高精細CTとAiCEが耳鼻科領域の画像診断にもたらす変化 
吉岡 哲志(藤田医科大学医学部 耳鼻咽喉科 頭頸部外科)
Session(3) : CT

2023-6-26


吉岡 哲志(藤田医科大学医学部 耳鼻咽喉科 頭頸部外科)

耳鼻咽喉科・頭頸部外科は,非常に幅広く専門性の高い分野であり,多種多様な部位・疾患に応じた撮影やマクロ・ミクロの解剖学的理解が求められる。画像診断においては,機能や病態の評価を目的とした高精度な形態学的評価が必要となる。また,症例に応じて個別的に,治療選択に役立つ画像診断を行う必要がある。
一方,CTは従来,主に検出器の多列化,高速化,被ばく低減に開発の重点が置かれてきたが,2017年に空間分解能を飛躍的に高めた高精細CT「Aquilion Precision」が登場し,診療に大きな変革をもたらした。本稿では,Aquilion Precisionや,Deep Learning Reconstruction(DLR)である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」が耳鼻咽喉科領域の臨床にもたらす価値について報告する。

Aquilion Precisionの臨床活用

1.副鼻腔領域
副鼻腔炎に対する鼻内内視鏡手術では,前頭洞を開放する必要があるが,眼窩や頭蓋底などの危険部位と隣接しているほか,鼻副鼻腔構造は患者によって千差万別であり,術前評価が肝要である。Aquilion Precisionは,貯留液に隣接する薄い骨構造なども明瞭に描出でき,安全な手術計画に有用である。
図1は,急速に進行する視力・視野障害による受診例である。Aquilion Precisionにより蝶形骨洞病変や微細な視神経管,頭蓋底方向への骨破壊,眼窩尖端への進展が描出され,後に骨髄腫と診断された。軟部病変に埋もれた微細な骨変化が描出され,病態の把握に有益であった。

図1 眼窩尖端症候群(骨髄腫,71歳,男性) →:微細な骨破壊とともに,眼窩・頭蓋底への腫瘍の進展が描出されている。

図1 眼窩尖端症候群(骨髄腫,71歳,男性)
:微細な骨破壊とともに,眼窩・頭蓋底への腫瘍の進展が描出されている。

 

2.舌口腔領域
舌がんは,高確率で生じるリンパ節転移が予後を大きく左右する。腫瘍の大きさよりも深達度がリンパ節転移の重要な因子であり,かつ予後に影響することが明らかとなったことから,舌がんのT分類に病変の浸潤の深さという概念が加わった。Aquilion Precisionは,深達度の評価に有用である。
図2は,従来のT分類ではT1である可能性も考えられたが,Aquilion Precision(a)にて腫瘍が細く深部に浸潤している様子が描出された。深達度は12mmと診断し,深部浸潤を疑い,再建を伴う舌半切を選択した。術後の病理所見(図2c,d)では深達度は11mmであり,術前CTにて近似した画像が得られていたことが確認できた。本症例は,Aquilion Precisionによる舌がんの術前診断が治療方針の決定に変革をもたらす可能性を示唆している。

図2 舌がん(深部浸潤)症例(75歳,女性)

図2 舌がん(深部浸潤)症例(75歳,女性)

 

3.喉頭領域
発声を目的とした声帯の位置移動術では,ミリ以下の単位での位置調節が必要であり,Aquilion Precisionが術前評価や手術計画に有用であることが報告されている1)

4.耳側頭骨領域
耳側頭骨領域については後述するため,ここでは割愛する。

耳鼻咽喉科領域へのAiCEの応用

AiCEは,ノイズの多い画像を良好に補正してノイズの少ない画像として出力する技術であり,2022年秋には中内耳用の「AiCE Inner Ear」が登場した。Aquilion Precisionの高精細画像にこのパラメータを使用することで,従来装置を凌駕する高画質が得られる。以下に,当院での使用例を提示する。

1.真珠腫の病態評価
真珠腫の手術では側頭骨を削開して病変を摘出するが,多くの症例では,病変とともに耳小骨を取り外し,軟骨や骨,人工物などでつなげ直す再建術を行うため,危険部位の破壊度の理解がきわめて重要である。
図3は,真珠腫性中耳炎の進展例である。病変が側頭骨天蓋部分の骨を腐食し,頭蓋底の欠損を来している。AiCE(図3 b)では,ノイズが低減し,病変部位の微細な形態変化が明瞭化した。外側半規管瘻孔などの重要臓器への病変進展の態様の把握,術前評価に有用である。

図3 真珠腫性中耳炎の進展例(77歳,男性) →:病変が側頭骨天蓋部分の骨を腐食し,頭蓋底の欠損(*)を来している。 ※Adaptive Iterative Dose Reduction 3D:AIDR 3D

図3 真珠腫性中耳炎の進展例(77歳,男性)
:病変が側頭骨天蓋部分の骨を腐食し,頭蓋底の欠損()を来している。
※Adaptive Iterative Dose Reduction 3D:AIDR 3D

 

2.低線量撮影症例
図4は耳小骨低形成症例であるが,小児のため可能なかぎりの線量抑制が求められる。CTDIvol:10.8mGyのため元画像(図4 a)はきわめてノイズが多いが,AiCE(図4 c)では耳小骨の形成不全や位置異常,アブミ骨が痕跡的であることが視認できる。新生児や乳幼児期における低線量撮影での微細な構造物の描出と形態評価には,特にAiCEが有効である。

図4 耳小骨低形成症例(1歳5か月,女児)

図4 耳小骨低形成症例(1歳5か月,女児)

 

3.脱灰・硬化病変の評価
鼓室硬化症は,中耳の慢性的な炎症により異常な石灰化病変が徐々に進行し,耳小骨の可動性を損なわせる疾患である。手術による病変摘出や清掃を行うが,石灰化範囲のより正確な描出にAiCEが有用である。
また,耳硬化症は,前庭窓や蝸牛の周囲に異常な骨脱灰が生じアブミ骨が振動しなくなる進行性の疾患である。アブミ骨の底板に開けた小孔に約1mmの人工耳小骨を装着するアブミ骨手術は,世界一細密な手術とも言われており,その術前評価においてAquilion PrecisionとAiCEが特に威力を発揮する。図5は実際の症例であるが,AIDR 3D(a)や元画像(b)ではノイズのため視認しづらい異常な脱灰が,AiCE(c,d)ではノイズが低減され,より正確に描出できている。

図5 耳硬化症症例 →:異常な脱灰

図5 耳硬化症症例
:異常な脱灰

 

4.微細組織の解剖学的評価
近年,中耳領域では内視鏡手術が新たなイノベーションとなり,腱や神経の微細な軟部構造の立体解剖を把握する必要性や重要性が増している。AiCEでは,従来装置にて描出が困難であった鼓膜張筋や腱,鼓索神経(図6)などを明瞭に描出可能である。

図6 鼓索神経の描出例(47歳,女性) →:鼓索神経。鼓膜裏面で耳小骨間を走行し,側頭骨内を下降する。 →:鼓膜

図6 鼓索神経の描出例(47歳,女性)
:鼓索神経。鼓膜裏面で耳小骨間を走行し,側頭骨内を下降する。
:鼓膜

 

まとめ

個別的な対応が求められる耳鼻咽喉科においては,Aquilion PrecisionおよびAiCEの有用性は特に高いと実感しており,今後も臨床応用を進めていきたい。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
*AiCEは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

●参考文献
1)Miyamoto, M., et al. Eur. Arch. Otorhinolaryngol., 276:3159-3164, 2019.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000

 

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