セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
第53回日本周産期・新生児医学会が,2017年7月16日(日)〜18日(火)の3日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された。16日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー2では,東邦大学医療センター大森病院産婦人科 / 医学部産婦人科学講座教授の中田雅彦氏を座長に,昭和大学横浜市北部病院産婦人科准教授の市塚清健氏が,「新しい超音波技術を用いた胎児評価」をテーマに講演した。
2017年10月号
第53回日本周産期・新生児医学会ランチョンセミナー2
新しい超音波技術を用いた胎児評価
市塚 清健(昭和大学横浜市北部病院産婦人科)
超音波診断装置は,プローブの新技術,コンピュータの大容量化,診断アプリケーションの開発,モニタ画面の改良など,技術の進歩が著しい。超音波による胎児評価には,大きく形態学的評価と機能的評価があり,形態学的評価には,Bモード法,カラーフローマッピング法,カラードプラ(CDI)法が用いられる。また,機能的評価には,従来からのMモード法やドプラ法(主にパルスドプラ:PD)のほか,最近では組織ドプラ(TDI)法やエコートラッキング法も用いられるようになってきた。本講演では,上記を踏まえ,胎児評価における日立製作所社製超音波診断装置「ARIETTA 850」の新技術の有用性を述べる。
形態学的評価
Bモードできれいな画像を得るためには,フォーカスが合っていること,高分解能・高周波数であること,音響陰影の排除などが重要である。これらをサポートするBモード法の新技術は,産婦人科領域でも有用と考える。
1.eFocusingの有用性
新しい送受信技術である“eFocusing”を適用すれば,浅部から深部まで画面全体にフォーカスの合った画像が得られる。eFocusingは受信ビーム領域が広く,複数の送信ビームから得られる受信ビームの中で,最も高輝度な部分を合成するため,SN比の高い鮮明な画像が描出できる。
図1は,胎児の頸部浮腫(NT)計測画像であるが,1点Focus(a)と比較し,eFocusing(b)では深さ方向全体にフォーカスが合っており,鼻先のラインや鼻骨の繊細さ,間脳の抜けが良好に描出されている。また,フレームレートも1点Focusが36fps,eFocusingが45fpsと,高フレームレートとなっている。eFocusingにより,フォーカスを合わせている間に胎児が動いてしまうという煩わしさも解消すると思われる。
2.プローブの進化
高周波であるリニアプローブは,コンベックスプローブよりも高解像度であるものの,深部を広角で観察できないため,通常,表在領域の血管や乳腺,甲状腺,関節の撮像に用いられてる。しかし,最近では,リニアプローブでも扇形の広角視野が得られるトラペゾイドスキャンが可能となり,産婦人科領域でも使用されるようになった。トラペゾイドスキャンでは走査密度が若干広がるため,深部での方位分解能(左右方向)が通常の撮像よりもやや劣るが,コンベックスプローブよりは高解像度である。
さらに,ARIETTA 850の新しいリニアプローブ「4G CMUT」は,半導体加工技術を応用し,音響整合層が不要なため,きわめて高解像度な画像が得られる。図2に示すとおり,胎児の頭蓋骨縫合がわずかに確認できる(a)ほか,妊娠初期の胎児の脊椎の画像(b)からは,近年報告されている妊娠10〜12週での髄膜瘤や脊椎破裂の診断も可能であるとの印象を持った。
機能的評価:ドプラ法を中心に
1.新技術“Dual Gate Doppler”
ドプラ法には,パルスドプラ(PW)法,連続波ドプラ(CW)法,カラードプラ(CDI)法の3つがある。胎児の動脈系狭窄や三尖弁逆流などは,CDI法での評価に加え血流速計測を行うが,動脈系狭窄時の血流速度は4〜4.5m/sと速く,PW法では繰り返し周波数に計測速度が依存するため,正確な計測が困難である。また,CW法は,ドプラシフト周波数の制約を受けないため,計測速度の限界がない反面,超音波を連続的に送信しているため受信信号に時間情報がなく,任意の位置情報もわからず,送信波に含まれるすべての血流情報が表示される点が弱点となる。
そこで,新たに登場した技術がDual Gate Dopplerである。同一心拍にてサンプルゲートを2か所で同時に,しかも時相を合わせた計測が可能であり,波形の重なりによる誤判読が解消される。また,Dual Gate Dopplerは,PW法とPW法,PW法とTDI法,TDI法とTDI法など自由な組み合わせが可能である。
