超解像技術PIQEの臨床応用と女性骨盤領域における可能性 
植田 高弘(藤田医科大学医学部 放射線診断学講座)
MRI Session

2024-6-25


植田 高弘(藤田医科大学医学部 放射線診断学講座)

演者が勤務する藤田医科大学ばんたね病院ならびに藤田医科大学病院,藤田医科大学岡崎医療センターでは,キヤノンメディカルシステムズの3T MRI「Vantage Galan 3T/Focus Edition」と「Vantage Centurian」,1.5T MRI「Vantage Orian」を女性骨盤領域の日々の臨床に用いている。その際,Deep Learningを応用したノイズ除去再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」を用いることで,画質改善や撮像時間短縮などの効果が得られる。本講演では,女性骨盤領域におけるAiCEやPIQEの臨床応用,およびPIQEの可能性について報告する。

AiCEを用いた取り組み

SNRの低い画像にAiCEを適用することで,SNRを大幅に向上することが可能となる。低異型度虫垂粘液性腫瘍(LAMN)の症例では,従来法で描出できなかった腫瘤内部の乳頭状の充実部が,AiCEを適用したthin slice画像(スライス厚1.8mm)で明瞭に描出され,より正確に腫瘍の性状を評価できた。また,子宮頸がん症例では,thin slice画像(スライス厚2mm)にAiCEを適用したところ,4mmスライス厚の従来法の画像で不明瞭であった子宮傍組織浸潤や腟壁浸潤が明瞭となり,ステージングに有用であった。
演者らは,女性骨盤領域においてT2強調画像にAiCE適用のCompressed SPEEDER(CS)を用いることで,従来法のパラレルイメージングよりも検査時間を短縮し,画質を改善することを報告している1)図1は1.5Tで撮像した子宮筋腫症例のT2強調画像であるが,AiCEを適用したCS(b)では従来法(a)と比較して撮像時間が短縮し,ノイズが除去され,子宮筋腫がより明瞭に描出されている。卵巣奇形腫症例でも同様の画像が得られており,CSとAiCEの組み合わせは,画質を担保しつつ検査時間を短縮し,患者負担の軽減や検査の効率化に寄与している。

図1 AiCEを適用したCompressed SPEEDERと従来法の比較(子宮筋腫:1.5T)

図1 AiCEを適用したCompressed SPEEDERと従来法の比較(子宮筋腫:1.5T)

 

PIQEの臨床応用

PIQEは,キヤノンメディカルシステムズの新しいDeep Learning Reconstruction(DLR)技術で,低SNR・低分解能な画像から高SNR・高分解能な画像の再構成が可能である。AiCEで培ったデノイズ処理と,zero-fill interpolation(ZIP)処理により分解能を向上させている。通常,ZIP処理ではブラーリングやリンギングアーチファクトが問題となるが,それらを改善・最適化するよう学習させたニューラルネットワークを適用することで,鮮鋭度およびSNRが向上した画像が得られる。
子宮筋腫症例にPIQEを適用したところ,SNRならびに面内分解能が向上して子宮や卵巣などの正常解剖が明瞭となり,子宮筋腫がより鮮明に描出された。左卵巣奇形腫症例(図2)でも,PIQE(c)によって腫瘤内部の構造がより明瞭に描出されており,PIQEはより細かな構造物の評価に有用な可能性が示唆される。図3は子宮体がんⅠA期の症例で,拡散強調画像(DWI)にて腫瘍と子宮筋層との良好なコントラストが得られるが(),PIQEを適用することで境界がより明瞭となる(c)。今後症例を蓄積し,病理所見との対比を通じてPIQEの有用性を示せる可能性がある。
さらに,PIQEでは再構成で分解能を向上できるため,収集マトリックスを少なくすることで撮像時間を短縮することも可能である。機能性卵巣囊胞の症例(図4)では,PIQEを適用したところ,短時間撮像にもかかわらず卵巣辺縁の性状や卵胞がより明瞭に描出されており(b),卵巣の同定や卵巣囊腫の性状評価に有用な可能性が示唆される。

