セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

日本超音波医学会第88回学術集会など4つの学会・研究会の共催によるUltrasonic Week 2015が5月22日(金)〜24日(日)の3日間,グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)にて開催された。24日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー16では,東京大学大学院医学系研究科肝胆膵外科・人工臓器移植外科教授の國土典宏氏を座長に,愛媛大学大学院消化器・内分泌・代謝内科学講師の廣岡昌史氏と大阪赤十字病院消化器内科統括部長の大﨑往夫氏が,「SimulationとNavigationを融合した最新のRFA治療」をテーマに講演した。

2015年9月号

Ultrasonic Week 2015 ランチョンセミナー16 SimulationとNavigationを融合した最新のRFA治療

新ナビゲーションシステムで進化するRFA

廣岡 昌史(愛媛大学大学院消化器・内分泌・代謝内科学)

廣岡 昌史(愛媛大学大学院消化器・内分泌・代謝内科学)

近年,肝がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)では複数電極針の穿刺が可能となり,従来の1本穿刺よりも広範囲の焼灼が可能となった。それに伴い,電極針の位置関係の三次元的な理解が必要となり,画像ガイドにも変化が求められている。本講演では,当施設のsafety marginの考え方を示した上で,“Real-time Virtual Sonography(RVS)”(日立アロカメディカル社)の新しいRFA支援ツールである“3D Sim-Navigator”の有用性について,最も効力を発揮すると思われる複数電極針での穿刺やCool-tip針(単針:コヴィディエン社製)でのオーバーラップ穿刺を中心に,症例を提示しながら述べる。

当施設のsafety marginの考え方

1.至適safety marginについての考察
肝がんのRFAにおいては通常,daughter noduleの存在を考慮し,主結節から全周性に5mmの範囲をsafety marginとするが,daughter noduleの約20%は主結節から10mmまでのinternal margin内に存在すると報告されており,5mmでは不十分な可能性がある。また,肝動脈造影下CT(CTHA)の後期相で,腫瘍周囲にコロナ濃染を呈するドレナージ領域が描出されるが,近年,この領域が経門脈的な肝内転移のファーストパスとなることがしばしば報告されている。
そこで,われわれがドレナージ領域における局所再発症例について検討したところ1),RFA施行から再発までの期間は,ドレナージ領域では434日,非ドレナージ領域では1474日と,ドレナージ領域の方が明らかに短かった。また,ドレナージ領域を焼灼できた場合は,できなかった場合と比較して局所制御能が明らかに高いことから,safety marginはドレナージ領域を含めるべきと考えている。

2.ドレナージ領域の焼灼に必要な焼灼容積
Cool-tip針の推定焼灼容積は,単回穿刺では2cm針で約7cm3,3cm針で約14cm3となる。また,バイポーラ電極針の複数本穿刺が可能なマルチポーラRFAシステムでは,ドジメトリテーブルによると焼灼容積は最大で約113cm3となっている。
一方,ドレナージ領域の容積は腫瘍径が大きくなるに従って大きくなり,Cool-tip 2cm針ではほとんどの症例をカバーできず,3cm針では腫瘍径が1.5cmを超えると局所制御能が低くなることがわかった。つまり,腫瘍径1.5cmを超える肝がんに対しては,Cool-tip針を用いる場合はオーバーラップ法にて焼灼する,あるいはマルチポーラRFAを施行するべきであると言える。

広範囲の適切な焼灼を支援する3D Sim-Navigator

1.3D Sim-Navigatorの有用性
マルチポーラRFAにて複数の電極針を穿刺する場合は,二次元の超音波画像ガイド下では電極針の配置が不均等になる可能性がある。そこで,われわれは,日立アロカメディカルが開発した新しい穿刺シミュレーション・ナビゲーションシステムである3D Sim-Navigatorの共同研究を開始した。
3D Sim-Navigator では,RVSにて同期表示された超音波画像とほぼ同一断面のCTやMRIのMPR画像上で腫瘍にマーキングを行うと,超音波画像上でも腫瘍がマーキングされる。そこに超音波ガイド下に電極針を穿刺し,針のマーキングを行う。この電極針を履歴登録して三次元ボリュームデータに反映させると穿刺ガイドラインが表示され,3D画像の中で腫瘍と電極針のオリエンテーションをつけることが可能となる。複数本穿刺では腫瘍と各電極針との位置関係が非常に明瞭となるため(図1),マルチポーラRFAやオーバーラップ法においては,きわめて有用なシミュレータとなる。

