セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年10月号

第107回日本消化器内視鏡学会総会ランチョンセミナー10 あなたのERCP関連手技をつぎのステージへ

〈講演1〉慢性膵炎におけるERCP関連手技を次のステージへ

酒井  新(神戸大学医学部附属病院 消化器内科)

酒井  新(神戸大学医学部附属病院 消化器内科)

当院の光学医療診療部は2室の透視室を備え、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を含む胆膵疾患関連の処置は、主にキヤノンメディカルシステムズ社製Cアーム型X線TV装置「Ultimax-i」で行っている。本講演では、慢性膵炎におけるERCPの適応や放射線被ばく低減への取り組み、ERCP特有のデバイス・技術などについて、Cアームや新画像処理条件を活用した症例を踏まえて紹介する。

当院での感染症対策と線量低減の取り組み

当院消化器内科の胆膵疾患グループは、約20名の医師が在籍し、地域の医療機関からの要請に応え幅広い疾患に対応している。内視鏡診断治療では、超音波内視鏡(EUS)関連手技は年間約1100件、ERCP関連手技は年間約700件行っている。
2室ある透視室には、Cアーム型X線TV装置のUltimax-iとアイランド型X線TV装置「ZEXIRA」(キヤノンメディカルシステムズ社)の2台のX線TV装置をそれぞれ設置している(図1)。Ultimax-iは、透視室の壁面に設置しているため、十分なワーキングスペースが確保できており、大画面モニタや内視鏡装置のほか、高周波装置や電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(EHL)、胆道鏡などの周辺機器ユニットを配置していてもほとんど気になることがない(図2)。また、そのほかの工夫として、ガイドワイヤやデバイスの床への落下を防ぐため、デバイス収納用ビニール袋を設置し、感染症対策にも取り組んでいる。
被ばくに関しては、2021年の眼の水晶体の等価線量限度の引き下げに伴い、当院でも線量低減と放射線防護による被ばく低減に取り組んでいる(図3)。第一に、パルス透視のフレームレートを15fpsから7.5fpsに落とし、放射線量が多い静止画は必要なタイミングを見極めて撮影することで、撮影枚数を約半数を目安に削減した。また、検査はアンダーチューブで行い、寝台の前側に防護垂れを設置したほか、スタッフは放射線防護メガネや放射線防護具、甲状腺放射線防護カラーなどを装着し、放射線防護を強化している。さらに、操作室にも大画面モニタを設置し、検査室への入室人数の適正化を図ることで、大幅な被ばく低減を達成している。

図1 当院で稼働するX線TV装置 a:アンダーチューブ型/Cアーム型装置(Ultimax-i) b:オーバーチューブ型/アイランド型装置(ZEXIRA)

図1 当院で稼働するX線TV装置
a:アンダーチューブ型/Cアーム型装置(Ultimax-i)
b:オーバーチューブ型/アイランド型装置(ZEXIRA)

 

図2  当院でのERCPの体制 術者の負担軽減に配慮し、大画面モニタは術者の正面に配置している。

図2  当院でのERCPの体制
術者の負担軽減に配慮し、大画面モニタは術者の正面に配置している。

 

図3 ERCP透視被ばく低減の取り組み

図3 ERCP透視被ばく低減の取り組み

 

新画像処理条件「Accent」によるデバイスの視認性向上

しかしながら、気になるのは線量と画質のバランスである。Ultimax-iは、高画質・低線量検査コンセプト「octave SP」を特長とし、多重解像度SNRFやDCF、IR解像度補正などの技術により、照射線量を約65%も低減することができる。さらに、当院では、透視線量が通常の半分となるMidモードを適用しているため、前述の65%低減と合わせて最終的には約82.5%もの線量低減が図られている。しかしながら画質は十分に満足できている。
一方、近年開発されたデバイスの中には、通過性や柔軟性を優先したことで、透視下での視認性が不十分となる製品もある。そのようなデバイスに対し有効性を発揮するのが、Ultimax-iの新しい画像処理条件「Accent」である。Accentは、通常の画像処理条件よりもコントラストを約2〜2.4倍に改善することで、バスケットやカニューラ、ステントなどの術者が見たい部分を強調し、視認性が向上する(図4)。例えば、当院で高度な胆管狭窄症例などに対して使用している「Radifocus ガイドワイヤー」(テルモ社製)は、選択性が高い半面、視認性が低いのが難点であるが、Accentを適用することで視認性が改善している(図5 a)。本症例は、切除不能胆管がんにおける中部胆管狭窄部への金属ステント留置症例で、通常透視では金属ステントの透視マーカが造影剤に埋もれてしまい不明瞭であった。しかしながら、Accentを適用することで造影剤の中でも明瞭に描出できている(図5 b)。このようにAccentは、被ばくを低減しつつ高品質な検査を提供するというUltimax-i のコンセプトに合った画像処理条件であると考える。

