高速化イメージングの最新動向
山下 裕市(キヤノンメディカルシステムズ株式会社MRI事業部)
Session(1): MR 1
2018-5-25
キヤノンメディカルシステムズは,2015年に次世代MRI開発センターを設立し,将来的なさまざまな新しい技術を中心に開発を進めてきた。その一つとして,超高分解能技術を搭載した次世代3T MRIを開発した。2017年11月にボルドー大学(フランス)のバイオイメージング研究所(IBIO)に納入し,超高分解能技術に関しての共同研究を開始した。そのほかにも複数ある技術の一つとして,当社独自のcompressed sensing(CS)技術の開発も進めている(W.I.P.)。compressed sensingでは一般的に軟部組織のコントラストが低減することが大きな問題点として取り上げられているが,われわれはコントラストを維持したまま高速化を図ることをめざしている。本講演では,開発中のcompressed sensingの技術的特徴を紹介する。
Compressed sensingにおける高速化と画質の両立
われわれは,MR撮像にて高速化と画質を両立するためには,「parallel imaging(PI)+compressed sensing(CS)」が最良の方法であると考えている。parallel imagingは,実信号に伴う画像展開を行うため可逆性に優れているが,高速化の上限は低い。一方,compressed sensingは真値を推定しているため,圧縮率が高いほど可逆性が低く画像劣化が起こるが,高速化の上限が高い。よって,この2つを組み合わせることで,可逆性が高く,画質を担保でき,高速化の上限を高くすることができる。
ただし,一般的に行われているcompressed sensing後にparallel imagingを行う流れ(CS→PI)では,wavelet変換によるデノイズ後の画像をparallel imaging展開するため,parallel imagingで発生するノイズを除去できない。このため,g-factorによるノイズや展開エラーが発生しやすく,エンコード方向の依存性も高くなる。逆に,parallel imaging後にcompressed sensingを行う流れ(PI→CS)では,parallel imagingのノイズをwavelet変換で除去できるという特長がある。その反面,閾値が増大して画像のボケが大きくなり,画質の劣化につながる。したがって,高速化と画質を両立するためには,parallel imagingの基本性能が高い必要がある。
新しいparallel imaging“MeAS”(開発名:W.I.P.)
そこで,われわれは,新しいparallel imaging“MeAS”(Multi sensitivity map to Auto calibrating SPEEDER)を開発した(図1)。一般的なparallel imagingでは,通常の撮像以外にマップスキャンを行い,そこから得られるコイルの感度情報を用いて画像を展開する。一方,MeASではマップスキャンを行わず,本撮像のk-spaceのデータを用いてマップを生成する。生成されたマップは,コイル1チャンネルあたり複数の感度マップを持つこと(Multi sensitivity MAP)で精度を向上している。一般的にはマップの値が正しければ数学上展開エラーは発生しないと言われているが,実際にはノイズや誤差が発生する。そこで,その誤差成分も新たにマップとして生成し補正しているのが,Multi sensitivity MAPである。
また,MeASの特長として,マップスキャンを行わないためマップ画像との位置ズレによるアーチファクトが発生しない,イメージベースで展開するためSNRの低下が少ない,高速化時の展開アーチファクトが非常に少ない,小FOV時の展開エラーが発生しづらい,体動などの動きも補正される,などが挙げられる。各種parallel imaging法の画像を比較すると,MeASではSENSEに見られるエッジアーチファクト(展開エラー)もなく,明瞭な画像が得られている(図2)。
“MeACS”(開発名:W.I.P.)─MeASとCSの融合
われわれは,さらに,MeASとcompressed sensingを融合した“MeACS”(Multi sensitivity map to Auto calibrating SPEEDER with Compressed Sensing)を開発した(図3)。PI→CSという一般的なcompressed sensingの流れのparallel imagingの部分を,フーリエ変換とMulti sensitivity MAPを用いて展開し,続くcompressed sensingの部分でもMulti sensitivity MAPを使用している。したがって,compressed sensingの部分を繰り返すほど画像データの誤差成分が除去され,精度が向上する。
図4は,parallel imagingなし,MeACS,SPEEDER(SENSE)の画像比較であるが,MeACSではエンコード方向の依存性が低く,展開エラーもまったく見られない。MeACSは,compressed sensing単独,CS→PI,PI→CSという従来法の問題点を解決できると考えている。
また,一般的なcompressed sensingは,T1強調やFLAIRなど,低組織コントラスト画像に適用すると画質の変化が大きい。一方,MeACSではコントラストを維持したまま高速化が図れている(図5)。
図6は膝の2D FSE画像で,0.4mm resolution,スライス厚2.5mmと非常に高分解能であるが,MeACSではSNRが低下することなく,コントラストを維持した画像が描出できている。
図7は脂肪抑制画像である。一般的に,信号が低下するような撮像にcompressed sensingを用いると画像にボケが生じるが,MeACSでは4倍速でもコントラストを維持できている。撮像時間のさらなる短縮も可能であり,MeACSはファーストイメージングとしても使用可能と考えている。
まとめ
compressed sensingは,parallel imagingに代わる高速撮像法として非常に期待されている。コイルチャンネル数への依存がほとんどないため,さまざまなコイルで高速化が実現できる可能性がある。また,位相エンコードの影響や展開エラーなどのparallel imagingの問題点の改善が期待できる。低組織コントラストが消失する可能性や,適用シーケンスや撮像条件が制限される可能性はあるが,今後どこまでparallel imagingを代替可能か追究していきたい。