技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2023年4月号

Cardiac Imaging 2023 MRI技術のCutting edge

循環器画像診断におけるキヤノンMRI最新技術

佐野雄一郎[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部]

近年の医療AIの技術革新は目覚ましく,MR画像診断においても実用化されている。キヤノンメディカルシステムズは,AIの一手法であるディープラーニングを用いて設計したSNR向上再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を1.5T,3Tの各ラインアップへ製品展開している。AiCEが搭載されたMRIは,大学病院や民間病院,クリニックを含め全国で285台導入されている。循環器領域でもその有用性が報告されており,thin slice imagingや定量解析の精度向上に活用されている。さらに,撮像技術のみならず定量解析ソフトウエアの進歩も目覚ましく,術者に依存せず簡便かつ短時間で解析ができるようになっている。本稿では,循環器画像診断におけるAiCEの活用事例と,心臓検査に付加価値をもたらす定量解析アプリケーションについて紹介する。

■AiCEによる高画質化

AiCEは,ディープラーニングを用いて低SNR画像から高SNR画像を出力するSNR向上再構成技術である。ノイズの多い画像をどのように計算すれば高SNRの教師画像に近づくかを学習させ,deep convolutional neural network(DCNN)を構築している。そのDCNNを装置に搭載することで,撮像した低SNR画像のノイズを選択的に除去することができ,高SNR画像として出力される。AiCEでは高周波成分のみを学習させることで,撮像部位や2D/3Dなどの画像種に依存しないデノイズが可能であり1),さまざまな高速化技術と併用することもできる。また,元画像のノイズ量推定による外部入力機構を設けることで,高い汎用性を実現している。循環器領域においては,遅延造影(late gadolinium enhancement:LGE)やMR coronary angiography(MRCA)の高分解能化,心筋mapの精度向上に活用されている。
LGEは心筋線維化評価のゴールドスタンダードであり,陳旧性心筋梗塞におけるバイアビリティ評価や心筋症の鑑別診断に有用とされており,高分解能LGEでは右心室梗塞や心内膜下梗塞の広がりを明瞭に描出できるという報告2),3)がある。AiCEを適用することで,高分解能化におけるSNR低下を補うことができ,図1に示すようなthin slice imagingが可能となる。拡張型心筋症のLGEにおいて,心筋中層に造影効果が認められる症例は予後不良である4)とされているが,症例によっては淡い造影効果で判別しづらい場合もある。図2に示す拡張型心筋症におけるAiCE適用thin slice imagingでは,バーシャルボリューム効果が改善されて造影部分を鮮明に描出することができ(),病変の連続性を評価することができる(臨床コメント提供:自治医科大学附属さいたま医療センター・相川忠夫先生)。
MRCAは被ばくを伴わず非造影で冠動脈の評価ができ,冠動脈CTAが困難な高度石灰化症例や造影剤アレルギー患者でも内腔の描出ができるという特長を持つ。AiCEを適用した高分解能MRCAは,従来条件と比較してcontrast to noise ratio(CNR)が向上し,冠動脈のシャープネスやトレーサビリティの視覚評価スコアも有意に高かった5)と報告されている。AiCEを適用することでSNRの高い高分解能画像を得ることができ,より詳細な形態評価が可能になると期待される。

図1 肥大型心筋症におけるAiCE適用thin slice LGEのSNR向上効果 (画像ご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

図1 肥大型心筋症におけるAiCE適用thin slice LGEのSNR向上効果
(画像ご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

 

図2 拡張型心筋症におけるAiCE適用thin slice imagingの有用性 (画像ご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

図2 拡張型心筋症におけるAiCE適用thin slice imagingの有用性
(画像ご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

 

■心筋mapの精度向上

心筋T1 mappingは,LGEでは評価しづらいびまん性の心筋線維化が評価可能であり,早期の心筋障害などの把握に有用である。the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance(SCMR)より報告されたconsensus report6)では,有用性が証明されているアミロイドーシスやFabry病でのT1 mappingの使用が推奨されている。また,近年話題となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染による合併症あるいはワクチン接種後副反応による心筋炎評価では,T2 mappingも注目されている。COVID-19ワクチン接種後の心筋炎7名の評価において,全例で心外膜側優位のLGEが確認され,そのうち3例では合致する心筋浮腫がT1 mapやT2 mapにて検出された7)と報告されている。
AiCEはその汎用性の高さから心筋mapへの適用も可能である。AiCEを適用することで,定量値に影響を与えることなく標準偏差(SD)を低減(表1)することができ,定量解析の精度向上が期待できる。

