技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2017年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
Area Detector CT「Aquilion ONE」と循環器ソリューション
山田 徳和(CT営業部) / 束村 智浩(グローバルHII事業部)
■循環器画像診断におけるArea Detector CT「Aquilion ONE」
心臓CT検査が,寝台を移動することなく「1心拍」「1回転」で撮影できる初めてのCT装置として,Area Detector CT Aquilion ONEはデビューし,2017年で10年目を迎えた。
この間に,Aquilion ONEは2回の大きなモデルチェンジを行い,今もなお進化を続けている。
本装置には,心臓CT検査の成功率を向上させる機能および検査のリスクを軽減させるための機能を複数搭載している1),2)。
(1) 最適撮影条件のナビゲート機能“Heart NAVI”
(2) 不整脈対応撮影モード
(3) 被ばく線量の低減を目的とした“フラッシュスキャンシステム”
(4) 最適心位相を自動的に検出する“Phase NAVI”
(5) 高度石灰化やstentにより冠動脈内腔の診断が困難となる症例を対象とした“冠動脈サブトラクション”など
現行システムである「Aquilion ONE / GENESIS Edition」(図1)は,さらなる画質の改善と被ばく線量の低減を実現するための機構として,“PUREViSION Optics”(図2)と“FIRST”を標準搭載している。
1.PUREViSION Optics
X線の出力から検出器に至る過程において,被ばくと画像のクオリティを決める要素をブラッシュアップした。出力側では,患者の被ばくに影響を与える低エネルギー成分を低減し,被ばくと画質のバランスを考慮したX線エネルギー分布の最適化を行っている。受光部側には,“PUREViSION Detector”を搭載した。シンチレータ素材の最適化を行い,発光感度が従来検出器よりも約40%向上している(当社比)。また,検出された光信号は,フォトダイオードにより電気信号へ変換されdata acquisition system(以下,DAS)へ伝送されるが,PUREViSION Detectorでは,DAS基盤の高密度実装による最小化を行うことで,回路ノイズを従来の64列CTと比較し約28%低減している(当社比)。
結果,従来同等の線量で検査をした場合は,画質の向上が見込める。
2.逐次近似再構成:FIRST
Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)は,フルモデルベース逐次近似再構成(Full IR)である。
CTで収集した生データと,初期画像の順投影から作成した生データの差異を画像に逆投影する処理を繰り返し,再構成関数を用いずに画像を作成する。このワークフローの中にいくつかのモデルを取り入れ,正しいと判断されるデータおよび画質向上につながる情報のみを画像に反映させることで,大幅なノイズ・アーチファクトの低減(図3)や,分解能向上などのメリットが得られる。
逐次近似再構成は,従来のfiltered back projection法に比べ,膨大な演算を必要とする再構成技術である。Aquilion ONE/GENESIS Editionに標準搭載しているFIRSTは,臨床のワークフローの中でデータをマネジメントし,ルーチン検査に活用可能な再構成スピードを担保している。
■循環器領域における画像処理ワークステーションの活用
循環器領域における画像診断装置は,撮影範囲の拡大,撮影速度の向上に伴い,冠動脈病変や心筋虚血の非侵襲的診断方法として広く用いられるようになってきた。モダリティから発生する大量のボリュームデータや機能画像を,より有効的な診断に結びつけるために,後処理を担う画像処理ワークステーションも撮影装置とともに進化を続けている。
以下に,当社の画像処理ワークステーション「Vitrea」の数ある臨床アプリケーションの中から,循環器に関連する代表的なアプリケーションについて紹介する。
1.SURECardio CTFFR
