セミナーレポート(富士フイルムメディカル)
日本超音波医学会第90回学術集会が,2017年5月26日(金)〜28日(日)の3日間,栃木県総合文化センターなどを会場に開催された。26日に開催された株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー4では,JR東京総合病院顧問(前・院長)の小菅智男氏を座長に,日本大学病院消化器内科科長/超音波検査室室長の小川眞広氏が,「日立の最新技術を駆使した,臨床医療への挑戦!」をテーマに講演した。
2017年9月号
日本超音波医学会第90回学術集会ランチョンセミナー4
日立の最新技術を駆使した,臨床医療への挑戦!
小川 眞広(日本大学病院消化器内科/超音波検査室)
2017年4月より,当院にて日立製作所製の超音波診断装置「ARIETTAシリーズ」の最上位機種である「ARIETTA 850」を使用する機会を得た。本講演では,ARIETTA 850の開発コンセプトや装置の特徴を述べる。
超音波診断装置の評価のポイント
超音波診断装置の評価のポイントには,Bモードのクオリティやカラードプラの血流感度,組織弾性イメージングの充実,操作性,画像保存・再評価の充実などがあるが,私が最も重視するのはBモードである。Bモードが改善すれば,その影響を受けてカラードプラや造影超音波検査の画質も向上するからである。また,これからの時代は,超音波画像を確実に保存し,再評価をストレスなく施行できる装置が画像診断として求められている。
ARIETTA 850の特徴
1.ハードウエアを一新
ARIETTA 850は,このたびハードウエアを一新した。人間工学に基づいた身体的負担の少ない設計となっているほか,最も注目されるのは,画像表示モニタに有機ELが採用されたことである。コントラスト比が25万:1を達成したことで黒の表現が明確となり,Bモードでの診断では微細な所見をとらえやすくなるほか,無エコー部分(脈管や胆囊など)がしっかりと黒く描出できる。このように,モニタの改良は超音波のパワーが上昇したのと同等のインパクトがあり,疲れにくく,患者説明などにもきわめて有効である。
2.プローブの改良
高画質を実現する重要な要素として,ARIETTA 850ではプローブが一新された。腹部用のコンベックスプローブ(C252)では,単結晶の圧電セラミック素子が採用されたことで従来よりも高感度・高フレームレートを実現し,多方向同時受信(多パラレル受信)が可能となった。同社の「HI VISION Ascendus」でのC715プローブの画像と,ARIETTA 850でのC251プローブの画像,およびC252プローブの画像を比較すると,C252プローブの画像が最もきめ細かく描出されているのがわかる(図1)。
さらに,同社が2009年に世界で初めて実現した,半導体技術による乳腺用リニアプローブ「CMUT」を進化させた「4G CMUT」が登場した。従来よりも広帯域化・高感度化を実現しており,表在臓器をはじめ,深部臓器・血管など,このプローブ1本で全身の超音波検査をカバーできるようになった。実際の画像(図2)を見ると,肝左葉の肝縁の評価(a)や肝表面の小肝囊胞(b)の描出,カラードプラによる肝血流評価(c)および肝微細血流の血管構築評価(d)も可能である。
なお,ARIETTA 850のカラードプラは流速測定が非常に速く,肝門部の流速測定など1回の呼吸停止下でストレスなく施行可能である。
3.さまざまな画像調整機能
ARIETTA 850では,一新されたハードウエアに最適なソフトウエアも多数開発されている。なかでも新開発の送受信技術“eFocusing”によって,描出範囲の深さに関係なく全領域に焦点が合わせられるようになり,浅部から深部まで良好な画像が得られるようになった。送信フォーカスの位置設定が不要となったため,検者依存性が改善され,非常に魅力的な機能である。
従来より施行されている空間コンパウンドスキャンでは横方向のノイズ低減を行っていたが,eFocusingはさながら縦方向のコンパウンドが行われた感覚で,これまで以上に歪みが改善され,特に浅部の見落としが減少できると考えている。
