First impression of Spectral Imaging System 
松本 良太(藤田医科大学病院放射線部 / 低侵襲画像診断・治療センター)
Session2

2019-11-25


松本 良太(藤田医科大学病院放射線部 / 低侵襲画像診断・治療センター)

当院では,2019年6月に,キヤノンメディカルシステムズの新しいDual Energy CT技術“Spectral Imaging System”の使用を開始した。本講演では,Deep Learningを用いたSpectral Imaging Systemの概要と当院における使用状況,および本システムの大きな特徴である仮想単色X線画像(Mono画像)や物質弁別について,物理データと臨床データを併せて報告する。

■Spectral Imaging Systemの概要と当院における使用状況

Spectral Imaging Systemは,(1) 1回転中のX線出力を高kVと低kVに高速で切り替えながらデータを収集する“Rapid kV switching”,(2) 最大160mmのボリュームスキャンが可能な“Spectral Volume Scan”と最大80mm幅のヘリカルスキャンが可能な“Spectral Helical Scan”に対応,(3) AECを併用可能,などの特長を有する。なかでも,ヘリカルスキャンに対応できることは,非常に大きな特長と言える。
独自の画像再構成技術“Spectral Reconstruction”では,現時点でBody,Lung,Boneの3種類のパラメータが使用できる。Spectral Reconstructionでは,高kVと低kVのデータの欠損部分をDeep Learningで復元し,完全な高kVと低kVのデータから基底画像を作成して画像再構成を行う。図1に,Single Energy ModeとSpectral Image Modeのパラメータを示す。Spectral Image Modeでは,AECの設定やスキャンスピードに制限があるが,Single Energy Modeと同等のパラメータが組めるため,ルーチンの撮影パラメータへの置き換えも容易である。
当院では,Spectral Imaging Systemを用いて,約2か月間で80件近い撮影を行っている。撮影部位は,頸部,胸部,腹部,胸腹部,四肢,椎体など,先行研究で有用性が示されている部位を中心に,徐々に適応範囲を広げている。収集したデータは,Single Energyの120kVpに相当する70keVのMono画像を院内サーバに転送し,Iodine ImageとWater Imageは同社のワークステーション「Vitrea」に転送してSpectral解析を行っている。

図1 Single Energy ModeとSpectral Image Modeのパラメータ

図1 Single Energy ModeとSpectral Image Modeのパラメータ

 

■仮想単色X線(Mono)画像に関する検討

120kVpのSingle Energyの画像(120kVp画像)と70keVのMono画像について,CT値,ビームハードニング(BHC),解像特性,ノイズ特性の比較を行った。120kVp画像はAIDR 3D Standard,70keV Mono画像はSpectral Reconstruction  Body Standardを使用した。

1.方法・結果
・CT値:120kVpでCT値が100HUと300HUとなるヨードファントムに対してエネルギーを可変しCT値を測定したところ,70keV Mono画像が最も近い値を示した。
・BHC:ゴム板を装着した水ファントムを撮影し,120kVp画像(BHCあり・なし)と70keV Mono画像を比較した。水ファントムの中央部分と周囲4点のCT値を計測し,それぞれ差分画像を作成してCT値の変化を見ると,70keV Mono画像が最もCT値の変動が少なかった。
・解像特性:120kVpでCT値100HUと300HUのヨードロットを水に封入したファントムを作成し,TTFを計測したところ,いずれも70keV Mono画像の方が解像特性が約30%良好であった。
・ノイズ特性:120kVp画像と70keV Mono画像について,水ファントムを用いてCTDIvol 5,10,15,20mGyのSD値を計測したところ,70keV Mono画像の方がいずれも約10%ノイズが低減していた。また,CTDI 10mGyのNPSを計測したところ,70keV Mono画像の方が低周波領域のノイズが低減されており,逆に高周波ノイズは残存していた。
さらに,肝臓ファントムでの比較も行った。CTDIを7,13,18mGyに変化させて撮影したところ,70keV Mono画像ではやはり高周波ノイズがより目立ち,細かいノイズによって画像が構成されていることがわかった。なお,Spectral ReconstructionとAIDR 3Dの画質は異なるが,ファントムのモジュールの見え方に大きな違いは認めなかった。

2.臨床データ
図2は,肝臓がん症例をほぼ同線量で撮影した120kVp画像(a)と70keV Mono画像(b)であるが,動脈相では70keV Mono画像の方が多血性腫瘍の辺縁がより明瞭である(b左)。これは,70keV Mono画像の優れた解像特性が反映されているためと考えられる。門脈相においても70keV Mono画像の方がノイズがより細かく,肝実質や脈管が観察しやすい(図2 b右)。

