超高精細CTによる肝胆膵領域の描出 ─診断から治療まで
久保 貴俊(国立がん研究センター中央病院 放射線診断科)
Session(2)-2 : CT 4
2018-5-25
当院では,2017年4月から超高精細CT「Aquilion Precision」が稼働し,月平均100件程度の検査を施行している。このうち約6割が腹部領域の検査で,導入後600件程度の実績を有している。当院では胆膵領域の手術が多いことから,Aquilion Precisionを主に術前評価に用いており,肝動脈化学塞栓療法(TACE)での栄養血管(feeder)の評価にも使用している。
本講演では,これまでの使用経験から,肝胆膵領域におけるAquilion Precisionの有用性について報告する。
Aquilion Precisionの基礎実力
図1は,0.75mmのマイクロスフィアを80列MDCT「Aquilion PRIME」(a)とAquilion Precision(b)で撮影したものである。Aquilion Precisionの1024マトリックスの画像(図1 b)では,細かな粒が明瞭に描出されている。Aquilion Precisionでは,このようなミリ未満の細かな構造もきれいに描出される。また,Aquilion Precisionでは,胆管用メタリックステントの構造(1mmサイズ)をMDCTよりもはっきりと確認できる。マルチステントのような複雑な構造も描出が可能で,アキシャル像では従来のMDCTで評価が困難だった狭小化しているステントの内腔も観察でき,インターベンションに有用な情報が得られる。さらに,正常腹部神経叢のような微小構造も観察することが可能である。
胆膵領域での微小構造評価
Aquilion Precisionでは,解像度の向上により腫瘍の浸潤範囲の正確な評価を行えるようになるほか,微小な構造の描出が可能になるため,従来困難だった鑑別診断に対して有用な情報を付加できると期待される。以下,浸潤範囲の正確な評価に役立った症例を提示する。
●症例1:浸潤性膵管がん,前方浸潤(+)
図2は,40歳代,女性の浸潤性膵管がんで,前方浸潤を伴っている。MDCT(図2 a)では,前方に突出している腫瘍の境界を確認できるが,同時期に撮影したAquilion Precisionのスライス厚1mmの画像(図2 b)では,腫瘍の境界がより明瞭に描出されている。
●症例2:浸潤性膵管がん,前方浸潤・神経叢浸潤(+)
図3は,50歳代,女性の浸潤性膵管がんで,前方浸潤・神経叢浸潤を伴っている。Aquilion Precisionの拡大画像(図3 a)と術後の病理像(図3 b)を対比すると,腫瘍の浸潤範囲が良好に相関している。また,狭小化した右胃大網動脈(RGEA)の神経叢浸潤も描出されている。Aquilion Precisionでは分解能が向上したことで正常な神経叢も見えるようになったため,今後は病的な神経叢との鑑別が課題となる。
●症例3:肝門部領域胆管がん,ERBD後
図4は,70歳代,男性の肝門部領域胆管がん,内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD)後である。ERBD後は,胆管チューブのアーチファクトにより評価が困難になるが,Aquilion Precision(図4 b)ではアーチファクトが減弱しており,胆管壁の肥厚を確認できる。他部位の浸潤の描出能もMDCT(図4 a)より向上しており,高い精度での評価が可能になる。
●症例4:肝門部領域胆管がん,術前評価
図5は,60歳代,男性の肝門部領域胆管がんである。正常胆管が描出されており,腫瘍部には微細な浸潤が確認でき,左優位に腫瘍が存在していることがわかる。このような場合,左肝動脈(LHA)と右肝動脈(RHA)の浸潤によって術式を選択し,場合によっては切除の可否も考える必要がある。本症例では,LHAは最大270°程度浸潤があり,encasementはないが浸潤している可能性が高い。一方,RHAも一部が腫瘍に接しているものの,最大でも90°程度であることから,左側を切除し,右側は血行再建術をスタンバイしつつ切除することとして,拡大肝左葉切除・肝外胆管切除術を施行した。進展範囲は術前の評価どおりで,RHAへの浸潤は認められなかった。
●症例5:肝門部領域胆管がん,術前評価
図6は,60歳代,男性の肝門部領域胆管がんである。Aquilion Precisionのアキシャル像(図6 a)では胆管チューブを確認でき,腫瘍も描出されている。病理像(図6 b)との対比では,腫瘍の内部構造と後壁への浸潤程度が良好に相関している。
このように浸潤範囲の正確な評価については,臨床的なアウトカムとの相関に関する検討が十分にできてはいないものの,非常に良い印象を持っている。また,微小病変の検出や鑑別診断における情報の付加についても,症例数が蓄積されてきたことから,今後も検討していきたい。
TACE前シミュレーション
Aquilion Precisionでは,マトリックス数を増やすことでコントラスト分解能が向上し,腫瘍の中にある肝動脈がMDCTよりも良好に描出される。微細なfeederが見えるようになり,門脈などのコントラストも良くなるため,リファレンスVR画像も高精度化する。そこで,当院では,Aquilion Precisionでの術前経静脈CTAをベースとした治療前のシミュレーションにより,TACEの時間短縮や成功率の改善を図り,クオリティの向上に取り組んでいる。
●症例6:HCC
図7は,60歳代,男性のHCC症例で,S8,下大動脈の右側に約30mmの腫瘍がある(a)。この腫瘍のfeederはA8につながっており,VR画像(図7 b)と治療時の透視画像(図7 c)を比べると,高精度でVR画像が作成できていることがわかる。治療後の単純CT画像では,リピオドールの良好な沈着が確認でき,10か月間完全奏効を維持している。
●症例7:HCC
図8は,80歳代,男性でS8に50mm程度のHCCが認められる。Aquilion Precisionで微細な血管が多数描出され,A8へとつながっている(図8 a)。症例6よりも複雑な走行をしているが,VR画像を作成することでシミュレーションが可能である(図8 b)。透視画像(図8 c)では,総肝動脈からのDSA画像だと腫瘍濃染,feeder共に鑑別できず,A8からの血管が複雑な走行をしているのが確認できた。DSA画像だけで手技を進めるとfeederの同定に時間を要するが,VR画像でのシミュレーションに基づいて,自信を持ってカテーテルをカニュレーションできた。
VR画像でのfeederの探索は,feederが複数ある場合は困難であり,VR画像の作成にも時間を要する。そこで,われわれはキヤノンメディカルシステムズのワークステーション「Vitrea」に搭載されるアプリケーション“EmbolizationPlan”の応用を検討している(W.I.P.)。MDCTの術中CTHAベースでのfeeder解析では,標的病変を設定すると,撮影データをVitreaに取り込んでからfeederの自動抽出,VR画像上への描出まで30秒程度で可能である。これまでの使用経験では,良好なfeeder解析能を有しており,TACEを劇的に変える可能性がある。ただし,Aquilion PrecisionでのCTAベースでEmbolizationPlanを使用すると,feederの解析は可能であるが,現状では512マトリックスの画像しか利用できない。また,自動VR描出機能もMDCTの術中CTHAベースの方が優れている。今後,1024マトリックスでも対応可能になることから,アップデートに期待したい。
まとめ
当院における約1年間のAquilion Precisionの使用経験について報告した。胆膵領域での微小構造評価,TACE前シミュレーションでは,MDCTで見えにくかったものがAquilion Precisionでは見やすくなっており,有用性が高い。しかし,MDCTで見えなかったものが見えるかどうかについては今後も検討が必要であり,さらには患者アウトカムと関連する臨床評価も求められるだろう。
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