岩手医科大学附属病院 読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution」
AI技術を用いて開発した骨経時差分処理「Temporal Subtraction For Bone」で骨転移の見逃しを防ぐ
Case Study CanonヘルスケアITの最前線
2024-1-10
岩手医科大学附属病院(病床数1000床)は,北東北における重要な医療拠点として医療・教育・研究の三位一体で高度医療を提供している。同院放射線科では,キヤノンメディカルシステムズが提供する読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution」搭載の骨経時差分処理「Temporal Subtraction For Bone」を2023年4月に導入,検査の多くを占めるがんフォローアップ症例の骨転移読影に活用している。その有用性や今後の期待について,放射線科の折居 誠医師,曽根美都医師にインタビューした。
がん診療連携拠点病院として東北地方のがん医療を担う
岩手医科大学附属病院は,2019年9月に盛岡市内から同県紫波郡矢巾町に移転した。20室の手術室や高度救命救急センター,ドクターヘリポートなどを備える国内最大級規模の医療施設として,東北地方の医療体制の中核を担っている。同院は,都道府県がん診療連携拠点病院に指定されており,がんセンターを中心として専門的ながん医療の提供や地域連携協力体制の構築などを担う。がんセンターでは骨転移カンファレンスを毎月2回開催し,多職種が参加して骨転移症例の治療などについて検討を行っている。
同院の放射線科・中央放射線部には,放射線科医常勤16名(歯科放射線2名),診療放射線技師81名が所属し,CT装置7台,MRI装置3台を保有している。1日あたりの検査数はCTは約100件,MRIは約40件だが,がん治療薬などの進歩による生存率向上に伴い,担がん患者の精査や骨転移を含めたフォローアップ検査が全検査の70〜80%を占めている。
骨転移の発症率は高く,同院ではフォローアップ症例はすべて骨転移を念頭に読影を行っている。しかし,読影医にとっての負担は少なくなく,折居医師は,「東北地方は放射線科医が少ないこともあり,当院では専門を問わず,1人の医師が1人の患者の全身画像を読影します。軟部・肺野条件などの全身検索後に骨条件で確認するため,読影に時間を要する上,骨転移は病型が多様で体軸断面で連続性を追いづらく,見落としの危険性が高いです」とその難しさを指摘する。
骨経時差分処理Temporal Subtraction For Boneを導入
そのような環境の中,同院では2023年4月に骨経時差分処理Temporal Subtraction For Bone(TSB)を導入した。TSBは,キヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューションAbierto Reading Support Solution(Abierto RSS)上で稼働するアプリケーションで,骨の性状変化を強調して表示することで,骨転移読影を支援する。
TSBを導入した理由について,折居医師は次のように話す。
「2022年度診療報酬改定で画像診断管理加算3の施設基準に,新たにAI関連技術を適切に管理する体制が要件として追加されたことがきっかけです。われわれは以前から骨転移病変の同定を目的としたAIアプリケーションの開発に取り組んでいたのですが,開発の難易度が高く思うように進んでいませんでした。しかし,骨転移検索は見落としが多く読影の負担も大きいことから,これを補助するシステムを探していたところ,キヤノンメディカルシステムズのTSBが骨の経時差分を利用するというまったく別のアプローチのアプリケーションであり,可能性を感じたことから導入を決めました」
自動処理と観察しやすい画面レイアウトで骨転移読影を支援
TSBの骨差分処理は,Abierto RSSの画像解析用サーバ「Automation Platform」上で全自動で行われ,対象となる検査画像が送信されると,過去画像の取得,骨領域識別やLDDMM法による非線形位置合わせ,適応的差分処理によるノイズ低減と,解析結果のPACSへの転送までが自動で行われる。同院では,解析結果のキャプチャ画像をPACSに送信し,CTの一連のシリーズの中に表示されるフローを構築している。曽根医師は,「読影開始時には解析結果がビューア上で確認できるので,新たな作業や待ち時間はありません。キャプチャ画像でTSBの解析結果を確認し,必要に応じて解析結果参照の専用ビューアのFindings Workflowで確認します」と説明する。