図2 ほぼ同線量で撮影した120keV画像と70keV Mono画像の比較

図2 ほぼ同線量で撮影した120keV画像と70keV Mono画像の比較

 

■仮想単色X線(Mono)画像の効果と物質弁別の概要

Mono画像では任意の単色X線エネルギー(keV)の画像を作成可能であり,高keVでは金属アーチファクトの低減,低keVでは造影コントラストの増強効果が得られる。また,基準物質画像による物質分別が可能であり,Spectral Imaging Systemでは,現時点ではヨードと水,カルシウムと水の組み合わせの画像が得られる。
Mono画像のエネルギー変化がもたらす効果について検討を行った。エネルギーを35〜135keVに変化させた時のCT値とノイズの関係について,70keVの時のCT値300HU,ノイズ6(5mm),造影剤量100mLを1として正規化した場合で検討すると,50keVではCT値が2倍に上昇するため,造影剤量は約半分に低減可能となる。ただし,40keVではCT値は3倍になるが,ノイズは9倍となるため,低keVにおけるノイズ低減のためのさらなる技術の進歩が求められる。

■症例提示

症例1は総腸骨動脈瘤で,eGFRが39mL/min/1.73m2と腎機能が低下していたため,造影剤量を約4割減量して撮影を行った。70keV Mono画像では総腸骨のCT値が約255HUであるのに対し,50keV Mono画像では約510HUにまで上昇しており,3D再構成を行ったところ臨床に十分提供可能な画像が得られた。さらに,50keV Mono画像に対して,造影効果を増強する“CE Boost”を適用した画像(図3 a)では,CT値が40keV Mono画像(図3 b)と同等の約700HUにまで上昇したが,SDは抑制されていた。このように,Mono画像に既存技術を組み合わせることも有用である。

図3 症例1:50keV Mono画像+CE Boostによる造影増強効果(総腸骨動脈瘤)

図3 症例1:50keV Mono画像+CE Boostによる造影増強効果(総腸骨動脈瘤)

 

症例2(図4)は腰椎後方椎体固定術後であるが,70keV Mono画像(a)と比較して,135keV Mono画像(b)では金属アーチファクト()が低減し,スクリューと椎体の評価がより行いやすくなっている。ただし,金属の種類などによっては高keV画像よりも,120kVp画像に金属アーチファクト低減アルゴリズム“SEMAR”を併用した方が良好な画像が得られるため,適切に使い分ける必要がある。

図4 症例2:135keV Mono画像による金属アーチファクト低減(腰椎後方椎体固定術後)

図4 症例2:135keV Mono画像による金属アーチファクト低減(腰椎後方椎体固定術後)

 

症例3(図5)は上咽頭がんであるが,70keV Mono画像(a)と比較して,50keV Mono画像(b)では腫瘍の境界()が明瞭となり,さらにヨードマップ(c)を重ねることで視認性が向上している。

図5 症例3:50keV Mono画像+ヨードマップによる腫瘍の視認性の向上(上咽頭がん)

図5 症例3:50keV Mono画像+ヨードマップによる腫瘍の視認性の向上(上咽頭がん)

 

症例4(図6)は腰椎圧迫骨折で,事前のMRI(c)で確認されていたL2の髄内新生出血()が,CTのWater/Calcium Image(b)でも確認可能であった。ただし,MRIでやや高信号となったL1をCTでは描出できていないため,水とカルシウムの分離パラメータの見直しを検討中である。

図6 症例4:Water/Calcium Imageによる髄内新生出血の確認(腰椎圧迫骨折)

図6 症例4:Water/Calcium Imageによる髄内新生出血の確認(腰椎圧迫骨折)

 

症例5(図7)は頭蓋骨海綿状血管腫であるが,MRI(b,d)で明瞭な腫瘍の広がり()を,Water/Calcium Image(c,e)でも同様に確認可能であり,CT検査の付加情報としての有用性が期待できる。

図7 症例5:Water/Calcium Imageによる腫瘍の広がりの評価(頭蓋骨海綿状血管腫)

図7 症例5:Water/Calcium Imageによる腫瘍の広がりの評価(頭蓋骨海綿状血管腫)

 

■まとめ

Spectral Imaging Systemは,ルーチン検査でも活用可能と考えられるが,CE BoostやSEMARなど既存技術との併用や使い分けも重要である。また,今後,低keV画像のノイズ低減や,Fat/Water Imageの表示が可能になれば,より優れた装置になると考えている。

 

 

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