知っておきたい! 診療報酬改定の動向と医師の働き方改革 
隈丸加奈子(順天堂大学医学部 放射線診断学講座)
企画講演

2024-6-25


隈丸加奈子(順天堂大学医学部 放射線診断学講座)

本講演では,診療報酬改定と医師の働き方改革について,基本および2024年からの動向について解説する。

診療報酬改定

1.診療報酬改定の基本構造

医療機関が保険医療サービスの対価として受け取る診療報酬には,診療行為の価格を定める価格表としての役割と,保険診療の範囲・内容を定める品目表としての役割があり,その改定は医療機関の経営や医療サービスの質・量に影響を及ぼす。2年に一度行われる診療報酬改定の流れ(図1)を知ることは,医療現場の声を行政に届ける上で有益である。改定の柱には,医療政策の方針決定(基本方針の決定),医療費総額の決定(改定率の決定),医療費配分の決定(個別項目の決定)の3つがある。

図1 診療報酬改定の流れ

図1 診療報酬改定の流れ

 

1)医療政策の方針決定
医療政策の方針(次の診療報酬改定の重点)は,改定前年の12月上旬に社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定される。この基本方針は,原則的にすべて診療報酬改定に反映される。2024年4月に施行される令和6(2024)年度改定において放射線科にかかわる内容としては,物価高騰・賃金上昇などに伴う対応や医療DX・遠隔医療の推進がある。学会などから改定提案を出す場合,基本方針に沿った提案は比較的採用されやすい傾向にある。
基本方針のベースとなるのが,毎年6月に閣議決定される国の予算編成の方針を示した骨太方針である。骨太方針に記載されていることは,一字一句漏らさず何らかの予算を付けることを意味しており,2023年6月に示された「骨太方針2023」には物価高騰・賃金上昇などに伴う対応や医療DXなどが盛り込まれている。なお,研究提案なども骨太方針に沿った魅力的な提案に対しては行政も予算を付けやすい。
6月の骨太方針の閣議決定を見越して,全日本病院協会などでは3〜4月に診療報酬改定への要望書を政府や行政に提出している。この時期であれば次の予算の方針がまだ固まっていないため取り入れやすくなる。診療報酬にかぎらず一般的な国の予算決定プロセスを図2に示す。12月下旬の予算案の閣議決定(診療報酬で言えば改定率決定)を見越して,8月末に各省庁から概算要求が提出される。8月末に向けて各省庁は3月頃〜7月に予算請求を検討することから,この時期に魅力的な,例えば研究提案などを行うと聞き入れてもらえる可能性がある。裏を返せば,秋頃になってからでは,たとえ魅力的な提案であったとしてもすでに予算の大枠は決まっているため反映することは難しい。医療現場の声を届ける上で,予算決定のプロセスや時期を知ることは有用である。

図2 国の予算決定プロセス(診療報酬に限らず一般的なもの)

図2 国の予算決定プロセス(診療報酬に限らず一般的なもの)

 

2)医療費総額の決定
医療費総額は12月中旬〜下旬に内閣が決定する。令和6(2024)年度の改定率は,2023年12月20日に決定され,診療報酬の本体部分(技術・サービスに対する報酬)が+0.88%,薬価が−0.97%となった。これまでの診療報酬改定率の推移を見ると,今回は2012年以来の大幅なプラス改定となっており,医療従事者の賃上げなどに重点が置かれた結果と考えられる。

3)医療費配分の決定
改定率決定を踏まえて,2〜3月にかけて中央社会保険医療協議会(中医協)が個別の診療報酬項目の点数や算定要件を決める。令和6(2024)年度改定については,2024年2月14日の中医協総会にて個別の改定項目の点数が答申された。詳細な算定要件については3月に決定される*1

2.2024年度改定のポイント

令和6(2024)年度改定におけるポイントの一つは,本体改定部分の施行が4月から6月に変更されることである(薬価は従来通り4月施行)。これには医療DXの柱の一つである,デジタル技術により診療報酬請求の負担軽減をめざす「診療報酬DX」が関連している。従来は2月に改定項目の点数,3月に算定要件が示され,4月1日から改定,5月に初回請求という非常にタイトなスケジュールとなっており,電子レセプトではソフトウエア改修も必要なため,医療機関・ベンダーにとって大きな負担となっていた。その負担を軽減するために,施行が後ろ倒しされる。
また,放射線科にもかかわる改定として賃上げがある。特に,若手医師,コ・メディカルの賃上げに対応するために入院基本料の見直し,ベースアップ評価料の創設が行われた。賃上げを実施する場合に算定できるものであり,わずかな増分ではあるが将来に向けて良い潮流だと言えよう。
画像診断に関しては,画像診断管理加算に新しい枠が創設された。従来の画像診断管理加算2・3の間に新たに3ができ,旧3が4となる(2は175点,新3は235点,4は340点)。新3の施設基準は常勤画像診断医3名以上などで,ほかの基準は学会からの提案としては旧3に準じる形で行われている*1。また,トモシンセシス撮影追加での加算(100点)や,認知症への対応としてアミロイドPET,がんの早期診断のために18F標識フルシクロビンPETが新設されている。

