Aquilion Precisionだけが写すもの(中内耳・胸部) 
山城 恒雄(琉球大学大学院医学研究科 放射線診断治療学講座)
Session(2)-2 : CT 6

2018-5-25


XYZの3方向共に,従来機の1/2のサイズの検出器を搭載した超高精細CTスキャナ「Aquilion Precision」は,約30年ぶりにCTの空間分解能の劇的な飛躍をもたらした。本講演では,世界で8番目に同機を導入した琉球大学医学部附属病院での臨床経験を踏まえ,中内耳および胸部領域の画像診断におけるAquilion Precisionの先進性・有用性を概説する。

琉球大学医学部附属病院でのAquilion Precisionの使用状況

当院では,2017年8月1日よりAquilion Precisionが3台目のCTスキャナとして稼働している。月間400件程度の症例をAquilion Precisionで撮影しているが,各診療科が同機の特長を認識するにつれ,次第に撮影件数が増加しつつある。当院では,原則として超高精細(super high resolution=SHR)モードまたは高精細(high resolution = HR)モードのみを使用して撮影を行っており,従来機と同等とされるnormal resolution(NR)モードは使用していない。SHRモード,HRモード共に,面内分解能(XY方向)の検出器サイズは0.25mmであり,0.5mmの検出器サイズであった従来機に比して細かな構造物の描出能に優れている。当院では,SHRモード,HRモードを多用して撮影していることにより,従来CTスキャナとの画像の比較が容易であり,さまざまな疾患・臓器においてAquilion Precisionの持つ有用性を実感しつつある。

中内耳CT(聴器CT)におけるAquilion Precisionの使用

Aquilion Precisionを臨床で使用する際には,常にfield of view(FOV)サイズとマトリックスサイズを考える必要がある。すなわち,標準的な32cmのFOVを,通常の512マトリックスで再構成(画像化)した場合,XY平面のピクセルサイズは0.625mmとなり,0.25mm立方の検出器で収集したデータを十分には活用できない可能性がある。そのためAquilion Precisionにおいては,体幹部では1024マトリックスや2048マトリックスでの画像再構成が試みられることがあるが,これらの高マトリックス画像はCT画像1枚あたりのデータ量が倍増するため,PACSへの転送やサーバでの蓄積をどのように取り扱うか,という点が課題になる。一方,中内耳CTは,そもそも左右別にFOVをかなり小さくして(拡大画像として)画像化するので,通常の512マトリックス画像でも十分にAquilion Precisionの高い描出能を表現できる。
中内耳CTを読影する際には,各種の微細な構造物を観察することになるが,わかりやすい画質評価の指標としては「あぶみ骨(前後脚)」「きぬたあぶみ関節」「卵円窓」「あぶみ骨筋腱」などが挙げられる。特に,耳小骨再建術において最も重視されるあぶみ骨の構造は,術前に十分その形態を把握できれば術式の選択などにも影響を与えるが,従来のCTではあぶみ骨自体がかなり小さいため(あぶみ骨の全長は3mm程度とされる),しばしば完璧な観察が難しい。私がAquilion Precisionの中内耳CTを見て,まず驚愕したのは,あぶみ骨がかなり細いような症例においても(あぶみ骨の太さにはある程度の個人差が存在する),ほぼ完璧にあぶみ骨や,きぬたあぶみ関節が描出されることであった(図1)。これにより,あぶみ骨の奇形・破壊像や,耳小骨間の離開(脱臼)などを,より高い精度で耳鼻科医に報告できるようになった(図2)。

図1 Aquilion Precisionで撮影した中内耳CT(0.25mm厚)

図1 Aquilion Precisionで撮影した中内耳CT
(0.25mm厚)

 

図2 Aquilion Precisionで明瞭に描出される耳小骨脱臼(0.25mm厚)

図2 Aquilion Precisionで明瞭に描出される耳小骨脱臼
(0.25mm厚)

 

また,これまではほぼ視認できなかったいくつかの構造物も,Aquilion Precisionで視認可能になっている。代表的かつ重要な構造物として,鼓室背側(錐体腔)から起始し,あぶみ骨頸部につながる「あぶみ骨筋腱」がある。あぶみ骨筋(腱)は,鼓膜張筋(腱)とともに耳小骨に停止する重要な筋であるが,従来のCT(コーンビームCT含む)ではほとんど描出できず,これまではその異常に言及することはまず不可能であった。Aquilion Precisionでは,かなりの高確率であぶみ骨筋腱を描出でき(図3),それにより従来は耳鼻科医のみが手術時に確認できたような,あぶみ骨筋腱の異常石灰化などのまれな病態も,術前にCTで診断できるのではと大いに期待している。

図3 Aquilion Precisionで描出されるあぶみ骨筋腱(0.25mm厚)

