1.5T DLR-MRIの新たな可能性〜検査の安定性向上をめざして〜
植田 高弘(藤田医科大学ばんたね病院 放射線科)
Session2 MRI
2022-6-24
“Deep Learning Reconstruction(DLR)”は,人工知能(AI)技術の一つであるディープラーニングを用いて設計したSNR向上技術であり,これを搭載したMRI装置がDLR-MRIである。キヤノンメディカルシステムズでは,フラッグシップ3T装置をはじめ,1.5T装置においてもDLR-MRIを展開しており,藤田医科大学ばんたね病院では1.5Tの「Vantage Orian」と3Tの「Vantage Galan 3T / Focus XG Edition」が稼働している。本講演では,当院におけるDLR-MRIの活用について,Vantage Orianの臨床画像を提示して報告する。
DLR-MRIによって得られた恩恵
1. “Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”の概要
キヤノンメディカルシステムズのDLRであるAiCEは,ノイズ除去再構成技術であり,SNRの低い画像に適用することで,SNRを大幅に向上した画像の取得が可能となる。一般的なフィルタ処理では画像にボケが生じるため,処理前後の画像を差分すると辺縁の信号が残存するが,AiCE使用前後の画像を差分してもノイズ以外は残存せず,解剖学的構造に影響することなくノイズだけが除去される。AiCEでは,主にコントラストに寄与する低周波成分を学習ネットワークから除外し,ノイズを含む高周波成分のみを学習させることで,画像種依存のないノイズ除去が可能となる。
2.高分解能化
図1は子宮頸がんの症例で,aは基靱帯レベルの子宮頸部病変,bは腟病変である。いずれもスライス厚4mmの画像では腫瘍浸潤が不明瞭であるが,AiCEを適用したスライス厚2mmのthin slice imageでは,3時方向の子宮傍組織浸潤や腟前壁への浸潤が明瞭となり(↓),ステージングに有用であった。
このように,AiCEを適用したthin slice imageをルーチン検査に追加することで,微小な構造物を明瞭に評価でき,さらなる診断能の向上が期待できる。
3.画質を保ったまま短時間化
1)Compressed SPEEDER
compressed sensingとparallel imagingを組み合わせた高速撮像技術である“Compressed SPEEDER(CS)”は,本撮像のk-spaceデータを用いて生成したマルチセンシティビティマップを,parallel imagingの展開やcompressed sensingの繰り返し計算に用いることが特徴である。parallel imagingにおけるエンコード依存性を低減するとともに,compressed sensingにおけるランダムノイズやwavelet変換における閾値の低減が図られ,高速イメージングでの画質劣化を防いでいる。
われわれは,AiCEを適用したCSの有用性として,女性骨盤部のT2強調画像において従来法のparallel imagingよりも検査時間を短縮し,画質を改善させることを報告した1)。図2は,実際の子宮筋腫症例のT2強調画像であるが,AiCEを適用したCS(b)では,従来法(a)と比較して撮像時間が短縮するとともに,ノイズが除去され,子宮筋腫がより明瞭に描出されている。結果として,患者負担の軽減や検査の効率化にも寄与すると考える。
2)Fast 3Dモード
“Fast 3Dモード”は,k-spaceの充填方法を工夫することで撮像時間を短縮する技術である。従来の3D収集では,1TRごとに1スライスエンコードの信号収集を行うが,“Fast 3D Multiple”では1TRごとに2スライスエンコードの信号収集を行うことで,撮像時間を半分に短縮することができる。また,Fast 3D Wheelでは,k-space中心から高周波部に向かってジグザグに信号収集を行う。その際,高周波部分をすべて埋めず,コントラストに
影響しづらい外周部の信号を収集しないことで,撮像時間の短縮を図っている。
図3はMRCPであるが,撮像時間1分58秒の従来法の画像(b)と比較し,Fast 3Dモードを適用した撮像時間20秒のbreath hold 3D MRCP(a)では,呼吸によるモーションアーチファクトの影響がなく,胆囊管などの細かな構造が明瞭に描出されている。患者の呼吸状態に合わせてFast 3Dモードを適用することで,画像の明瞭化と短時間での撮像が可能となる。
