冠動脈CTの現状と超高精細CTの可能性 
高木 英誠(岩手医科大学附属病院循環器医療センター 放射線科)
Session(2)-2 : CT 5

2018-5-25


高木 英誠(岩手医科大学附属病院循環器医療センター 放射線科)

本講演では冠動脈CTについて,はじめに本邦における現状を説明した上で,当センターで稼働している超高精細CT「Aquilion Precision」と320列ADCT「Aquilion ONE」を比較した結果を供覧し,高い空間分解能を持つ超高精細CTの可能性について述べる。

冠動脈CTの現状

冠動脈狭窄の形態評価は,64列MDCTの登場により,侵襲的なcoronary angiography(CAG)に近似した形態情報を非侵襲的に得ることができるようになり,冠動脈CTが広く普及した。ボリュームデータを有するCTでは,用途に応じてCPR画像やVR画像,冠動脈の短軸画像なども作成可能である。
冠動脈CTには,臨床上のメリットとデメリットがある1)〜3)。メリットとしては,まず非侵襲的であることが挙げられる。また,CAGでは血管内腔の情報しか得られないが,冠動脈CTでは血管壁やプラークの情報も得られる。さらに,冠動脈狭窄の診断においては陰性的中率が高く,冠動脈CTで所見がなければ狭窄はないと判断することができる。デメリットとしては,CTの時間分解能に限界があるため,高心拍,不整脈の患者ではモーションアーチファクトが生じる。また,冠動脈は内腔3〜5mmの細い血管であるため,石灰化やステントで生じるブルーミングアーチファクトが大きな問題となる。こういった理由から,冠動脈CTは狭窄を過大評価する傾向があり,陽性的中率は低いと考えられている。
本邦の安定狭心症の非侵襲的診断に関するガイドライン4)では,中等度リスクの患者に対して冠動脈CTまたは負荷SPECTの施行を推奨しており,冠動脈CTが重要な位置づけとなっている。
一方,冠動脈CTの臨床応用が始まってから10年以上経過し,課題も見えてきた。冠動脈CTの施行件数の増加に伴い,侵襲的なCAGが減少すると期待されていたが,実際にはCAGの件数は10年前と変わっていない。この背景には,CTやCAGの適応の問題もあるが,前述のように冠動脈CTは陽性的中率が低い(64〜91%)1)〜3)ということが理由の一つとして考えられる。

超高精細CT(プロトタイプ)での検討

当センターでは,超高精細CTのプロトタイプ機(0.25mm×128列)を使用する機会を得て,冠動脈CTとCAGの両方を施行した38例を対象に,冠動脈狭窄の評価について後ろ向き解析を行った5)。CAGをリファレンスとし,50%以上の狭窄を有意狭窄と定義した。後ろ向き解析のため有病率が高く(84%),選択バイアスがあるものの,精度は95%(95%信頼区間:86〜95%),AUCは0.83(95%信頼区間:0.53〜0.96)と,総合的な成績は良好だった。
また,狭窄率の定量性についても評価した5)。85セグメント(>30%狭窄,>1.5mm)について,冠動脈CTとCAGの径狭窄率をBland-Altman分析にて検討し,過去に同様の方法で検討を行った3研究6)〜8)(使用CTのコリメーション:0.75mm×16列6),0.6mm×64列7),0.5mm×320列8))と比較した。系統誤差を比較すると,いずれの研究も平均はあまり変わらないが,コリメーション性能が上がるにつれて95%信頼区間は小さくなった。64列MDCTでの研究と比べると10%ほど小さくなっている(±28%→±16%)。ばらつきが低減され,狭窄の定量性が改善していることを示しており,空間分解能向上によるものと考えられる。今後,より大規模な研究での検証が必要である。

臨床での運用:Aquilion PrecisionとADCTの比較

超高精細CTを冠動脈の撮影に使用するに当たっては,空間分解能以外にも考慮すべきことがある。1回転で心臓全体を撮影できるADCTに対して,現状の超高精細CTはヘリカルスキャンで心臓全体を撮影する。そのため,スキャン時間が延長し息止めや造影剤注入時間が長くなる,曝射のオーバーラップがあるため放射線被ばくが増える,などの問題がある。また,ボクセルサイズが小さいためノイズが増加するといった問題も生じる。
当センターでは現在,患者の年齢や体格,心拍を考慮し,Aquilion PrecisionとADCTを使い分ける運用を行っている(図1)。この初期使用経験から,Aquilion PrecisionとADCTの比較を行った。

図1 当センターにおけるAquilion Precisionの初期使用経験 2017年4〜10月に狭心症疑いで冠動脈CTを施行した連続147例の患者背景

図1 当センターにおけるAquilion Precisionの初期使用経験
2017年4〜10月に狭心症疑いで冠動脈CTを施行した連続147例の患者背景

 

