超低線量による小児体幹部診断 
前田恵理子(東京大学医学部附属病院放射線科)
Session 2

*最後に講演動画を掲載

2016-12-22


前田恵理子(東京大学医学部附属病院放射線科)

東芝メディカルシステムズ社製ADCTにおける画素感度の向上(PUREViSION Detector),前面線量の低減(Organ Effective Modulation),逐次近似再構成の進化(FIRSTなど)といった技術開発によって,小児CTの低線量撮影はいまや,現実の線量が理想に追いついたと言える。本講演では,小児体幹部診断における「Aquilion ONE/GENESIS Edition」(GENESIS)による理想的な超低線量撮影について述べる。

被ばく低減の基本

小児のCT撮影では,管電圧や管電流などで被ばく線量の低減を図ったとしても,無駄な撮影を繰り返したり,必要以上の範囲で撮影したりしては意味がなく,総合的な“総力戦”で対応する必要がある。
小児の被ばく低減の考え方については,米国小児放射線学会などが“Image Gently”というキャンペーンを展開している。Image GentlyについてはAJR誌に掲載された論文1)で,小児患者に対してCTの画質と線量を最適化するためのステップがまとめられている。具体的には,現場教育,放射線を使わない代替手段の利用,ポジショニング(アイソセンター),位置決め撮影線量の低減,余計な範囲を撮影しない,目的に応じたmAs設定,管電圧の調整,ピッチの増加,AECの利用,1相撮影といった提案から,再撮影にならないように楽しい撮影室にするといった工夫までが紹介されている。低線量での小児CT撮影のためには,このような取り組みが非常に重要である。

小児体幹部撮影

当院の小児体幹部では,80kVで単純CTはSD28(5mmあたり),造影CTはSD32(同)という超低線量で撮影している。体幹部で低線量撮影を可能にするテクニックとしては,(1) 80kV位置決め撮影時の背面曝射,(2) Sure kV,(3) Organ Effective Modulation(OEM)の3つがある。
80kV位置決め撮影の背面曝射は,体前面のリスク臓器の被ばくを回避することができる。ただし,東芝メディカルシステムズ社製CTでは,背面曝射を使った位置決め撮影時は,画像は左右が逆になるので注意が必要である。さらに,GENESISなどに搭載されている,照射領域をレーザー光で示す“エリアファインダ”機能を使うことで,位置決め撮影そのものが不要になるため,さらなる被ばく低減が期待できる。
Sure kVは,Volume ECで設定された上限・下限でのmAの張りつきを判定して,自動的に最小のkVを選択する機能である。Sure kVでは,kV決定時に“Auto”を選択することで最適な管電圧が自動的に選択され,AECの線量変調が可能になり,被ばくが低減できる。
OEMは,本スキャンでの体前面の被ばくを低減するもので,最大電流の60%まで低減できる。OEMは,計算値が80mAより低い場合には適用されないため,ガントリ回転速度などを変更して調整することが必要である。Akaiらの研究では,OEMを使うことでCTDIvolを平均8.3%下げることができたと報告されている2)

1.造影CT
Sure kVとOEMを適用した検査を実際の症例で説明する。症例1は,6歳,男児。図1は,肝芽腫治療後のフォロー検査のコンソール画面である。SD32で,120kVではmAが下限に張りついてしまったため,Auto kV(80kV)を設定したことで線量変調が効いていることがわかる(図1 a)。また,OEMを適用し,ガントリ回転速度を500msから275msに上げている(図1 b)。CTDIvolは120kV時の3.7から2.6になり,さらにOEMによって3〜5%の線量低減になっている。
この条件で撮影した造影CT(図2)では,SD32(5mm)でAIDR 3D Enhanced Strongを適用することでストリークアーチファクトも低減され,鎖骨上窩や肺野についても十分診断可能な画像が得られている。造影CTはSD32(5mm)+AIDR 3Dで撮影可能であり,CTDIvolは2.5mGy,EDは2.5mSvとなっている。

図1 症例1:Sure kVとOEMの設定画面 Auto kVや回転速度の変更で,Volume ECを適用した撮影が可能になる。

図1 症例1:Sure kVとOEMの設定画面
Auto kVや回転速度の変更で,Volume ECを適用した撮影が可能になる。

 

図2 症例1:小児体幹部の造影CT a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong

図2 症例1:小児体幹部の造影CT
a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong

 