日常検査の質と検査安全性の向上
1.FSE-Exsper
キヤノンメディカルシステムズのMRIでは,新たなparallel imaging法として“Expanded SPEEDER(Exsper)”が使用可能となった。通常のparallel imagingは,本スキャンとは別にマップスキャンも行い,それぞれのコイル感度マップを用いて展開処理を行っている。Exsperも位相エンコード数を間引くことで高速撮像を行うが,k-space中心近傍は間引かずにサンプリングを行い,キャリブレーションデータとして展開計算に用いる。スキャン中にキャリブレーションデータを取得するため,本スキャンと感度情報の一致度が高く,かつk-spaceにおける相関を利用して実空間での合成計数を求めるため,従来の“SPEEDER”と比較して展開アーチファクトの低減が可能となる。
図4は,SPEEDER とExsperの比較である。位相エンコード方向が体軸方向(HF)のため,SPEEDER 2倍速の画像では,no wrap(NW)を1.2と短くすると,撮像時間は短くなるものの画像中心に展開アーチファクトが生じる(b↓)。一方,Exsperは展開精度が高いため,NW1.2の3倍速においても展開アーチファクトが生じず,より短時間での撮像が可能となる(c)。
図5は,前立腺の評価目的に撮像されたT2強調画像(上段)とT1強調画像(下段)であるが,従来法(SPEEDER:a)と比較して,Exsper(b)とCS(c)ではより短時間の撮像でモーションアーチファクトが低減している。上段のT2強調画像における前立腺移行域を詳細に見ると,Exsperでは被膜などの微細な構造をより明瞭に描出していることを確認できる(↑)。また,下段のT1強調画像では,Exsperの方が腸管辺縁を鮮明に描出している。
以上より,CSやExsperでは撮像時間の短縮によってモーションアーチファクトが低減され,従来法よりも画質が向上すると考える。CSは位相エンコード方向に生じるモーションアーチファクトに強く,一方,Exsperは鮮明な画質を保ちつつ高速化でき,特に淡いコントラストで有用な可能性がある。なお,CSとExsperの使い分けは,今後の検討課題である。
2.RDC DWI
“RDC(Reverse encoding Distortion Correction) DWI”は,EPIシーケンスにおいて,位相エンコード方向の反転により画像歪みの方向も反転することを利用して,位相エンコード方向の画像歪みを低減させる技術である。両方向のデータを収集し,それぞれの画像を補正後に加算した画像を出力することで,拡散強調画像(DWI)の歪みが低減される。
図6は卵巣成熟奇形腫の症例であるが,従来のDWI(a)で見られる磁化率アーチファクトがRDC DWI(b)では消えており(↑),よりT2強調画像(c)に類似した像を呈している。
磁化率アーチファクトを低減することで,腫瘍辺縁の拡散低下を示す壁在結節や微小な腫瘍の検出,播種結節などの偽病変との鑑別,腫瘍の進行期の評価などに有用な可能性がある。また,信号ムラが軽減されることで,背景の解剖学的構造の描出がより鮮明かつ均一となる。なお,子宮がんの症例において,従来のDWIとRDC DWIのADCマップを比較したところ,ADC値に大きな違いは認めなかった。
まとめ
キヤノンメディカルシステムズのDLR-MRIに搭載されているAiCEは,さまざまなシーケンスに用いることができ,高精細化による診断能向上や撮像時間の短縮を実現する。CS,ExsperやRDC DWIの活用により,アーチファクトや画像の歪みが低減され,診断能ならびに検査の安定性向上が期待できる。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
* AiCEは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
●参考文献
1)Ueda, T., et al., Eur. J. Radiol., doi: 10.1016/j.ejrad.2020.109430, 2021.
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000
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