超高精細CTの能力を活かした肺腫瘤診断 
久保  武(京都大学医学部附属病院放射線部)
Session 1

2019-11-25


久保  武(京都大学医学部附属病院放射線部)

肺結節の診断においては,腫瘤が原発性肺がんか否かの鑑別が重要であり,その判断には結節辺縁の評価,すりガラス状陰影の検出,内部性状の評価がポイントとなる。
CTによる肺結節の良悪性の鑑別能は,装置性能の向上により,ここ20年ほどで大幅に進化した。1024×1024マトリックス,0.25mmスライス厚を実現した超高精細CT「Aquilion Precision」では,従来CTと画像の見え方が変化しており,それが肺がん診断を容易にしていくと考える。本講演では,Aquilion Precisionによって肺がん画像診断がどのように変わったかについて,当院の経験を基に紹介する。

■結節辺縁の評価

結節の辺縁は,肺腫瘤の診断において重要な評価項目である。充実性結節においては,辺縁が不整な場合には原発性肺がんが強く疑われ,辺縁平滑な場合には,転移の可能性がなければ良性結節であることが圧倒的に多い。
辺縁不整とは,1〜2mm程度の細かい凹凸(鋸歯状)が描出されている状態である。がんは不均一であるため結節全体が辺縁不整とは限らず,結節の一部にでも辺縁不整が認められれば,原発性肺がんが疑われる所見である。そのような部分的な辺縁不整が発見できるかが,画像診断のポイントとなる。
症例1は,左上葉に索状影,S1+2に肉芽腫と思われる肺結節があり,縦隔側に見られた大きめの結節の評価が問題となった。紹介元にてAquilion ONEで撮影した画像(図1 a)と,当院のAquilion Precisionでルーチン撮影した画像(512×512マトリックス)(図1 b)を比較すると,Aquilion Precisionでは腫瘍辺縁の棘状の不整(↓)が良好に描出されていることがわかる。さらに,Aquilion Precisionの1024×1024マトリックスの画像(図1 c)では,棘状陰影(↓)がより明瞭に描出された。また,別のスライスでは辺縁平滑に見えた部位にも,細かい凹凸が認められていた。肺がん画像を見慣れていないと周囲の炎症性結節に気を取られがちだが,超高精細CTの描出能があれば,縦隔側の結節は肺がんであると確信を持って診断することができる。Aquilion Precision導入初期に,超高精細CTの威力を実感した症例である。

図1 症例1:肺腺癌

図1 症例1:肺腺癌

 

症例2は,当院にて近い間隔で撮影したAquilion ONE(図2 a)とAquilion Precision(1024×1024マトリックス)の画像(図2 b)である。Aquilion Precisionでは,辺縁不整であることが一目瞭然であり,直感的かつ容易に診断のための所見を取ることができる。

図2 症例2:肺腺癌(solid nodule)

図2 症例2:肺腺癌(solid nodule)

 

■すりガラス状陰影の検出

肺がん診断におけるすりガラス状陰影には,特別な意義がある。辺縁が明瞭なすりガラス状陰影で,経時的に形態が変化しない場合は,Lepidicの部分を含む腺癌であると,ほぼ確定することができる。臨床においては経過がわからない(過去画像がない)こともあるが,辺縁が明瞭に描出されていれば,過去画像と比較をしなくても,高い正診率で腺癌であると診断することが可能である。
症例3では,右中葉胸膜下に小さい一見充実性の結節が認められた。Aquilion ONE(512×512マトリックス,0.5mmスライス厚)の画像(図3 a)では,腫瘤辺縁はそれほど不整ではなく,直線状の部分もあり,器質化肺炎や肉芽腫とも考えられる。しかし,Aquilion Precision(1024×1024マトリックス,0.25mmスライス厚)で撮影し,FIRSTで再構成した画像(図3 b)では,腫瘤の端にすりガラス状陰影が明瞭に認められた(↑)。冠状断のMPR画像(図3 c)では,境界明瞭なすりガラス状陰影(←)を確認でき,確信を持って腺癌であると診断できる。本症例は,手術にてLepidic componentを伴った腺癌であることが確認された。

図3 症例3:肺腺癌(part solid nodule)

図3 症例3:肺腺癌(part solid nodule)

 

症例4は,2mmスライス厚の画像(図4 a)では辺縁にすりガラス状陰影があり腺癌が疑われるが,気腫があるために境界がわかりにくい部分がある。一方,Aquilion Precision(1024×1024マトリックス,0.25mmスライス厚)の画像(図4 b)では,気腫状の部分の間にすりガラス状陰影が明瞭な境界を持って広がっていることが確認でき,腺癌であると自信を持って診断できる。0.25mmスライス厚の画像では,充実性部分に向かって気腫性病変が変形して引っ張られている状態まで把握できる。このような所見から,充実性の部分は線維化を伴っていると考えられ,全体として腺癌の所見と矛盾しないことがわかる。

図4 症例4:肺腺癌(part solid nodule)

図4 症例4:肺腺癌(part solid nodule)

 

■内部性状の評価

辺縁平滑な結節は良性の可能性が高いが,断定することは難しい。良性と推定できる特徴としては,濃厚な石灰化(肉芽腫),脂肪の描出(過誤腫),粒状石灰化(過誤腫)があるが,それ以外の所見については一般的に良性と診断することは困難である。しかし,内部性状をより精密に描出できれば診断できる症例もあると思われる。
症例5は,右肺の肺がん手術術前に,別の結節が見つかった症例である。Aquilion Precisionでルーチン再構成した画像(512×512マトリックス,1mmスライス厚)では,結節の辺縁は平滑で,良性が疑われるが,断定的な特徴がない(図5 a)。一方,超高精細(1024×1024マトリックス,0.5mmスライス厚)で撮影しDeep Learning技術“AiCE”で再構成した画像では,結節の中に何らかの構造があることがわかる(図5 b)。過誤腫のようにも見えるが,CT値を計測しても脂肪と診断することができず,右肺の肺がん手術時に,この病変も切除された。
切除標本では,軟骨が地図状に広がり,その間に脂肪が含まれた構造であることが確認できた(図5 c)。Aquilion Precisionの超高精細画像(図5 b)では,その様子をとらえていたことがわかる。解像度の向上とAiCEによるノイズ低減効果で,内部に構造があることを把握できた,非常にインパクトのある画像であった。

図5 症例5:過誤腫

図5 症例5:過誤腫

 

■まとめ

超高精細CTを利用することにより,肺結節の診断能,診断確信度が向上することが期待される。本講演で述べたような,超高精細CTが役立つポイントを知っておくことで,有用性がよりいっそう向上すると考える。

 

 

TOP