Aquilion ONE / INSIGHT Edition─超解像技術が導く腹部領域のCT画像診断 
鈴木耕次郎(愛知医科大学医学部 放射線医学講座)
CT Session

2024-6-25


鈴木耕次郎(愛知医科大学医学部 放射線医学講座)

愛知医科大学病院では,キヤノンメディカルシステムズの「Aquilion Precision」など計5台のCT装置が稼働しており,2023年11月には新たに同社の最新型320列CT「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」の運用を開始した。現在,腎機能低下例を中心に70kVを用いて造影剤量を低減した撮影の取り組みを行っている。本講演では,Aquilion ONE / INSIGHT Editionにおける低管電圧撮影に有効と思われる特徴やファントム検証の結果などを紹介した上で,腹部領域の撮影について臨床画像を踏まえて報告する。

低管電圧撮影に有効な特徴

Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは,超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」の腹部領域への適用(PIQE Body),管電圧は70kVを使用可能(従来は80kVまで),最大管電流は1400mAまで出力可能(従来は900mAまで)という3点を実現しており,低管電圧撮影に有効と思われる。なかでもPIQEは,Aquilion Precisionの高精細画像を教師データとしたDeep Learning再構成技術で,1024マトリックスの画像再構成が可能であり,当院の臨床画像の比較でもAquilion Precisionとかなり近似した画像が得られた(図1)

図1 PIQE BodyとAquilion Precisionの臨床画像(別症例)の比較

図1 PIQE BodyとAquilion Precisionの臨床画像(別症例)の比較

 

ファントムでの検証

1.各管電圧における造影効果(CT値上昇)の検証
造影剤の低減率を決定するために,ファントムを用いて各管電圧における造影効果を検証した。ファントム中心にヨードロッドを配置し,濃度を2・5・10・15・20mgI/mLと変更しながら,管電圧70・80・100・120・135kVで同一ROIをそれぞれ3回撮影し,CT値を計測後に平均値を算出した。再構成条件はPIQE Body Mildを用いた。
図2に結果を示す。同一ヨード濃度で比較した場合,15mgI/mLでは120kVが306HU,70kVが757HUであり,5 mgI/mLでは120kVが110HU,70kVが225HUと,70kVではいずれも2倍以上のCT値上昇を認めた。造影剤量を変えずに120kVから70kVに変更した場合,2倍以上の造影効果が得られることが示唆された。また,目標CT値を100〜300HUとして必要な造影剤量を求めたところ,70kVでは120kVと比較し平均51%の造影剤量低減が可能となる。これらの結果を踏まえ,臨床における造影剤量低減率は50%程度が妥当と考えた。

図2 各管電圧における造影効果(CT値上昇)の検証

図2 各管電圧における造影効果(CT値上昇)の検証

 

2.各管電圧におけるノイズ(SD)の検証
腹部ファントムを用いて,70kVにおけるSDの評価を行った。管電圧70・80・100・120・135kVにて管電流を100mAずつ変更しながら同一ROIをそれぞれ3回撮影し,SD値を計測後に平均値を算出した。ROIはL1レベルの肝実質の均一部分に設定し,再構成条件はFBP(FC13)とPIQE Body Mildを用いた。
結果をまとめると,FBPでは同一CTDIvolの場合,線量帯によらず120kVに比べて70kVでSD値が高くなる傾向が見られた。一方,70kV PIQEでは,FBPと比較して大幅にSD値が低減しており,また,線量帯によらず値が一定であった。これにより,PIQEは,70kVで問題となるノイズ成分を補うアプローチとなりうることが確認できた。ファントム画像でも,70kV PIQEはコントラストが良好でノイズも少なく,最も優れた画像であることが一目瞭然であった。

