Initial experience with the high gradient system“Galan ZGO” ─From research to clinical use 
Thomas Tourdias(Bordeaux Hospital University Center Neuroimaging Department)
Session(1) : MR 3

2018-5-25


Thomas Tourdias(Bordeaux Hospital University Center Neuroimaging Department)

フランス最大の病院の一つであるボルドー大学病院では,ニューロサイエンス(神経科学)が重要な研究分野の一つであり,神経系疾患の臨床研究を行っている。また,大学の施設であるボルドーニューロキャンパスでは,国内外の650名の科学者が基礎研究を行っている。
ニューロサイエンスにおいては生体イメージングが非常に重要であり,それによって臨床研究と基礎研究の橋渡しを行う必要がある。そこで,われわれは,“TRAIL(TRanslational Advanced Imaging Laboratory)”と呼ばれる科学的なさまざまなプログラムを実施し,その一環としてバイオイメージング研究所(IBIO)が開設された。2017年11月には,研究専用装置としてキヤノンメディカルシステムズ社製の3T MRI「Galan ZGO」(仮称:W.I.P.)を導入し,同社との共同研究を行っている。本講演では,次世代3T MRIであるGalan ZGOの初期使用経験を報告する。

認知機能の研究におけるMRIの有用性と課題

アルツハイマー病や脳卒中,多発性硬化症(MS)など,神経系疾患の多くで認知障害が発症することから,われわれはそのメカニズムの解明に向けた研究を行っている。
記憶ネットワークは非常に複雑だが,主に視床と海馬から成り立っている。最近,多発性硬化症のマウスモデルにおいて,記憶障害がきわめて初期の段階で発症することを報告した1)。これはヒトも同様であり,記憶障害の原因は海馬の変化によるもので,なかでも歯状回はほかの部分よりも多発性硬化症の炎症に対して脆弱なことがわかってきた。そこで,従来のMRI装置のT1コントラストを用いてヒトの海馬の解剖学的構造について研究しているが,歯状回とCA4(歯状回門に相当)を分離して描出するのは困難である。海馬の解剖学的構造は非常に複雑で,さまざまな層や領域から成り立っているが,超高磁場 7T MRIを用いることで観察可能となった。一方,次世代3T MRI Galan ZGOでは,新しい技術との組み合わせにより,7T MRIと同等の画像を得られる可能性が出てきている。

次世代3T MRI Galan ZGOの技術的特長

1.海馬の評価における有用性
FOVを絞ることによってターゲットエリアの解像度を高め,“Deep Learning Reconstruction(DLR)”(W.I.P.)を用いたノイズ除去再構成により,7T MRIに近い高分解能な画像が得られる。DLRは人工知能(AI)を用いたノイズ除去技術であり,ノイズのみを選択的に除去することができる(図1)。raw imageとDLRのサブトラクションでは,ノイズのみが描出されていることがわかる(図2)。海馬内部の解剖学的構造の理解や,臨床的に関連性の高い領域の特定が可能である(図3)。

図1 DLRにおけるノイズ除去の仕組み(W.I.P.)

図1 DLRにおけるノイズ除去の仕組み(W.I.P.)

 

図2 ‌Galan ZGOによる高分解能画像の取得(W.I.P.)

図2 ‌Galan ZGOによる高分解能画像の取得(W.I.P.)

 

図3 Galan ZGOによる海馬の内部構造および多発性硬化症の描出(W.I.P.)

図3 Galan ZGOによる海馬の内部構造および多発性硬化症の描出(W.I.P.)

 

また,多発性硬化症による海馬への影響を解明して認知機能の向上を図ることに加え,拡散テンソルなどの先進的な技術を用いて,さらにその先の先進的な研究を進めていくべきであると考えている。拡散テンソル画像(DTI)では,コントロールマウスにおける歯状回の特定の領域の樹状突起や神経を描出でき,多発性硬化症の初期の神経傷害の様子を確認できる。樹状突起が減少すると,水の拡散の制約がなくなり方向性が失われていくが,高分解能DTIを用いることで,きわめて初期の段階における海馬の変化をとらえることができる1)
拡散強調画像(DWI)のデータ収集にはEPIを用いるが,信号の低下は水の微細移動によって引き起こされるものであり,水が動けば動くほど組織の微細構造が影響を受ける。また,信号低下のもう一つの理由にT2緩和があり,緩和時間が長くなるほど信号が低下する。
Galan ZGOの特長の一つとして,傾斜磁場コイルの性能の大幅な向上が挙げられる。これにより,従来と同等の画質をより短いecho time(TE)で得ることができる。TEを短縮できれば信号の低下を抑制でき,より高分解能が実現する。標準的な拡散強調画像ではTE=84msであるが,Galan ZGOではTE=60msでの高分解能な拡散強調画像が撮像でき,細部まで描出できるため,海馬の構造を高精度に特定できるようになると考えている(図4)。