図4 新画像処理条件Accentによる視認性の向上 Accentによりコントラストが改善し、デバイスの視認性が向上する。 a:採石バスケット「VorticCatch V」 b:2ルーメンカニューラ「StarTip 2 V」 c:膵管ステント「QuickPlace V」(a〜cいずれもオリンパス社製)

図4 新画像処理条件Accentによる視認性の向上
Accentによりコントラストが改善し、デバイスの視認性が向上する。
a:採石バスケット「VorticCatch V」
b:2ルーメンカニューラ「StarTip 2 V」
c:膵管ステント「QuickPlace V」
(a〜cいずれもオリンパス社製)

 

図5 Accent適用症例 a:ガイドワイヤ「Radifocus 0.025inch」(テルモ社製) b:金属ステント「Zilver635 10mm×6cm」(クックメディカルジャパン社製)

図5 Accent適用症例
a:ガイドワイヤ「Radifocus 0.025inch」(テルモ社製)
b:金属ステント「Zilver635 10mm×6cm」(クックメディカルジャパン社製)

 

慢性膵炎の治療:ERCPを行う前に

慢性膵炎は、膵管狭窄に伴う膵石や仮性囊胞、膵液漏、膵頭部の炎症により生じる胆管狭窄などが治療対象となり、胆道ドレナージ術、膵管ドレナージ術、膵石除去術などのERCP関連手技が適応となる(図6)。膵管狭窄を認めた場合、反射的にERCPを施行するのではなく、慢性膵炎の病態や原因などを十分に理解した上で患者に説明することが重要である。
慢性膵炎は、膵臓の慢性炎症が生じて線維化を来すことで膵管の形態が変化し、内分泌機能が低下する進行性の疾患である。慢性膵炎の原因について当院の内視鏡治療症例(2006〜2021年)を検討した結果、本邦の慢性膵炎の成因分布1)とほぼ同等で、約70%がアルコール性であった。『慢性膵炎診療ガイドライン2021 改訂第3版』2)では、断酒に成功した場合は腹痛消失率が高く、死亡率も低下することが示されている。そのため、患者に対し、断酒によりQOLや生命予後の改善が見込めることを十分に説明するとともに、断酒が難しい場合はハームリダクションの考え方に基づき、節酒の機会を与えることが推奨されている。また、喫煙は膵臓の石灰化を促進し、膵外分泌、内分泌機能を共に低下させ、内視鏡治療の予後も悪化することから、禁酒と同時に禁煙指導を行うことも重要である。
さらに、慢性膵炎患者全体の3%が遺伝性であり、ガイドラインでは若年発症や家族歴を有する成因不明の患者に対し、PRSS1遺伝子やSPINK1遺伝子などの膵炎関連遺伝子異常の検索を検討すべきとしている。実際に、当院で2019年1月〜2023年11月に原因不明の膵炎患者13名に遺伝子検査を行った結果、4名で遺伝子変異が確認された。

図6 慢性膵炎に対するERCP

図6 慢性膵炎に対するERCP

 

