心臓の多面的アプローチ:可視化して定量化する 
真鍋 徳子(自治医科大学附属さいたま医療センター 放射線科)
Healthcare IT Session

2024-6-25


真鍋 徳子(自治医科大学附属さいたま医療センター 放射線科)

本講演では,心臓MRIにおける機能画像の一つである,心筋の局所壁運動を可視化して定量化するストレインについて,キヤノンメディカルシステムズの医用画像解析ワークステーション「Vitrea」を用いたfeature tracking(FT)法による解析と,非虚血性心筋症における活用を中心に紹介する。

ストレインの基本と応用

1.ストレインの基本
左室心筋の構造は大きく3層に分けられ,各層の心筋線維は,最内層と最外層は縦方向,中間層は円周方向に走行している。心筋局所の壁運動を示すストレインには,長軸方向のlongitudinal strain(LS),円周方向のcircumferential strain(CS),短軸方向のradial strain(RS)がある。ストレイン評価では,2点間距離の拡張末期と収縮末期の変化率(ストレイン値)を算出し,米国心臓協会(AHA)のセグメントごと,あるいは左室全体・右室全体などの平均値で評価する。左室はLSとCSが関与し,右室は主にLSが関与する。

2.心筋梗塞への応用
左室は最内層と中間層で線維方向が異なることから,心内膜下梗塞と貫壁性梗塞ではLSとCSのストレインの障害の程度に違いが生じると考えられる。そこで,非造影シネMR画像を用いてストレインで心筋梗塞の進展度を予測する検討1)を行った。その結果,心内膜下梗塞ではLSが低下し,梗塞が外側に進展するほどCSも低下した。LSとCSを組み合わせて評価することで,心内膜下梗塞か,バイアビリティのない貫壁性梗塞かを予測できることを示した。

3.肥大型心筋症への応用
われわれは,肥大型心筋症(HCM)におけるストレインの検討2)を行った。正常例と左室駆出率(LVEF)が保たれたHCM症例のストレイン比較では,HCMでは局所のストレインが低下し,ストレインカーブのピークのタイミングがバラついていた(図1)。また,HCMにおけるMRIストレインのバラツキと遅延造影(LGE)の関係を見ると,LGEの広がりが大きいほどストレインのバラツキが大きかった。さらに,15%を超えると突然死リスクが高い予後不良因子である%Extent LGE(心筋全体に対してLGEが占める割合)を非造影MRIストレインで予測可能であった。

図1 HCM症例と正常例のストレインの比較(参考文献2)より引用転載)

図1 HCM症例と正常例のストレインの比較(参考文献2)より引用転載)

 

FT法によるストレイン解析

従来,MRIでストレイン評価を行うには特別な撮像を追加する必要があったが,FT法を用いることで既存データを用いて後ろ向きに解析することができる。FT法では,シネ画像の心内膜と心外膜をトレースするだけで解析でき,四腔断像シネ画像でLS,短軸シネ画像でCSとRSを算出することができる3)
Vitreaでは,非造影シネMR画像があればさまざまなストレイン解析が可能である。検査リストから患者を選んでアプリケーション「Multi-Chamber Wall Motion Tracking(MC-WMT)」を開き,自動輪郭抽出ボタンをワンクリックするだけで,左室の短軸像,長軸の二腔像と四腔像を自動認識する。オートトラッキングは7〜8秒で完了し,非常に高精度に抽出できる。Vitreaは形態が複雑な右室にも対応しており,乳頭筋を自動で検出して容積から除外し,左室と同様に7〜8秒で追従性良くトラッキングできる。マニュアルの介入が少ないことで再現性が高くなる点もメリットである。左室の解析結果の画面(図2)では,容量解析の結果と,CS,LS,RSが心時相に合わせたストレインカーブとともに表示される。

図2 Vitreaによる左室のFT解析例

図2 Vitreaによる左室のFT解析例

 

FT法の臨床活用

FT法は,左心機能低下の早期検出や心筋症の診断,dyssynchrony(同期不全),先天性心疾患における心機能低下の早期発見,心筋症や肺高血圧における予後予測およびリスク評価など,臨床に幅広く活用できる。LVEFが保たれるHFpEFなどの症例でも早期に局所の壁運動異常を検出できる可能性があり,非造影シネMR画像をゲートキーパーとして広く臨床で活用できると考える。非虚血性心筋症におけるFT法の活用を紹介する。