ドプラによる時相解析の臨床的意義として,胎児の不整脈の診断が可能なことや,心機能評価の指標であるTei indexやE/e’が計測できることが挙げられる。
1)胎児不整脈診断
多くの医療機関では,超音波のMモード法やPW法にて上大静脈–上行大動脈同時血流波形(SVC-aAo)法や,肝静脈–下行大動脈同時血流波形(HV-DAo)法1)を用いて胎児不整脈の診断を試みている。しかし,SVC-aAo法は断面の描出に熟練を要するほか,胎位の影響を受けやすい,ドプラ波形の重なりにより開始点の判読が難しい場合がある,などの課題がある。一方,HV-DAo法は,Dual Gate Dopplerを用いることで,SVC-aAo法と同様の不整脈の鑑別診断をより簡便に行うことができる(図3)。図のように描出が薄い波形でも,Dual Gate Dopplerでは重なりがないため計測しやすいというメリットがある。
2)Tei indexの計測*
Tei indexは,胎児の心室の収縮能と拡張能の総合指標である。胎児管理においては,左心系はもとより右心系の機能が非常に重要であるが,Tei indexは両心室で計測できるため,右心室優位の胎児評価にも有用である。一方,Tei indexの計測に当たり,左心室は同一心周期で流入波形と流出波形を計測できるのに対し,右心室では不可能なほか,等容収縮能(ICT),等容拡張能(IRT)の個別の時間計測が従来法(Single Doppler法)では不可能であった。しかし,Dual Gate Doppler(PW法-PW法)では,流入波形と流出波形を一度に測定できるため心拍数の変動がなく,しかも,ICT,IRTの個別の測定が可能となる(図4)。このように,Dual Gate Dopplerは右心系の評価にも有用であると考えている。
3)E/e’の計測
E/e’は,平均左房圧または肺動脈楔入圧を反映しており,成人では左心系の拡張能の指標として臨床応用されている。従来法(Single Doppler法)では,同一心拍での複数波形の測定は不可能であり,異なる心時相で測定するため誤差が生じるほか,心房細動などで心拍数が頻繁に変動する症例では正確なE/e’を算出することができない。これらの課題はDual Gate Dopplerにて解決可能であり,最近では胎児への臨床応用の可能性も検討されている。当院でのE/e’の計測結果(図5)を見ると,PW法にてE波,A波が,また,TDI法にてe’波がきれいに描出されている。現状では胎児のE/e’の正常値が設定されていないが,施設内のコントロール群で正常値を設定し,左心低形成症候群(HLHS)の胎児の右室のE/e’を比較したところ,正常値に比べてE/e’が有意に高かったとの報告がある2)。
2.自動胎児心拍数計測機能“AutoFHR”
胎児心拍数(fetal heart rate:FHR)の計測は,従来,ドプラ法もしくはMモード法で行われてきたが,胎芽の段階では安全性の観点からドプラ法は推奨できず,また,Mモード法では胎動や母体の呼吸などの影響により計測困難である。そこで,胎児心拍数を自動で計測するAutoFHR(図6)が開発された。
AutoFHRは,超音波断層上の画像情報(スペックル)を基に組織を追跡する断層組織トラッキング(2D tissue tracking:2DTT)法を応用した手法である。パターンマッチング法を用いてBモード画像上の特徴量の変移を自動で経時的かつ正確に計測できるため,将来的にはMモード法に取って代わる可能性がある。現状では,リアルタイムでの計測はできないが,安全性が高く,簡便であることから,臨床に役立つと期待している。
まとめ
ARIETTA 850の技術的進化の中でも,特にDual Gate Dopplerは大変優れた技術である。今後は,さらなる検討を進めることで,より有用なデータが得られるようになると期待している。
*本測定は,装置内のカスタマイズ計測機能で作成した。
●参考文献
1)Kaji, T., et al., Ultrasound Obstet. Gynecol., 39・3, 357〜359, 2012.
2)Axt-Fliedner, R., et al., Ultrasound Obstet. Gynecol., 45・6, 670〜677, 2015.
市塚 清健(Ichizuka Kiyotake)
1993年 昭和大学医学部卒業。同大学産婦人科学講座入局。水戸赤十字病院,昭和大学藤が丘病院,東芝病院,昭和大学産婦人科などを経て,2014年より昭和大学横浜市北部病院産婦人科准教授。
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