技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2014年4月号
Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」の紹介
久世 健司(核医学システム営業部営業技術担当)
頭部および心臓のSPECT検査は,SPECT検査全体の約7割を占めている。これは,虚血性の脳血管障害や心疾患,または認知症における診断と治療方針の決定において,SPECT検査の必要性が高まっていることが背景にある。ここに,頭部および心臓のSPECT検査で卓越した画像を提供する装置として,3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」(図1)を開発したので,頭部SPECT検査を中心にその技術を紹介する。
■3検出器:2検出器に比べて感度が1.5倍
3検出器型SPECT装置は,検出器を120°回転させるだけで360°分のデータを収集できるため,従来の汎用2検出器型SPECT装置と比較して,同等の検査時間でノイズの少ない高画質な画像が得られる。また,検査時間を2/3に短縮しても,従来と同等の画質が得られる(図2)。
■ファンビームコリメータ
ファンビームコリメータは,測定対象を拡大して撮像することにより,パラレルビームコリメータと比較して位置分解能と感度の両方を高めることができる。その効果は,頭部SPECT検査で発揮される(図3)。
■画像処理
1.散乱線補正
散乱線は,画像コントラストや定量性が悪化する原因となる。測定データに混入する散乱線の割合を減らすためには,エネルギーウィンドウ幅を狭くするなどの方法が考えられるが,この手法では一次線も減少してしまい,S/Nが悪化する原因となる。そこで,一次線と散乱線を含めて収集して,後から精度良く散乱線成分を推定し除去する方法として,Triple Energy Window(TEW)法を採用した。
TEW法のエネルギーウィンドウ設定を図4に示す。光電ピークのエネルギーウィンドウ(W1)の両端に幅の狭いサブウィンドウ(W2とW3)を設定し,台形近似により散乱線を推定する1)。各ウィンドウにおけるデータをP,幅をDとすると,散乱線Pscatは以下の式で表される。
Pscat={P(W2)/D(W2)+P(W3)/D(W3)}D(W1)/2
本法は,事前に補正に必要なパラメータを求める必要がなく,核種およびコリメータによらず使用できる,複数の光電ピークを持つ核種や2核種同時収集にも使用できる,視野外から混入する散乱線も考慮できる,などの特長を持つ汎用性の高い方法である。
2.減弱補正
核医学検査では,体内から放出されるガンマ線を検出し,体内のRI分布を推定している。そのため,測定されるデータは人体による減弱の影響を受けており,定量解析を行うためには減弱補正が必要である。減弱補正は,減弱係数分布マップと減弱補正法の組み合わせで行われる。
1)減弱係数分布マップ
減弱係数分布マップは,均一減弱マップと不均一減弱マップに大別される。均一減弱マップは,SPECTの投影データから抽出した頭部輪郭内に均一な減弱係数を付加して作成される。不均一減弱マップは,SPECT画像と位置合わせしたCT画像に,CT値に応じた減弱係数を付加して作成される。被ばくの観点,手法の容易さから,臨床では前者が採用されることが多い。
均一減弱マップ作成における輪郭抽出の精度を考慮して,投影データに対して掛ける輪郭抽出用の前処理フィルタを実装した(図5)。散乱線補正後や,低カウントの投影データでの輪郭抽出が難しいことは周知されているが,この前処理フィルタで画像を滑らかにすることで,輪郭抽出を容易かつ精度良く行うことができる。
2)減弱補正法
減弱補正法は,Chang法とOSEM法の逐次近似再構成に組み込む手法を採用した。ここでは,Chang法を応用した独自のIterative Chang法を紹介する。
Chang法では,減弱係数分布マップから算出した補正係数行列を,再構成画像の画素ごとに乗算することで減弱補正が行われる2)。この方法は簡単であるが,1回乗算されただけでは精度が良くないために,図6のような反復ループを用いて補正が行われる。図6の実線はChang法による補正を示しており,これに点線を加えた補正がIterative Chang法である。Chang法による1回の減弱補正を実施した後の補正画像f(0)に,減弱を考慮した投影計算を行い,計算投影データPcを得る。この計算投影データと実測した投影データPmの差を画像再構成すると,誤差画像feとなる。誤差画像に補正係数行列を乗算したfe×Cにf(0)を加えることによって,1回目のループ完了後の補正画像f(1)を得る。指定された回数分ループを繰り返して最終画像を得るが,経験的に1回のループで十分である。この手法により,Chang法で問題となる中心部の過補正を抑制することができる(図7)。
3.3D-OSEM再構成
逐次近似による再構成“3D-OSEM法”(コリメータ開口補正付きOSEM法)を,日常臨床で使えるレベルまで高速処理することを実現した。GPU処理に最適なコーディングを行い,従来の1/60に処理時間を短縮した。また,逐次近似回数の増加によるアーチファクトが生じないパラメータ設定を行っている。図8に示すように,フィルター逆投影法(FBP法)と比較し,位置分解能・コントラストが大きく改善している。
●参考文献
1)Ogawa, K., Harada, H., et al. : A practical method for position dependent Compton-scatter correction in single photon emission CT. IEEE Trans. Med. Imag., 10, 408〜412, 1991.
2)Chang, L.T. : A method for attenuation correction in radionuclide computed tomography. IEEE Trans. Nucl. Sci., 25, 638〜643, 1978.
●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/