セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年10月号

第107回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー10 あなたのERCP関連手技をつぎのステージへ

〈講演2〉悪性疾患におけるERCP関連手技をつぎのステージへ

岩崎 栄典(慶應義塾大学医学部 消化器内科)

岩崎 栄典(慶應義塾大学医学部 消化器内科)

内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)は、胆膵悪性疾患の診断や治療において重要な役割を担っているが、特に胆道がんにおいては治療法やデバイス・技術の進化などに伴い、ERCPを用いた診断・治療ストラテジーは変革期にある。本講演では、国内外の報告などを踏まえ、ERCP関連手技の変化やERCPにおける被ばく低減への取り組みについて解説する。

肝門部領域胆管がんへの診断的ERCP関連手技

当施設の消化器内科胆膵グループは、大学院生や若手医師を中心に9名で診療を行っている。年間の処置件数は、ERCP、超音波内視鏡(EUS)ともに約800件、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)は100〜150件に上る。特に、肝門部胆管がん患者の紹介受診が多く、精査は約60例、内視鏡的乳頭切除術(EP)は約30例実施している。当施設は透視室が2室あり、それぞれにCアーム型X線TV装置「Ultimax-i」(キヤノンメディカルシステムズ社)と55インチの大画面モニタを備える。Ultimax-iを壁際に設置して広いワーキングスペースを確保し、週1回の小児などに対する全身麻酔下ERCPにも活用している(図1)。
胆道がんにおいては、抗がん剤治療や免疫チェックポイント阻害薬などの開発・発展によって患者のQOL向上や長期生存が実現するに伴い、診断・治療ストラテジーが大きく変わりつつある。胆管悪性狭窄疑い例の診断に当たっては、造影CTやMRIによる画像評価後、消化管への浸潤例は上部消化管内視鏡(EGD)生検、胆管内腔への浸潤例はERCP、胆管外への浸潤例はEUS-FNAなどが選択肢となる(図2)。当施設では、手術可能な症例については、逆行性胆管炎などの合併症の可能性を考慮し、できるかぎり内視鏡的乳頭切開術(EST)を行わず、胆道鏡挿入時は内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を追加するようにしている(図3)。一方、そのような症例ではERCP後膵炎の発生リスクが高いため、対策として積極的に膵管ステント留置を行っている。
擦過細胞診(ブラシ細胞診)や透視下直接生検を行うに当たっては、手技を工夫し、検体を十分に採取することで正診率が向上するものの、それぞれ単独での実施では診断性能は不十分である。当施設での検討では、胆道鏡直視下生検が最も正診率が高く、生検と擦過細胞診を併用することで正診率が向上した。しかしながら、実臨床においては、初回ERCPで診断がつかず、ERCPを繰り返すうちにコストの増大や医師・患者双方への負担が生じ、診断不十分のまま侵襲性の高い手術をせざるを得ないケースがあり、新たな、より効率的な診断法が求められている。
近年発売された「EndoSheather」(バイオラックス社製)などのガイドシースは、簡便かつ安全に複数検体を採取でき、当施設でも生検鉗子の挿入が困難な左肝門部付近などでの採取に活用している。また、複数のメーカーから新しい胆道鏡が臨床に投入されたことで、コスト低減や画質改善やリアルタイムAI診断の併用による診断精度の向上などが期待されており、生検から内視鏡所見へのシフトが予測される。一方、論文などで散見されるFluorescence in situ hybridization(FISH)法やNGSパネル(BiliSeq)などの分子生物学的技術は、現時点では保険償還がなくコスト的にも臨床応用は難しいことから、ガイドシースや胆道鏡の活用による新たな診断技術の臨床応用が求められる。

図1 当施設の透視室内の配置

図1 当施設の透視室内の配置

 

図2 胆管悪性狭窄症の診断フロー

図2 胆管悪性狭窄症の診断フロー

 

図3 術前肝門部領域胆管がん診断の留意点

図3 術前肝門部領域胆管がん診断の留意点

 

