Aquilion Precisionの性能と物理特性
石原 敏裕(国立がん研究センター中央病院 放射線技術部放射線診断技術室)
Session(2)-1 : CT 2
2018-5-25
当院では5台のCTのうち,4台を診断用CTとして使用している。このうちの3台が80列MDCT「Aquilion PRIME」,1台が超高精細CT「Aquilion Precision」で,毎月4500件程度の検査を施行している。CT検査の目的は,悪性腫瘍の検索とフォローアップであり,全身検索(胸部〜骨盤造影CT)が約50%を占め,胸部・腹部造影CT,単純CT,腹部精査・ダイナミックCT(肝臓・膵臓など)がそれぞれ約15%,3D検査(頭部,婦人科など)が約5%となっている。
本講演では, Aquilion Precisionの性能と物理特性について取り上げる。
大幅な画質向上への期待
図1に,Aquilion Precisionで撮影し単純拡大(display FOV:DFOV)で100mmまで拡大した画像(a)と拡大再構成(reconstruction FOV:RFOV)で100mmまで拡大した画像(b)を示す。DFOV100mmの画像でも,RFOV100mm画像と遜色ない空間分解能を有しており,読影時に直接モニタ上で画像を拡大操作しても,高精細な画像を観察できる。
0.25mm×1792chの高精細モード,512×512,1024×1024,2048×2048の再構成マトリックスが可能なAquilion Precisionでは,高分解能化によって大幅な画質の向上が期待されており,その性能と物理特性を正しく評価する必要がある。
解像特性(TTF)の検討
Aquilion Precisionでは,再構成マトリックスが増加したことによって,解像特性(task transfer factor:TTF)が向上している。図2に,RFOV:350mmで再構成した場合の512,1024,2048マトリックスごとのTTFを示す。再構成マトリックスの増加に伴い,周波数帯域が延びており,解像特性が向上していることがわかる。一方で,伝達関数は最小ピクセルサイズにより制限され,測定できる周波数帯域が決まってしまうことに注意が必要である。
また,Aquilion Precisionではチャンネル数が1792chに増加したことも,解像特性の向上につながっている。896chの320列ADCT「Aquilion ONE」との512マトリックスでの比較では,1792chの方が高いTTFを示しており,1024,2048マトリックスでは,さらに数値が上昇する。
感度特性の検討
われわれは,Aquilion Precisionの感度特性についても評価した。体軸方向の実効スライス厚を測定するために,感度プロファイル(slice sensitivity profile at z-axis:SSPz)が最も高い位置を正規化したグラフを作成した(図3 a)。その結果,正規化する前の通常モード(NRモード:0.5mm×896ch)で収集した場合のCT値は約300HUであったが,高精細モード(SHRモード)では約900HUとなり,感度特性が向上している(図3 b)。
さらに,MDCTとAquilion PrecisionにおけるCT値の感度特性の違いについて,模擬血管ファントムのCT値のプロファイルカーブを計測した結果を図4に示す。図4 aは,MDCTで撮影して80kVのところのCT値が約300HUになるように造影剤濃度を調節し,管電圧ごとに計測したグラフであるが,図4 bのAquilion Precisionでは同じ80kVで約450HUまでCT値が上昇し,120kVで約300HUとなる。MDCTの80kVとAquilion Precisionの120kVが同程度のCT値になることから,臨床使用では造影剤を低減できる可能性がある。
ノイズ特性の検討
また,Aquilion Precisionのノイズ特性の評価も行った。Aquilion Precisionは,“AIDR 3D”と“FIRST”という2種類の逐次近似画像再構成技術を搭載している。図5は,対象コントラスト300HUによるFBP法とAIDR 3D,FIRSTのTTFであるが,FIRSTでは,解像特性を維持しつつ,FBP法やAIDR 3Dよりもノイズを低減できている。実際の症例画像(図6)では,FBP法(a)でSD:49HUであるが,AIDR 3D(b)ではSD:16HUでややボケた画像になった印象がある。一方,FIRST(図6c)はSD:23HUではあるが,非常にシャープな画像となり,脂肪も明瞭に描出できている。
低コントラスト検出能の検討
われわれは,Aquilion Precisionの低コントラスト検出能についても検討した。図7 aはMDCTと同等となるNRモード,図7bはSHRモードで撮影し,window条件を同一にしたファントム画像である。SD値はそれぞれ3.66HU,9.12HUとなりSHRモードの方が高いが,画像としては同じ濃度差で描出されている。撮影線量はNRモードが47.2mGy,SHRモードが43.1mGyとなっており,SHRモードの方が低線量にもかかわらずSD値が高い。これは,Aquilion Precisionの超高精細データ収集に伴う,新たな検出器や撮影モードの導入によって画像データの周波数帯域が変化したことによる影響である。このことから,ノイズ量をSD値という単純な数値を利用した尺度で比較することはできないと言える。NPSを比較すると,NRモードでは約1.2cycles/mmまでノイズが分布しているのに対して,SHRモードでは約2.3cycles/mmまでの広範囲に及んでいることが確認でき,SD値という数値が高くなることが理解できる。しかし,低コントラスト検出能に大きな差がないことが確認できた。
また,512,1024,2048の再構成マトリックス数によるノイズの違いを比較すると,2048マトリックスの方が粒状性が高い。しかし,低コントラスト検出能に大きな差はなく,高周波数帯域のノイズは,あまり影響しないと言える。さらに,われわれは,低コントラストでのコントラスト雑音比(CNRLO)の比較を行った。臨床でも使用するCT値:10HU,サイズが5mmの検出能を評価したところ,2048マトリックスが2.4,1024マトリックスが2.2,512マトリックスが1.9であった。これらの数字は絶対値ではないものの,CNRLOは2048マトリックスの方が高いという結果が出た。
この解像特性を基準として,MDCTとAquilion Precisionの比較を行った。MDCTは肺野用関数のFC50,Aquilion Precisionは腹部用関数のFC11を用いて,10%TTFで比較したところ,Aquilion Precisionの腹部用関数FC11の方がスリットの分解能が高かった(図8)。このことから,Aquilion Precisionの腹部用関数は,MDCTの肺野用関数と同等以上の解像特性を有していると言える。さらに,低コントラスト検出能をSD:10HUに設定して撮影したところ,CTDIvolがMDCTは28.1mGy,Aquilion Precisionは18.5mGyとなった。同じSD値の場合(512マトリックス),Aquilion Precisionの方が照射線量を約35%低減できた。
まとめ
Aquilion Precisionは,0.25mm×160列,1792chの検出器により解像特性が向上した。さらに,再構成マトリックス数の増加に伴い周波数帯域が延長したことも寄与している。解像特性の向上により画像ノイズが増えることが懸念される。MDCTと比較した場合,周波数帯域が延長したため高周波数帯域のノイズ成分が増えている。しかしながら,低コントラスト検出能は向上した。これは,高周波数帯域のノイズの影響が低コントラスト検出能にあまり影響しておらず,解像特性向上の効果が大きいためである。なお,周波数特性の異なる画像において画像ノイズを比較する際,SD値のみで単純比較することはできない。そのため,MDCTとの比較評価には注意が必要である。
Aquilion Precisionの解像特性やノイズ特性はMDCTと異なるため,画質特性をこれまでの評価方法や尺度で評価すると正確な特性を把握できない可能性がある。Aquilion Precisionは,アドバンテージを正しく評価することで,臨床における多くのエビデンスを構築することができる。
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