図2 T1強調画像におけるPIQEと従来法の比較(左卵巣奇形腫:1.5T)

図2 T1強調画像におけるPIQEと従来法の比較(左卵巣奇形腫:1.5T)

 

図3 拡散強調画像におけるPIQEの適用例(子宮体がんⅠA期:3T)

図3 拡散強調画像におけるPIQEの適用例(子宮体がんⅠA期:3T)

 

図4 PIQEを適用した短時間撮像と従来法の比較(機能性卵巣囊胞:1.5T)

図4 PIQEを適用した短時間撮像と従来法の比較(機能性卵巣囊胞:1.5T)

 

女性骨盤領域におけるPIQEの可能性

国際産科婦人科連合(FIGO)が提唱する子宮筋腫の亜分類は,異常子宮出血と関連の強い粘膜下筋腫とそれ以外の筋腫に分け,局在により子宮筋腫をタイプ0〜8に分類している。当院の実際の症例では,PIQEを用いることで子宮筋腫の局在が明瞭に描出され,より正確に子宮筋腫の亜分類を評価できた症例を経験している。
図5は,PIQEが子宮筋腫と子宮腺筋症の鑑別に有用であった症例である。従来法(図5 a)にてjunctional zoneの限局的な肥厚とも考えられる領域()を認め,子宮収縮や子宮腺筋症が鑑別に挙がった。一方,PIQE(図5 b)では,junctional zoneと子宮筋腫を疑う低信号結節を分離でき,子宮筋腫と評価できた。PIQEを用いることで,junctional zoneに沿った子宮筋腫をより明確に評価しうる可能性が示唆された。
子宮内膜症の画像評価では,悪性転化の評価に加え,深部内膜症の合併や癒着の評価が重要となる。特に深部内膜症や癒着はposterior compartmentで多く見られ,子宮後壁やダグラス窩,直腸における病変の有無の評価が重要になる。子宮内膜症症例では,PIQEにて子宮後壁漿膜面の子宮腺筋症が明瞭となり,拡大像(図6)では子宮後壁と腸管との間の膜様癒着()や腸管の牽引像()がより明確に描出されていた(b,d)。PIQEは,構造や病変の詳細な評価に有用と考えられる。
70歳代,女性,子宮体がんの症例を提示する。T2強調画像にてダグラス窩に腹膜播種と腹水を認め,子宮体部内腔にDWIで高信号を示す腫瘤が見られた。さらに,拡大像(図7)では子宮体部内腔に乳頭状の腫瘤()が見られ,PIQEを適用したところ,その構造がより明瞭となった(c)。本症例は細胞診にて腺癌が検出されているものの,組織型を特定できないが,高齢で腹膜播種や腹水を伴う乳頭状の形態を示す子宮体がんであり,組織型として漿液性癌の可能性が高いと考えている。今後,画像所見と病理所見の対比により,PIQEの有用性が示されることが期待される。

図5 T2強調画像におけるPIQEと従来法の比較(子宮筋腫:1.5T)

図5 T2強調画像におけるPIQEと従来法の比較(子宮筋腫:1.5T)

 

図6 T2強調画像におけるPIQEの適用例(子宮内膜症:3T)

図6 T2強調画像におけるPIQEの適用例(子宮内膜症:3T)

 

図7 拡散強調画像におけるPIQEの適用例(子宮体がんⅣ期:3T)

図7 拡散強調画像におけるPIQEの適用例(子宮体がんⅣ期:3T)

 

まとめ

PIQEを用いることで,高SNR・高分解能画像の再構成が可能となり,正常構造や病変部の描出能が向上するほか,収集マトリックスを落とすことで撮像時間の短縮に寄与しつつ,従来条件と遜色のない画像の取得が可能となる。また,女性骨盤領域にPIQEを適用することで,高精細化による診断能向上や撮像時間短縮によるアーチファクトの低減,ワークフロー改善など検査の安定性向上が期待できる。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
* AiCE,PIQEは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

●参考文献
1)Ueda, T., et al.: Eur. J. Radiol., 134, 2021.

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000
類型:Vantage Centurian

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000

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