CTの経時差分を用いた骨転移診断支援の使用経験 
森本  毅(聖マリアンナ医科大学 放射線診断・IVR学講座)
Healthcare IT Session

2024-6-25


森本  毅(聖マリアンナ医科大学 放射線診断・IVR学講座)

本講演では,キヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューションである「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」の機能の一つ,「Temporal Subtraction For Bone(TSB)」について,当院での使用経験を症例を交えて報告する。

転移性骨腫瘍の画像診断

骨は肺や肝臓に次いで転移を来しやすい臓器であり,日常診療で頻繁に遭遇する。転移性骨腫瘍の主な症状には,局所の疼痛,骨の脆弱化による病的骨折,脊髄神経圧迫による疼痛や麻痺などがあり,これらは機能障害やQOLの低下につながるため,早期発見と治療が重要である。
骨転移の画像診断においてMRI,PET,骨シンチグラフィの診断能は高いが,これらはルーチンで行う検査ではなく,通常はCTでフォローアップを行い,必要に応じてほかのモダリティで評価することが一般的である。CTでのスクリーニングが重要となるが,骨の解剖学的形状変化が多彩であるため,CT画像で骨をくまなく観察するには時間と労力を要する。また,微細な変化に気がつかなかったり,多くの症例を読影する中で画像を漫然と見てしまい,骨転移を見逃すリスクも存在する。

Temporal Subtraction For Bone(TSB)

TSBは,フォローアップのCT画像に対し,過去画像をPACSから検索して経時差分画像を生成し,その性状変化を強調して表示するアプリケーションである。これにより,骨転移の出現や経時的変化の把握,治療効果の判定などの診断サポートを行う。
TSBはキヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューションであるAbierto RSS上で稼働する。Abierto RSSでは,CTなどの画像データを解析サーバの「Automation Platform」で自動解析し,その結果を画像解析用ビューワ「Findings Workflow」で参照する。Abierto RSSではMR画像の未破裂脳動脈瘤に近しい点の検出や,胸部CT画像の肺野の関心領域抽出,TSBなどのアプリケーションが利用可能で,目的に応じてFindings Workflowで解析結果を確認しながら読影を行う。
TSBの技術的な特徴としては,骨領域識別処理,線形・非線形位置合わせ処理による精度の高い差分処理,骨ランドマーク情報を活用した肋骨・椎体番号の位置同定処理が挙げられる。TSBのFindings Workflowでは,画面左上に過去と今回の2D画像,下段にサブトラクション画像とフュージョン画像,右側に3D画像が表示される(図1)。骨の変化については,前回と比較して濃度が上昇した部位は青色,低下した部位は赤色で表示される。3D画像の任意の部位をクリックすることで,対応する2D画像の断面が表示され,詳細な観察が可能になる。また,矢状断像や冠状断像に切り替えての同様な観察も可能である。TSBの骨ナンバリング機能では,肋骨や椎体の番号が2D画像のスクロールに追従して表示され,これらは矢状断像や冠状断像でも同様に表示される。

図1 肺がん,多発骨転移

図1 肺がん,多発骨転移

 

症例提示

1.肺がん,多発骨転移
通常の読影では,横断像をスクロールしながら,過去画像と比較して観察を行う。横断像では,椎体は比較的視野の中心にあり観察しやすいが,肋骨や肩甲骨,大腿骨などは視野の辺縁部に位置しているため,観察が不十分になる可能性がある。また,肋骨はその形状からスクロールに従って視点を動かしながら観察する必要があり,骨全体を細かく観察するには時間がかかり,見逃しが生じる可能性がある。図1は,肺がん,多発骨転移症例のTSBの画面であるが,3D画像で骨の濃度が上昇した領域が青く表示され,前回画像と比較することで新たに出現した硬化性転移であることがわかる。従来通りの画像評価は必要となるものの,TSBを併用することで見逃しの防止や全体の変化を俯瞰して観察することが可能である。

