波)のdiceleration time(DT)で評価可能であり,硬くなるほどDTが短くなる。また,E/e’は拡張末期圧をよく反映する。mitral inflow patternを見ると,拡張能の悪化に伴い,E波と心房収縮期最大流速(A波)の比であるE/Aはいったん1を下回ってから再び上昇し,逆にDTはいったん上昇してから再び低下する。拡張能悪化に伴いe’は単調に低下を続けるが,左房圧(LAP),最大左房容積(LAV),E/e’,左室拡張末期圧(EDP)は,ある程度拡張障害が進んでから上昇すると言われている1)
近年,これらの指標による評価が適用困難な状況が多く報告されるようになってきた。われわれが行った小児での検討でも,e’と弛緩,DTとchambers stiffness,E/e’とEDPのそれぞれの関係について,いずれも統計学的に有意な相関を認めたが,バラツキは大きかった。したがって,これらのエコー指標は,拡張能そのものではなく,拡張能と関連するものと考えるべきである2)

2.プラスアルファの機能の有用性

1)GLSの解析機能の向上
心エコーのプラスアルファの機能のうち,日立製の超音波診断装置「LISENDO 880」では,Modified Simpson法にて左室容積を計測するとglobal longitudinal strain(GLS)が表示されるようになった(図1)。今後,2D Tissue Tracking(2DTT)(図2)でEFも表示されるとよい。

図1 Modified Simpson法を用いたGLSの解析

図1 Modified Simpson法を用いたGLSの解析

 

図2 2D Tissue Trackingの解析画像

図2 2D Tissue Trackingの解析画像

 

2)Dual Gate Doppler
Dual Gate Dopplerは,同一心拍で2か所のドプラ波形を観察できるため,E/e’の評価やE波の始まりから見たe’波のタイミングの遅れなどが確認でき,時相解析にきわめて有効と考える。
図3に,右室の三尖弁流入波形と三尖弁輪速度の同時計測を示す。右室の流入波形は呼吸の影響を受けるため,本症例は正常洞調律であるが,この図では一つとして同じ波形は見られない。このような場合は呼気あるいは吸気と決めて同一心拍で各指標を計測しなければデータの信頼性に欠ける。こうした場合にも,Dual Gate Dopplerが非常に有用である。

図3 Dual Gate Dopplerを用いた同一心拍での右室三尖弁の評価

図3 Dual Gate Dopplerを用いた同一心拍での右室三尖弁の評価

 

3)VFM
血流の速度ベクトル表示機能であるVFMを用いることで,血流の可視化が容易に可能となった。
VFMを右房に応用した症例を提示する。症例は,在胎33週0日の胎児で,卵円孔血流は右房から左房へと正常に流れ,肺動脈弁,右室,肺動脈血流に異常は認めなかったが,三尖弁と右室が小さく,下大静脈弁の構造が認められた。出生後,右室・三尖弁は小さく,心房間の右左シャントとチアノーゼが遷延していた。身体の成長に伴い右室・三尖弁の大きさも正常に近づいた。季肋下エコーにて心房中隔に右左シャントが見られるようになった。生後4か月には心房間は左右シャントになった。生後10日と4か月の右房内血流のVFMを比較したところ,生後10日では下大静脈弁のところで心房間の右左シャントを導くかのように渦を巻き,三尖弁方向に血流が流れづらくなっているのに対し,生後4か月では血流が三尖弁に向かいやすくなっているのが可視化できた。以上から,大きな下大静脈弁が三尖弁と右室の成長を妨げていた可能性が考えられた。血流の可視化や定量から得られる情報は非常に多いと思われ,今後,三次元計測へと発展すれば,さらなる有用性が期待できる。

4)FAM
心房・心室の壁運動を同時にとらえるMモードは,胎児不整脈診断に頻用される。本法を心房粗動のため心房レートが400bpmであった新生児に用いたところ,心房・心室レート共に200bpmと誤って評価された。正確な計測結果が得られなかった原因について検討した3)
動画を目視で解析すると,心室近くの心房壁は心室とほぼ同期して動いて見えたが,心室から離れた高い場所の心房壁は,はるかに速く運動していた。心房壁の動きは場所により異なる可能性があり,正しい心房レートの算出にはどこでもよいわけではない。日立の超音波診断装置にはFAMが搭載されており,Bモード画像から任意断面のMモードを再構築できるため(図4),心房の複数箇所の動きの評価に有用と思われる。

図4 FAMを用いた任意断面のMモードの再構築

図4 FAMを用いた任意断面のMモードの再構築

 

エコーに加えて

拡張の良好な左室はサクションが良好に働き,運動により心拍出量が増加しても左房圧はそれほど上昇しない。一方,拡張不良な左室は日頃から左房圧が高く,運動するとどんどん上昇する。つまり,拡張能の良い左室とは,「運動で左房圧を上げずに心拍出量を増やせる左室」であると言える。また,American Society of Echocardiography(ASE)ガイドラインの拡張能評価を行うに当たり,心エコーの拡張指標は拡張能そのものを表すものではないため,明らかな異常値でなくても異常を否定せず,一つの指標に頼らず,負荷も含めて総合的に評価することが重要である。
採血時に血液水柱の高さから末梢静脈圧を測定することは容易である。末梢静脈圧は中心静脈圧と相関する。特にフォンタン術後患者の評価において非常に重要な情報である。血液水柱管を圧トランスデューサにつなげば静脈圧を連続的にモニター可能であり,運動負荷試験を行いながら中心静脈圧を連続的に評価すれば臨床におけるうっ血評価に役立つと考えられる。

まとめ

心エコーを生かすには,心不全と心機能の理解に立ち戻った上で,エコーに現れた現象を見ることが重要である。2Dおよび3Dエコーは,いずれも安静時の評価だけでは不十分なこともあるため,負荷時の評価は重要である。その一つの方法として,静脈圧評価の併用は,心不全の本質である静脈うっ滞を定量評価でき,有用と考えている。

●参考文献
1)増谷 聡・他,日本小児循環器学会雑誌,32・4,277〜290, 2016.
2)Masutani, S., et al., Heart Vessels, 29・6, 825〜833, 2014.
3)Kawano, A., Oshima, A., Masutani, S., et al., Clin. Med. Insights Cardiol., 2018(Epub ahead of print).

 

増谷  聡

増谷  聡(Masutani Satoshi)
1994年 東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部小児科入局。太田西ノ内病院を経て,1999年から埼玉医科大学で小児循環器診療に当たっている。2004~2006年 Wake Forest大学Section on Cardiologyに研究留学。2012年~埼玉医科大学総合医療センター小児循環器部門准教授。

 

 

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