1.放射線被ばくの比較
冠動脈CTについて, Aquilion PrecisionとADCTの放射線被ばくを比較した(図2)。Aquilion Precisionの実効線量は中央値5.3mSv(IQR:4.1〜6.5mSv)であるが,最近の冠動脈CTを用いた多施設研究9)では,平均実効線量が5.2±5.4mSvと報告されていることから,許容範囲内の被ばく線量であると考えられる。
なお,当センターでは大部分の撮影が拡張期中期のみのデータ収集で行われている。被ばく低減のために心拍のコントロールは重要であることを強調したい(図2)。

図2 放射線被ばくの比較

図2 放射線被ばくの比較

 

2.モーションによる評価不能例
Aquilion Precisionでの冠動脈CTはヘリカル撮影となるため,ADCTと比べモーションによる評価不能例が多くなると考えられた。しかし,症例を選別して検査を行ったことで,両者に差はなかった(図3 a)。

3.検査3か月後のアウトカム
冠動脈CTを施行後,(1) 内科的治療または経過観察,(2) CAG施行のみ,(3) 血行再建を実施,の3つにグループ分けし,Aquilion PrecisionとADCTを比較した。(2) は,CAGのみで血行再建は必要なかったことから“CTの偽陽性”に相当するが,これについても両者に有意差はなかった(図3 b)。

図3 モーションによる評価不能例とアウトカムの比較

図3 モーションによる評価不能例とアウトカムの比較

 

超高精細CTの可能性

Aquilion Precisionの高い空間分解能を,どのよう応用できるかについて考察した。

1.ステント内狭窄の評価
本邦のガイドライン4)では,ステント径が3mm未満の場合,現状のCTでは診断精度が低いため,CTによる評価は推奨していない。当センターで,Aquilion PrecisionとADCTでほぼ同時期に撮影したステント留置症例の画像(図4)を比較すると,ADCTではステント内腔はほとんど評価できないのに対して,Aquilion Precisionでは内腔の狭窄をしっかりと評価できることがわかる。CAGで,ステント近位部に中等度狭窄があることが確認できた(図5)。
空間分解能向上によりブルーミングアーチファクトが軽減したことで,ステント内狭窄の評価が可能になったと考えられる。今後,ステント内狭窄の診断精度や小径ステントの評価能について検証していく必要がある。

図4 ステント留置症例の画像比較(80歳代,男性,労作時胸痛) 13年前にLAD midにステント留置(サイズ不明)

図4 ステント留置症例の画像比較(80歳代,男性,労作時胸痛)
13年前にLAD midにステント留置(サイズ不明)

 

図5 図4の症例のCAG

図5 図4の症例のCAG

 

2.プラークの評価
CTでの脆弱プラーク評価について検討した。多施設前向き研究では,positive remodelingやlow attenuation plaque,napkin ring sign,spotty calciumなどの所見は,急性冠症候群発症の独立した因子と報告10)されており,冠動脈CTのレポート標準化ガイドライン(CAD-RADS)11)では,脆弱プラークの評価が推奨されている。
しかし実際には,冠動脈CTでのプラーク評価は容易ではない。プラーク所見の観察者間一致度は非常に低いとの報告12)もあり,現状ではプラーク評価の標準化は困難である。その最大の理由は,CTの空間分解能の不足にある。血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT/OFDI)と比べると,CTの空間分解能は非常に低く,プラークや血管壁の同定は困難である。
これに対して,Aquilion Precisionの空間分解能はIVUSの0.1〜0.2mmに近づいてきており,内腔や血管外の脂肪の境界,プラークの同定も可能になると考えられる(図6)。今後,プラークの性状や分布の診断精度についても検証する必要がある。

図6 Aquilion Precisionでのプラーク評価 a〜c:Aquilion Precision d,e:IVUS

図6 Aquilion Precisionでのプラーク評価
a〜c:Aquilion Precision d,e:IVUS

 

まとめ

当センターにおけるAquilion Precisionの初期使用経験についてまとめた。現状では,ADCTと使い分けているが,評価不能率や患者の短期アウトカムに差は見られない。放射線被ばくについても,許容範囲内と考えられる。
また,空間分解能の向上により,冠動脈狭窄の診断精度,定量性が向上すると考えられる。さらに,ステント内狭窄,プラーク性状の評価についても検証する価値があると言えるだろう。

●参考文献
1)Miller, J.M., et al., N. Engl. J. Med., 359, 2324〜2336, 2008.
2)Budoff, M.J., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 52, 1724〜1732, 2008.
3)Meijboom, W.B., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 52, 2135〜2144, 2008.
4)日本循環器学会・他, Circ. J., 73(Suppl. Ⅲ), 1019〜1089, 2009.
5)Takagi, H., et al., Eur. J. Radiol., 102, 30〜37, 2018.
6)Hoffman, M.H., et al., JAMA, 293, 2471〜2478, 2005.
7)Raff, G.L., et al., J. Am. Coll. Cardiol.,46, 552〜557, 2005.
8)Dewey, M., et al., Circulation. 120, 867〜875, 2009.
9)Douglas, P.S., et al., Eur. Heart J., 36, 3359〜3367, 2015.
10)Puchner, S.B., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 64, 684〜692, 2014.
11)Cury, R.C., et al., J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 10, 269〜281, 2016.
12)Maroules, C., et al., J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 12, 125〜130, 2018.

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