2.単純CT
単純CTはコントラストがつきにくいため,SD28(5mm)で撮影している。症例2は,6歳,女児,生体肝移植後フォローだが,QDS,AIDR 3D Enhanced Strongで鮮明な画像が描出されている(図3)。図3 cは,2年前にSD13で撮影された肝移植後のCT画像だが,SD28+AIDR 3D Enhanced Strong(図3 b)では,ほぼ遜色ない画質が得られている。コントラストが得にくい上腹部の単純CTにおいても,SD28(5mm)+AIDR 3D Enhancedを選択することで,低線量での撮影が可能である。

図3 症例2:小児体幹部の単純CT a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong c:2年前のCT(SD13)

図3 症例2:小児体幹部の単純CT
a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong c:2年前のCT(SD13)

 

3.FIRSTの適用
FIRSTでは部位別パラメータと強度を選択できるが,小児体幹部撮影ではどのモードを選ぶべきかを検討した。症例3は,8歳,女児,肝門脈シャントのある症例で,QDS,AIDR 3D Enhanced Strong,FIRST Lung Strong,FIRST Body Mildで処理を行った(図4)。当院では,成人腹部はFIRSTのBody Mildで処理しているが,小児の腹部ではBody Mildはオイルペインティング様に表示されてしまう。Lung Strongでは腸管の微妙なコントラストが描出され,空間分解能が高くなっており,小児体幹部でのFIRSTはLung Strongの選択をお勧めする。

図4 症例3:小児体幹部へのFIRSTの適用 a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong c:FIRST(Lung Strong) d:FIRST(Body Mild)

図4 症例3:小児体幹部へのFIRSTの適用
a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong
c:FIRST(Lung Strong) d:FIRST(Body Mild)

 

小児循環器撮影

当院の小児循環器撮影プロトコールは,回転速度275ms,管電圧80kV,SD40(5mm:AIDR 3D Enhanced使用時はSD32),ECG同期volume撮像,Target CTA@40%,1心拍となっている。症例4は,3歳,女児,体重10.2kg,Ebstein症候群の症例だが,QDS,AIDR 3D Enhanced Strongではノイズは抑えられているものの,全体的に輪郭が不鮮明になっている(図5)。FIRSTのCardiac Strong(図5 c)では,心臓の輪郭を追うことができ,右房と右室の間の形状や,巨大化した右室に圧排された肺静脈の狭窄なども確認できる。図5 cのFIRSTのデータから作成した3D画像(図6)は,肺血管を含めて心臓全体が高い精度で描出されており,FIRSTの高い空間分解能が確認できる。CTDIvolは0.3mGy,EDは0.6mSvである。
当院の複雑先天性心疾患児49名について,同一撮影条件下(SD40)でAIDR 3D EnhancedとFIRSTのCardiac Strongで処理を行い,心臓の心房,心房中隔,冠動脈など各構造について画質の比較を行った。いずれの構造でもFIRSTの方が明瞭に描出されており,特に冠動脈はAIDR 3D Enhancedでは診断不可だったが,FIRSTでは診断可能なレベルの画像が得られた。
当院における小児CT撮影では,被ばく線量は1歳未満の子どもでCTDIvolが0.5,1歳以上5歳以下で1前後となっている。これは,J-RIMEの小児胸部CTの診断参考レベル(DRL)の1/20の値であり,小児胸部単純写真のDRLとほぼ同レベルの被ばく線量である(図7)。

図5 症例4:小児循環器へのFIRSTの適用 a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong c:FIRST(Cardiac Strong)

図5 症例4:小児循環器へのFIRSTの適用
a:QDS b:AIDR 3D Enhanced Strong c:FIRST(Cardiac Strong)

 

図6 図5 cのFIRST(Cardiac Strong)のデータから作成した3D再構成画像

図6 図5 cのFIRST(Cardiac Strong)のデータから作成した3D再構成画像

 

図7 ADCTとFIRSTによる小児心臓CTの被ばく線量の比較

図7 ADCTとFIRSTによる小児心臓CTの被ばく線量の比較

 

まとめ

小児CT撮影では,5mmあたりのSDは,単純28,造影32,心臓+FIRST40で撮影が可能である。さらに,位置決め撮影時背面曝射,Sure kV,OEMなどの技術も取り入れることで,さらなる低線量撮影が可能になる。

●参考文献
1)Strauss, K.J., et al. : AJR., 194・4, 868〜873 , 2010.
2)Akai, H., et al. : EJR., 85・9, 1569〜1573, 2016.

 

 

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