図3 Aquilion Precisionで描出されるあぶみ骨筋腱
(0.25mm厚)

 

胸部CTにおけるAquilion Precisionの使用

Aquilion Precisionで胸部を撮影すると,従来のCTスキャナの画像に比して際立った違いを感じることができる。個人的な感想として,SHRモードまたはHRモードで撮影した場合,(1) 512マトリックスであっても,1mm厚のHRCTは従来CTスキャナの画像に比して「きれい」である,(2) ルーチンで使用される5mm厚の画像(512マトリックス)でも微細構造物の視認性が大幅に向上している,(3) 最高の空間分解能を有する,0.25mm厚・1024(または2048)マトリックスの画像は従来のCTとまったく違う世界を画像診断医に提示する,点が重要ではないかと思う。これらAquilion Precisionの特長は,突き詰めるとXYZ3方向共に0.25mmの検出器サイズであることにすべて由来する。まず,PACSに送りやすい,512マトリックスの1mm厚のHRCTであるが,従来機に比べてノイズや肺野辺縁部のアンダーシュートが改善されており,軽微な肺気腫や間質性肺炎が視認しやすくなっている(図4)。また,臨床の現場で最も頻用される512マトリックス・5mm厚の画像であるが,こちらも胸膜直下まで「くっきりとした」画質を提供できており,従来であれば5mm厚画像ではpartial volume effectなどで「ぼける」はずの微細な結節影などが,かなり明瞭に視認できる(図5)。

図4 Aquilion Precisionと従来機の胸部CTの違い(同一患者,共に1mm厚) Aquilion Precisionでは従来機では不鮮明な小葉中心性肺気腫が明瞭に描出される。

図4 Aquilion Precisionと従来機の胸部CTの違い(同一患者,共に1mm厚)
Aquilion Precisionでは従来機では不鮮明な小葉中心性肺気腫が明瞭に描出される。

 

図5 5mm厚画像でのAquilion Precisionの描出能(同一患者,共に5mm厚) Aquilion Precisionでは微細な結節影や網状影が「ぼけることなく」描出される。

図5 5mm厚画像でのAquilion Precisionの描出能(同一患者,共に5mm厚)
Aquilion Precisionでは微細な結節影や網状影が「ぼけることなく」描出される。

 

このような,日常臨床に使いやすい512マトリックスの1mm厚・5mm厚の画像でもAquilion Precisionの有用性は明らかであるが,極めつけはやはりAquilion Precisionの最高空間分解能を提示する,0.25mm厚・1024(または2018)マトリックス画像である。この高マトリックス画像が有するポテンシャルに関しては,すでに大阪大学の胸部診断グループの先生方が,伸展固定肺をAquilion Precisionでスキャンしたデータを解析した論文を最近出版されている1)。例えば当院においても,ザイオソフト社の協力を得て1024マトリックスデータをワークステーションで自動解析する試みを進めており,512マトリックスデータよりも末梢の気管支の抽出性能が格段に向上していることがわかっている(図6)。0.25mm厚・1024(2048)マトリックスの画像が,どのような胸部疾患に対して特に有用なのかは,今後Aquilion Precisionを導入した複数施設で合同して研究を行いたいと考えているが,おそらく慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺炎,肺がんなどいずれの疾患においても,従来のCTスキャナでは提供できなかったような新たな知見・データが得られるものと確信している。

図6 ザイオソフト社のソフトウエアを用いた1024マトリックスデータでの気管支抽出 Aquilion Precisionで撮影した生データから2種類の画像を作成(再構成)した。従来CTと同じように再構成した,0.5mm・512マトリックスデータでは自動抽出されない気管支が,0.25mm・1024マトリックスデータでは多数抽出されている。

図6 ザイオソフト社のソフトウエアを用いた1024マトリックスデータでの気管支抽出
Aquilion Precisionで撮影した生データから2種類の画像を作成(再構成)した。従来CTと同じように再構成した,0.5mm・512マトリックスデータでは自動抽出されない気管支が,0.25mm・1024マトリックスデータでは多数抽出されている。

 

おわりに

Aquilion Precisionでの中内耳CTおよび胸部CTにおける画像の特長を述べたが,「従来機とはまったく異なる世界を見せてくれる」という印象に尽きる。おそらくそれぞれの専門領域の先生方が,それぞれにAquilion Precisionを使って今後さまざまな発見が相次ぐものと思っているが,画像診断医としてそのような「新発見」が放射線医学の進歩に寄与するであろうことに大いに期待している。

●参考文献
1)Hata, A., et al.:Effect of matrix size on the image quality of ultra-high-resolution CT of the lung;Comparison of 512 × 512, 1024 × 1024, and 2048 × 2048. Acad. Radiol., 2018(Epub ahead of print).

※下記画像のリンク先にて図の動画を見ることができます。(登録フォームの入力が必要です)。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP