超高精細CTによる診断から治療までのパスウェイ
曽我 茂義(防衛医科大学校 放射線医学講座)
Session 2-2:CT(診断から治療まで「画像を最大限に活かした治療」)
2019-5-24
本講演では,2018年4月に当院に導入された超高精細CT「Aquilion Precision」による腹部領域の画像診断,および血管造影との比較やIVRにおける有用性などについて,症例画像を中心に報告する。
超高精細CT「Aquilion Precision」の基本性能
CTの基本性能である“広く”“速く”“細かく”のうち,“広く”は2007年に16cm/回転まで,速く”は2012年に0.275秒/回転まで進化した。しかし,“細かく”については,1985年の空間分解能0.35mm,マトリックス数512を最後に進化が止まっていた。しかし,新たなブレイクスルーとして2017年にAquilion Precisionが登場した。Aquilion PrecisionのSHRモードでは,0.25mmスライス厚,2048×2048マトリックスのデータ収集が可能である。Aquilion Precisionでは画質の向上だけでなく,blooming artifactが抑えられることで,ステントなどのより正確な計測が可能となる。
以下,腹部の領域ごとにAquilion Precisionによる症例画像を提示し,有用性を述べる。
症例画像
1.肝胆膵領域
症例1は膵尾部がんだが,Aquilion Precisionでは従来CTとの比較で画像がよりシャープになっており,腫瘍の範囲などを評価しやすくなっている(図1)。また,Aquilion Precisionでは病変部の確認だけでなく,脾動脈および脾静脈への浸潤まで確信を持って診断できる。図2 cの斜矢状断像では,脾静脈は開存(↑)しているが,血管の内腔まで腫瘍が充満(↑)しており,さらに一部開存した部分(↑)やしっかりと開存している部分(↑)など,腫瘍と血管の位置関係がクリアに描出され,病理所見とも一致した。
2.泌尿器科領域
症例2は複雑性腎囊胞である。従来CT(図3 a)では単純囊胞と診断される懸念もあるが,Aquilion Precision(図3 b)では小さな充実性部分が明瞭化している。治療方針の決定に重要な微小病変を描出できることは,Aquilion Precisionの強みであると考える。
腎細胞がん(RCC)では,術前にT1と診断された症例のうち,13.3〜30.7%が病理診断でT3aとupstagingとなることが報告されている1),2)。upstagingとなった場合,予後も悪くなるため,正確な術前診断が重要となる3)。当院では,7cm径の腎がんで肺転移もある症例において,従来CTで確認できなかった4mmと2mmの腫瘍栓と思われる所見をAquilion Precisionで確認できた例を経験している。今後,Aquilion Precisionにより,このような微細な静脈腫瘍栓や周囲組織浸潤を診断できれば,upstagingを減らせる可能性が期待される。
3.消化管
症例3は,下行結腸がんの症例である。消化管ではやはり,深達度の診断が重要となる。Aquilion Precisionでは横行結腸に浸潤が認められるが(図4 a),淡く低吸収になっている粘膜面は保たれていることが診断できた(図4 b)。実際の病理組織でも粘膜面が保たれており,浸潤は横行結腸粘膜下層までであった。
4.血管領域
Aquilion Precisionは血管病変でのメリットが大きい。吉岡らの報告4)ではAdamkiewicz動脈の描出不良の頻度は,Aquilion Precision(0.25mmスライス)では8.3%しかなく,0.5mmスライスの33.3%に比べて大きく改善している。
Aquilion Precisionは,腸間膜では動脈相も細かい血管まで描出されるが,門脈相においても従来CTに比べて,多くの微細な血管が描出されている(図5)。消化管のため動きがあること,また,B-RTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)前後の撮影であることや動脈の混在もあり,厳密に同一条件の比較はできないが,MIP画像での血管の描出本数の違いが明らかである。
血管造影との比較
Aquilion Precisionによる血管のVR画像では,IVRでカテーテルを挿入し塞栓するレベルの太さの血管に関しては,血管造影と遜色ないレベルで描出されている。さらに,VR画像の利点として,観察する角度を自在に変更できることや,血管以外の構造も詳細に評価できる点が挙げられる。
症例5は,膵臓の術後に膵液瘻によって総肝動脈の仮性動脈瘤を発症した症例で,緊急コイル塞栓術を行った際の血管造影画像である(図6 a)。図6 bは,治療直前に撮影したAquilion PrecisionのVR画像だが,赤く描出されている腹腔動脈領域の血管については,血管造影画像よりも明瞭に確認できる。特に,肝の後区域枝(図6 b↑)はそれほど細い血管ではないが,血管造影画像では不明瞭である。総肝動脈が仮性動脈瘤となったことでフローが停滞したことから,血管造影では末梢の描出が悪くなっていると考えられる。
IVRにおける有用性
症例6は,膵十二指腸アーケードの動脈瘤に対してIVR(コイル塞栓術)を行った症例である(図7)。Aquilion Precisionの病変部のMIP画像(図7 a)では,動脈瘤の形状,狭小化部分の形状や範囲,側副血行路まで,血管造影画像とほぼ同等に描出されている。コイル塞栓術に当たっては,MIP画像を基に前側のアーケード,背側のアーケードの塞栓範囲についてプランニングを行い,コイルのサイズを含めて事前のプランどおりに治療が進められた。
当院では,動脈瘤の塞栓術やTACEなどほとんどのIVRについては,CT画像を用いてワーキングアングルや塞栓範囲,コイルやステントなど,デバイスのサイズの選択や治療方針を決めている。もちろん,血管造影で新たな情報が得られることもあるが,Aquilion Precisionで術前評価を行うようになってからは血管造影でのプランニングの機会は減少している。また,CT画像を基にアベレージングやレイサム処理を行い,透視画像ライクな画像を作成してマーキングをガイドとすることで,経験の浅い術者の手技をサポートしている(図8)。
まとめ
腹部領域の超高精細CTは微小病変や末梢血管の描出に優れ,多くの恩恵を得ている。また,血管造影画像に近い画像が得られることから,強力な治療プランニングツールとなっている。今後は,診断能向上やアウトカム改善に向けて,エビデンスの蓄積が重要になると考えている。
●参考文献
1)Roberts,W.W., et al., J.Urol.,173・3, 713〜715, 2005.
2)Jeong,S.H., et al., PLoS One., 11・11, e0166183, 2016.
3)Nayak,J.G. et al., Urology, 94, 154〜160, 2016.
4)Yoshioka, K. et al., Neuroradiology, 60・1,109〜115, 2018.
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