技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年11月号

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に挑む医療AI

胸部CT画像の肺テクスチャ解析技術と新型コロナウイルス感染症への応用

青柳 康太[キヤノンメディカルシステムズ(株)研究開発センター]

新型コロナウイルスの世界的感染拡大が続く中,新型コロナウイルス肺炎におけるCT画像の特徴やその臨床的有用性が早くから報告されている。当社は以前より,びまん性肺疾患の診療支援を目的としたCT画像定量化技術の研究を行っており,本稿では当該技術を解説するとともに,新型コロナウイルス診療への適用をめざした取り組みについて報告する。

●肺テクスチャ解析技術

特発性間質性肺炎などに代表されるびまん性肺疾患では,CT画像が主に診断や治療効果判定などに用いられるが,読影者間の所見一致率が低いことが指摘されている1)。また,放射線科医が目視で全肺に及ぶ病変を定量化することはきわめて難しい。このような背景の下,当社はびまん性肺疾患のCT画像において,異常陰影を自動分類かつ定量化する方法として,人工知能(AI)技術を応用した肺テクスチャ解析技術の研究を進めている。
肺テクスチャ解析は,大野良治教授(藤田医科大学医学部放射線医学教室)とキヤノンメディカルシステムズが共同研究で開発した技術を応用している。実臨床の肺野CT画像を教師データとして機械学習に基づく分類アルゴリズムを構築することで,種々の肺疾患の結果生じるCT陰影を,あらかじめ定義した複数の典型的な陰影タイプにピクセルごとに自動分類する。分類結果を画像上に重畳表示して異常陰影の分布を可視化したり,各陰影タイプの体積や占有率を算出したりすることが可能である。さらに,ディープラーニング技術を応用した肺領域自動抽出や,左右の各肺葉を自動分離するアルゴリズムも実装しており,肺テクスチャ解析の定量値を肺葉単位で算出することも可能である。間質性肺炎を対象とした研究では,肺炎の重症度と肺テクスチャ解析による定量値に相関があること2)〜4),放射線科医による読影所見と肺テクスチャ解析の結果の一致度が十分であること5)が示されている。

●新型コロナウイルス感染症への応用

当社の肺テクスチャ解析は,特定の肺疾患を対象としたものではなく,びまん性肺疾患や各種肺感染症などに見られる典型的なCT陰影を分類するものである。分類対象となるCT陰影には,新型コロナウイルス肺炎に特徴的なすりガラス状陰影やコンソリデーションが含まれており,同肺炎の特徴を視覚的かつ定量的にとらえることができる。図1は,新型コロナウイルス肺炎患者のCT画像および肺テクスチャ解析結果である。胸膜下かつ両側性にすりガラス状陰影と網状影が複数分布している様子が肺テクスチャ解析によってとらえられており,新型コロナウイルス感染症の診断や重症度評価に役立つと期待される。また,新型コロナウイルス肺炎と特徴がオーバーラップする,ほかの肺疾患との鑑別診断にも有用であると考えられる。さらに,過去検査との定量的な比較も可能であり,治療効果判定に基づく患者マネージメントへの応用が期待される。現在は,本解析技術を用いて新型コロナウイルス肺炎疑いの症例を解析し,臨床への適用評価を開始している。

図1 新型コロナウイルス肺炎のCT画像および肺テクスチャ解析結果 上段:原画像 下段:解析結果

図1 新型コロナウイルス肺炎のCT画像および肺テクスチャ解析結果
上段:原画像 下段:解析結果

 

肺テクスチャ解析は,低被ばくかつ高画質を両立したキヤノンメディカルシステムズのX線CT装置と組み合わせることで,患者負担を軽減しながら安定した解析結果を提供するとともに,CT撮影から画像解析までの一連を最適なワークフローで実現することをめざしている。今後も最新のAI技術を取り入れながら,医療従事者と患者のための実臨床に即したソリューションを提供し続けていく。

●参考文献
1)Walsh, S.L.F., et al. : Interobserver agreement for the ATS/ERS/JRS/ALAT criteria for a UIP pattern on CT. Thorax, 71, 45-51, 2016.
2) 3D Computer-Aided Diagnosis System for Thin-Section CT : Utility for Pulmonary Functional Loss and Treatment Response Assessments in Connective Tissue Disease Patients. 北米放射線学会(RSNA), 2016.
3) Utility of 3D computer-aided diagnosis system for pulmonary functional loss and treatment response assessments in connective tissue disease patients. 欧州放射線学会(ECR), 2017.
4) 3D Computer-Aided Diagnosis System on Thin-Section CT : Quantitative Assessment of Disease Severity and Therapeutic Response in Patients with Polymyositis/ Dermatomyositis. 日本放射線学会(JRC), 2018.
5) 3D Computer-Aided CT Texture Analysis with Machine Learning : Capability to Play as Second Reader for Radiological Finding Assessment in Patients with Interstitial Lung Disease. 欧州放射線学会(ECR), 2019.

 

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