技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2022年9月号
MRI技術開発の最前線
キヤノンMRI画像再構成技術の最前線
犬飼 裕貴(キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部)
さまざまな科学技術の結晶の一つであるMRI装置の技術発展には,ハードウエア・ソフトウエア両面のさまざまなアプローチが取られてきた。近年は,ハードウエアに依存しない画像再構成による技術進展も目覚ましい。同じ取得データでも,再構成処理を変えることで最終的に出力される画像は千変万化し,画像の印象や表現,ひいては診断能力にも大きく影響してくる。本稿では,キヤノンMRIの最新の再構成技術に加えて,MRI検査ワークフロー改善のための取り組みを紹介する。
■SNR向上技術
“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”
AiCEはディープラーニング技術を用いて設計された再構成技術であり,高いSNR向上効果を持つ。図1のような高分解能条件で撮像する場合,加算回数1回ではSNR(信号雑音比)が不十分なため,十分なSNRを担保するためには加算を重ねる必要がある。この撮像にAiCEを用いると,17分相当の高SNRかつ高分解能な画像をわずか1分45秒で取得することができる(当社比)(図1)。
MR画像は,シーケンスや患者,撮像部位によって画像種が多様であるが,AiCEはそういった条件に依存せず,ほとんどの撮像に適用可能な汎用性の高さがある。MR画像の信号変動は,画像コントラストと画像ノイズの2つに集約される。MR画像のノイズ成分は高周波成分に含まれるため,画像を高周波と低周波に分離し,高周波成分のみでディープラーニングを行うことで,コントラストに依存しないデノイズを実現している。また,撮像条件により変動するノイズ量を自動的に推定し,畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network)の外部から指定することで,ノイズ量に依存しない適切なノイズ除去を実現している。このようなAiCEの効果の高さ,および汎用性の高さから,すでに国内200以上の医療機関でAiCEが使用されており(2022年8月現在),その臨床的有用性の例には枚挙にいとまがない。
AiCEの効果は大きいが,その機能は基本的にはノイズ低減に限定されている。さらなる高画質化には,アーチファクトや歪みの低減が必要になる。
■DWI歪み低減技術
“Reverse encoding Distortion Correction DWI(RDC DWI)”
single shot EPIによる拡散強調画像は,局所磁場の不均一やMPG印加による渦電流の影響により,位相エンコード方向に画像の歪みが生じることが知られている。当社のRDC DWIは,位相エンコードの方向を順逆の2方向で収集し,歪み量を表すシフトマップを作成し各画像を補正する。頭部撮像の例では,RDC DWIにより側頭骨錐体と側頭葉の境界部の歪みが補正されていることが確認できる(図2)。RDC DWIの特長としては,b0画像を用いた補正だけでなく,MPGにおいても順逆の収集にて補正を行っていることが挙げられる。b0補正のみの場合と比較すると,渦電流による影響の低減も確認できる(図3)。RDC DWIは,頭部に限らず,特に組織と空気との境界など磁化率の違いが大きい領域において有用な技術であると考える。
■モーションアーチファクト
低減技術“Iterative Motion Correction(IMC)”
MR画像上に顕著に頻出するアーチファクトは,患者の動き由来のアーチファクトである。その対策としては,通常,患者セッティングの工夫や,プリサチュレーションパルスによる影響の抑制,ラジアルサンプリングシーケンスの適用などがある。当社のIMCは,Cartesian収集のデータに対し,再構成処理のみで動きに由来するアーチファクトの低減を実現する技術である。IMCはいくつかのアルゴリズムが製品化されているが,今回は誌幅の都合上1種類の技術説明を行う(図4)。
IMCの動き補正処理は,(1) MR信号の収集後,剛体的な並進や回転に由来する動きを補正するrigid motion correction,(2) 大きく動いたショットのデータを除去するshot rejection,(3) 物体の変形すなわち非剛体的な動きに起因するアーチファクトを補正するnon-rigid motion correctionの3段階を経て,動きの影響を低減した画像を出力する。まずショットごとにナビゲータエコーを収集し,低分解能の画像を生成し,この画像同士を比較し,動きの顕著なショットのデータはshot rejectionとして棄却する。また,各ショットのナビゲータ画像を比較して,剛体の動きに由来する動きの量を推定し,この推定処理を繰り返し行うことで補正精度を向上している。non-rigid motion correctionの段階では,各ショット内の補正を行う。k-space上で,ある1ラインの信号を周囲のデータから推定して作成する合成データによりk-spaceを再構築する。この合成データと収集データの整合性を評価し,整合性が低いデータのみを合成データに置換する。これにより,剛体状の動き補正で消え残った動きを周囲にある動きの影響がない点から推定し,補正することができる。IMCは頭頸部,関節や体幹部など,さまざまな部位においてその低減の効果が確認されており,さらなる応用展開が期待される。
RDC DWIおよびIMCは,いずれも上述のAiCEとの併用が可能なため,SNRの向上と歪みやアーチファクトの低減との2つのアプローチでMR画像の質向上に寄与することができる。
■検査一連をアシストする最新サポート技術
MRI画像の取得に至るには,検査前準備から撮像断面設定など,さまざまな段階を経る必要がある。当社のMRI装置には各段階をアシストするさまざまな支援機能が搭載されており,検査の効率化,ひいては検査時間の短縮に貢献する。
シーリングカメラ(図5)は,寝台上部天井に設置されたキヤノン製の高性能カメラで,ポジショニング支援に必要な性能をクリアしている。このカメラが天井から患者の様子を撮影し,ディープラーニングを用いた画像認識アルゴリズムによって患者の特徴点をとらえ,検査部位の自動認識を行う。これにより投光器を用いた位置合わせが不要になり,非接触で簡便に検査を開始することが可能になる。
そのほか,タブレット端末(端末は別売)で患者情報の入力や検査部位の登録などの検査前準備ができる“Tablet UXアプリケーション”,全身さまざまな部位の断面設定をアシストする“Auto Scan Assist”など,検査の各段階をアシストするさまざまな技術が搭載されている。
◎
以上,先進のアプリケーションを搭載した最新の1.5T MRI装置「Vantage Fortian」を2022年2月に販売開始した。また,さまざまな再構成技術の進展は,ハードウエアに依存しないMRI装置全体の性能の底上げに資するものと考える。今回紹介した技術が広く使用されることで,医療従事者の負担軽減や診断能力向上,ひいては医療の質向上に貢献できることを期待する。
*「AiCEマーク」「Vantage Fortian」はキヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。
*本記事で言及しているAI技術については設計段階で用いており,本システム自体に自己学習機能は有していない。
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000
類型:Vantage Fortian
●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/