慢性膵炎に対する内視鏡治療の適応

慢性膵炎の治療選択において、疼痛のある膵石に対する内視鏡的・外科的インターベンション治療は有用だが、主膵管閉塞の解除を目的としており、膵管拡張のない症例は適応外となる。また、機能温存を目的とした場合の有用性は不明で、当院では相対的に適応としている。内視鏡治療が第一選択となるかについても議論があり、疼痛コントロールの点では外科手術が内視鏡治療を上回るというデータもある。しかし、内視鏡治療の低侵襲性は明らかで、一定の治療成績が報告されていることから、各ガイドラインでは内視鏡治療が第一選択となっている。
ただし、膵管・胆管狭窄に対する内視鏡治療は、ステント留置後、症状が改善しなければ1年以内を目安に外科手術への移行を検討すべきである。以前に経験した膵石治療症例では、膵管・胆管狭窄に対しステント治療を行ったものの、膵炎や胆管炎を繰り返し、約2年経過後には十二指腸狭窄を来したため外科手術を検討した。術前の造影CTにて門脈閉塞と側副血行路の発達を認め、胃空腸・胆管空腸吻合術を行ったものの、門脈圧亢進症の悪化で腹水コントロールが困難になるなど予後が悪く、より早期の段階で外科手術への移行を検討すべきであった。この反省も踏まえ、最近では内視鏡治療前に外科手術も選択肢として説明することが必要と考えている。
実際の治療に当たっては、頭部・体部に有症状膵石が認められた症例では、膵石が5mm未満の場合はERCPで経乳頭的に除去する。5mm以上の場合は、膵炎予防のため事前に内視鏡的膵管口切開術(EPST)と膵管ステント留置を行い、体外衝撃波結石破砕法(ESWL)後にERCPで膵石を除去している。

症例提示

●症例1:ドリルダイレーターによる狭窄突破(図7)
本症例は、慢性膵炎による膵管狭窄症例で、副膵管アプローチを行っている。ESWL前の膵管ステント留置に際し、狭窄が強かったことからドリルダイレーターによる狭窄突破を試みた。ドリルダイレーターを膵管内に挿入し、右に回転させつつテンションをかけ、膵管狭窄を突破した。

図7 症例1:ドリルダイレーターによる狭窄突破

図7 症例1:ドリルダイレーターによる狭窄突破

 

●症例2:再建腸管に対するERCP(図8)
前医で膵頭十二指腸切除術(PD)後に膵炎を繰り返し、当院を紹介受診した症例である。当初は吻合部狭窄として紹介されたが、膵管造影で拡張膵管は確認されたものの、細部は不明であった。CアームをRAO30°程度まで回転させると狭窄部が確認でき、ステント留置を行った。Cアームでなければ狭窄部の同定は困難だったと思われる。

図8 症例2:再建腸管に対するERCP

図8 症例2:再建腸管に対するERCP

 

●症例3:膵石に対する膵管鏡下EHL(図9)
本症例は、膵石に対し膵管鏡下EHLを施行した症例である。EPST後に膵管鏡を膵管内に挿入し、膵石を正面視して十分に視認しながら衝撃波により破砕した。EHLが技術的に困難な症例もあり、すべての症例に適応ができるわけではない。しかし、ESWLと比較して治療が短期間ですむことがあり、両者を組み合わせることで効率的な膵石治療が可能になることが期待される。なお、膵石に対するEHLは適応外使用のため、臨床倫理委員会などでの承認が必要である。

図9 症例3:膵石に対する膵管鏡下EHL

図9 症例3:膵石に対する膵管鏡下EHL

 

症例4:膵管挿管困難症例でのダブルルーメンカテーテル(DLC)法(図10)
本症例は膵上皮内癌症例で、膵管へのガイドワイヤの深部挿管が困難であった。胆管造影やガイドワイヤの挿入は可能であり、内視鏡的乳頭切開術(EST)後、ダブルルーメン型カテーテルを用いて側孔に一方のガイドワイヤを挿入し、もう一方の向きを膵管に合わせると1分未満で挿入できた。

図10 症例4:膵管挿管困難症例でのDLC法(文献3)より引用転載)

図10 症例4:膵管挿管困難症例でのDLC法(文献3)より引用転載)

 

まとめ

慢性膵炎におけるERCPは、患者への治療前の十分なインフォームドコンセントや治療ストラテジーの明確化、高画質・低線量検査コンセプトoctave SPなどを活用した放射線被ばく低減への取り組みが重要である。また、Cアームや新たな画像処理条件Accentなどを活用しながら、ERCP特有のデバイス・技術を明日からの診療に役立てていただきたい。

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Hamada, S., et al.: Nationwide epidemiological
survey of acute pancreatitis in Japan. Pancreas, 43: 1244-1248, 2014.
2)日本消化器病学会 編:慢性膵炎診療ガイドライン2021 改訂第3版. 南江堂, 東京, 2021.
3)Gonda, M., et al.: Successful cannulation of a difficult pancreatic duct using the uneven method. VideoGIE, 9(5): 237-240, 2024.

一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000

一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:デジタルX線TVシステム ZEXIRA DREX-ZX80
認証番号:218ACBZX00021000

 

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