図1 シミュレータとしての3D Sim-Navigator

図1 シミュレータとしての3D Sim-Navigator

 

さらに,上記のシミュレーション画像をナビゲータとして使用することもできる。特に,腫瘍の最大断面を含んで表示されるMPRのC-plane画像(穿刺方向と直交する断面)が非常に重要な役割を果たす。図2は,ファントムに対する実際の穿刺の様子であるが,3D画像上に穿刺ガイドラインが描出され,穿刺方向があらかじめわかるようになっている(図2 a)。また,C-plane画像上には穿刺した電極針の履歴が残るので(図2 c),2本目,3本目の電極針をバランス良く配置することができる。このような機能は従来の穿刺システムにはないものであり,きわめて有用である。

図2 ナビゲータとしての3D Sim-Navigator

図2 ナビゲータとしての3D Sim-Navigator

 

2.3D Sim-Navigatorの精度
ファントムに複数本の穿刺を行った状態でCTを撮影し,電極針同士が成す角度と電極針間の距離について精度検証を行った。その結果,2本穿刺,3本穿刺共に角度および距離のいずれも3D Sim-Navigatorと穿刺直後CT(3D-CT)でほぼ一致しており,かなり精巧なシステムであることがわかった。一方,臨床例(15症例)での検討では精度はやや低下したものの,電極針間の距離における3D Sim-Navigatorと3D-CTの穿刺誤差の中央値は0.5mm,最大でも2mm程度に収まっており,臨床使用において十分な精度であると判断した。

症例提示

症例1は,3.8cmの尾状葉肝癌に対するマルチポーラRFAであり,4cm針の3本穿刺を施行した。まず,右の肋間から2本穿刺したが,3D画像およびC-plane画像にて腫瘍のやや頭側寄りに電極針が配置されていることがわかる(図3 a,4)。そこで,3本目の電極針はBモードで確認しながらC-plane画像でオリエンテーションをつけ(図4),尾側寄りに穿刺を行った(図3 b)。穿刺中にCT撮影して確認したところ,3D Sim-Navigatorと同様の画像が得られた。

図3 症例1:尾状葉肝癌に対するマルチポーラRFA

図3 症例1:尾状葉肝癌に対するマルチポーラRFA

 

図4 症例1のC-plane画像

図4 症例1のC-plane画像

 

マルチポーラRFAのうち,腫瘍を直接穿刺せずに焼灼を行うNo-touch ablationには特に効力を発揮している。症例2では,3D Sim-Navigatorの3D画像(図5)にて,3本の電極針()が腫瘍()をしっかりと囲んでいることが確認できる。
症例3は,Cool-tip針によるオーバーラップ法での活用である。電極針を刺し替えて複数回の焼灼を行うが,腫瘍を含有する形で穿刺ルートの予測を行うと,焼灼範囲のシミュレーションが可能である(図6)。

図5 症例2:No-touch ablation

図5 症例2:No-touch ablation

 

図6 症例3:Cool-tip針によるオーバーラップ法での活用

図6 症例3:Cool-tip針によるオーバーラップ法での活用

 

まとめ

現在,日本ではマルチポーラとモノポーラでのRFAが施行可能であるが,マルチポーラでは 全例が3D Sim-Navigatorの適応となり,モノポーラにおいては1.5cm以上の腫瘍は絶対適応,1.5cm以下でも焼灼シミュレーションが可能であり,将来的にはほぼすべてのRFAが3D Sim-Navigatorの適応になると考えている。

●参考文献
1)Hirooka, M., et al. : Local recurrence of hepatocellular carcinoma in the tumor blood drainage area following radiofrequency ablation. Mol. Clin. Oncol., 2・2, 182〜186, 2014.

 

廣岡 昌史(Hirooka Masashi)
1998年 愛媛大学医学部医学科卒業。同年 同医学部附属病院消化器内科医員。1999年 済生会西条病院医員。2001年 愛媛大学医学部附属病院消化器内科医員。2007年同院消化器内科助教を経て,2013年〜同講師。

 

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