さらに,画質をきれいにするために複数の画像調整機能も有しているのが本装置の特長である。単純なゲイン調節だけでは施行できない一定の領域の輝度を飽和することなく低輝度のノイズを非表示にできる“Low Echo Reduction(LER)”や,動きのない不動シグナルをノイズと認識して検出し除去する“Near-field Noise Reduction(NNR)”,受信信号を振動子単位で解析し,想定と異なる信号を除去することで音響ノイズを低減する“Acoustic Noise Reduction(ANR)”,画像全体のコントラストを強調する“Echo Enhancement”,スペックル低減とエッジ強調を実現する“HIREZ+”などが搭載されており,検者の好みによって微調整が可能となっているため幅広い症例に対する高画質を実現している。
eFocusingの有用性
1.LERとの併用における有用性
eFocusingは,前述の画像調整機能と併用することでコントラストが明瞭となるため非常に有用となる。図3は,十二指腸〜膵頭部の画像であるが,通常の画像(a)と比較し,LERをオンにすることで黒が際立ち,さらにeFocusingをオンにすると浅部の描出が向上し,輪郭にメリハリのある引き締まったきれいな画像となっている(b)。
2.ゲイン最適化機能との併用による有用性
ARIETTA 850には,ゲイン最適化機能“Auto Optimizer”が搭載されている。これは,自己学習機能で,50回フリーズしたときのゲイン値を学習し,以降は学習した平均のゲイン値で画像が表示されるようになる。これにより,ゲイン設定が微調整ですむようになり,ワークフローの短縮につながる。特に,eFocusingにこのAuto Optimizerを追加することで適正ゲインが保たれるため,存在診断の向上につながると考えられる。
そこで,肝囊胞症例で検証した画像を提示する。浅部の肝囊胞症例(図4)である。Auto Optimizerだけ(図4 a)ではフォーカスが合っていないため病変が不明瞭であるが,eFocusingを追加(b)することで,フォーカスを設定しなくても病変がはっきりと描出された。
3.eFocusingが臨床にもたらす効果
eFocusingには,検者間格差が減少し客観性が向上する,浅部評価の改善,コントラスト分解能が向上し腫瘤性病変を発見しやすい,などの多くのメリットがある。一般的なスクリーニング検査においても,浅部評価には通常のスキャン後に高周波プローブを用いて改めて観察していたが,本装置のeFocusingを用いた場合,高周波プローブと同等以上の症例も存在している。このように,スクリーニングにおける有用性が非常に高いと実感している。
超音波検査の客観性向上をサポートする機能
超音波検査では,記録された画像を後から見て判断することが難しいとの観点から,ほかの画像診断装置ほど保存画像が重要視されていない。しかし,実際には,現在の超音波診断装置の画像は十分に客観的な評価が可能であり,しっかりとした画像管理が必要と考えている。つまり,これからの時代は超音波検査においても「記憶より記録」であり,それに対応した装置が必須と言える。
ARIETTA 850には,画像管理のみではなく検査全体のワークフローを強力にサポートする機能として“Seamless Workflow”をコンセプトとして挙げている。今回,本装置に搭載された“Protocol Assistant”は,検査の手順や設定などをあらかじめ登録しておくことで,モード切り替えなどの手間を省くことができる。当院で施行している腹部スクリーニング検査では,始めに静止画を25断面撮像してPACSに保存することを義務化し,以後の撮像法を自由としているが,このソフトウエアを使用することで操作の簡略化以外にも撮り忘れを防止することができる。これにより,客観性,検査効率,二次読影の確実性,過去画像検索の利便性,教育効果などの飛躍的な向上が得られている。さらに,本ソフトウエアでは,プロトコールからの一時的な離脱が可能なpause機能も搭載した。これは非常に大きなメリットと言える。25断面の撮像中にサイズの計測やドプラ検査を施行しても,プロトコールを崩すことなく対応可能となった。
まとめ
ARIETTA 850の「臨床への挑戦」として,装置の現状をお話しさせていただいた。非常に使いやすい装置となっているが,今後も画像をさらに研ぎ澄まし,臨床への挑戦を続け,さらなる上の段階をめざすことを期待したい。
小川 眞広(Ogawa Masahiro)
1988年 日本大学医学部卒業。駿河台日本大学病院超音波室室長,日本大学医学部消化器肝臓内科講師などを経て,2008年より同医学部内科学系消化器肝臓分野診療准教授。2014年より日本大学病院消化器内科科長,超音波検査室室長。
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