表1 Native T1 mapにおけるAiCEの効果(ボランティア撮像値:1.5T) (データご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

表1 Native T1 mapにおけるAiCEの効果(ボランティア撮像値:1.5T)
(データご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

 

■シネMRIを用いたストレイン解析

MRIの心機能解析として,シネMRIを用いた駆出率(EF)の計測や容量解析に加えて,局所心筋の形態変化を定量化できるストレイン解析が注目されている。当社の医用画像解析処理ワークステーション「Vitrea」に搭載している「MR Multi-Chamber Wall Motion Tracking(MC-WMT)」では,シネMRIを用いたストレイン解析が可能である。特別なスキャンは必要なく,過去のルーチン検査や他施設で撮像されたシネMRIからもストレイン解析を実施できる。MC-WMTでは,左心室はもちろんのこと,右心室や心房のストレイン解析もできるのが特長である。
MC-WMTにおける心筋トレースは,template matching技術を用いている。任意のフレームでテンプレートを設定し,それが次のフレームでどこに移動したかをテンプレートのパターンが最も合致する領域を探すことで推定している。左心室/右心室の短軸については,ワンクリックで初期輪郭の抽出とフレーム間の輪郭トレースを自動で行うことができる。特に右心室解析においては,従来の手動トレースでは手間と時間がかかっていたため,自動化により解析者の負担が軽減される。
図3は,COVID-19感染後心筋炎の症例に対しストレイン解析を実施した例である。LVEFは70%と保たれているが,心囊液貯留があり基部側の中隔中層に限局したLGEが見られる。左室longitudinal strainを見るとLGEのある基部側の中隔に限局的なストレイン低下が見られ(図3 →),シネ画像から心筋障害の評価を行うことができる(臨床コメント提供:自治医科大学附属さいたま医療センター・相川忠夫先生)。

図3 COVID-19感染後心筋炎におけるストレイン解析 (画像ご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

図3 COVID-19感染後心筋炎におけるストレイン解析
(画像ご提供:自治医科大学附属さいたま医療センター様)

 

循環器画像診断におけるAiCEの活用事例と,シネ画像でストレイン解析が可能なMC-WMTについて紹介した。これらの技術が検査を受ける患者,撮像や解析を行う技師,診断や治療を行う医師それぞれの負担を軽減し,心臓MRIのさらなる日常臨床への普及と,さまざまな疾患に対する診断の一助となれば幸いである。

*2022年12月末時点(予定含む)

●参考文献
1)Kidoh, M., et al. : Deep Learning Based Noise Reduction for Brain MR Imaging : Tests on Phantoms and Healthy Volunteers. Magn. Reson. Medi. Sci., 19(3): 195-206, 2020.
2)Larose, E., et al. : Right ventricular dysfunction assessed by cardiovascular magnetic resonance imaging predicts poor prognosis late after myocardial infarction. J. Am. Coll. Cardiol., 49(8): 855-862, 2007.
3)Barbier C.E., et al. : Clinically unrecognized myocardial infarction detected at MR imaging may not be associated with atherosclerosis. Radiology, 245(1): 103-110, 2007.
4)Assomull, R.G., et al. : Cardiovascular magnetic resonance, fibrosis, and prognosis in dilated cardiomyopathy. J. Am. Coll. Cardiol., 48(10): 1977-1985, 2006.
5)Yokota, Y., et al. : Effects of Deep Learning Reconstruction Technique in High-Resolution Non-contrast Magnetic Resonance Coronary Angiography at a 3-Tesla Machine. Can. Assoc. Radiol. J., 72(1): 120-127, 2021.
6)Messroghli, D.R., et al. : Clinical recommendations for cardiovascular magnetic resonance mapping of T1, T2, T2* and extracellular volume : A consensus statement by the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance endorsed by the European Association for Cardiovascular Imaging. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 19(1): 75, 2017.
7)Rosner, C.M., et al. : Myocarditis Temporally Associated With COVID-19 Vaccination.
Circulation, 144(6): 502-505, 2021.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

TOP