2.肺がん術後
図2は肺がん術後の症例で,前回画像と比較すると左第1肋骨に溶骨性変化()が出現している。通常の2D画像による観察では,注意して観察しないと見逃す可能性がある病変であるが,TSBの3D画像では溶骨性変化の部分が赤く描出されており(図2 ),見逃しを防ぐことができる。

図2 肺がん術後

図2 肺がん術後

 

3.大腸がん術後,下肢麻痺
図3は,大腸がん術後で肺転移があり,下肢麻痺の症状で受診された症例である。TSBの3D画像では,胸椎に溶骨性変化を疑う赤い領域(図3 )を認め,横断像では椎弓や棘突起が破壊されているのがわかる()。TSBは骨の変化のみを解析しているため,病変の脊柱管進展については検出されない。本症例では,症状からも脊柱管進展が疑われたため,軟部条件で観察したところ,高度な進展を認めた(図3 b)。しかしながら,症例によっては脊柱管進展が軽微な場合もあるため,TSBの解析結果に加えて読影者自身が進展の有無を確認することが必要である。
なお,本症例は,前回のCTで椎体への転移を指摘できなかった症例である。振り返ってTSBで解析を行ったところ,同部位に溶骨性変化を指摘しており,その時点では脊柱管への進展は来していなかった。前回のCT撮影時はTSB導入前であったものの,TSBで解析を行っていたら下肢麻痺は防げた可能性がある一例である。

図3 大腸がん術後,下肢麻痺

図3 大腸がん術後,下肢麻痺

 

4.乳がん,多発溶骨性骨転移,化学療法中
TSBは,新たな転移病変の検出だけでなく,既存の骨転移の経時的変化の評価にも有用であり,骨転移の病勢の把握や,化学療法やホルモン療法の治療効果の評価も可能である。図4は,乳がんのリンパ節転移,肝転移,多発骨転移に対する化学療法中の症例である。前回のCTでは溶骨性変化が散見されるが,治療により硬化した病変が青く表示され,治療効果が一目で把握できる(図4 )。

図4 乳がん,多発溶骨性骨転移,化学療法中

図4 乳がん,多発溶骨性骨転移,化学療法中

 

5.圧迫骨折
TSBは,骨転移だけでなく,骨折を指摘できることもある。図5では,腰椎の椎体が青く表示されており,前回のCTでは確認されなかった圧迫骨折が見られる()。

図5 圧迫骨折

図5 圧迫骨折

 

TSBの利点と注意点

TSBの利点として,(1) 病変の見逃し防止(特に関心領域以外),(2) 病変を微細な初期段階で発見できる可能性,(3) 治療効果判定を含めた全体的な変化を把握しやすいこと,が挙げられる。見逃し防止に関しては,肋骨や肩甲骨,大腿骨など,読影者の視野の中心から外れたり,形状の変化が大きい部分で効果が高いと思われる。また,レジデントなど読影初心者の見逃し防止の効果が高いと考えられる。
一方,注意点としては,TSBはあくまでも補助的なツールであることである。画像の位置ズレの影響など解析が不完全なケースもあり,読影者自身による画像全体の確認は欠かせない。また,大腸がん術後の症例のように脊柱管進展はTSBの解析対象外であり,これも読影者による確認が必要である。さらに,症例や読影者によっては読影時間が短くなることも考えられるが,TSBの使用でかえって読影時間が延びる可能性があることを考慮する必要がある。
TSBへの今後の要望としては,(1) 溶骨性変化の色認識の改善,(2) 位置ズレの改善,(3) 任意の検査との比較が挙げられる。

まとめ

当院でのTSBの使用経験を報告した。TSBの使用により病変の見逃し防止,効率的な評価,読影業務の負担軽減が期待できると考えられる。今後のさらなる機能向上に期待したい。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
* システムによる検出結果のみで病変のスクリーニングや確定診断を行うことは目的としておりません。

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI-1AP
認証番号:302ABBZX00004000

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