高精細CTによる脳血管障害シミュレーション画像の新たな展開
三上 毅(札幌医科大学医学部 脳神経外科)
Session1 CT
2022-6-24
当施設に初めてMDCTが導入されてから約20年が経過した。更新ごとに最新の装置を導入し,現在はキヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」をはじめ4台のCTが稼働している。
「Ziostation2」(ザイオソフト社製)を使用したプランニング画像解析では,徹底したセグメンテーション(区分け処理)にこだわってきた。カンファレンスでの医師と診療放射線技師の意見交換をとおして画像作成文化が醸成され,現在はほかの診療科からもプランニング画像を求められるようになっている。画像作成には,「治療において本当に役立つ画像とは何か」を念頭に取り組んでおり,手術のプランニングにおいては「最善の道」と「危機管理」を検討することが重要と考えている。
本講演では,Aquilion Precisionによる脳動静脈奇形(AVM),動脈瘤,もやもや病のシミュレーション画像について紹介する。
AVM
当施設におけるAVMの治療戦略は,新しい技術の導入や装置の更新に伴って進化してきた。2007年に導入したMDCTによる3D CTAプランニングは当初から力を入れており,特に,全体像や手術での術野を推定しやすい骨透過イメージと流入血管イメージを重視して検討を重ねてきた。2021年に導入したAquilion Precisionもプランニング画像作成に活用している。
症例1(図1)は20歳代,男性で,左前頭葉運動野のAVM(→)である。骨透過イメージ(a)では全体構造を把握するとともに,開頭やアプローチ,髄液排出部位を想定することができる。流入血管イメージ(b)では血管を色分けすることで,どの血管から流入しているかが一目でわかるようにしている。脳や異常血管塊(nidus),流出静脈を透過することで流入血管を抽出でき,実際の術野はおおむねプランニング画像どおりであった。
症例2(図2)は40歳代,女性,出血発症のAVM(←)である。AVMが散在しており切除ラインの決定が難しい症例だが,詳細に検討すると出血は脳室内に限局しており,脈絡叢内側に確認された脳動脈瘤(→)が出血源と判断されたことから,動脈瘤切除を行った。プランニングでは,脳表から脳と血管を削っていくような画像を作成することで,脳溝とAVM,脳室の位置関係を把握でき,nidusに接しながら脳室に向かうことで脳動脈瘤に到達するというイメージを持つことができる(d〜f)。
2007年から現在までに,64例のAVMを経験している。Grade 3以下が92%を占め,治療による合併症はほとんどなし,あるいは軽症であった。一方で,ハイグレード病変については神経学的後遺症リスクが高いことから,術中モニタリングの新たな展開が必要と考えている。術前術中血管評価に用いられるCTA,術中DSA,ICGは,それぞれが相補的な役割を担うが,将来的にCTAが術中評価としてより簡便かつリアルタイムに実施できるようになることで,術中DSAが不要になると期待している。
動脈瘤
2007年から現在までに,指導例を含め262例の脳動脈瘤治療を行ってきた。約1/5は大・巨大動脈瘤や解離性脳動脈瘤などの治療戦略が複雑な動脈瘤で,血行再建術/頭蓋底外科手技の選択や,術野をどこまで広げるかが戦略検討のポイントとなる。ここで重要なのが血管解剖と頭蓋底解剖の情報で,これを基に最終的にクリッピングとトラッピングのどちらを選択するか,あらかじめ検討する必要がある。
症例3(図3)は,50歳代,女性の内頸動脈瘤である。Aquilion Precisionでは,穿通枝の前脈絡叢動脈を明瞭に描出でき,また後交通動脈が動脈瘤の内側に張り付くように存在していることを確認できる(a)。前脈絡叢動脈だけでなく,後交通動脈の梗塞でも高次脳機能障害が生じうることから,いかにこれら穿通枝を温存してクリッピングを行うかが課題となる。そのためには静脈灌流の把握が重要で,本症例では主に下吻合静脈方向に灌流していることがわかる(b)。また,比較的大きな動脈瘤では近位部を把握するために頸部の情報も必要だが,Aquilion Precisionでは頸部血管も同時に撮影可能である(c)。