肝門部領域胆管がんへの胆道ドレナージ

Asia-Pacific consensus(2013年)では、内視鏡的胆道ドレナージ(EBD)と並行して経皮経肝胆道ドレナージ術(PTBD)が強く推奨されたが、その後の欧州消化器内視鏡学会(ESGE Guideline 2018)、米国消化器内視鏡学会(ASGE guideline 2021)、米国消化器病学会(ACG guideline 2023)の各ガイドラインでは、次第にEBDが主体とされるようになった。また、2018年のガイドラインではカバー付き金属ステントが強く推奨されたが、2021年と2023年のガイドラインではプラスチックステントの有用性が再認識され、さらには追加焼灼処置の有用性が示されるなど、ドレナージストラテジーに変化が生じている。
すでに一般的となっているコンセンサスでは、EBDではBilateral以上で可能なかぎり十分なドレナージを行うことが強く推奨されている。また、金属ステントやガイドワイヤの改善に伴い、stent-by-stent(SBS)と比較してstent-in-stent(SIS)の方がより簡便、確実に施行可能になり、SISを推奨するメタアナリシスが報告されている1)。さらに、3区域(前区・後区・左葉)ドレナージの有用性も報告されている2)。セルを探るデバイス(アンイーブン、ESTナイフなど)やセル突破性の高い特殊なアンカバー金属ステントなどの開発もあり、従来はドレナージ困難とされた症例でも検討の余地はある(図4)。
2015年に報告されたメタアナリシスでは、プラスチックステントと比較して金属ステントの方が技術的成功率や開存率が高いとされていたが3)、最近のインサイドステントに関する報告では、金属ステントと比較して処置時間が短く、re-interventionなどにも有利であるとされており、プラスチックステントの有用性が示されつつある4)。今後は、切除不能例においては、初期はプラスチックステント留置と定期交換を行い、終末期に金属ステント留置に移行するというストラテジーへと変化することが考えられる(図5)。
また、ラジオ波焼灼療法(RFA)は安全性、有用性ともに高く、使用するカテーテルは光線力学的療法(PDT)よりも廉価である。さらに、RFAとPD-1抗体のシナジー効果などに関する研究もあり、局所焼灼療法を含めた抗がん剤治療も期待される。

図4 症例(3領域SISドレナージ)

図4 症例(3領域SISドレナージ)

 

図5 切除不能例での今後の治療ストラテジー

図5 切除不能例での今後の治療ストラテジー

 

ERCPにおける医療被ばく低減への取り組み

診断的ERCPから治療的ERCPに移行し、経皮的処置や手術が内視鏡的処置に置き換えられつつあることを受け、多くの施設でERCP関連処置件数が増加している。さらに、処置の複雑・高度化に伴い検査・透視時間が長時間化しており、医療被ばく増加のリスクがある。
ERCPにおいては、防護メガネやネックガード、防護衣、防護カーテンなどで防護対策を行う(図6)。ERCP施行時はアンダーチューブの方が被ばく線量が少ないため、当施設ではアンダーチューブ+防護カーテンを採用している。また、個人線量計の装着率の低さを示す調査結果もあり、頭頸部プロテクタの外側ならびに胸部プロテクタの内側に必ず装着することが重要である。
当施設での測定では、透視パルスレートを基準とした15fpsから7.5fpsに下げ、透視線量モードをMidに設定することで散乱線量が1/4に低下し、また、術者がFPDから離れるほど散乱線量が低減した(図7、8)。また、患者-FPD間距離が広がると散乱線量が増えるため、FPDを患者に密着させ、上部防護カバーを追加することで患者からの散乱線量がさらに低減する(図9、10)。

図6 ERCPにおける医療従事者の放射線防護対策

図6 ERCPにおける医療従事者の放射線防護対策

 

図7 当施設における散乱線量測定

図7 当施設における散乱線量測定

 

図8 立ち位置と散乱線量測定

図8 立ち位置と散乱線量測定

 

図9 SID(X線管焦点~FPD間距離)と散乱線量の変化

図9 SID(X線管焦点~FPD間距離)と散乱線量の変化

 