当社で開発された“SURECardio CTFFR”は,CT画像を用いた冠動脈FFR計測を可能とし,プレッシャーワイヤを用いた検査に比べ侵襲性が低い点から,近年高い注目を受けている。当アプリケーションは,拡張中期から拡張末期までの複数の心位相データから冠動脈の形状と変化情報を把握し,それらの情報に基づく血流シミュレーション(流体構造連成解析)からFFRを算出するものである。シミュレーションに用いる形状データとして,汎用的な構造データではなく,当該患者のデータを利用することから,個々の患者そのものの情報を用いた,より精度の高い解析が可能となっている(図4)。
従来,流体シミュレーションは,その膨大な計算量から計算能力の高い専用ハードウェア(クラウド環境など)と多くの処理時間が必要とされてきたが,当アプリケーションは,施設内でユーザー自身による解析が可能で,その処理時間も画像収集からCTFFRの算出までを1時間以内で行うことができる。
2.CT冠動脈解析
“CT冠動脈解析(SUREPlaque)”アプリケーションは,冠動脈CTA画像から冠動脈形態情報とプラーク性状の評価が可能である。データリストから該当シリーズを選択してアプリケーションを起動するだけで,心臓のセグメンテーション,冠動脈のトラッキング,各冠動脈のラベリング(名称表記)および冠動脈壁の輪郭抽出が自動で行われる。1データあたり10秒程度で自動処理が完了し,心臓,冠動脈のVR画像,冠動脈のcurved MPR(CPR)画像などを観察することができる。これら自動解析の精度の高さ,処理速度の速さにより,ユーザーによる修正などの後処理工数,作業時間を短縮することができ,診断に所望される画像を得るまでのワークフロー改善に大きく寄与している。
さらに,冠動脈の形状評価だけでなく,自動で抽出された冠動脈の内壁,外壁の輪郭情報を用い,CT値を基にした冠動脈壁内のプラーク性状分析,体積計測などを行うことができる。このプラーク性状分析に関して,血管内超音波と当アプリケーションの評価結果を比較し,有効性を示すエビデンスが報告されている。
3.MR Coronary Tracking
“MR Coronary Tracking”では,MRI装置を用いて心臓を三次元的に撮像した画像(whole heart coronary angiography)から冠動脈のセグメンテーション,狭窄などの評価が可能となっている。
当アプリケーションもデータを選択して読み込むだけで,冠動脈3枝が自動的にトラッキングされ,冠動脈の断面径,面積などの計測が容易に可能となっている。MR撮像画像での冠動脈評価は,CTの同検査と比較して高度石灰化領域の評価能力に期待が寄せられている。
本アプリケーションは,被ばくのない冠動脈形状評価方法の一つとして注目されており,また造影剤を必要としない点でも,腎機能障害を併せ持つ症例の冠動脈検査方法として有用視されている。
4.MR Wall Motion Tracking
“MR Wall Motion Tracking”は,MRIで三次元的に撮像されたシネ画像から心筋のねじれ運動(strain)の解析を行える。従来,MRIを用いて心筋のstrain解析を行うためには,その運動変化量を補足するために,タギングという撮像方法からデータを収集する必要があったが,当アプリケーションは,心臓MRI検査で一般的に撮像されるシネ画像をベースに解析を行い,特殊な撮像シーケンスを用いることなく簡便にstrain評価を行うことができる。評価可能なパラメータとして短軸方向(circumferential strain)だけでなく,心機能低下の評価値として有用とされる長軸方向のねじれ(longitudinal strain)の評価も行うことができる。
操作方法としては,画像データを読み込み,大まかに心筋をトレースした後に自動解析ボタンをクリックするだけで,全位相,全スライスの心筋輪郭が,高い精度で自動的にセグメンテーションされる(図5)。簡便な撮像,操作で超音波と同様のstrain解析を高い精度で行える点から,心臓MRI検査を行う施設から高い注目を受けている。
●参考文献
1)マルチモダリティによるCardiac Imaging 2009【臨床編】─より早く, より確実に, より優しく─. INNERVISION, 24・5, 2009.
2)FFR(機能的血流予備能比)CT, サブトラクション冠動脈CT. INNERVISION, 31・10, 12〜16, 2016.
●問い合わせ先
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