視神経周囲の動脈瘤では,視神経を触らない・押さない・加圧しないことが重要であり,眼動脈の側副血行路,前床突起削除の解剖,視神経の状態をあらかじめ把握する必要がある。前床突起とは蝶形骨先端に突出した部分を指し,これを切除することで海綿静脈洞内の内頸動脈に到達可能となる。そのため,前床突起の大きさや形,含気化の有無の認識が必要となる。われわれの検討1)では前床突起部先端部の14.7%が含気化していた。閉創時に修復を誤ると髄液漏を来す可能性があるため,視束管の上下のどちらから含気化しているかを評価する必要がある。
症例3のプランニング画像(図4)では,MRIで描出した視神経をフュージョンさせ,視神経と血管,動脈瘤の位置関係,圧迫や癒着の状態を確認する(a)。術野から見た画像では,脳や前床突起を透過することで周囲を理解しやすくなる(b)。また,骨を透過して浅側頭動脈を描出し,バイパス形成に利用する血管を術前に検討しておくことが重要である(c)。なお,本症例は,術後にプランニング画像を見直して画像を作り直したところ,後交通動脈をより明瞭に描出できた。プロスペクティブな画像作成の難しさと,thin sliceデータには答えがあることを再認識した症例であった。
術後評価で問題となるのがクリップの金属アーチファクトで,われわれの検討2)ではブレードサイズが10mm以上になると有意にアーチファクトが増加する結果となった。しかし,Aquilion Precisionでは金属アーチファクトの低減が可能になり,「Aquilion ONE」で撮影した画像では目立っていた長軸方向の黒いダークバンドアーチファクトを抑制することができる(図5 b,c↓)。症例3では18mm弱彎クリップを使用したが,アーチファクトが抑制され,穿通枝や虚脱した動脈瘤,後交通動脈や前脈絡叢動脈の温存も確認できた(図5 a)。
もやもや病
バイパス術では,CTAにより術前に吻合血管を決定できるようになった。2007年から現在までに血行再建術を196例実施しており,そのうち約半数がもやもや病であった。安全で確実な血行再建術のために,「手術のプランニングを行う」「次の操作をしやすい状況を作る」「安全域を考慮して手術野を作る」の3つを重視している3)。
プランニング画像では,レシピエント血管とドナーの評価が重要である。ドナーの分岐の高さにはバリエーションがある4)ことに加え,レシピエント血管は疾患によって吻合に適した部位が異なる。もやもや病ではシルビウス裂前方の血管が発達するのに対し,動脈硬化性疾患などもやもや病以外の疾患では比較的後方の血管の発達が顕著である5)。
Aquilion Precisionによる術前評価画像では,血管撮影のアクセスルートや側副血行路の状態も同時に評価している。併せてパーフュージョン画像も作成している。
症例4は小児のもやもや病であるが,Aquilion Precisionによるプランニング画像では,浅側頭動脈も末梢まで良好に描出できている(図6)。開頭後のイメージでは,血管と脳を透過させて脳溝の奥まで認識しておくことで,脳表に適切な血管がない場合でも脳溝を開いて血管を確保することができる。本症例は,ドナーが1mmに満たない非常に細い血管であったが,術前のイメージどおりに手術を完遂することができた。
まとめ
画像機器の進歩によって,解剖学的なシミュレーションはますます高精度になってきた。高精細CTによる画像支援では,最善の道と危機管理を術前に推定することができ,今後もさらなる発展が期待できる領域である。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)Mikami, T., et al., J. Neurosurg., 106(1):170-174, 2007.
2)Kimura, Y., et al., Neurosurg. Rev., 42(1):107-114, 2019.
3)三上 毅,他,脳神経外科速報,25(9), 916-922, 2015.
4)Yokoyama, R., et al., World Neurosurg., 115:247-253, 2018.
5)Suzuki, H., et al., Neurosurg. Rev., 40(2):299-307, 2017.
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
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