1.心アミロイドーシス
心アミロイドーシスは心肥大を特徴とする疾患の一つで,近年,治療薬が承認されたことで注目されている。大動脈弁狭窄症では,6〜16%でATTR型心アミロイドーシスを合併し,単独の大動脈弁狭窄症と比べ合併例は予後不良で,MRIによる拾い上げの重要性が指摘されている。LGE MRIの典型像では,心内膜面のびまん性の濃染や右室の濃染,血液プールの低信号化などが見られるが,アミロイド沈着の程度は患者によって異なるため,典型像を示すとは限らない。「2020年版心アミロイドーシス診療ガイドライン」では,心筋ストレインMRIも推奨クラスⅡaに位置づけられており,心アミロイドーシスではCSのピーク値が有意に低下し,セグメントにおけるピーク時間にもバラツキを生じることが明記されている。LGE MRIでわかりにくい症例に対しては,ストレイン解析が有用と考えられる。
ALタイプの心アミロイドーシスの自験例では,LVEFは57%と保たれていたが,LGEでは濃染の有無がわかりにくかった。そこでストレイン解析を行ったところ,心尖部のストレインカーブはピークが保たれる一方で,心基部では大きく低下していた。これは,心アミロイドーシスでは心基部からアミロイドが蓄積してストレインが低下し,相対的に心尖部のストレインは保たれるapical sparingという特徴的な所見を反映している。どのセグメントのストレインが低下しているかを可視化することで,確信度の高い診断につながる。また,われわれは,両心室・両心房のストレイン解析の結果が,LGEやピロリン酸シンチグラフィの所見と合致していたATTR型心アミロイドーシス症例についても報告している4)
ほかにも心アミロイドーシス診断へのストレインの活用については,右房ストレインや右室ストレインが心アミロイドーシスと肥大型心筋症の鑑別に有用だとする報告がある。また,ストレインは予後予測指標としても有用であり,左室ストレイン(CS)の低下やタイミングのズレが重症度や予後と相関することが報告されている。

2.心サルコイドーシス
心サルコイドーシスは,心臓以外の臓器で類上皮細胞肉芽腫が陽性であることを強く示唆する臨床所見であり,「2016年版心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン」では,ガリウムシンチグラフィやFDG-PETでの心臓への異常集積に加え,LGE MRI所見が主徴候に位置づけられている。
われわれは,心サルコイドーシスの診断にストレインの局所解析が有用だった症例を経験した5)。本症例は,LGEで確認された中隔右室側の淡い染まりに合致して局所ストレインの低下が見られたことから,心サルコイドーシスを疑いPET検査を提案した(図3)。PETでは,FDG投与60分後の画像で縦隔リンパ節への集積亢進が見られたものの心臓への集積は不明瞭で陰性のように思われたが,120分後の画像では心臓中隔への強い集積が明瞭化し,活動性の心サルコイドーシスと診断できた。これはFDGのピットフォールであり,心臓を評価する場合には120分後の撮像を追加することが重要である。
また,左室に加えて右室壁に不明瞭な濃染が認められた症例についてストレイン解析を行ったところ,局所的なストレインの低下をとらえることができた6)。右室壁は薄く,従来のタギング法では評価できなかったが,FT法では解析可能である。心サルコイドーシスは両心室に異常を来すことが特徴の一つで,両心室へのFDG-PETの集積亢進とストレイン評価による局所の壁運動低下が合致していることを示すことで,両心室病変が存在する根拠として提示することができる7)

図3 心サルコイドーシスへの応用(参考文献5)より引用転載)

図3 心サルコイドーシスへの応用(参考文献5)より引用転載)

 

3.拡張型心筋症
われわれは,造影CTとLGE MRIで肺動脈,両心室,右房に血栓が認められた拡張型心筋症症例について,両心房と両心室のストレイン評価を同時に行った。その結果,両心室と右房の血栓がある局所の壁運動が低下し,血栓のない左房はストレインが保たれていることが確認できた8)。血栓の予測にストレインが活用できる可能性がある。

まとめ

FT法は,追加撮像なく従来のシネ画像を後ろ向きに解析することができ,左室のみならず右室や心房も評価可能で,LVEFの低下よりも早期に異常をとらえられる可能性がある。局所だけでなく,グローバルストレインやストレインレートなどのパラメータを追加することで,MRIに新たな付加価値を生み出す可能性もあると考える。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
* VitreaはRapideyeCore SVAS-01の愛称です。

●参考文献
1)Oyama-Manabe, N., et al., Eur. Radiol., 21(11):2362-2368, 2011.
2)Sakamoto, K., Oyama-Manabe, N., et al., Jpn. J. Radiol., 36(2):103-112, 2018.
3)真鍋徳子,他, ROUTINE CLINICAL MRI 2021 BOOK(映像情報Medical増刊), 52(14):74-78, 2021.
4)Aikawa, T., Oyama-Manabe, N., et al., J. Nucl. Cardiol., 29(1):363-366, 2022.
5)Kato, S., Oyama-Manabe, N., et al., J. Nucl. Cardiol., 30(1):417-419, 2023.
6)Aikawa, T., Oyama-Manabe, N., et al., J. Nucl. Cardiol., 29(6):3593-3595, 2022.
7)Manabe, O., Oyama-Manabe, N., et al., J. Clin. Med., 10(24):5808, 2021.
8)Aikawa, T., Oyama-Manabe, N., et al., Eur. Heart J. Case Rep., 6(1):ytab509, 2021.

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム RapideyeCore SVAS-01
認証番号:229ABBZX00002000

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