セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第97回学術集会が2024年5月31日(金)〜6月2日(日)の3日間,パシフィコ横浜会議センター(神奈川県横浜市)で開催された。5月31日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー5「SLD診療における超音波検査の意義とATIの未来」では,兵庫医科大学消化器内科学の飯島尋子氏が座長を務め,飯島氏,新百合ヶ丘総合病院消化器内科の今城健人氏,岩手医科大学内科学講座消化器内科分野の黒田英克氏,兵庫医科大学消化器内科学の西村貴士氏の4名が講演を行った。

2024年9月号

日本超音波医学会第97回学術集会ランチョンセミナー5 SLD診療における超音波検査の意義とATIの未来

講演1:MRI-PDFFをreferenceとしたATIの肝脂肪化診断能について

今城 健人(新百合ヶ丘総合病院消化器内科 / 福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座 )

キヤノンメディカルシステムズの「ATI(Attenuation Imaging)」は,組織内の超音波周波数依存性減衰を計測する手法の一つであり,肝臓の脂肪量を定量的に評価することができる。本講演では,ATIを用いた肝脂肪化診断能について,MRI-PDFFをreferenceとした検討結果を報告する。

検討の背景

脂肪肝の診断に当たっては,MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)の診断に加えて肝生検を行うことで,肝臓の脂肪化の程度や炎症細胞浸潤,肝細胞の風船様腫大,肝臓の線維化を病理学的に評価し,重症度を判定している。肝臓の脂肪化によって生命予後が下がるという報告もあるため,肝生検は重要な検査であるが,侵襲性が高いことから非侵襲的な診断法の確立が求められている。超音波Bモードを用いて脂肪化を評価することも可能であるが,主観的かつ定量が難しいことが課題である。そこで近年,肝内脂肪および鉄沈着の定量化は,MRI-PDFFを用いて行われることが多くなっている。
MRI-PDFFの値は,肝臓の脂肪量と相関するほか,MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)におけるgrade 2以上の肝脂肪化診断能に関するメタ解析の結果,AUROC=0.91と,かなり高い診断能を有することが報告されている。そのため,薬剤治験などにも多く用いられており,肝生検を代替できる可能性もある。ただし,MRIは検査に手間や時間を要することが課題となる。
一方,超音波診断装置の技術もかなり進歩しており,キヤノンメディカルシステムズのATIを用いた肝脂肪化評価が注目されている。

ATIによる肝脂肪化診断能の検討

ATIは,超音波Bモードの任意の領域にROIを置くことで,減衰係数の分布をカラーマップで表示することができる(図1)。Bモードを用いるため,大血管を避けて測定可能で,信頼性の高い結果が得られる。図2は,ATI,MRI-PDFF,HE染色の比較であるが,脂肪化グレードの上昇に伴いPDFFおよびATIの値が上昇している。
われわれは,ATIの肝脂肪化診断能を評価する前向き多施設共同研究「ATiMIC Study」において,MRI-PDFFをreferenceとした検討を行った。

図1 ATIの概要

図1 ATIの概要

 

図2 ATI,MRI-PDFF,HE染色の比較

図2 ATI,MRI-PDFF,HE染色の比較

 

1.方 法
1059例を対象に,Bモードを撮像後にATIの測定を行い,ペネトレーションモードを用いて評価した。ATIは計5回測定して中央値を算出し,IQR/Median≦0.3を信頼性の高い値として採用した。また,MRI-PDFFは2cm大のROIを3つ取り,中央値を採用した。MRI-PDFFの中央値は7.9%であった。

2.結 果
MRI-PDFFとATIそれぞれについて正規分位点プロットを行った。MRI-PDFFは正規分布しないため,ログ変換して正規分布したMRI-logPDFFとATIを比較したところ,相関係数はR2=0.61と,かなり高い相関が得られた。Bland-Altman解析の結果も高い一致率を認め,ATIはMRI-PDFFに近似すると考えられた。さらに,MRI-PDFFをreferenceとした脂肪化グレード(S0〜S3)とATIも有意な相関を認めた。AUROCの結果もS1=0.908,S2=0.929,S3=0.912であり,ATIは高い脂肪化診断能を有すると考えられた。

3.MRI-PDFFとATIの乖離例の検討
上記検討において,MRI-PDFFとATIがgrade 2以上乖離した症例を検討したところ,MRI-PDFFよりもATIの値が低かった39例では,低年齢,皮膚-肝表距離(SCD)が大きい,糖尿病のコントロール不良,高BMIなどで有意差を認めた。また,ATIの値が高かった63例では,その要因はSCDのみであった。いずれも,ATIのIQR/Medianや肝硬度には有意差を認めなかった。なお,鉄沈着が過剰な症例ではMRI-PDFFの値が高めに出るとの報告もあるため,MRI-PDFFとATIのどちらがより正確であるかは,今後さらなる検討が必要である。

4.それぞれの利点と課題
ATIは,肝臓全体や鉄沈着の評価はできないものの,検査費用が安価で簡便であり,MRIで検査できない患者にも使用できるという利点がある。一方,MRI-PDFFは,再現性が高く,病的肥満や肝臓全体の評価も可能である。それぞれの利点と課題を理解し,状況に応じて使い分けることが重要である。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。

 

今城 健人(新百合ヶ丘総合病院消化器内科 / 福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座 )

今城 健人(Imajo Kento)
2005年 金沢大学医学部卒業。2012年 横浜市立大学大学院医博士課程卒業。2014年 同大学医学部肝胆膵消化器病学助教。2020年 同講師。2021年〜新百合ヶ丘総合病院消化器内科部長。2023年〜福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座特任准教授併任。

 

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