Ultra Gradientシステムの脳神経領域におけるインパクト 
堀  正明(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 放射線医学教室放射線診断学講座)
Session 1:MR

2019-5-24


堀  正明(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 放射線医学教室放射線診断学講座)

当院では,2018年12月より,次世代のUltra Gradient MRIシステム「Vantage Galan 3T/ZGO(ZGO)」が稼働を開始した。また,人工知能(AI)の技術の一つであるdeep learningを利用したSNR向上再構成技術“Deep Learning Reconstruction(DLR)”(W.I.P.)についても検討を行っている。本講演では,ZGOの特長と,本装置およびDLRが拡散強調画像(DWI)やその定量マップにもたらす効果,さらには,高空間分解能DWIやDouble Diffusion Encoding(DDE)の可能性などについて述べる。

ZGOの特長

ZGOの最大の特徴は,世界最高スペックの最大傾斜磁場強度(Gmax)100mT/mである。Gmax100には高電流が必要で,通常はそれに伴い,発熱や振動,渦電流が上昇してしまうことが課題となり実現が難しかった。しかし,ZGOでは,Gradient Coilを直接冷却するDirect Coolingや,より強固なRigid Core Moldingといった新パターン設計のUltra Gradient Coilの採用により,従来の3T装置と比べて渦電流を60%,発熱量を55%,f0シフトを60%,振動を75%低減することに成功している。基本性能が大幅に向上したことで,DWIをコロナルやサジタルでダイレクトに撮像しても,驚くほど歪みの少ない良好な画像が得られる(図1)。
これらの効果でgradient dutyも大幅に向上しており,同一TRにおける撮像効率が最大50%向上している。gradient dutyが高いことは研究を行う上で非常に重要で,DWIにおけるさまざまな検討が可能となった。

図1 ZGOで得られる歪みの少ないDWI

図1 ZGOで得られる歪みの少ないDWI

 

DWIに影響を与える要素

DWIに影響を与える要素として,b値,エコー時間(TE),拡散時間(diffusion time)がある。以下,悪性リンパ腫中枢神経浸潤の画像で検討する。

1.b値の影響
TR,TEは固定でb値を1000,3000,7000s/mm2と変化させた画像を示す(図2)。b値の上昇に伴い皮質の信号が徐々に低下するため,本症例の場合はb=3000s/mm2図2 b)が最も病変が明瞭である。通常b=7000s/mm2図2 c)という高b値で撮像するとTEが延長しSNRが低下してしまうが,ZGOではTE=67msで撮像可能で非常に良好な画像が得られるので驚きである。

図2 DWIにおけるb値の影響

図2 DWIにおけるb値の影響

 

2.TEの影響
b値を1000s/mm2で固定したTEの異なる画像を比較すると,TEが短いほどSNRが高くT2 shine throughの影響も少ないため,DWIとしてはきれいである(図3)。しかし,コントラストはTEが短すぎる場合には低下しており,図3では,TE=67ms(b)の画像が最も病変を視認しやすい。これは,臨床機の場合,TEの変化に伴い拡散時間も変化するためである。また,TEや拡散時間の変化に伴いADCも容易に変化するため,ADCは絶対値ではないことを理解しておく必要がある。

図3 DWIにおけるTEの影響

図3 DWIにおけるTEの影響

 

3.拡散時間の影響
図4は,いずれもb=1000s/mm2,TE=78msで拡散時間のみ15msと45msに変化させた画像である。左内包の周囲のコントラストは,拡散時間=45ms(図4b)の方が明瞭であることがわかる。ZGOのように高いGmaxを備えることで,初めて拡散時間を短く設定することができ,このような比較が可能となる。従来装置では,拡散時間が極端に短くなるような撮像はできなかったため意識されていないが,拡散時間もコントラストを変える要因となる。
近年,本来はDWIで高信号となるべき転移病変や脳梗塞が描出されなかったということが,高性能MRIにて散見されるのは拡散時間が短いためである。そのため,今後は至適TEおよび拡散時間の検討が必要であると考える。