図10 上部防護カバーによる散乱線量低減

図10 上部防護カバーによる散乱線量低減

 

Ultimax-iを活用した被ばく線量低減の取り組み

Ultimax-iの特長である高画質・低線量検査コンセプト「octave SP」は、独自のリアルタイム画像処理技術などにより、照射線量を従来に比べ約65%低減する。さらに、ワンタッチでの透視線量モード切り替えや検査目的に応じた5段階のパルスレート調節などが可能である。当施設では、通常のガイドワイヤ探索やERCPでは低線量モード(Low)、パルスレート3.75fpsに設定し、octave SPによる低減と合計して被ばく線量を従来より99%低減している。
従来の診断的ERCPでは、胆管造影時は常に高画質で観察し、ワイヤ操作や処置具挿入時も高画質を維持していた。しかし、血管撮影領域ではごく低線量で処置を行っており、われわれ消化器内科医もマインドセットを転換し、パルス透視や線量低減プロトコールなどを積極的に活用して被ばく低減に取り組むべきである。当施設で診断と3領域へのインサイドステント留置を行った肝門部胆管がん症例では、可能なかぎりパルスレートなどの放射線量を低減し、必要時のみ造影することで、90分の検査時間でも88.9mGyという低被ばくで処置を終えることができた。

新画像処理条件「Accent」の有用性

当施設では、Ultimax-iの新画像処理条件AccentやCアームを積極的に活用している(図11)。Accentは、ガイドワイヤやバスケット、ステントなど、術者が見たい部分を強調表示することで、より手技のしやすい検査環境を実現する。当施設での検証では、Accentを適用し、標準モードと同程度の視認性が得られるよう設定した結果、被ばくを低減することができた(図12)。また、放射線科専門医6名と診療放射線技師5名による評価では、線量やパルスレートを低減しても、Accentを適用することで動的分解能が有意に向上するというデータが得られている。

図11 新画像処理条件AccentとCアームの活用 症例1:Accentにより細径ガイドワイヤ「ナビプロ0.025インチ」(ボストン・サイエンティフィック社製)の視認性が向上 a:通常の透視像:ガイドワイヤが不明瞭 b:Accentの透視像:ガイドワイヤの視認性が向上 症例2:Cアームにより体位変換不要で角度付けが行え、分離ができたB3/B4a a:B3/B4aが重なっており、識別が困難 b:Cアームによる角度付けでB3/B4aの識別が可能

図11 新画像処理条件AccentとCアームの活用
症例1:Accentにより細径ガイドワイヤ「ナビプロ0.025インチ」(ボストン・サイエンティフィック社製)の視認性が向上
a:通常の透視像:ガイドワイヤが不明瞭
b:Accentの透視像:ガイドワイヤの視認性が向上

症例2:Cアームにより体位変換不要で角度付けが行え、分離ができたB3/B4a
a:B3/B4aが重なっており、識別が困難
b:Cアームによる角度付けでB3/B4aの識別が可能

 

図12 当施設でのAccent適用の評価

図12 当施設でのAccent適用の評価

 

まとめ

ERCP関連処置は、処置の長時間化や件数の増加などに伴い、患者や術者の被ばくリスクが上昇している。そのため、われわれ消化器内科医はマインドセットを転換し、適切な放射線防護に努めるとともに、パルス透視や画像処理技術などの活用により、最大限の被ばく低減に取り組むことが重要である。

●参考文献
1)Lee, T.H., Moon, J.H., Park, S.H.: Dig. Endosc., 32(2): 275-286, 2020.
2)Shim, S.R., Lee, T.H., Yang, J.K., et al.: Dig. Dis. Sci., 67(2): 716-728, 2022.
3)Sawas, T., Al Halabi, S., Parsi, M.A., et al.: Gastrointest. Endosc., 82(2): 256-267, 2015.
4)Okuno, M., Iwata, K., Iwashita,T., et al.: Gastrointest. Endosc., 98(5): 776-786, 2023.

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一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000

 

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