Aquilion ONE / INSIGHT Edition─胸部画像診断における高精細ADCTへの期待 
大野 良治(藤田医科大学医学部 放射線診断学講座 / 同先端画像診断共同研究講座)
CT Session

2024-6-25


大野 良治(藤田医科大学医学部 放射線診断学講座 / 同先端画像診断共同研究講座)

大野良治*1, 2,永田紘之*2,植田高弘*1,野村昌彦*1,小澤良之*1
(*1藤田医科大学医学部 放射線診断学講座 *2同先端画像診断共同研究講座)

キヤノンメディカルシステムズ(旧・東芝メディカルシステムズ)は,2007年に160mmの幅を1回転0.35秒で撮影できる320列面検出器型CT(Area Detector CT:ADCT)である「Aquilion ONE」を開発し販売した。その後,2012年には回転スピードを0.275秒まで向上させた「Aquilion ONE / ViSION Edition」,2016年にはさらなる被ばく低減技術を搭載した「Aquilion ONE / GENESIS Edition」を発表している。次いで,新たに人工知能(Artificial Intelligence:AI)技術を応用したDeep Learning再構成(Deep Learning Reconstruction:DLR)や,時相差のないRapid kV switchingとAutomatic Exposure Control(AEC)連動や,Deep Learningを用いた画像再構成技術により実現したSpectral Imaging Systemを開発し,2021年にDLR,Spectral Imaging Systemと新しいCT透視システムを搭載した新世代320列ADCTである「Aquilion ONE / PRISM Edition」を販売開始した。そして,2023年11月に,新たなAI技術を搭載し,ガントリや操作系を一新した320列ADCTである「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」を販売開始した。本稿では,Aquilion ONE / INSIGHT Editionの特徴と胸部領域における高精細ADCTに関する最新技術を紹介する。

Aquilion ONE / INSIGHT Editionの特徴

Aquilion ONE / INSIGHT Editionは,従来から臨床応用されてきたSpectral Imaging Systemはもとより,DLRである「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」,Super Resolution Technologyである「Precise IQ Engine(PIQE)」やAI Workflowなどの先進技術を搭載し,回転スピードを0.24秒とさらなる高速化を実現した,広範囲/高速/高分解能を実現する高精細ADCT(High Resolution ADCT)であり,キヤノンメディカルシステムズのNew Flagship CTである(図1)
従来のADCTと比較した技術的特徴は,(1) さまざまな領域にPIQEを展開したことによるSuper Resolution,(2) AI技術を用いた胸部CTにおける最新Motion Correction,(3) 回転速度0.24秒のHigh Speed Rotation,(4) 新たなX線管球と検出器を用いたNew Optics,(5) 新たなオペレーションシステムとして採用された「INSTINX」と,(6) 2007年の販売以来初のCT装置自体のデザインを一新したことが挙げられる(図2)。本稿においては,上記の特徴の中で,(1) 胸部領域におけるPIQEを用いたSuper Resolutionと,(2) 胸部CTにおける最新Motion Correctionに関して述べる。

図1 Aquilion ONE / INSIGHT Editionの概要

図1 Aquilion ONE / INSIGHT Editionの概要

 

図2 Aquilion ONE / INSIGHT Editionの技術的特徴

図2 Aquilion ONE / INSIGHT Editionの技術的特徴

 

胸部領域におけるPIQEを用いたSuper Resolution

PIQEはAiCEとは異なり,Super Resolution DLRであることから,従来の画像再構成法とは異なる。PIQEは高精細CT(High Definition CT:HDCT)である「Aquilion Precision」のSHR mode(0.25mm×1792ch)を用いた160列(40mm)多列検出器型CT(Multi Detector-Row CT:MDCT)として取得したCTデータを,従来のADCTと同等のNR mode(0.5mm×896ch)の80列(40mm)MDCTとして再構成し,このNR modeのCTデータを入力データとし,高品質なSHR modeのCTデータを教師データとして学習させたDLRである。PIQEの超解像処理により,Aquilion ONE / INSIGHT Editionで取得したADCTデータを,高分解能化とノイズ低減を両立して再構成することが可能である。当初,冠動脈CT Angiography(CTA)用の「PIQE Cardiac」を中心に開発が進められた1),2)(図3)。そして,われわれ藤田医科大学放射線診断学講座は,同大学循環器内科学講座との共同研究により,その臨床的有用性を報告した1)
一方,今回新たに胸部領域のために開発された「PIQE Lung」は,Aquilion ONE / INSIGHT Editionで取得したADCTデータを0.5mmスライス厚で1024×1024マトリックスにて再構成されたHDCTデータとして再構成することを目的として開発されたため,0.5mmスライス厚で1024×1024マトリックス,あるいは512×512マトリックスにて再構成できる。したがって,肺結節や間質性変化などのさまざまな所見や微細な正常肺構造を詳細に評価することが可能である(図4)。現在,HDCTのみならず,新たにPhoton Counting Detector CT(PCDCT)が臨床導入されたことにより,より高精細な胸部CTを用いた放射線診断学研究が進むと考えられる。Aquilion ONE / INSIGHT EditionはHDCTやPCDCTを用いることなく,同様の高精細画像を臨床現場にて提供できることから,放射線診断学や呼吸器学の進歩のみならず,その汎用性や経済効率性等の観点からも,臨床的有用性は大きいと考えられる。

