Deep Learning Reconstructionについて 
北島 美香(熊本大学医学部附属病院 中央放射線部)
Session(1) : MR 2

2018-5-25


北島 美香(熊本大学医学部附属病院 中央放射線部)

キヤノンメディカルシステムズ社では,現在,人工知能技術の一つである深層学習(deep learning)を用いたSNR向上再構成技術“Deep Learning Reconstruction(DLR)”(W.I.P.)の開発を行っている。本講演では,DLRについて概説し,健常ボランティアにおける高分解能T2強調画像でのDLRの検討結果や,その他のシーケンスへの応用について紹介する。

人工知能とDLR

人工知能においては近年,機械学習(machine learning)の手法の一つであるdeep learningによる研究が盛んに行われ,医療にも応用されるようになってきている。deep learningとは,人間の脳の神経情報伝達の仕組みを模したニューラルネットワークを多層に構築したもので,画像認識の分野では畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)がよく用いられている。画像検査・診断におけるdeep learningの応用として,画像検査申し込みのトリアージや撮像プロトコールの決定,撮像時間の短縮と画質向上(セグメンテーション,デノイズなど),モダリティ間の画像変換(MR画像からのPET画像作成など),画像診断支援などが試みられている。本講演ではこれらのうち,デノイズ(ノイズ除去)におけるdeep learningの応用について述べる。

DLRによるデノイズの特徴

MR撮像に求められる2大要素である「高分解能画像」と「短時間撮像」はトレードオフの関係にあるが,DLRはこの2つをつなぐ新技術であり,ノイズ除去を目的に開発された。図1に,DLRの概念を示す。入力画像から,CNNを介することでSNRの高い教師画像のようなノイズの少ない画像が得られる。deep learningでは膨大なデータを学習させ,自動的に特徴を抽出させる。その特徴を分析・モデル化し,このモデルに対して新たなデータを投入することで,どのような答え(結果)が得られるかを検証する。
一般的なフィルタ処理を用いたノイズ除去では,隣接するピクセルやボクセルの値を平均化するため画像がボケてしまうが,DLRを用いるとノイズだけが除去され,コントラストを維持した画像を得ることができる。フィルタ処理ではノイズだけでなく実質部分の信号も変動するのに対し,DLR処理では,ノイズだけを分離して画像の基本的な信号値やコントラストを担保できる。

図1 DLRの概念(W.I.P.)

図1 DLRの概念(W.I.P.)

 

図2は,1024×1024マトリックス,3mmスライス厚のPD STIR画像である。フィルタ処理の場合,1回加算(NAQ1)ではSNRが低く,10回加算(NAQ10)では高SNRでコントラストも良好であるが,撮像時間は約17分を要する(図2 左)。一方,10回加算の画像を教師としてDLR処理を行うと,わずか1分45秒の撮像で10回加算の画像と同等の画質が得られる(図2 右)。

図2 PD STIR画像における10回加算とDLRの比較(W.I.P.)

図2 PD STIR画像における10回加算とDLRの比較(W.I.P.)

 

