Dual Energyによる新しいコントラスト表示 Bone Bruise Image:BBI(骨挫傷イメージ)
野水 敏行(独立行政法人労働者健康安全機構 富山労災病院 中央放射線部)
Session 2-1:CT(技術・臨床アプリ「装置の性能を最大限に切り拓く」)
2019-5-24
本講演では,Dual Energy CT(DECT)を使用した骨挫傷画像であるBone Bruise Image(BBI)について報告する。BBIは,当院と岩手県の奥州市総合水沢病院が開発し命名した手法である。本講演では,BBIの撮影技術を解説した上で症例画像を供覧する。
BBIの開発経緯と撮影技術
当院では,骨関節領域のDECTとして,仮想単色X線画像の高keV画像を用いた金属アーチファクト低減(Metal Artifact Reduction:MAR)と腱の三次元画像の作成,Three-material decomposition法の物資弁別によるVirtual Non Calcium Imageの作成を行っている。
われわれがBBIを開発した背景には,一般撮影やCTでの不顕性骨折の描出が困難なことがある。通常,単純X線写真で骨折が疑われた場合,CTで精査する。CTで確認できない場合は,さらにゴールドスタンダードとされているMRI検査を施行して骨折の有無を鑑別していた。しかし,すぐにMRI検査が可能な施設は限られており,検査コストも高く,時間的・経済的ロスが発生して,治療開始に遅れが生じることにつながる。そこで,われわれは,不顕性骨折をCTで描出することをめざして,キヤノンメディカルシステムズ社のADCTによるRaw Data Based Dual Energy CT(rDE)におけるThree-material decomposition法を用いて,Virtual Non Calcium Imageを作成し,髄内血腫を描出するBBIを開発した。BBIは,CT画像からカルシウム成分を抽出し,それをサブトラクションしてカルシウム成分のない画像を得る手法である。
2回転方式の撮影時間は,16cmまでの撮影範囲であれば四肢領域が1.9秒,脊椎領域が2.4秒。管電圧80kVpと135kVpの2種類のエネルギー画像を取得する。解析方法は,ヨードマップのパラメータなどを改良している。パラメータの中でもDual Energy gradientは重要な要素であり,カルシウム成分の抽出に影響する。当院ではDual Energy gradientを0.67〜0.71に設定しているが,撮影する部位によってパラメータを変更しており,四肢は高めの値となる0.69〜0.71,脊椎と股関節は低めの0.67〜0.69としている。さらに,スライス厚については,ノイズの影響を抑えて髄内血腫の鑑別をしやすくするために,3〜5mmとしている。
症例提示
1.四肢・股関節
症例1は,大腿骨転子部骨折。135kVpで撮影したMPR画像(図1 a)では大転子部分に亀裂(→)が見られ,MRIのT1強調画像(図1 c)では大転子部分から低信号域(→)が広がっている。BBI(図1 b)は,T1強調画像と非常に合致した画像となり,骨折と判断することができた。
症例2は,不顕性の橈骨遠位端骨折。135kVpのMPR画像(図2 a)では骨折線が描出できていないが,BBIのグレイスケール画像(図2 b)ではびまん性の高吸収域(○)が認められ,カラー画像(図2 c)ではさらに明瞭に描出されている。
症例3は,転倒による股関節の疼痛を訴える患者で,135kVpのMPR画像では骨折線を認められなかったため,BBI解析を施行した。BBIでは,右股関節と骨盤臼蓋部分の高吸収域(○)をとらえている(図3 a)。さらに,MRI検査を行ったところ,脂肪抑制T2強調画像でBBI同様,右の骨盤臼蓋部分が高信号(○)を呈し,骨挫傷と判明した(図3 b)。
われわれが行った四肢・股関節の81症例によるBBIの定性テストでは,感度95.0%,特異度95.2%となり,好成績が得られた。
2.脊椎領域
症例4は,腰椎椎体骨折。単純X線写真では骨折を描出できず,135kVpのMPR画像(図4 a→)では第1腰椎の椎体骨折がかろうじて認められるが,BBIでは一見して高吸収域を確認できる(図4 b→,c○)。このことから,先にBBIを見てからMPR画像を観察することで,読影時間の短縮化も可能になると思われる。また,症例5のような多椎体変形の腰椎椎体骨折では,骨折部位の確認が困難であるが,BBIを施行し高吸収域を見ることで,すぐに骨折箇所を同定できる(図5→)。
われわれが行った脊椎領域84症例によるBBIの定性テストでは,感度94.9%,特異度95.2%という結果が得られた。
BBIは何を描出しているのか
症例6は転落外傷で,MRI検査では脛骨に骨挫傷が認められた(図6 a)。骨折を疑いBBIを施行したところ,わずかに高吸収域を呈し(図6 b),4か月後に再度BBIを施行すると高吸収域が消失していた(図6 c)。受傷直後に骨傷の周囲に髄内血腫が起こり,その後2〜3週で化骨形成が行われるという治癒過程を踏まえると,受傷初期の血腫を画像化していると推察される。また,症例7は腰椎椎体骨折で,135kVpのMPR画像では新鮮・陳旧の骨折を描出している(図7 a)。これをBBIで見ると,陳旧の骨折は淡い吸収域(→)で,新鮮な骨折の方が強い高吸収域(→)になっている(図7 b)。下位椎体は,過去の検査で骨析と判明していた。このことから,BBIは骨傷の病期診断が可能になると考えられる。つまり,BBIにおける髄内血腫は,血腫の量が多い場合,および受傷時期が早い段階では良好に描出されると言える。われわれは,このX線の吸収の変化を利用した骨挫傷の定量解析について,BBIのCT値を測定する検討を現在行っている。
BBIの臨床的意義
奥州市総合水沢病院において,MRIとBBIで確定診断を行った腰椎椎体骨折の症例では,MRIの場合は診断と装具採型までに2.4日かかったが,BBIの場合は0日ですぐに治療を開始できた。BBIによってMRI検査を省略できたことで,入院期間を8.3日短縮することが可能となった。BBIは,MRI検査よりも簡便に施行できる点が非常に優れていると言える。
一方で,BBIには課題も残されている。一つは体格の大きな患者の場合,線量不足によってノイズの影響を受けることである。また,髄内血腫の量や受傷時期に起因する描出不良も課題である。われわれは現在,基準物質やDual Energy gradientなどの解析パラメータの改良に取り組んでいる。現状では,骨条件のMPR画像の一助としてBBIを行い,並列表示して読影することが有用と考える。
まとめ
BBIは,MRIの脂肪抑制T2強調画像と類似した情報を得ることができ,早期の骨折診断に役立つと考えられる。また,新鮮な髄内血腫を描出していると推察されることから,病期診断が可能になると期待される。さらに,定性テストで高い感度・特異度が得られたことから,骨折の見逃し防止にも有用である。今後さらに検討を行うことで,将来的にMRI検査を省略できる可能性があるほか,骨折判定の自動化や普及機のCT装置での応用も期待される。
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