図4 DWIにおける拡散時間の影響

図4 DWIにおける拡散時間の影響

 

DWIとその定量マップに対するDLRの効果

DLRのDWIへの適用について,当院にて6名の健常ボランティアを対象に検討を行った。撮像条件は,single-shot EPI,TR/TE=12000/60ms,1.8mm iso voxel,70スライス,b=0,1000,2000s/mm2,MPG=30 axes for 1000 and 2000,撮像時間=13分03秒である。使用データは,拡散テンソル画像のADCマップとFAマップ,DWIの新しい拡散解析法であるneurite orientation dispersion and density imaging(NODDI)のintra-cellular volume fraction(ICVF)マップとorientation dispersion index(ODI)マップの4種類で,それぞれについて,(1) デノイズなどの処理を行わないもの,(2) ‌歪み補正やデノイズなどの処理を行ったもの(従来法),(3) b値に応じて異なる強度のDLRを適用したもの(DLR1),(4) すべてのb値の画像に同じ強度のDLRを適用したもの(DLR2)を比較した。
b=2000s/mm2の元画像においてはDLR2((4))で,ADCマップではDLR1((3))で最もデノイズ効果が見られたが,いずれも従来法((2))よりもDLRの方が画質は良好であり,カラーFAマップも同様の結果であった。NODDIの,ICVFマップ,ODIマップも同様でDLRの画質が良好であった。
これらのデータに対してdeterministic tractographyの冠状断像を作成したところ,DLR((3),(4))では白質線維が多く描出されていた(図5)。今回検討の対象とした6名においては,従来法((2))では必ずしも白質線維の描出が改善するとは限らないが,DLRでは安定して改善していた。

図5 画像処理方法によるdeterministic tractographyの比較

図5 画像処理方法によるdeterministic tractographyの比較

 

高空間分解能DWIの検討

高空間分解DWIについて,single-shot EPI,TR/TE=8000/68ms,voxel size=1.8mm×1.8mm×1mm(0.9mm×0.9mm×1mm reconstructed),126スライス,b=0,1000s/mm2,MPG=30 axes,撮像時間=16分48秒の条件で検討した。
同一被検者の3D T1強調画像(構造画像)との対比において,高分解能DWIでは良好な全脳の画像が得られた。一方,ADCマップは,画質は良好であるが,部分容積現象によって脳脊髄液のある部分が明らかに白くなっていた(図6 a左)。そこで,これらのマップに,自由水の推定と除去の手法であるfree water elimination(FWE)1)を適用したところ,ADCマップの画質が改善し,皮質の評価も十分に可能になると思われた(図6 b左)。また,FAマップにFWEを適用し自由水を除去すると,全体的に値が高くなることから,通常は自由水の影響でFA値が低めに評価されていると考えられる。

図6 高分解能DWIにおけるFWEの検討

図6 高分解能DWIにおけるFWEの検討

 

DDEの可能性

近年,海外においてはMPGの印加方法が議論されている。通常,DTIでは1回の撮像中に1方向に1回だけMPGを印加するが,これを複数方向に複数回印加する方法がDDEである。DDEでは,MPGの向きや大きさ,MPG間の時間も調整可能であり,μFAなど,さまざまな応用が報告されている。今回,ZGOに研究用シーケンスとしてリリースされ,例えばMPGを2回印加した場合の2回目の印加方向を変化させ,その信号変化からボクセル内を構成する要素の異方性をマップ化するμFAマップが作成可能となり2)図7),今後はさまざまな検討を行っていけると考えている。

図7 ZGOによるDDEのμFAマップ

図7 ZGOによるDDEのμFAマップ

 

まとめ

ZGOでは,装置性能の向上により,臨床および研究においてDWIのより幅広い検討が可能となった。

●参考文献
1)Pasternak, O., et al., Magn. Reson. Med., 62・3, 717〜730, 2009.
2)Jaspersen, S.N., et al., NMR Biomed., 26・12, 1647〜1662, 2013.

 

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