海馬領域の高分解能T2強調画像でのDLRの検討

高分解能MR画像は,神経放射線診断に非常に有用かつ重要である。海馬は構築の異なる細胞が複数の層状配列を成しており,高分解能画像ではその一部の構造を描出できる。
われわれは,海馬をターゲットとした高分解能画像にDLRを用い,海馬およびその他の正常脳構造の描出について評価した。使用MRI装置は,キヤノンメディカルシステムズ社製「Vantage Galan 3T」である。海馬をターゲットとして,0.4mm×0.4mm×2.5mmの空間分解能でturbo spin echo T2強調画像を撮像した。今回は加算回数以外の撮像パラメータを固定し,加算回数の異なる3種類の画像を撮像した。これらの画像にDLRを適用し,デノイズされた画像で定性評価と定量評価を行った。DLRのデノイズの方法は,特徴抽出量(future extraction layer)を何度か重ね,最後にノイズのある画像も考慮してデノイズされた画像を出力する方法1)を用いた。
定性評価では,海馬を含めた解剖学的構造の視認性,アーチファクト,全体の画質を評価した。定量評価では,解剖学的構造物のSNR(評価構造物の信号/評価構造物のSD)とCNR(評価構造物の信号−その他の部位の脳実質の信号/その他の部位の脳実質のSD)を測定した。
定量評価では,加算回数の最も多い画像よりも,加算回数が少ない画像にDLRを適用した画像の方がSNR,CNR共に高い傾向であった。定性評価においても,解剖学的構造の視認性や全体の画質はDLRを用いることにより改善した。しかし,加算回数が極端に少ないSNRの低い画像では,DLRを適用しても,海馬内部構造などの微細な解剖学的構造の描出の向上や,わずかな組織コントラストの改善は見られなかった。この結果から,DLRを適用する画像は,評価したい病変,構造のコントラストが保持されている必要があると考えられる。また,DLRを用いた画像では,ノイズが除去されることによりアーチファクトが目立つ場合が見られた。そのため,DLR画像では特にMRIのアーチファクトを十分理解した上で読影する必要がある。加えて,今後,アーチファクト低減技術の開発も期待される。
高分解能画像の撮像では,長い撮像時間による患者の体動による画質低下が懸念されるが,そのような場合はDLRを用いた短時間画像撮像が有用であると考えられる。

DLRのその他のシーケンスへの応用

DLRの特長として,さまざまなシーケンスに適用可能なことが挙げられる。特に,ノイズの多い画像に有用なことから,拡散強調画像(DWI)には大きな効果が期待できる。図3は実際の画像であるが,DLR処理後はノイズが除去されて非常に見やすく,解剖学的なコントラストも明瞭になっている。また,ここから作成した拡散テンソル画像(DTI)のカラーマップ(図4)も,DLR処理によって末梢のノイズが除去され,髄枝も明瞭に描出されている。

図3 DWI(b=1000,1direction)におけるDLRの効果(W.I.P.)

図3 DWI(b=1000,1direction)におけるDLRの効果(W.I.P.)

 

図4 DTIカラーマップにおけるDLRの効果(W.I.P.)

図4 DTIカラーマップにおけるDLRの効果(W.I.P.)

 

定量評価においても,DLR処理によるノイズ除去は有用であると考えている。例えば,元画像から作成したFA(fractional anisotropy)マップはSNRが非常に低いが,DLR処理を行うことでノイズの少ない画像が得られる(図5)。ROI内のFA値を計測すると,平均値はそれほど変わらないが,SDがかなり小さくなっているため,定量評価における精度向上が期待できる。
さらに,DLRは,compressed sensing(CS)などとの併用も可能である。これについてはまだ評価を行っていないが,wavelet変換を用いたノイズ除去画像と画質の質感がかなり異なる。今後はCSとの比較などが必要と思われる。

図5 定量評価におけるDLRの有用性(W.I.P.)

図5 定量評価におけるDLRの有用性(W.I.P.)

 

まとめ

今回のわれわれの検討では,DLRを用いることで撮像時間を50%以上短縮して撮像した画像でも,撮像時間を短縮しない画像と同等の画質を得ることができた。DLRの可能性として,短時間での高分解能撮像のほか,拡散強調画像や灌流画像,fMRI,VBM(voxel based morphometry)などの定量解析の精度向上などが考えられる。
一方,今後は病変の描出や前述のアーチファクトの影響などについて,より多くの症例で確認する必要がある。DLRはさまざまな撮像技術との併用が可能で,発展性のある技術であり,今後もいくつかの課題に関して検討していきたい。

●参考文献
1)Isogawa, K., et al. : Deep shrinkage convolutional neural network for adaptive noise reduction. IEEE Signal Process. Lett., 25・2, 224〜228, 2018.

 

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