図4 Galan ZGOによる高分解能拡散強調画像(3D DTI)での海馬の特定(W.I.P.)

図4 Galan ZGOによる高分解能拡散強調画像(3D DTI)での海馬の特定(W.I.P.)

 

また,傾斜磁場性能の向上がもたらすもう一つの利点は,真の拡散現象を検証していけることである。b値を大幅に上げると拡散による信号欠損が増加していく。われわれは,標準的なb値で撮像すると微細な構造が不明瞭となるが,b値が高くなると変化に非常に鋭敏になるため,微細な構造描出が明瞭となることを報告している2)。マウスでの実験でこの変化を観察すると,標準的なb値では特定できないが,b値を変化させることで特定できることが判明している。例えば,b値を500から5000まで変化させた拡散強調画像では,b値の上昇に伴い感度が向上し,微細な構造が明瞭化している。海馬の神経細胞が交差している部分をさまざまな方向から等方性で計測すれば,海馬構造の高精度な特定につながると考えている。
Galan ZGOによる高分解能な拡散強調画像により,将来的には多発性硬化症における海馬の早期の変化が特定できるようになると思われる。

2.視床の評価における有用性
また,視床も認知特性に大きく影響する部分であり,特に脳卒中発症後の影響が大きいことがわかっている。脳卒中によって視床と海馬を接続する特定の神経線維が分断され,徐々に劣化することで,最終的に海馬に影響を及ぼすことが動物実験で明らかになった。この変化をヒトで見るためには,視床全体ではなく,視床核そのものの輪郭を特定する必要があるが,inversion time(TI)を短縮してコントラストを向上すれば描出が可能となる3),4)。次世代の3T MRIであるGalan ZGOでは,SNRが最適化され,個々の視床核の特定が可能となりつつある(図5)。7T MRIよりも高度な特定が可能であり,視床の解剖学的な組成を特定して,脳卒中発症後の変化を観察することができる。
さらに,より高度な技術を採用し,鉄分が豊富なマイクログリアの動きを観察することも有用であると考えている。特定の血腫には鉄分が集積するため,われわれは,限局性の鉄分の蓄積を確認することで臨床成績に大きな影響を及ぼすことや,視床枕核に鉄分が蓄積することで認知機能が影響を受け,認知プロフィールが変化することを解明した5)

図5 SNRを最適化したGalan ZGOによる視床核の輪郭特定(W.I.P.)

図5 SNRを最適化したGalan ZGOによる視床核の輪郭特定(W.I.P.)

 

まとめ

次世代3T MRI Galan ZGOの高度な技術によって,海馬や視床の状況や,多発性硬化症の予後について解明が進んでいる。また,アルツハイマー病では,特定のタンパク質の異常な増加によって海馬や視床など,さまざまな脳の領域が徐々に汚染されていく様子を観察できるようになった。動物モデルで解明されたことが,Galan ZGOを用いることでヒトでも実現し,研究用に開発された技術の臨床応用も可能になると思われる。近い将来,DLRやcompressed sensingが臨床でも有用性を発揮することを大いに期待している。

●参考文献
1)Planche, V., et al., Brain Behav. Immun., 60, 240〜254, 2017.
2)Crombe, A., et al., NeuroImage, 172, 357〜368, 2018(Epub ahead of print).
3)Tourdias, T., et al., NeuroImage, 84, 534〜545, 2014.
4)Saranathan, M., et al., Magn. Reson. Med., 73・5, 1786〜1794, 2015.
5)Kuchcinski, G., et al., Brain, 140・7, 1932〜1946, 2017.

 

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