TSBでは,CT値が上昇した部分を青,低下した部分が赤で示される。骨転移病変では,硬化型はCT値が上昇,溶骨型では低下するため,その混合型などさまざまな病型の描出が可能となる。曽根医師はTSBを用いた読影について,「CTで視認が難しい骨梁間型以外は検出が可能で,脊椎の後方成分である横突起や棘突起などの見逃しやすい小さな病変の拾い上げにも効果を感じています。そのほか,扁平な形態の肩甲骨や三次元的に複雑な形状の肋骨なども有用です。骨転移は多発例が多いのですが,TSBでは進行に伴って性状が変化する多発病変も,カラーで変化部位をとらえることが可能で,負担なく確認できます」と述べる。折居医師は,「経時変化が検出されるので,骨転移だけでなく高齢者の新規の圧迫骨折や肋骨骨折を偶発的に拾い上げてくれます。これらは水平断でのスクリーニングでは見つけづらく,TSBが有用なところです」と言う。
Findings Workflowでは,過去,今回,サブトラクション,フュージョン,3Dフュージョンが一画面で表示される。曽根医師は,「Findings Workflowのレイアウトは,骨の経時変化が観察しやすく,冠状断像,矢状断像への切り替えや3D画像の回転表示などが可能で,全体像や各病変の形態が容易に把握できます」と評価する。
同科では全読影医がTSBを利用しているが,読影順序は各自の判断に委ねられている。自身はTSBを先に確認するという折居医師は,「解析結果から骨転移の疑いがあれば,読影開始前に骨条件の画像再構成を診療放射線技師に依頼することで,その分スムーズに読影が終了しトータルでの読影時間は短縮できると思います」と述べる。
折居医師は,TSBの利点は時間短縮よりも,見逃し防止など読影の質の向上や医療安全の側面が大きいと言う。
「TSBによって読影者の検索の時間や労力は確かに削減しますが,結局ピックアップされた病変を確認する時間や手間は増えており,AIが拾い上げる病変が増えれば,それだけ放射線科医の業務は増えるわけで,トータルでは負担増だと言えます。むしろTSBのメリットは,見落としをできるだけなくし,確実に拾い上げられることにあり,医療の質向上や医療安全の観点で評価することが重要です」
見逃しを防止して読影の質を向上するTSBの役割に期待
導入から約半年が経過し,TSBは放射線科の読影医からは好評を得ている。折居医師はTSBについて,「骨転移検出AIの開発に取り組んだ経験から,理想は新規を含めて病変を同定するAIですが,その開発には大変な時間とコストがかかり現実的ではないことを実感しています。実際にはTSBがピックアップした病変を,放射線科医が責任を持ってフォローする今の方法が最適解ではないかと考えています。そのためにも,解析精度の向上やPACSビューアとのシームレスな連携など,現場の要望を反映してさらに機能を向上してほしいですね」と要望する。
曽根医師は,TSBは骨領域に特化しているため周囲の軟部組織や脊柱管などへの浸潤が描出されず病変が過小評価されることもあり,「TSBの特性を理解して,通常画像と併せて確認することが重要です」と指摘する。10月に行われたバージョンアップでは,肋骨や脊椎のナンバリング機能が新たに追加されたほか,上腕骨や肩甲骨,大腿骨など撮影時のポジショニングの相違で生じるミスレジストレーションへの対応が図られた。曽根医師は,「ストレスのない読影ができるようにさらなる機能の向上に期待しています」と述べる。
アプリケーションの活用で医療従事者の負担軽減などを通じて,働き方改革の実現につながることに期待したい。
(取材日:2023年9月29日)
岩手医科大学附属病院
岩手県紫波郡矢巾町医大通二丁目1番1号
TEL 019-613-7111
https://www.hosp.iwate-med.ac.jp/yahaba/
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※Abierto Reading Support SolutionはAbierto SCAI- 1 APの愛称です。
一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI- 1 AP
認証番号:302 ABBZX 00004000
※記事中にある骨転移など病変の記載は医師の診断に基づきます。装置やソフトウェアが判断するものではありません。
※記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
※記事中にあるAIという記載は設計段階でAI技術を用いたことを示しており,システムに自己学習機能を有するものではありません。