図3 Bentall 術後症例におけるPIQEを用いたSuper Resolution DLR Bentall術後症例のCTAにPIQEを使用することにより,Hybrid-type Iterative Reconstructionである「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」に比して著明な画質改善が認められる。

図3 Bentall 術後症例におけるPIQEを用いたSuper Resolution DLR
Bentall術後症例のCTAにPIQEを使用することにより,Hybrid-type Iterative Reconstructionである「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」に比して著明な画質改善が認められる。

 

図4 右上葉肺がん症例におけるPIQEを用いたSuper Resolution DLR 右上葉肺がん症例をAIDR 3DやAiCEにて再構成したCTデータと比較して,PIQEを用いて512マトリックスや1024マトリックスに再構成したCTデータでは著明な画質改善を示すとともに,1024マトリックスでは結節周囲の微細構造の描出能改善が認められる。

図4 右上葉肺がん症例におけるPIQEを用いたSuper Resolution DLR
右上葉肺がん症例をAIDR 3DやAiCEにて再構成したCTデータと比較して,PIQEを用いて512マトリックスや1024マトリックスに再構成したCTデータでは著明な画質改善を示すとともに,1024マトリックスでは結節周囲の微細構造の描出能改善が認められる。

 

胸部CTにおける最新Motion Correction

Aquilion ONE / INSIGHT EditionではAIを用いたモーションアーチファクト低減技術として,新たに「CLEAR Motion」が臨床導入された。CLEAR Motionは肺野領域におけるモーションアーチファクト低減を目的とし,肺野領域の血管,気管支,葉間膜,大動脈等のさまざまな構造などに対するモーションアーチファクト低減を実現するDLRであり, 深層学習を用いることで高精度なモーション推定と高速再構成を実現した。本技術はHelical Scanを対象とし,Hybrid-type Iterative Reconstruction法であるAIDR 3D,DLR法およびSuper Resolution DLR法であるAiCEやPIQEとの併用が可能である。そのため,呼吸器領域におけるさまざまなアーチファクト低減による診断精度の向上を可能にするのみならず,再撮影によるX線被ばくの削減や臨床現場におけるワークフローの向上が可能になる(図5)

図5 AI-Based Motion CorrectionであるCLEAR Motionによる胸部CTにおける画質改善 CLEAR Motionを用いてCT画像を再構成することにより,大動脈弓および左室による心拍に伴うモーションアーチファクトが改善されている。

図5 AI-Based Motion CorrectionであるCLEAR Motionによる胸部CTにおける画質改善
CLEAR Motionを用いてCT画像を再構成することにより,大動脈弓および左室による心拍に伴うモーションアーチファクトが改善されている。

 

結 語

新たに臨床導入されたAquilion ONE / INSIGHT Editionは,従来のADCTの機能に加えて,Wide volume coverageをより高速で撮影可能であるだけでなく,AIを用いて高分解能化を可能にしたPIQEによる高精細再構成が可能であるため,HDCTであるAquilion PrecisionやPCDCTなどとともに,臨床現場でより簡便な高精細CT用のNew Standard CTとして活用されると考えられる。また,CLEAR MotionはPIQEと併せて,胸部CTの最重要臨床技術であり,高精細画像による形態診断のみならず,機能診断への応用も期待され,肺機能CTのさらなる発展と呼吸器診断および診療への貢献が期待できることから,早期での臨床導入を期待したい。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
* 本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

●参考文献
1)Kawai, H., Motoyama, S., Sarai, M., et al. : Coronary computed tomography angiographic detection of in-stent restenosis via deep learning reconstruction : A feasibility study. Eur. Radiol., doi: 10.1007/s00330-023-10110-7, 2023 (Online ahead of print).
2)Greffier, J., Pastor, M., Si-Mohamed, S., et al. : Comparison of two deep-learning image reconstruction algorithms on cardiac CT images : A phantom study. Diagn. Interv. Imaging, 105(3):110-117, doi: 10.1016/j.diii.2023.10.004, 2024.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000

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