低管電圧撮影の臨床評価

1.臨床画像における造影効果の評価
ファントム検証の結果を基に,当院では,PIQEを適用し低管電圧で造影剤投与量を40〜50%低減したプロトコールでの腹部ダイナミックCT撮影を開始した。ヨード量600mgI/kgを規準として,体重70kg以下では70kVの撮影でヨード量は50%減の300mgI/kg,体重71kg以上では十分な管電流を確保するため80kVで撮影し,ヨード量は40%減の360mgI/kgとした。
PIQE適用の造影剤量半減・低管電圧撮影にて肝造影CTを施行した当院の連続24症例について,肝両葉の3点にROIを置いてCT値を計測し,平均値を算出した。肝造影CTでは,造影前に比べて門脈相でCT値が50HU以上に上昇することが造影剤量の規準とされるが,当院の24症例の平均は56.5HUであり,ほとんどの症例で基準値を超えていた。実際の画像では,微小かつ周囲が実質臓器や脈管,脂肪に囲まれて視認しづらい肝外胆管が明瞭に描出されており,胆管の走行や壁の性状などを詳細に評価可能であった。

2.被ばく線量に関する検討
当院の肝胆膵ダイナミックCT(単純+造影3相)の撮影条件について,Aquilion ONE / INSIGHT Editionの造影剤量半減・70kV PIQEの撮影と,従来CTの通常造影剤量(600mgI/kg)・通常管電圧(100/120kV)での撮影(hybrid IR適用)を比較した。Aquilion ONE / INSIGHT EditionのCTDIvolは6.5〜7.7mGy,DLPは950〜1500mGy・cmであるのに対し,従来CTではCTDIvolが100kVで5.5〜8mGy,120kV で8〜10mGy,DLPは100kVで900〜1200mGy・cm,120kVで1300〜1650mGy・cmであり,大きな差は認めなかった。また,いずれも「日本の診断参考レベル(2020年版)」(DRLs 2020)におけるCTDIvol(17mGy)およびDLP(2100mGy・cm)の値を下回っていた。

3.臨床画像供覧
当院の条件にて撮影した正常肝の画像を比較したところ,Aquilion ONE / INSIGHT Editionの70kV PIQEでは造影剤量を半減しているにもかかわらず,従来CT・通常造影条件と遜色のない画像が得られていた(図3)
実際の画像を供覧する。症例1は,肝左葉外側区にある限局性結節性過形成疑いの多血性結節である(図4)。動脈相で濃染し,門脈相,平衡相で周囲肝実質と等吸収を呈しており,被膜構造は認めない。造影剤量を半減しても,診断には何ら影響がないことは明らかである。
症例2は,膵頭部がんの症例である(図5)。動脈相で膵実質よりも低吸収を呈する不整形な腫瘤を認め,平衡相では遅延性に濃染されていることがわかる。
なお,造影剤量が同じであれば,70kVでは120kVの2倍の造影効果が得られるため,70kV PIQEは造影効果の増強を目的とした使用も可能である。

図3 正常肝(同一症例)におけるAquilion ONE / INSIGHT Editionと従来CTの画像比較

図3 正常肝(同一症例)におけるAquilion ONE / INSIGHT Editionと従来CTの画像比較

 

図4 症例1:肝左葉外側区の限局性結節性過形成疑い

図4 症例1:肝左葉外側区の限局性結節性過形成疑い

 

図5 症例2:膵頭部がん

図5 症例2:膵頭部がん

 

考 察

70kV PIQEの撮影はノイズも少なく,造影剤を半減させても腹部領域の診断に問題なく使用可能である。低管電圧撮影は,臓器の染まりを通常CTの見え方に合わせた場合,動脈,門脈,静脈は通常CTよりも高吸収に描出される。これは,低管電圧撮影ではヨード濃度が高いほどCT値が通常撮影以上に高くなる傾向があり,それを反映しているためと考えられる。また,肝門部での動脈と門脈の描出能は十分に担保されていたが,肝内の脈管描出は通常CTの方が良好なケースもあり,検査目的によってはプロトコールの再考の余地があると考えている。

まとめ

PIQEを用いた低管電圧撮影では,従来CTによる通常管電圧の撮影と同等の画質が得られるほか,造影剤量の半減が可能であり,特に腎機能低下例の造影CT検査に有用と考えられる。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
* PIQEは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000

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