医師の働き方改革

わが国の良質な医療は,長い間,医師の長時間労働により支えられてきた。病院勤務医の勤務実態調査では,勤務時間上位10%の医師が残業時間1920時間を超えており,健全な状態とは言えない。そこで2024年4月から開始されるのが,医師に対する時間外労働の上限規制の適用である。

1.働き方の基本のキ

新制度以前に,労働者である勤務医には労働基準法など基本的な労働法制が以前から適用されている。労働時間とは,使用者の指揮命令下に置かれている時間であり,診察前後のカルテ確認や申し送り,義務づけられた服装への着替えなど,業務に必須の時間も労働時間に該当する。また,自己研鑽については,令和元(2019)年7月1日に厚生労働省から研鑽と労働の線引きについて通達1)が出されている。
また,宿直(当直)の扱いについても労働基準法で定められており,原則的な考え方としては宿直の時間は労働時間に含まれる。なお,医療機関が労働基準監督署による宿日直許可を受けている場合には,労働時間に含まれないという例外規定(労働基準法第41条)があるが,宿直中に救急患者に対応するといった時間は労働時間に含まれる。一般的な宿日直許可基準については昭和22(1947)年に定められているが,医師や看護師の現代の業務事情に合わせた通達2)が令和元(2019)年7月1日に出されている。

2.2024年4月から始まる制度3)

1) 医師の労働時間の特別則
新制度では,地域医療を守るための医師の労働時間の特別ルール(労働時間の上限の適用)と,長時間勤務の中でも勤務医の健康を守るためのルール(面接指導,勤務間インターバル)が設けられる。
診療に従事する医師の場合,長時間労働が必要な理由により年間の時間外・休日労働時間の上限が定められており,
A水準,連携B水準,B水準,C-1水準,C-2水準のいずれかが適用される(図3)。複数の医療機関に勤務している場合は労働時間を合算する。また,いずれの水準でも月100時間未満の上限がある(面接指導の実施による例外あり)。A水準以外の上限は1860時間と他業種と比べてかなり高いが,将来的にこの上限は下げられていくことが示されている。令和6(2024)年度診療報酬改定の基本方針でも働き方改革の推進が示され,地域医療体制確保加算の施設基準にB水準,連携B水準の医師の時間外・休日労働時間の基準が設けられた。令和6(2024)年度は1785時間以下,令和7(2025)年度は1710時間以下となっており,今後も上限時間は下げられると予想される。
医師の健康を守るためのルールとして,時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師には面接指導が行われるほか,十分な休息時間確保のために勤務間のインターバルのルールが設定される。インターバルは,勤務開始から24時間以内に9時間のインターバルを設けることが原則となるが,宿直など多様なケースがあるため,厚生労働省Webサイト3)で詳細を確認いただきたい。

図3 診療に従事する医師の時間外・休日労働時間の上限3)

図3 診療に従事する医師の時間外・休日労働時間の上限3)

 

2)大学病院等勤務医師の自己研鑽
自己研鑽については前述の通達1)が原則であるが,大学病院などに勤務し研究や教育を業務とする医師については令和6(2024)年1月15日に別途通知4)が出され,「診療等の本来業務」に教育・研究を含むことが示された。
われわれ勤務医は,勤める医療機関における自己研鑽の定義や宿日直許可について,自身で主体的に確認することが大切である。

まとめ

診療報酬改定の流れや予算決定のプロセスを知ることは,医療現場の要望や意見を行政に届ける一助となる。また,働き方改革については,地域に必要とされる医療を今後も守り続けるために,雇用主や管理者だけの問題ではなく,医療現場の全員が考え,実践していくことが不可欠である。

*1 2024年3月5日に関係告示の公布・通知の発出

●参考文献
1)医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について. 令和元年7月1日基発0701第9号労働基準局長通達.
2)医師,看護師等の宿日直許可基準について. 令和元年7月1日基発0701第8号労働基準局長通達.
3)厚生労働省:いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ). 「学ぶ」・「話す」・「作る」を叶える!医師の働き方改革解説スライド.
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/commentary_slide
4)「医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について. 令和6年1月15日基監発0115第2号労働基準局監督課長通知.

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP