Aquilion ONEを用いた胸部画像診断 ─肺サブトラクション─ 
横山 健一(杏林大学医学部放射線医学教室)
Session 2

*最後に講演動画を掲載

2016-12-22


横山 健一(杏林大学医学部放射線医学教室)

本講演では,「Aquilion ONE」のアプリケーションである“Lung Subtraction”について,当施設での使用経験を中心に報告する。

Lung Subtractionの原理とplanar-LSVの開発

Lung Subtractionは,造影前と造影後それぞれのCT画像に対して,ノイズ除去と非剛体位置合わせを経て,精度の高い差分処理を行う手法である。この差分処理から,肺野内の血流をカラーマップ表示する“肺野モード”と,肺血管をMIP表示する“血管モード”という2種類の観察法が可能である。Lung Subtractionは,肺血栓塞栓症の診断に非常に有用である。
当施設におけるLung Subtractionの撮影では,造影剤による上大静脈のアーチファクトが目立つ場合があるため,それを軽減するために足側から頭部方向へスキャンしている。また,サブトラクションを行うことから,位置合わせの精度を高めるため,造影前後の撮影間隔をできるかぎり短くしている。造影剤の注入方法は,20秒間の造影剤注入と,10秒間の造影剤40%+水60%の混合注入を行うことで,適正なCT値を保持している。
肺血栓塞栓症の診断には,一般的に,造影CTのほかに肺血流シンチグラフィが施行されることが多い。肺血流シンチグラフィでは,SPECT画像のほか,一目で病変を把握しやすいplanar画像が有用であり,診療科からはCTでも同様の画像の提供が求められていた。そこで,われわれは,Lung Subtractionを用いた画像表示方法の検討を行った。Lung Subtractionは,オリジナルのサブトラクション画像である“SUB-NN”,オリジナル画像にスムージングフィルタを付加した血管観察用サブトラクション画像“SUB-VSL”,オリジナル画像から血管ピクセルを除去して強いスムージングフィルタを付加した肺野観察用サブトラクション画像の“SUB-LUNG”がある。われわれは,この中からSUB-LUNGをベースに,“planar-LSV(planar image from Lung Sub Volume)”と呼ぶ,肺血流シンチグラフィのplanar画像と同様の表示法を考案した。
planar-LSVと肺血流シンチグラフィのplanar画像を対比すると,肺血流の欠損部位が非常によく一致していることがわかる(図1)。さらに,planar-LSVに肺野抽出画像を加えることでオリエンテーションがつきやすくなるほか,CTA画像を付加することにより,肺動脈と肺血流の両方を重ねて表示することが可能である(図2)。

図1 肺血流シンチグラフィのplanar画像とplanar-LSVの対比1) a:99mTc-MAA肺血流シンチグラフィplanar画像 b:planar-LSV

図1 肺血流シンチグラフィのplanar画像とplanar-LSVの対比1)
a:99mTc-MAA肺血流シンチグラフィplanar画像
b:planar-LSV

 

図2 planar-LSVと肺野抽出画像,CTA画像の重ね合わせ2) a:planar-LSV+肺野抽出画像 b:aの画像+CTA画像

図2 planar-LSVと肺野抽出画像,CTA画像の重ね合わせ2)
a:planar-LSV+肺野抽出画像
b:aの画像+CTA画像

 

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するLung Subtraction

当施設では,主に慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)症例の診断に,Lung Subtractionを用いている。CTEPHは,器質化した血栓によって肺動脈が閉塞し,肺血流分布と肺循環動態の異常が6か月以上固定した状態と定義されている。その原因としては,急性肺血栓塞栓症の再発や慢性化などが挙げられる。また,治療法は薬物療法が主体となるが,肺動脈血栓内膜摘除術のほか,最近ではバルーン肺動脈拡張術が行われるようになり,当施設も多くの患者が来院している。
CTEPHの診断の流れは,胸部X線撮影などのスクリーニング検査を経た後,ほかの肺高血圧症との鑑別を目的に肺血流シンチグラフィを行い,さらに確定診断のために肺動脈造影,胸部造影CTを施行して,最終的に右心カテーテル検査を実施する。Lung Subtractionを用いることで,肺血流シンチグラフィ,肺動脈造影,胸部造影CTで必要となる情報が得られると期待される。
CTEPHの画像所見としては,肺血流シンチグラフィでは区域性の集積欠損を示し,肺動脈造影では亜区域気管支レベルでの評価が可能で,pouch defects,webs and bands,intimal irregularities,abrupt narrowing,complete obstructionを見ることができる。造影CTも肺動脈造影と同様の所見であるが,区域枝レベルでの評価となる。
CTEPHにおけるLung SubtractionのLung Iodine MAPと肺血流シンチグラフィのplanar画像を比較すると,血流の欠損箇所が一致している。
一方,Lung SubtractionのLung Iodine MAPと肺血流シンチグラフィの所見が一致しない場合もある。図3のSPECT画像(b)では,右肺の中葉に大きな欠損()が認められるが,Lung Iodine MAP(a)では血流が保たれている()。これは,CTEPHの場合,気管支動脈や肋間動脈が拡張し,体循環系の側副路が発達して,肺動脈の血流を補っているためと考えられる。
また,CTEPHでは造影CTの肺野条件で,肺血流量を反映していると考えられるモザイクパターンを示す症例が多く見られる。そこで,当施設では,CTEPH35症例に対してLung Subtractionを用いて,Lung Iodine MAPと造影CT肺野条件のモザイクパターン,縦隔条件の肺動脈閉塞との比較を行った。肺動脈閉塞については,肺動脈造影の所見と高い相関を示すとされている“Modified Qanadli score”3)を用いて,区域ごとに閉塞状況を調べてスコア化した(図4)。その結果,Lung Iodine MAPとモザイクパターンは非常によく一致していることが示された。また,肺動脈閉塞については,Lung Iodine MAPとModified Qanadli scoreに強い相関はなかった。このことからCTEPHでの肺血流は,肺動脈の閉塞だけでなく,側副路の関与が影響していると思われる。

図3 Lung Iodine MAPとSPECT画像の比較 a:Lung Iodine MAP b:99mTc-MAA肺血流シンチグラフィ(SPECT)

図3 Lung Iodine MAPとSPECT画像の比較
a:Lung Iodine MAP
b:99mTc-MAA肺血流シンチグラフィ(SPECT)

 

図4 CTEPH35症例における比較結果4)

図4 CTEPH35症例における比較結果4)

 

Lung Subtractionを用いたCTEPHの臨床

当施設におけるLung Subtractionを用いたCTEPH診療の実際について紹介する。症例は60歳代,男性。CTEPHと診断後,内服療法などで加療していたものの症状が増悪したことから,バルーン肺動脈拡張術が検討された。図5は,planar-LSVとCTAを重ね合わせたカテーテル治療支援画像で,肺血流の欠損部位や肺動脈の状態を観察すると,左A5に強い狭窄があり,末梢の分枝の描出も明瞭ではなかった。また,Lung Iodine MAPでも左S5の欠損が認められたために,バルーン肺動脈拡張術を施行した。CTA画像による治療効果判定では,治療前は狭窄が認められるほか,末梢の描出能もあまり良くないが,治療後は改善されていた(図6)。Lung Iodine MAPの治療効果判定でも,左S5の血流が回復しており,治療前は心室中隔が左室側へ押されていたが,治療後には軽減され,右心負荷が改善している(図6)。

図5 カテーテル治療支援画像(planar-LSV+CTA合成画像)

図5 カテーテル治療支援画像(planar-LSV+CTA合成画像)

 

図6 CTA画像とLung Iodine MAPの治療効果判定2)

図6 CTA画像とLung Iodine MAPの治療効果判定2)

 

まとめ

Lung Subtractionは,非造影と造影CTそれぞれのボリュームデータを用いて,CT値の差を利用してカラーマップ化するアプリケーションである。その画像表示法であるSUB-LUNGのデータを後処理することで,肺血流シンチグラフィのplanar画像のようなplanar-LSV画像を作成することができ,当施設ではそれを診療科に提供している。また,planar-LSV画像にCTA画像を重ね合わせることで,肺血管の形態と末梢の血流の両方を表示できる。
Lung SubtractionのCTEPHにおける臨床的な有用性としては,低侵襲,低被ばくで詳細な肺血流の評価を行えるほか,肺血流シンチグラフィと対比させることで側副路の発達状態の把握が可能となることが挙げられる。さらに,CTA画像との重ね合わせにより,バルーン肺動脈拡張術などのカテーテル治療におけるガイドや効果判定に用いることもできる。

●参考文献
1)Fukushima, K., Koyanagi, M., et al. : Proceedings of JSRT 2016.
2)小柳正道, 福島啓太・他 : Proceedings of SAMI 2016.
3)Hoey, E.T., Mirsadraee, S., Pepke-Zaba, J., et al. : Am. J. Roentgenol., 196・3, 524~532, 2011.
4)Kariyasu, T., Yokoyama, K., et al. : Proceedings of ECR 2016.

 

 

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