セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

一般社団法人日本心エコー図学会第27回学術集会が4月22日(金)〜24日(日)の3日間,大阪国際会議場(大阪市)にて開催された。23日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー5では,大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻機能診断科学講座教授の中谷 敏氏を座長に,中谷氏と産業医科大学病院臨床検査・輸血部部長・診療教授の竹内正明氏が,「日立からの循環器領域への挑戦!〜国産初3D TEE探触子とVector Flow Mapping〜」をテーマに講演した。ここでは,竹内氏の講演内容を報告する。

2016年7月号

一般社団法人日本心エコー図学会第27回学術集会ランチョンセミナー5 日立からの循環器領域への挑戦! ~国産初3D TEE探触子とVector Flow Mapping~

日立の新技術

竹内 正明(産業医科大学病院臨床検査・輸血部)

竹内 正明(産業医科大学病院臨床検査・輸血部)
国産初の3D TEE探触子の特長

日立製作所が開発した国産初の3D経食道心エコー(3D TEE)探触子「UST-52128」は,同社の超音波診断装置「ProSound F75 PremierCV」で使用することができる。同装置は,循環器領域に最適化されたプラットフォームを採用し,マトリックス探触子から送られた膨大な情報を高速処理する3D TEEのためのDynamic Volume Processing技術を搭載。また,限られた関心領域を評価する“Active 3D mode”や,心臓全体の動きを確認する“Wide Angle 3D mode”,より高精細な3D画像を作成可能な“Full Volume mode”があり,従来のマルチロータリープレーン探触子によるTEEと同等以上の画質性能を持つ。2D画像上で3D画像を構築するための関心領域を設定した際に,タッチパネル上にある代表的な部位名を押すだけで3D画像を自動で回転およびクロッピング表示可能なほか,オフラインでの再構築も可能なため,検査終了後にTomTec社製の画像閲覧・解析システム“ASTRELLA CV-Linq”に取り込んで動画を作成し参照することもできる。
3D TEE探触子での撮像は,基本的に1 beatのフルボリュームで行う。以下に,Biplane modeや3D zoom,Full Volume modeの画像を供覧する。

3D TEEの画像供覧

図1 aは,Biplane modeによる僧帽弁の画像で,心尖四腔像と直交する二腔像を同時に表示している。僧帽弁を関心領域に設定して3D zoomで画像を作成するが,画像は1 beatで取り込んでおり,そこから切り出した2D画像(図1 b)と3D画像(図1 c)が表示される。図1 c上段はSurgeon’s View(左房側から見る僧帽弁の像),図1 c下段はLV Viewであるが,それぞれ3つの画像は同じ画像の色付けを変えて表示したもので,配色は変更可能である。

図1 僧帽弁の3D TEE画像

図1 僧帽弁の3D TEE画像

 

大動脈弁のBiplane modeの画像(図2 a),および3D zoomの2D画像(図2 b)と3D画像(図2 c)を示す。図2 cは大動脈弁を大動脈側から見ており,左冠動脈,左冠尖,右冠尖,無冠尖が確認できる。

図2 大動脈弁の3D TEE画像

図2 大動脈弁の3D TEE画像

 

以前の超音波診断装置はmulti-beatでなければ時間・空間分解能を向上できなかったが,現在は技術の進歩により時間・空間分解能をほとんど損なうことなく1 beatでのフルボリューム撮像が可能となり,前述のASTRELLA CV-Linq上で解析可能となった。図3は,左室のFull Volume modeの画像であるが,このデータをASTRELLA CV-Linqの4D LV-Analysisに取り込み,僧帽弁,心尖部,大動脈弁の順に基準点を決定すると,3DスペックルトラッキングにてLV volume,stroke volume,ejection fraction(EF),global longitudinal strain(GLS),global circumferential strain(GCS)が表示される。臨床にてこれらの値が自動で得られることは大きなメリットであるが,この値の正確性や有用性については,今後検討する必要があると思われる。

図3 左室のFull Volume modeの画像

図3 左室のFull Volume modeの
画像

 

図4は三尖弁逆流が認められた症例の3D zoomの3D画像で,右房から見た三尖弁(図4 a)と,右室から見た三尖弁(図4 b)である。中隔尖,前尖,後尖を確認できる。ただし,症例によっては3枚の弁の同定が困難なこともある。

図4 三尖弁逆流が認められた症例の3D zoomの3D画像

図4 三尖弁逆流が認められた症例の3D zoomの3D画像

 

高頻拍症例における僧帽弁の3D zoomの3D画像(図5)では,HR150bpmでも弁の開放・閉鎖が十分に描出されており,心房細動などの症例にも臨床で使用可能である。

図5 高頻拍症例における僧帽弁の3D zoomの3D画像

図5 高頻拍症例における僧帽弁の3D zoomの3D画像

 

人工心肺離脱直後の人工弁における3D zoomの画像(図6)では,人工弁が僧帽弁位に入っていることや,リングや糸なども確認できる。

図6 人工弁の3D zoomの画像

図6 人工弁の3D zoomの画像

 

まとめ

Biplane modeの画質は十分であり,また,3D画像収集が1 beatを基本としている点は特筆できる。僧帽弁の3D zoomは臨床で十分使用可能な一方,大動脈弁での弁葉の状態を評価するには課題が残されている。三尖弁の3D zoomは,症例によって弁葉の描出が不十分であるが,これは他社装置にも言える課題である。左室まで入れたFull Volume modeは,高周波探触子では若干ペネトレーションが弱く,心尖部の画像描出が明瞭でない場合があり,ASTRELLA CV-Linqの4D LV-Analysisを施行する際に問題となる。このほか,カラーの3D描出がオフラインではできないなど,まだいくつか改善の余地は残されているが,国産初の3D TEE探触子を開発した日立製作所のさらなる挑戦に期待したい。

 

竹内 正明(Takeuchi Masaaki)
1985年 産業医科大学医学部卒業。2007年 同大学第二内科講師。2011年 同准教授。2015年〜同大学病院臨床検査・輸血部部長,診療教授。

 

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