循環器領域における新しい画像診断技術
山口 隆義(医療法人春林会 華岡青洲記念心臓血管クリニック)
Session 2-1:CT(技術・臨床アプリ「装置の性能を最大限に切り拓く」)
2019-5-24
当施設では現在,「Aquilion ONE/GENESIS Edition(GENESIS)」を用いて冠動脈造影から心筋の機能的評価まで,トータルな心臓CT検査を行っている。本講演では,われわれが開発した“SMILIE”(Subtraction Myocardial Image for LIE)による心筋viability評価を中心に述べる。
Aquilion ONE/GENESIS Editionによる心臓CT
冠動脈CTでは,高度石灰化あるいはステント内腔の評価に制限があることが知られている。それに対してわれわれは,GENESISに搭載されているSURESubtraction Coronaryを用いている。非剛体位置合わせを用いて,ボリュームデータの造影相から単純相をサブトラクションするソフトウエアで,位置ズレの少ない精度の高い画像が得られる。当施設ではそれに加えて,われわれが開発したTest Bolus Tracking(TBT)法を用いて,全体で1回13秒の息止めにより画像を取得している。
冠動脈CTでは,中等度狭窄に対する評価も課題である。治療を進めるに当たって,本当に虚血を伴う狭窄病変か(機能的狭窄),灌流域の心筋は正常なのか(viability)を見極める必要がある。機能的狭窄については,FFRCT(ハートフロー社)が保険収載され注目を集めている。キヤノンメディカルシステムズもCT-FFR(W.I.P.)の開発を進めており,当院でも積極的に検証を行っている。
SMILIEの特長と臨床応用
心筋のviability評価は従来,核医学検査(心筋血流SPECT)とMRI(遅延造影:LGE)が用いられており,感度の高さからMRIがゴールドスタンダードと言われている。心臓CTでもヨード造影剤がLGEと同様の挙動を示すことから,viability評価が可能と考えられるが,コントラストの低さが課題となっていた。われわれは,遅延相から冠動脈相をサブトラクションして,遅延造影画像を得るSMILIEという手法を開発して評価を行っている(図1)。
1.SMILIEの作成方法
SMILIEは,遅延相の撮影画像から冠動脈相の画像をサブトラクションして得られるが,この時に非剛体位置合わせ処理を行うことでミスレジストレーションの少ない差分画像を得ることができるのが特長である。MRIのLGEで50%以上のtransmuralityがある心筋梗塞の部位を,SMILIEと従来の遅延相(conventional LIE:cLIE)で比較したところ,SMILIEではLGEとほぼ同等の検出能があるという結果が得られた(AUC:0.985)。
2.SMILIEの撮影プロトコール
SMILIEの撮影プロトコールは,まず冠動脈と大動脈のCTAを続けて行い,約8分後に遅延相の撮影を行う(図2)。造影剤はトータル414mgl/kg,CTDIvolは13.5±1.65mGyである。通常の条件で撮影した遅延相の画像は5mmスライス厚でFBP(FC04)を用いた場合にSD17.2となる。SMILIEでは,さらにサブトラクションを行うためSD23となり,ノイズの多い画像となる。そこで,コントラストを強調するため,beam hardening correction(BHC)を入れたFC26の関数を用いてAIDR 3Dも適用し,さらにハーフではなくフルデータ再構成することで,SMILIEでSD11程度の画像を得るようにしている。
3.SMILIEによる症例提示
症例1(図3)は,下壁の心筋梗塞疑い。冠動脈CTで右冠動脈に90%狭窄を認め,陳旧性心筋梗塞(OMI)と考えられた。cLIEの画像(図3 a)では造影効果ははっきりしないが,SMILIE(図3 b)では下壁の内膜側に遅延造影効果が認められた。MRI(LGE:図3 c)でも同様でtransmuralityは50%未満であり,バイアブルと判断され治療が行われた。
SMILIEは虚血性心疾患の評価に高い有用性があると考えられるが,MRIのLGEでは非虚血性の心筋疾患に対しても評価が行われている。SMILIEが非虚血性疾患に対しても適用できれば,心臓CTの価値がさらに高まると考えられる。
症例2は,左室肥大と不整脈で当施設に紹介された(図4)。冠動脈には問題がなかったが,左室流出路の最大圧較差(peak pressure gradient:PPG)の上昇と中隔肥大(asymmetric septal hypertrophy:ASH)が認められ,心臓CTを施行した。心臓CTでは左室に肥大が認められ(図4 a),cLIE(図4 b)でも染まりがわかるが,SMILIE(図4 c)では明瞭に描出された。MRIのLGE(図4 d)でも,同様の部位に同じような造影効果が認められ,肥大型心筋症と診断された。
症例3は,心房細動を主訴に狭心症疑いで当施設を受診した(図5) 。冠動脈に問題は認められなかったが,SMILIEでは冠動脈の支配領域とは関係なく,全体に遅延造影効果が散在していることが確認できた(図5 b)。MRIのLGE(図5 c),FDG-PET(図5 d)でも同様の濃染が認められたことから,心サルコイドーシスが疑われた。
当施設で経験した心サルコイドーシス疑いの症例について,SMILIEとMRIのLGEで検出能を比較した結果をRSNA 2018で報告した。11例176セグメントで検討したところ,LGEの集積部位はすべて,SMILIEでも認められた。一方で,SMILIEのみで検出された部位が6セグメント認められた。これは,CTの空間分解能の高さが影響したと考えられた。
SMILIEではこのほかにも,心アミロイドーシスやたこつぼ型心筋症でも心筋への集積パターンから診断が可能で,非虚血性心筋疾患に対しても高い診断能を持つと考えられる。
SMILIEの課題
一方で,SMILIEの使用に当たっては,その限界を認識しておく必要がある。一つは,beam hardeningやcorn beam artifactの影響である。特に,下壁領域でアーチファクトが出やすいが,SMILIEではサブトラクションを行うためその影響が大きくなる。当施設の連続例では,64例中8例(12.5%)で評価困難な画像となった。この線状・帯状のアーチファクトを除去する方法として,MBIRである“FIRST”のモードを,“CARDIAC”ではなく“BRAIN”を適用し,強いBHCをかける方法が考えられる(図6)。もう一つは,十分なコントラストを得るための造影剤の使用量だが,冠動脈の造影剤だけではコントラストが不足するため,現状では400mgl/kg(冠動脈+大動脈)程度が必要と考えられる。
まとめ
SMILIEは,心筋バイアビリティ評価に有用と考えられる。また,非虚血性心筋疾患の検出にも有効な可能性があると思われる。
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